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トップランカー殺人事件 Prologue

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66 :とまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/13(日) 23:59:39 ID:rv9iwQje0
電話が鳴った。

「はい、毎度お世話になっております!
 アミューズメント・シルバーでございます」
「こんにちは。店長の神崎誠一さんですね」

神崎誠一は二つの理由で眉間に皺を寄せた。
一つは、突然電話口から自分のフルネームを呼ばれたこと。
二つは、その声が明らかに人間の自然な肉声ではない、
甲高く機械的な音質だったこと。
ちょうどワイドショーのモザイク人間が喋る声色だ。

「そうですが……どちら様でしょうか?」
「あなたの経営するゲームセンターは素晴らしい。
 顧客のニーズを常に取り入れ、最大限のサービスを提供する。
 口で言うのは簡単ですが、同業者がそうそう真似できるものではありません」
「……?……えぇ、ありがとうございます。あの、それで、本日はどういった……」

こちらの問いかけを丸で無視し、
男か女かさえ分からない電話の主は棒読み調子で続けた。

「その努力の甲斐があって、貴方のゲームセンターは
 この盛岡市で最大の集客力を誇っていると言えます。
 しかし、貴方はそれが社会に与える影響というものを考えたことがおありですか?」

神崎は相手の意図を読み取れず、ただ無言になるしかなかった。
だが、受話器の向こう側から悪意が伝わって来ることははっきりと感じ取れた。

「ゲームに熱中する余り、社会的生産性を持たない人間が急増しています。
 例え改心して勉強や仕事をしようにも、ゲームばかりやっていた皆さんは
 脳みそがスポンジ状態になっておりますので、もちろん何もできやしません。
 つまり彼らの存在価値は生ゴミと一緒というわけです。
 いえ、むしろ無駄に食料や酸素を消費する分だけ生ゴミよりたちが悪いです。
 分かりやすく申し上げますと、彼らは喋るう○こ製造マシーンといったところでしょう。
 そう思いませんか?」

67 :とまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/14(月) 00:00:11 ID:rv9iwQje0
例えイタズラだとしても、神崎にとって大事なお客様であるゲーマーに対して
口汚い罵倒を吐かれるのは我慢がならなかった。
しかし神崎は怒りを抑え、あくまで冷静に対処しようとした。

「どういったご用件でしょうか?イタズラでしたらこのまま通報させていただきますよ?」
「貴方のゲームセンターは上級ゲーマーが集まる場所ですから、
 言い換えれば犯罪者予備軍の溜まり場なのです。
 そんな場所へ未来ある若者を誘い込み、
 彼らの人生を台無しにした貴方は社会のガン細胞です。
 当然自分の犯した罪を償っていただく必要があります」

感情的にならずにいられたのも束の間、
神崎は店のカウンターを力の限り叩きつけながら
「ふざけんじゃねぇぞ!!!」と怒鳴った。

「落ち着いて下さい。
 ほら、音楽ゲームをやっているお客さんがびっくりして見てますよ?」

反射的に神崎が顔を上げると、
ギターフリークスをプレイしていた青年が手を止め、目を丸くしてこちらを見ていた。
途中まで繋がっていたであろうコンボが途切れ、JET WORLDの背景音だけがむなしく響く。
神崎と目が合うや否や、青年はそそくさと視線を逸らしてギターの演奏に戻った。
怒りで赤くなった神崎の顔が、徐々に青ざめる。

見張られている。

慌てて店内をぐるりと見渡したが、近くに怪しい人間はいない。

「無駄です。私は貴方から見えない場所にいます。
 私から貴方の姿は丸見えですけどね」
「誰だ?何なんだ?どこにいる?」
神崎は息を荒げた。

「貴方には罪を償っていただきます」
「だからどうすりゃいいんだよ!?」
「今から一時間以内に一億円を用意して下さい。
 もし用意できなければ、貴方と貴方のご家族にとても不幸な出来事が起きるとお考え下さい」

「いちおく……っ……」

68 :とまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/14(月) 00:02:09 ID:10/uD6Jf0


一本の電話が神崎に非日常の始まりを告げた。

―― しかしこれは、これから起こる凄惨で不可解な殺人事件の序章に過ぎなかった ――







       ~~~ ト ッ プ ラ ン カ ー 殺 人 事 件 ~~~


                  presented by とまと

76 :トップランカー殺人事件(4) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/19(土) 16:25:11 ID:/HCLfZ1W0
「お前、何か勘違いしてるんじゃないか?
 こんな地方都市の小さなゲーム屋が一億なんて出せるわけないだろう!?」
「そうですか。それはすなわち、祐介君が可愛くないという意味ですね」
「ゆ……っ…」

祐介。
その名前が出た瞬間、神崎の心拍数は跳ね上がった。

「神崎祐介君。10歳。小学5年生。
 父親の仕事の影響か、それとも単に今時の子供なのか、ゲーム大好き。
 得意科目は算数。今日の服装は……緑のTシャツにジーンズ」

緑のTシャツにジーンズ。
今朝元気に小学校へ向かった息子の服装にピタリと一致した。

「祐介!お前、祐介に何をしたあぁぁ!!!」
「まだ何もしてませんよ。
 ただ貴方が罪を償っていただけないと言うのであれば、
 祐介君の命をもって償っていただくだけのお話です」

神崎は三半規管から平衡感覚が失われたかのような目まいを覚えた。

「頼む、何でもするから、頼む!祐介にだけは手を出さないでくれ!!!」
「それでは、一億円をご用意下さい。
 一時間後にまた電話します」

そう言い残し、モザイク人間はあっさり電話を切った。
ツー、ツーという発信音と店内の喧騒、そして自らの鼓動による不協和音を聞きながら、
神崎は呆然と立ち尽くす他なかった。

どうしても分からない。
モザイク人間の理不尽な糾弾も納得できないし、
なぜ自分が一億円をゆすられているのかも理解できない。
人から恨みを買うような行動を取れるほどの度胸もなければ、
金目当てで接触されるほどの財産もないはずだった。
本当に一億円が欲しければ、向かいにそびえる立派なビルのオーナーを脅した方がよっぽど成功率が高い。

駄目だ。
あれこれ考えていても始まらないことに気付き、まず神崎は祐介の通う小学校へ電話した。

「もしもし、盛岡第三小学校です」

事務員らしき女性が、腹立たしいほど明るい声で電話の応対をする。

「あの、すみません、あの、5年2組の神埼祐介の父親ですが、
 あの、祐介に急ぎで連絡がありまして、すぐに電話に出して下さい」

気が動転して上手くろれつを回せなかったが、
かえって事態の緊急性が相手に伝わったらしく、事務員は素早い対応をしてくれた。

「お待たせしました。
 ただ今確認しましたが、祐介君は風邪のため休んでおります。
 今朝保護者の方から連絡があったそうですが……?」

事務員の訝しげな語調を聞いた神崎は、
説明するのが面倒になり無言で電話を切った。

77 :トップランカー殺人事件(5) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/19(土) 16:29:14 ID:/HCLfZ1W0
一縷の望みであった「イタズラ」の線がこれで完全に消えた。
今、祐介は何者かに誘拐されている。
警察に通報するという選択肢が浮かんだが、すぐに消えた。
モザイク人間は神崎を監視している。
下手な行動を打てば、祐介に危害が及ぶ可能性がある。
ならば、もう残された選択肢は一つしかない。

そこからの神崎の行動は速かった。

業務委託をしている会計士事務所、
融資を受けている銀行、
信頼できる取引先、
信頼できる友人、
両親と、
次から次へと電話をかけていった。
無駄な説明に時間を割くことは一切せず、
「自分は今いくら持っているか」と
「自分は今いくら借りられるか」を愚直に聞いて回った。

神崎個人の資産は一億円に遥か遠く、
一桁少ない金額にさえ届くかどうか怪しい状態であった。
そのため、神崎は自身が経営する法人「アミューズメント・シルバー」の運営資金や
施設を担保とした借入金をも視野に入れ、身代金の資金繰りに奔走した。
神崎の日頃の誠実さと熱心な懇願が実を結び、
想定よりも多くの金額を用意できそうだったが、
それでも一億という数字に及ばせることは不可能であった。

時間は残酷に過ぎていき、やがて一時間が経過した。
神埼にとっては15分程度のひどく短い時間に感じられた。
そして、電話が鳴った。

「もしもし、アミューズメント・シルバーです」
「ご無沙汰しております。一億円下さい」

モザイク人間の忌まわしい声が頭蓋に響く。

78 :トップランカー殺人事件(6) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/19(土) 16:36:02 ID:/HCLfZ1W0
「頑張ったんだが無理だ、一時間で一億なんてとても用意できない。
 だが、あと一日もらえれば必ず用意する。頼む、あと一日待ってくれ!」
「さすが社会のガン細胞は言うことが違いますね。
 どれくらい頭が腐ってると一時間が一日になるんですか。
 一時間が一日って言ったら24倍ですよ。
 そんなの了承できるはずありません」
「しかし、無いものは無いんだ。どう足掻いても無いんだよぉぉぉ!!!」
「分かりました。祐介君にお別れの言葉をどうぞ」
「祐介には手を出すな、お願いだ、祐介だけは助けてくれぇぇぇ……」

神崎は半泣き状態で嘆願の声を絞り出す。

「一億も出せない、祐介君にも手を出すな、ですか。
 貴方、本当に今世紀最大のど腐れ野郎ですね。
 そんなわがままを言える立場じゃないでしょう?
 あんまり調子に乗ると貴方の店の常連客の命も追加でいただきますよ」
「やめてくれ、客は何の関係もないじゃないかぁぁぁ!!!」
「分かりました。それならいっそ貴方が死んで下さい」
「畜生、俺が何をした、何の恨みがあってこんなことをするんだぁぁぁ!!!」

客がいることも忘れ、神崎は力の限り叫んだ。

「ちょっと落ち着いて下さい。
 ほら、貴方の大事なお客さんが帰っていきますよ」

見ると、神崎の異様なまでの狼狽に怯えたのか、
何人かいた客が怪訝そうな目つきを向けながらぞろぞろと撤退していくところだった。
平日の昼ということもあり、元々少ない客の数が更に減ったようだ。
だが、今は売り上げのことより
相変わらずモザイク人間に監視されているという事実が不快であり恐怖だった。

「最後のチャンスです。あと一時間で必ず一億円を用意して下さい」

またもモザイク人間はあっさり電話を切った。

79 :トップランカー殺人事件(7) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/19(土) 16:39:57 ID:/HCLfZ1W0
神崎は俯いた。
何もできずただ俯いた。
自分の無力を呪った。

これまでも順風満帆な人生とは言えなかったが、
何かの石につまづき転ぶ度に起き上がってきた。
守るべき家族もでき、より強くなったつもりでいた。
しかし今日突然訪れたこの非日常という名の壁は、
長く培ってきたあらゆる経験則を逸脱して神崎の前に立ちはだかった。

――もう観念して警察に通報するか。
――いやしかし、ヤツは自分を監視している。もしばれたら祐介の身が危ない。
二つの葛藤に悩まされ、頭がはちきれそうになったその時、天啓が閃いた。

モザイク人間はここを監視している。
言い換えれば必ずこの近くに身を潜めているはずだ、と神崎は考えた。
神崎の姿に加えゲームセンター・シルバーの動向を把握できる場所となれば、
相手が双眼鏡の類のものを使用していたとしてもかなり限定されるはずだ。

一億円を用意できない今の神崎が取れる唯一の手段は、
こちらからモザイク人間の居場所を探し出して仕留めること。
そして自分自身の手で祐介を救出することだった。

「祐介、今行く」

パシン、と両の平手で頬を叩き自分を鼓舞すると、神崎は走り出した。

82 :トップランカー殺人事件(8) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:21:54 ID:26UFMqGI0
勢いよく店を出ようとした神埼だったが、
「デラ部屋」の前でよく知った顔と鉢合わせし、足を止めた。
常連客の一人であると同時に、ビートマニアIIDXのランカーとして活躍しているBOLCEだった。

「BOLCE君、いたのか」
「そりゃいますよ店長さん。
 こっちはお金払ってデラ部屋を借りてるんだからさ」

BOLCEは屈託の無い笑顔を神崎に向けた。
小柄な体型と前に下ろした髪型が相まって、少年のあどけなさが残っている。
その可愛らしい外見とは裏腹に、彼の両手から伝説とまで呼ばれるほどの
信じがたい高スコアが次々と生み出されてきた。
そんな全国レベルの彼が自分の店の常連であることを、神崎は誇りに思っていた。

だが、神崎はあのモザイク人間の言葉を思い出して鳥肌が立った。

――あんまり調子に乗ると貴方の店の常連客の命も追加でいただきますよ――

「BOLCE君すまん、今日はもう帰ってくれ!」
「もう帰ってって、まだ真っ昼間じゃん。
 今日はランキングの課題曲をやり込みたいんだけどなぁ」
「お願いだよ、言うことを聞いてくれ。
 詳しい事情は話せないんだが、下手すりゃ命に関わる話なんだよ」
「は?」
「だから、ここにいたら殺されるかも知れないんだよ!!!」
「ちょっとちょっと、何マジになってんの店長」

BOLCEは最初こそ笑いながら話半分に聞いていたが、
神崎が真剣に青筋を立てているのを見て、ただならぬ雰囲気を察したようだった。
それでもなおIIDXをプレイすべくデラ部屋へ入って行こうとするBOLCEを制止し、
神崎は腕を引っ張って店の外に連れ出した。

「いいか、これは店長命令だ。今日一日シルバーへは出入り禁止だ」
「分かった、分かったから離してってば」

BOLCEは神崎を振り切り、諦念の意を込めて手を上げた。

「今日はもう帰るから、約束するから。その代わりデラ部屋のレンタル料は半額返してね」
「OK。金はちゃんと返すから帰れ。約束だぞ?」
「誓いまーす。ねぇ、店長ってば恐怖の大王に出くわしたみたいな顔してるよ。
 一体何があったのさ?」

神崎は一瞬目線を泳がせながら逡巡したが、すぐにBOLCEへ向き直って言った。

「今はまだ話せないが、本当に危険なんだ。
 いいかよく聞けよ。
 君はIIDXのランカーだが、本気を出せばまだまだこんなもんじゃない。
 俺には分かる。君はこれからもっともっと凄くなれる男だ。
 その才能を無駄にしちゃいけない。
 だから今日は帰るんだ」

神崎の気迫に押されたのか、BOLCEはつられて真剣な目つきになり、黙って頷いた。

「よし。それじゃまたな」

そう言い終わるか終わらないかの内に神崎は踵を返し、走り去っていく。
その背中を見つめながら、BOLCEはうっすらと口元を歪め、シルバーの中へ入った。

「フフ、僕が殺されるわけないじゃん」

83 :トップランカー殺人事件(9) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:27:08 ID:26UFMqGI0
神崎はある程度の距離を走った後、適当な建物の陰に隠れた。
ここまで走ってくればもうモザイク人間の監視圏外だと踏んだのだ。

息を整えがてら、頭の中で作戦を整理する。

慌てて走り去った神崎を見て、
おそらくモザイク人間は「急いで金を集めに行った」と思ったことだろう。
しかしそれはあくまで演技で、
実際はモザイク人間の監視を逃れつつ、逆に奇襲をかけることが神崎の目的だった。
モザイク人間の居場所は大方予想がついている。
シルバーのカウンター内にいる神崎の姿を視認でき、
なおかつ客の動きをある程度把握できる場所は、付近の建物の物理的構造上一つしかない。
向かいに建つ「土々呂ビル」の二階だ。

神崎の記憶が正しければ、土々呂ビルは一つのフロアに数社のオフィスが収まっており、
廊下までなら誰の出入りも自由だ。
あそこの窓際から双眼鏡を使ってシルバーの中を覗き見れば、
先程の電話のような芸当はいとも簡単に実現できる。

そしてもう一つの重要なポイント、時刻。
モザイク人間は「一時間後にまた電話する」と告げ、
本当に一時間後きっかりに電話をかけてきた。
なかなかの几帳面さだ。
おそらく次の電話もきっかり一時間後にかけるつもりだろう。
これを逆手に取る。

つまりモザイク人間は、「土々呂ビルの二階の廊下の窓際へ一時間後に現れる」。
そこを狙って不意打ちを仕掛ければ、祐介を盾にする暇を与えずに済むかも知れない。

神崎はそこまで思い巡らしてから、宙に対して拳を構えた。
ストレートの素振りが「シュッ」と切れ味のよい音を立てる。
柄の悪い連中がシルバーにはびこっても独力で撃退できるよう、
日夜体を鍛えてきた甲斐があったというものだ。

それから神崎はモザイク人間の目を誤魔化すため、
近くの安いカジュアルショップで上下の服を買い替え、さらにサングラスを購入した。
そのまま時間までショップのトイレに篭り、目を閉じてイメージトレーニングに励んだ。
様々な状況を想定し、脳の中で作り上げたモザイク人間のイメージと対峙する。

もしナイフをちらつかせてきたら。
もし突然後ろから襲われたら。
もし銃口を向けられたら。

どんなパターンにも対応できる自信が神埼にはあった。
だが――もしそこに誰もいなかったら?

一時間が過ぎ、この最もあってはならないパターンは現実のものとなった。

84 :トップランカー殺人事件(10) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:35:28 ID:26UFMqGI0
シルバーと反対側の通りから速やかに土々呂ビルへ身を滑り込ませ、
二階窓際付近を一望できる手頃な物陰を見つけたところまでは良かった。
ところが約束の時刻の一分前になっても、それらしい人影が現れる気配は全くなかった。

神崎は腕時計と窓際を交互に見やりながら、喉の奥でカウントダウンを囁いた。

……3。
……2。
……1。
…………0。

モザイク人間はどこにも現れない。

まさかこちらの動きがばれたのだろうか。
胸の奥から沸々と滲む焦燥へ溺れそうになる中、神崎は窓際に身を寄せ、窓の外を見た。
サングラスを外して目を凝らし、シルバーの様子を窺う。

「あ」

その光景を見て、神崎は思わず声を漏らした。
電話が鳴っている。
正確に言えば、電話の着信ランプが点滅しているのが見える。

神崎の誤算だった。
モザイク人間はこの土々呂ビル二階以外から電話をかけていた、ということになる。
だがなぜだ?
どう考えてもここの他にシルバーの中を監視できる場所は思いつかなかった。


神崎は混乱する思考のかたわらで意を決し、電話に出た。


「もしもし、神崎だ」

85 :トップランカー殺人事件(11) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:36:00 ID:26UFMqGI0
「おや、てっきりお留守かと思いました」
「お前からの電話を放っておいて外出するわけないだろう」

もしモザイク人間が付近にいれば、
受話器から聞こえる声が二重になってどこかから聞こえてくるはずだった。
しかしモザイク人間の癇に障る声がステレオになることは、残念ながらなかった。

「なるほど、子機ですね。意外と小癪な知恵を使うお方だ」
「ご名答。最近の家電製品の性能は大したもんだな」

親機が置いてあるシルバーのカウンターと
子機を持った神崎がいる土々呂ビル二階窓際との間は直線で30メートル程度。
神崎の見立て通り、子機を使用するには十分過ぎるほどの距離だった。

「そうは言っても、所詮はただのコードレスホン。
 そこまで遠くに行けるとは思えませんが……貴方どこにいらっしゃるんですか?」
「お前こそどこにいるんだ。こっちは当てが外れてがっかりだよ。はは」

神崎は自嘲気味に笑ってみせた。

「……?……まさか私を捕まえようだなんて考えを起こしてるんじゃないでしょうね。
 祐介君の内臓引きずり出しますよ?」
「心配するな。一億円なら今用意してるところさ」
「先程と違って随分と落ち着いてますね。
 変な気は起こさない方が身のためだと思いますが」
「心配するなっつってんだろ。金は払う」

神崎はこの日ずっと理性で封じ込めていた「最後の選択肢」と心の中で向き合った。

「なんだ、最初からこうすりゃ良かったじゃないか」

覚悟を決めた途端、急に気が楽になった。
憑き物が落ちたとはこういう気分のことを言うのだろうか。
そんなことを思いながら、神崎はしっかりと前を見て歩き出した。

86 :トップランカー殺人事件(12) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:46:56 ID:26UFMqGI0
この日、アミューズメント・シルバーから二つのものが消えた。
それは現金200万円と、一人の男の命。
この二つを奪った犯人「モザイク人間」は、少しの時間を置いて再びシルバーへ姿を現した。

彼の名前は竹之内俊郎。

若干周囲の目を気にしながら、シルバーへ足を踏み入れる。
俊郎はシルバーの常連客の一人であり、
持ち前の社交的な性格も手伝って、シルバーにやって来るほとんどの他の常連と知り合いだった。
この日も俊郎が入店すると、馴染みの顔が何人かいるのを見つけた。
しかし俊郎は彼らと一言二言を交わしただけで早々に会話を切り上げ、デラ部屋へ向かった。

ゆっくりとデラ部屋のドアを開けると、
そこにはかつて親友だった男の変わり果てた姿があった。
ビートマニアIIDXの筐体フレーム上部に括り付けた縄から首吊り状態にされた彼は、
力無くだらりと手足を地面へ垂直に落としていた。
瞼からこぼれ落ちてしまうのではないかと不安になるくらい彼の瞳は見開いており、
あたかも俊郎のことを恨みがましく睨みつけているかのようだった。

「お前が悪いんだぞ、BOLCE……」

俊郎は小声でつぶやいたが、BOLCEからの返事は無かった。

俊郎は後ろを振り返り、わざと周囲の人間が聞こえるように叫んだ。

「BOLCE、BOLCE!!!BOLCEええぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!
 おい、BOLCE……ウソだろおい、死んでる、死んでるぞーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

87 :トップランカー殺人事件(13) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/07/21(月) 01:51:13 ID:26UFMqGI0
          事件事故 一次報告書

                              2008年7月16日(水)
                         岩手県警 盛岡警察署 捜査一課


■1.分類:殺人事件
■2.被害者:三浦 清(ミウラ キヨシ)
■3.死亡推定時刻:平成20年7月16日(水)12:00~13:00
■4.発生現場:アミューズメント・シルバー
■5.死因:窒息死
■6.第一発見者:竹之内 俊郎(タケノウチ トシロウ)
■7.状況:
    ビートマニアIIDXなるゲーム機の筐体上部に結わえられた縄から
    被害者が首吊り状態で絶命しているのを発見される。(※写真①)
    被害者の頸部には紐状のもので圧迫された跡が二重でついており、
    加害者は被害者の頸部を締め付けて絶命させた後、
    被害者をゲーム機へ吊るしたものと思われる。(※写真②)
■8.その他特記事項:
    被害者の三浦はアミューズメント・シルバーの常連客であり、日常的に出入りしていた。
    彼はビートマニアIIDXなるゲームにて「BOLCE」のニックネームで
    全国的に有名なプレイヤーであり、日本一の腕前を持っていたという。(※参考資料①)
    また、第一発見者の竹之内も同じくアミューズメント・シルバーの常連客であった他、
    彼も同ゲームにて全国的に有名な人物であり、生前の被害者と懇意にしていた。(※参考資料②)
    本件の重要参考人として、詳しく事情聴取予定。
    (なお、竹之内については「BOLCE」のようなニックネームは持たず、本名で有名だった)
    また事件当日の午前中、アミューズメント・シルバーで脅迫事件が発生しており、
    その関係で店長不在の時間帯に本件が発生したものである。(※詳細は別紙報告書参照)
    さらに、その後の調べでアミューズメント・シルバーの金庫から
    売上金200万円が紛失していることが判明している。
    双方とも本件との関連性があるとみて調査中。

                                  ― 以 上 ―





    ―― そして、物語は始まる。






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