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トップランカー殺人事件 第二話『鉄壁のアリバイ』 -後編-

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189 :トップランカー殺人事件(45) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/09(火) 00:19:42 ID:7/imMwoC0
店長は金魚のように口をパクパクさせた。
何から喋るべきか決めかねている彼のために、乙下は先立って口を開く。

「別にこっちも当てずっぽうで言ってるわけじゃないんですよ。
 れっきとした理由がある」
「どんな理由だ?」
「いみじくもさっき店長自身が言いましたね。
 『仮に金目当てだとして、何で俺なんだよ』って。
 失礼を承知で申し上げますが実際その通りで、
 子供を誘拐して大金をせしめようって腹ならもっとたくさん金を持っているヤツはいくらでもいる。
 貴方から一億円ふんだくろうって考えること自体がまずおかしいんです。
 それにね、本気で一億円が欲しいんだったら、もっと丁重かつ厳重に人質を監禁するはずですよね?
 しかし貴方の息子さんは薬で眠らされていただけです。
 見張りもつけず、自由を奪うこともせずに、ですよ。
 しかも夕方には人質が目を覚まして普通に帰宅しただなんて、そんないい加減な誘拐事件聞いたことがない。
 ではなぜ犯人は人質をぞんざいに扱ったのか?
 それは、犯人の本当の目的が金じゃないところにあったからとしか思えません」

店長はポカンと口を開け、相槌を打つことさえ忘れて乙下の言葉に聞き入っている。

「付け加えて、犯人はシルバーの金庫から現金200万円を持ち去りました。
 金庫には250万円が入っていたのに、50万円を残して200万円だけ盗んだんです。
 これって金目当ての人間がすることでしょうか?」

パニック状態に近い店長が理解できるよう、乙下はゆっくりと言葉を区切って聞かせた。
しかし、それでもなお店長が次の言葉を発するまでには少々の時間を要した。

「……金目当てじゃないってことは何となく分かった。
 けど分からん。
 ウチの息子を誘拐したり、50万円だけ残しておく意味は何だ?」
「それは残念ながら、まだはっきりと分かりません」

店長は不服そうに首を捻った。

「それじゃどうして『最初からBOLCEの殺害が目的』だなんて言えるんだよ」
「現場の状況から、恨みによる犯行の線が強いと判断したまでです」

凄惨な現場の状況が記憶に新しい乙下は、敢えて漠然と答えた。
絞殺された上、無残にもIIDXの筐体から首を吊るされたBOLCEの痛ましい姿。
あの凶行が恨みによるものでないとすれば、一体どんな理由があると言うのか。

「それはない」

店長は断言した。
声に怒りが混じっている。
泣いたり笑ったり怒ったり、本当に忙しい人だ。

「いいか、BOLCE君は人から恨みを買うようなヤツじゃねぇ!」

191 :トップランカー殺人事件(46) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/09(火) 00:24:54 ID:7/imMwoC0
「絶対に?」
「絶対に!」

度が過ぎるほどに店長の目は本気だ。

「こっちは一年や二年の付き合いじゃないんだ。
 BOLCE君がどんな男かは、誰よりもよく知ってる」
「そんなに長いんですか?」
「俺がシルバーの店長になってからずっとの付き合いだ。
 もう十年近く前から毎日のように顔を合わせてるんだぞ」

約十年間、ほぼ毎日。
下手をすれば家族より長い時間を共に過ごしてきたのかも知れない。
「誰よりもよく知ってる」という宣伝に、きっと誇張表現はないのだろう。
その過程で培われた絆の強さに想いを馳せると、より一層やり切れなさが募る。

「よし、今からBOLCE君がどんなにいいヤツだったかを証明する。
 病気のお婆さんを助けた話にするか?
 腹をすかせた子猫に弁当を分けてやった話がいいか?
 迷子の子供を家まで送った話もあるぞ?」
「……彼の素晴らしさはよく分かりましたので、
 そのエピソード集は胸にしまっといて下さい」

話だけを聞くと、まるで聖者のような振る舞いだ。
店長の熱にほだされるつもりはないが、恨みによる犯行という前提が乙下の中で揺らぎそうになる。

「話題を変えますが、1046についてはご存知ですか?」
「もちろんよく知ってる。彼とも付き合いが長い」
「今回の事件の第一発見者は彼です」
「……さぞショックだったろう。あんなに仲が良かったのに……」
「1046とBOLCEはどんな関係だったんですか?」

店長の鋭い眼光が乙下を突き刺す。

「刑事さんよ、まさか1046ちゃんを疑ってるわけ?」
「……」

乙下の無言を肯定の意味で受け取ったらしく、店長は声を張り上げた。

「それはない。
 いいか、1046ちゃんは人殺しをするようなヤツじゃねぇ!」

192 :トップランカー殺人事件(47) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/09(火) 00:28:44 ID:7/imMwoC0
「絶対に?」
「絶対に!」

またも店長はきっぱりと断言した。

「いいか、こっちはもう十年近く前から毎日のように顔を合わせてるんだぞ」
「なんかさっきも聞いたような」
「うるせぇ、とにかく1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない。
 ましてや、相手は親友のBOLCE君だ。
 1046ちゃんにとってかけがえのない親友だぞ。
 毎日毎日飽きもせずスコアを競ってたんだ。
 ライバルだ!男の友情だ!熱い魂の分身だ!!!
 何があっても絶対に殺すなんて考えるはずがない。絶対にだ」

店長は口角泡を飛ばしながら怒鳴った。
二人を仕切るガラスが無かったら、と乙下はぞっとする。

「ごめんなさい、でも勘違いしないで下さい。
 別に1046を疑ってるわけじゃないんですよ。
 ただ、色んな可能性を見据えて捜査していくのが刑事の仕事なもんでして。
 この話は終わりにしましょう」
「分かればいいんだよ」

不必要に店長を刺激して心を閉ざされてしまってもつまらないので、
乙下は必死になだめたつもりだったが、彼はあっさりと怒りを鞘に納めた。
気難しいのかそうでないのか、掴み所がない。
いや、きっと単純なだけなのだろう。

乙下は気を取り直し、身を乗り出した。

「さぁ、聞きたいことはまだまだ山ほどありますよ。
 お疲れのところすみませんが、もうしばらく協力して下さい」
「BOLCE君の敵討ちだと思えば辛くも何ともねーよ。どんどん聞いてくれ」

こうして二人のセッションは長々と続いた。

198 :トップランカー殺人事件(48) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 20:50:42 ID:gFJ90Zs/0
店長への事情聴取を終えた乙下は、自デスクのある捜査一課へ戻った。
窓から鋭角に差し込む夕日の光を眩しく感じ、ようやく想定していたよりも長い時間をかけていたことに気付いた。
荒山課長へ捜査の進捗を簡単に報告してからデスクへ戻ると、整然とした机上へ一綴りの資料がこれ見よがしに置かれている。

「トップランカー殺人事件丸秘ファイル」と丁寧にタイトルが印字された表紙を見て、
乙下は「あのバカ」と舌を打ちつつ、一枚目を丸めて空気のデスクに放り投げた。
次のページには「これまでのあらすじ」を文頭に何やら細かい文字が並んでいるので、無言で二枚目も破り捨てる。

三枚目になり、ようやく乙下の欲しい情報が顔を出した。
「DJ 1046 e-AMUSEMENT PASS使用履歴」と銘打たれた表だ。
表の先頭には「ID = 4649-5963; DATE = 08/07/16 の検索結果」と書かれている。
空気がコナミに問い合わせをし、データベースの検索結果を送ってもらったのだろう。
「4649-5963」は前回の空気の報告書にあった1046のIIDX IDと一致している。
乙下は早速表に目を通し始めた。

CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:27, END = 10:39;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:40, END = 10:52;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:52, END = 11:03;
 ……


どうやら店舗コードとゲームの種類、
そしてプレイの開始時刻・終了時刻を示しているらしい。


CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:04, END = 11:16;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:17, END = 11:29;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:30, END = 11:42;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:55;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:00, END = 12:02;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:03, END = 12:09;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:09, END = 12:20;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:37, END = 12:48;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:49, END = 13:01;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 13:02, END = 13:13;
CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 13:14, END = 13:25;
 ……


データを素直に読むと、昨日1046は10:27にABCへ来店し、
ほぼ休むことなくIIDXをプレイし続けていたことになる。
ほとんどのプレイ時間が11~12分間であり、
1分より長く間を空けずに次のプレイを開始している。

その中で、乙下はあることに気付いた。
12:00前後の行動が他と比べて不規則なのである。

199 :トップランカー殺人事件(49) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 20:57:16 ID:gFJ90Zs/0
1046は11:55にプレイを終了し、5分の間を空けて次のプレイを開始している。
それまでは間を空けずにプレイしていたにも関わらず、なぜここで5分間のインターバルがあるのだろうか。

次のプレイはもっと奇妙だ。
12:00にプレイ開始し、12:02に終了している。
モード選択画面や選曲画面の時間を考慮すると、ほとんどプレイしていない計算になる。
1曲目の序盤にHARD落ちしたか、あるいは捨てゲーをしたとしか考えられない。
しかし、1046ほどの実力者が1曲目で落ちるなどという失態を犯すだろうか。

次のプレイは12:03に開始し、12:09に終了。
FREEモードを選んだのであれば決して不自然なプレイ時間ではないが、やや気にかかる。

続いて12:09に開始し、12:20に終了。
ここで17分間のインターバルが発生し、12:37にプレイ再開している。

その後は16:00近くまで延々と休みなくプレイを続けており、
特に引っ掛かる点は見当たらない。

BOLCEの死亡推定時刻は12:00~13:00なので、
1046が不審な行動を取ったまさにその時刻とぴったり一致しており、
そのこと自体がますます不審さを醸し出している。
この不自然極まりないタイムテーブルが何を意味しているのかは見当もつかないが、
乙下の中で1046に対する嫌疑はより深まった。

考えることは後回しにし、乙下は丸秘ファイルのページをめくった。
「ABC監視カメラ調査結果」とタイトルが記されたそのページには、大きく二枚の写真が貼り付けられていた。

写真①にははっきりと1046の全身が俯瞰視点で撮影されており、
右下に「7/16(Wed) 12:35」と白抜きのデジタル文字が表示されている。
写真②には1046らしき男の後ろ姿が撮影されている。
時刻は「7/16(Wed) 12:37」。
後ろ姿とは言え写真①と完全に同じ服装と体型であり、
1046本人であることは疑うべくもない。
ページの下には親切にも「時刻ズレ無し」とメモされている。

1046の発言を思い出す。
「あの角度だと、トイレに行く度に必ず姿が映り込むと思うんです」
「ちゃんと録画されてれば俺の姿も撮影されてるはずですよ」
その通りだった。
1046はトイレに行き、そして出てきたところを撮影されていた。

イーパスの使用履歴と監視カメラの映像。
この2つのデータが真実であると仮定すれば、
BOLCEの死亡推定時刻と1046のアリバイが無い時刻が重なるのは
12:20~12:35の15分間だけである。

「……たった15分でやれるか……?」

200 :トップランカー殺人事件(50) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 21:03:49 ID:gFJ90Zs/0
乙下は頭の中でシミュレーションを描いてみた。
15分という短い間にABCからシルバーへ移動し、誰にも見つからずにBOLCEを殺害し、
その死体をIIDXの筐体へ吊り、さらに金庫から200万円を奪い、シルバーからABCへ戻る。
本当にそんな離れ業が可能なのだろうか。

何せ、シルバーとABCは徒歩で約15分の距離を隔てている。
徒歩で移動した場合、それだけで時間を使い切ってしまうのだ。

では自転車等の小回りが利き、かつそれなりにスピードを出せる移動手段を用いた場合はどうだろう。
そう言えば1046はマウンテンバイクを愛用していたではないか。
おそらく移動時間は5分程度まで短縮できるであろう。
ABCとシルバーの間を往復するのに10分かかるとして、
残りの5分で殺害・死体吊り・窃盗の全てを人知れずこなす必要がある。
ハードスケジュールこの上ないが、確実に不可能、とまでは言い切れない。
かと言って、相当厳しいラインであることに変わりはない。
アリバイとしては微妙なところだ。

考えてもきりがないので、乙下は観点を切り替えることにした。

1046にとって犯行が可能だった時間は15分だけだが、それはあくまでイーパス使用履歴の情報を素直に読み取った場合の話だ。
あの使用履歴に記された時刻自体の信憑性を疑った場合、15分の壁は脆くも崩れ去るのではないか。
すなわち、第三者にイーパスを預けて午前の間ABCで休まずにプレイさせれば、
1046は別の場所にいながら、ABCに居続けたという記録を捏造することができる。

しかし、乙下はすぐさまその推理を却下した。
どんな犯罪においても「共犯者」がいれば、出来ることの幅は飛躍的に広がる。
ただしそれは諸刃の剣であり、自分以外の口から秘密が漏れるリスクを一生抱えなければならない。
よほど利害が一致しない限り、軽はずみに共犯者など持つべきではないのだ。
ましてやこれは殺人事件のアリバイに絡む話だ。
人間の心理などという曖昧なものの上に成立するアリバイ工作など、薄氷の上を裸足で歩くかのような危うさがある。

いずれにせよ、共犯者がいる線は薄い。
乙下はそう判断した。
であれば、やはり1046はたったの15分という時間を限界まで有効に使い、BOLCEを殺害したというのだろうか。

乙下は次のページをめくった。
「目撃情報」とタイトルが付けられているが、ごく短い文面であり余白が目立つ。


情報1:ABCの店員
  • 7/16の昼間は誰かがずっとIIDXをプレイしてた
  • カーテンを閉めてプレイしてたので、どんな人かは分からない
  • ただ、鍵盤を叩く音がやけに綺麗だったので、かなりの上級者だと思う

情報2:シルバーの常連ゲーマー(BOLCEや1046と面識有り)
  • 1046が16:00過ぎにシルバーへやって来たので少し会話をした
  • その後、1046がデラ部屋へ入って行ったと思った矢先、大声で叫び始めた
  • 何事かと思って部屋を覗くと、BOLCEが首を吊って死んでいた


書かれているのは以上だった。

201 :トップランカー殺人事件(51) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 21:11:40 ID:gFJ90Zs/0
目ぼしい情報ではなかったが、この短時間で乙下の指示通り
1046のイーパス履歴・ABCの監視カメラ・周囲の目撃情報を調べ上げ、
きちんと報告書にまとめている空気の仕事ぶりは評価に値する。
だがゴミ箱の中で丸まっている「これまでのあらすじ」が目に入り、
やはり空気の評価は据え置きだな、と肩を落とした。

「そういや、空気のヤツどこに行ったんだろ」

その時、すっかり聞き馴染んだメロディが署内のスピーカーからゆるやかに流れてきた。

あのベートーベンの中で最も有名な曲の一つ、交響曲第9番ニ短調OP.125。
通称「第九」だ。
IIDXに収録されている「END OF THE CENTURY」よりもずっと遅いテンポでアレンジされており、
夕焼けに染まる署内へ退勤時刻を優しげに伝えている。
だが現実には午後五時の退勤時刻などあって無いようなもので、
多忙が日常化している捜査一課の面々が第九のメロディをバックに帰路へ向かえた試しはあまりない。

乙下は退勤時刻になっても姿を見せない空気を気にかけ、電話をかけた。
数回のコールの後、無駄にハイテンションな空気の声が鼓膜を突いた。

『もしもし!何すかオトゲ先輩』
「……」
『あれ?オトゲ先輩?もしもーし!』

空気の声に重なり、微かに第九のメロディが携帯電話から聞こえる。
捜査一課のスピーカーから流れているメロディに比べて
数秒ほど遅延しており、どうにも気持ちの悪い輪唱を奏でていた。

「……お前さ、もしかして署内にいる?」
『そうっすよ。たった今帰ってきました』
「ふーん……そうなんだ、近くにいるんだ」
『近くどころか、今まさに捜査一課へ』

「帰還するところっす!」
『帰還するところっす!』

左の耳はドアの前に現れた空気の肉声を、右の耳は携帯電話からの声をそれぞれ拾った。

「お前の声だと余計気持ち悪い輪唱になるな」
「ちょ、いきなり気持ち悪いとかひどいっす」

空気は携帯を切りながら乙下へ近寄ってくる。
その得意気な目は、IIDXをプレイし終わった際に後ろを振り向く時と同じものだった。

「どうでした?ボク渾身の丸秘ファイルは」
「短い時間によくここまでまとめてくれた」

調子に乗せるのも癪だったが、ひとまずは素直に褒めてやる。

「フヒヒ、BPM400で頑張りましたから」
「一生ソフランしてろ、このバカ」
「ボクの人生糞譜面ですから。望むところっす」

もはや日本語ではない。
他人には聞かれたくない会話だ。

「で、何の電話だったんすか?」
「こんな時間になっても帰って来ないから、どこ行ったかと思って」
「ちょっとNTT東日本の岩手支店に行ってました」

202 :トップランカー殺人事件(52) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 21:17:48 ID:gFJ90Zs/0
「NTT?」
「ほら、今回の事件で犯人はシルバーへ脅迫電話をかけたじゃないっすか。
 発信元の番号と正確な時刻が分かれば手掛かりになるっしょ」

なかなかに気が利く。

「まず、発信元の番号はプリペイド式の携帯電話だったみたいっすね」

プリペイド式携帯電話。
その存在に乙下は常々悩まされており、思わず顔をしかめた。

通常の後払い方式の携帯電話とは異なり、
プリペイドカードと呼ばれるカードを購入してそこに記載された暗証番号を端末へ入力することにより、
金額分の通話が可能となる先払い方式の携帯電話だ。
その手軽さゆえ匿名性を保ったまま所持することが比較的容易に実現できるため、犯罪の温床となっている。

「要するに番号から犯人の身元は割り出せなかったってことね」
「さすがオトゲ先輩、話が早いっす」
「まぁ相手もそこまでバカじゃないだろうからな。
 電話の時刻については?」
「正確な通話履歴が残ってましたよ。
 一回目の電話が11:10~11:15、
 二回目の電話が12:15~12:18、
 三回目の電話が13:18~13:21っす」
「12:18……」

店長は12:18に犯人との二回目の電話を終え、
その直後にBOLCEと鉢合わせし、最後の会話を交わした。
少なくとも12:18には、BOLCEの心臓は力強いリズムを刻んでいたのだ。
残された鼓動の回数がほんの僅かであることなど、知る由もなく。
だが、これでBOLCEの死亡推定時刻は12:18~13:00にぐっと縮まった。

「あれ、でも、ちょっと待てよ……?」

乙下は今一度丸秘ファイルを開いて、丹念に熟読した。

「空気、このイーパス使用履歴ってマジ情報なんだよな」
「マジ情報っす。コナミのIIDX部門に問い合わせて照会したものですから」
「だとしたら、1046のアリバイの無い時刻は12:20~12:35だけなんだぞ。
 それ以外はずっとABCでデラをやってたはずなんだ」
「……そう、そこなんすよ」

乙下と空気は、数秒間無言で目を合わせた。


――1046はどうやってシルバーに電話をかけたんだ――?

203 :トップランカー殺人事件(53) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 21:24:53 ID:gFJ90Zs/0
「……ただ電話をかけるだけなら、デラをプレイしながらでも何とか出来るかも分からない。
 けど犯人は、シルバーの中の様子を監視してたんだぞ?」

ABCでデラをプレイしながら、シルバーの様子を監視し、なおかつ店長へ電話をかけて会話を成立させる。
そんなこと、いくらトップランカーと言えども不可能に他ならない。

「オトゲ先輩。実はそれだけじゃないんす」
「何だよ、もう勘弁してくれよ」
「丸秘ファイル、最後まで読んでくれたっすか?」
「もしかしてまだ続きがあったのか」

乙下が「目撃情報」のページをめくると、新たな一枚が出現した。

それは「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」とタイトルが付いている表だった。
1046の場合と同じく、表の先頭には「ID = 1192-2960; DATE = 08/07/16 の検索結果」と書かれている。
おそらくこれがBOLCEのIIDX IDなのだろう。

「なるほど、BOLCEのイーパス使用履歴か」
「ついでなんでコナミに送ってもらったんすけど……正直参ったっす」


CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:10, END = 10:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:21, END = 10:32;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:33, END = 10:44;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:44, END = 10:56;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:57, END = 11:08;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:09, END = 11:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:21, END = 11:31;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:32, END = 11:43;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:54;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:55, END = 12:06;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:19, END = 12:30;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:30, END = 12:40;


乙下は食い入るように表を見つめた。

BOLCEが午前の間シルバーでIIDXを執拗にプレイしている様子が目に浮かぶ。
正午を過ぎ、店長がBOLCEと最後の会話を交わしたのが12:18だったはずだが、
BOLCEはその後、12:19~12:30と12:30~12:40の二回に渡りIIDXをプレイしている。
表はそう告げていた。

「BOLCEのカードが使われた最終時刻は12:40っす。
 12:35にABCのカメラへ映っていた1046には、どう足掻いても犯行は無理としか……」
「そうなのか?本当にそうなのか?」

空気が事もなげに言うので、乙下は意地になってあらゆる可能性を模索しようとする。
ところが、空気は引導を渡すかのように一枚の写真を乙下へ差し出した。

204 :トップランカー殺人事件(54) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/09/13(土) 21:31:23 ID:gFJ90Zs/0
シンプルな柄のトートバッグを筆頭に、財布・現金・カード類・タオル・携帯電話・ペットボトル。
そんなものが並べられている様子を、写真は写し出していた。

「BOLCEの遺留品っす」
「……これは……信じられねぇ……」

乙下の背中に、ぞくりと鳥肌が立った。
すでに空気の言いたいことがほとんど把握できていた。
乙下は自分を奮い立たせ、その恐ろしい事実を言葉にし、喉から絞り出す。

「……この写真に写っている白いカードは、イーパスだな」
「そうっす」
「……イーパスは、BOLCEの財布に入っていたんだな」
「そうっす」



「……このイーパスは、いつ、誰が財布に入れたんだ……?」



仮定1、BOLCEが自分で財布に入れた。
とすれば、BOLCEは12:40までIIDXをプレイし、
イーパスを財布に入れた後で殺されたことになる。
つまり、BOLCEは12:40以降に殺された。

仮定2、犯人の手によって財布に入れられた。
とすれば、例えBOLCEを12:40以前に殺していたとしても、
犯人はイーパスが排出される12:40まで筐体のそばで待機し、
その上でイーパスをBOLCEの財布へ入れて現場を立ち去らなければならない。

どちらにせよ犯人が12:40の時点でシルバーの中にいなければ、
この犯罪は成立し得ないのだ。

ところが、乙下が容疑者として確信的な疑いを向けていた1046は、
12:35の時点ですでに遠く離れたABCの監視カメラに映り込んでいたのだ。

「1046のアリバイは完璧っす。
 彼がBOLCEを殺害するのは、100%ムリモーグっす……」

乙下は下唇を出したまま黙り込んでしまう。

1046は幾重にも重なった鉄壁のアリバイに囲まれていた。
彼は一体どんな手を使ってこの完全犯罪を仕上げたというのか。
それとも、彼は最初から潔白だったのだろうか。

潔白。鉄壁。

ふいに乙下はInnocent Wallsを連想した。
そうだ。
HYPERとANOTHERで大きく異なるアレンジを持つあの曲のように、
この事件も違う角度から覗けば、全く別の見え方がしてくるのかも知れない。
だが、どちらのアレンジにおいても譜面は極めて難易度が高く、プレイヤーを怒涛の勢いで押し潰しにかかる「壁」は健在だ。

かくいう乙下もこの時ばかりは、
姿無き大いなる圧力によって押し潰されそうになっていた。



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