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トップランカー殺人事件 第三話『☆12のトリック』 -phase1-

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239 :トップランカー殺人事件(56) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/05(日) 20:36:50 ID:ya33Anx30
事件発生から二晩開けた7月18日の金曜日、朝10:00。
約束をしていたわけではないのだが、1046は時間ちょうどに思った通りの場所へ現れた。

昨日に引き続く快晴。
空はムラのない青を一面に湛えており、ただそれだけで心も晴れやかな気持ちに染まるようである…
はずなのだろうが、それは屋外にいた場合の話だ。

一筋の光さえ差し込まない暗黒空間、ゲームセンターABC。
乙下はまたもこの息が詰まりそうな地中へ身を置いていた。
それでなくとも捜査は行き詰まりかけており、乙下の心はどんより曇り模様だ。

そうした中で唯一光り輝くものがあるとすれば、 IIDXのモニタに浮かび上がるGREATの五文字だろう。
"Back Into The Light"の明るい曲調に合わせ、 跳ね踊るようにパチパチと鳴り響く鍵盤の音が小気味よい。
モニタはカーテンの向こう側へ隠れて見えなかったが、
打鍵音のリズミカルさゆえにJUST GREATの嵐であろうことは容易に想像できる。
プレイヤーもまたカーテンの向こう側へ隠れているため膝より下しか見えなかったが、
同じ理屈で彼が1046その人であろうことに疑いを挟む余地は無い。

これじゃまるで昨日の再現だ、と乙下は周囲を見回した。
ABCの中に客らしき人物は自分達以外におらず、客を擁しているゲームはIIDXのみであることも昨日と同じ。
プレイしている人物も、そのプレイを後ろで見て感心している自分も昨日と同じ。
おまけに曲目までもが昨日と同じとなれば、昨日の出来事が今日へコピー&ペーストされたように錯覚しても無理はない。

違う点があるとすれば、空気がいないことと
快活そうな短髪の男性店員が屈んで床掃除をしていることくらいだ。

「ちょっとすみませんねー」

店員は抑揚のある声を発して乙下をどかし、モップで床を磨いていく。
ほんの少しだけ息が上がっており、丹誠を込めて清掃をしていることがよく伝わる。
見たところ三十代前半。
自分と同じくらいの年齢だろうかと彼を観察していると、ふいに乙下と目が合った。

「もしかして警察の人?」

240 :トップランカー殺人事件(57) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/05(日) 20:48:06 ID:ya33Anx30
出し抜けに話しかけられ、思わずたじろいでしまう。

「昨日、面白い喋り方をする若い刑事さんと一緒にいましたよね」

そこまで言われて乙下はようやく気が付いた。

「あ、もしかして聞き込み捜査に協力してくれた店員さん?」
「えぇ。熱心な部下をお持ちで羨ましいですよ。
 私なんていつもここで孤独なバイト生活ですから」
「良かったら引き取ってくれていいよ。
 アイツはどこに出しても恥ずかしい立派な音ゲーマーなんで、
 きっとここで稼いだお金を丸々ここで使うはずだ。
 実質的にただで雇える、オススメの人材だね」

乙下が軽口を叩くそばから、店員はケラケラと笑い転げる。
人懐っこそうな柔らかい笑顔だ。

「繰り返しになっちゃって申し訳ないんだけどさ、
 俺からもあらためて質問させてもらっていいかな?」

店員は笑顔を崩さず、軽く頷きながらモップを傍らに置いた。
乙下は空気の報告書に書かれていた目撃証言を思い返しながら喋り始める。

「7月16日、つまり一昨日の日中なんだけど、
 確かにここで誰かがずっとIIDXをプレイしてたんだよね」
「そうですね、それは間違いないです。
 ほら、見ての通りウチって平日の昼間はお客さんほとんどいないじゃないですか。
 だからその分、誰かがゲームやってると目立つんですよ。
 特にIIDXは曲の音とボタンの音が凄いから分かりやすいんです。
 一昨日はもう朝から夕方までパチパチパチパチ鳴りっぱなしでしたから」
「どんな人がプレイしてたかまでは見てない?」
「うーん、ちょくちょく横を通ることはあったんですけど、
 プレイヤーはカーテンに隠れちゃってるんで、顔や体型までは分かりませんでした。
 ただ、物凄く上手い人だったってことは確実に言えますね。
 このゲームって、ボタンを叩く音の揃い方とか、曲の完成度とか、
 そういうのでプレイヤーの腕前が『聞こえる』んですよ」

まさに空気の報告書に書いてあった通りの話だ。
むしろ、こうして毅然とした態度で証言しているのを聞くと
報告書による伝聞よりも信憑性を高めに感じてしまう。

「じゃぁさ、今プレイしてるあの人は上手いの?」

乙下はIIDXの筐体を指差した。
いつの間にかBack Into The Lightの演奏は終わっており、
続いて"alla turca con passione"、通称トルコ行進曲の底抜けに明るいメロディが辺りを包んでいる。
打鍵音の密度がそれほどまで高くないので、おそらくはHYPER譜面だろう。

「上手いです。しかも並の上手さじゃないですね。
 演奏に全然ブレがないし、ボタンを叩く音も綺麗だ」
「一昨日の人と比べてどっちが上手い?」
「同じレベルだと思います。
 ただ、ここまで上手い人はそう滅多にいませんよ。それくらい上手だ」
「へぇー、そこまで分かっちゃうなんてすげぇや」

241 :トップランカー殺人事件(58) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/05(日) 21:01:03 ID:ya33Anx30
乙下は動揺を悟られないよう平静を装ったが、
内心は彼の審美眼にたいへん驚いていた。
いや、音で判断しているので審美耳とでも言えばよいのか。

BGMがトルコ行進曲であることも手伝い、
若い頃に見た「アマデウス」という映画の記憶が、乙下の中で呼び覚まされた。
世紀を超えて天才と賞賛される偉大な音楽家、モーツァルト。
そしてモーツァルトの恐ろしいまでの才能を誰よりも深く理解し嫉妬に狂う音楽家、サリエリ。
この二人を巡る因果を描いた名作で、1984年のアカデミー作品賞を受賞している。
至極単純に言ってしまえば、モーツァルトも天才だったが
彼を天才であると見抜いたサリエリもまたある意味で天才だった、という話だ。

今トルコ行進曲を完璧に演奏している1046と、その演奏を完璧に評価しているABCの店員。
時には都心から遠く離れた田舎のゲームセンターで、アマデウスと同じ構図が出来上がってしまう。
こんなことも起こり得るのだな、と乙下は二人をしみじみ見比べた。

「他に何か聞きたいことはあります?」
「それじゃ、あの監視カメラなんだけどさ。
 レコーダーの時刻を細工して、アリバイ工作とかできないかな。
 例えば時刻設定を10分くらい遅らせておいて、
 本当は12:45なのに、あたかも12:35の時点でここにいたフリをするとか」
「なんか随分と具体的ですね。
 一昨日の12:35に映ってた人って、何かの事件の容疑者なんですか」

いずれ分かることだ、乙下は動じない。

「でも、そういう細工は無理だと思いますよ」
「なんで?」
「あそこ」

店員は壁に掛かった丸い時計を指し示した。
ごく普通のシンプルな壁掛け時計かと思いきや、
よく見るとデジタル表示器の枠があり、
その中にパラボラアンテナのドット絵が描かれている。

「あれは、電波時計?」
「そうです、電波時計。
 何かあった時のために、監視カメラの画角は電波時計が映り込むように調整してあるんです。
 まぁ実際に役に立ったのは今回が初めてですけどね。
 電波時計の時刻は狂いようがないんで、レコーダーに細工をしたところで映像には本当の時刻が映っちゃうわけ。
 だから、そもそも意味がないんですよ」
「……確かにそうだね」
「ほら、今だってあそこに表示されてる時刻は一秒たりとも……っておい、
 やべぇもうこんな時間?急いで伝票の整理しなきゃ」

店員はにこやかな表情のまま軽快に手を上げ、狭そうな事務室の方へ走り去った。
どうやらその仕草だけで会話を打ち切ったつもりらしい。

242 :トップランカー殺人事件(59) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/05(日) 21:05:27 ID:ya33Anx30
乙下は店員の背中をぼんやりと眺めながら、彼の証言を噛み締めて唸った。

どうやら1046が一昨日の12:35にABCへいたことは、揺るがしようのない事実らしい。
そして日中の間、絶え間なく鳴り続けた正確無比な打鍵音。
それらが意味するところはただ一つ。

「やはり1046はシロなのか……?」

唇を固く結び、IIDXの筐体を睨み付ける。

とその時、カーテンが開いて1046がステージから下りてきた。
よほど気難しそうな表情をしてしまっていたのだろう、乙下の顔を見るなり1046は露骨に嫌悪感を示した。
気を取り直し、乙下は精一杯明るい挨拶を試みる。

「おはよう、1046さん。
 アンタよっぽどBack Into The Lightが好きなんだねぇ」
「悪いですか」
「いや全然。今日も光りまくってたね」
「見えてないのに適当なこと言わないで下さいよ。
 何ですか、また何か用ですか」

1046の服装は相変わらず洒落ていた。
黒の綿パンに無地のカットソーという絵的には極めてシンプルなものだが、
かえって素材の良さが映えているように見える。
首から下げた木製らしきアクセサリがまた嫌みにならない程度に1046のファッションを引き立てている。
いい男は不機嫌な表情をしてもいい男なのだなと、
乙下は何となく遠い世界の人物を本の外から見据えるような感覚で思った。

「用っていうか、昨日のことで謝りたくてさ。
 あれから色々と調査した結果、無事にアンタの潔白が証明されたわけよ。
 なんで、その説明を兼ねて謝罪を、と思ってね」
「……」

1046は警戒心を緩める様子を見せない。

252 :トップランカー殺人事件(60) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 21:19:45 ID:48yKkmLX0
「よくここにいるって分かりましたね」

1046は別段感心した風でも無しに言う。

「アンタ昨日自分で話してくれたじゃない。
 昼間はデラをやって過ごすのが日課なんでしょ。
 で、今ホームのシルバーは店長不在で営業停止中だ。
 だったら向かう先はABCしかない」
「さすがは刑事さんですね。
 その推理力でさっさとBOLCEを殺した犯人でも捕まえればいいじゃないですか」
「はは、それを言われると耳が痛い」

1046は気を揉んでいるのか、会話の傍らでそわそわとイーパスをもてあそんでいる。
右手に持ったイーパスの表面を、左手の中指と薬指で交互に叩く格好だ。
きっと無意識にトリルの練習をしてしまうのだろう。
非利き手の、しかも使いづらい指を動かす訓練を自然としてしまう辺りに、
トップランカーとしての貫禄を感じてしまう。

「アンタのイーパス使用履歴、コナミに調べてもらったよ。
 言ってた通り、一昨日はずっとここでデラをやってたみたいだね」
「でしょう」
「ただし、12:20~12:35の間はプレイした記録が無かった。
 その間は何してたのか教えてくれる?」
「昼メシです」
「どこで何食ったの?」
「コンビニ行って、おにぎり買って、食って、また戻ってきただけですけど。
 俺何か変なこと言ってますか。
 逆にその時間に昼メシ食わない方がよほど不自然じゃないですか」
「やだなぁ、誰も不自然だなんて言ってないじゃん。
 だいたい、たった15分ばかしアリバイが無いからってアンタに疑いを向けるほど俺の心は狭くないさ。
 ここからシルバーまではチャリで移動するだけでも往復で10分ほどかかる。
 15分くらいじゃ何も出来ないことは承知の上だよ」
「だったらどうして何してただなんて聞くんですか」
「一応ね、参考までに聞いておこうかとね」

少し白々し過ぎたかも知れない。
苛立ちが募っているようで、1046の奏でるトリルのBPMが微かに早まった。
だがさして気に留めないで、乙下は間髪を入れず次の攻撃を仕掛ける。

「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど、
 アンタ、一昨日の10:27にここへ来てからずっと休みなくデラをプレイしてる。
 なのに、11:55~12:00だけ五分の隙間が空いてるんだよね」
「あっそうですか」
「なんでまたこの時に限ってインターバルがあるの?」
「なんでまたって、乙下さんこそなんでまたそんな些細なこと気にするかな。
 疲れたから休憩しただけなんですけど」
「ふーん、トップランカーでも疲れるんだ」
「ランカーだろうが何だろうが、疲れる時は疲れますよ」

そんなことを忌々しそうに言い放つ1046の顔つきこそがひどく疲弊しているようだった。
なるほど、ランカーだろうが何だろうが疲れる時は疲れる、ということらしい。

253 :トップランカー殺人事件(61) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 21:27:27 ID:48yKkmLX0
「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど、
 アンタ、その後12:00ちょうどにプレイ開始したのに、12:02に終了してる。
 一曲目の序盤で落ちなきゃこんなすぐには終わらないよね。
 捨てゲーでもしたの?」
「落ちました」
「まさか」
「普通に落ちただけですけど?何かおかしいですか?」
「いやだって、アンタランカーでしょ。
 ランカーは一曲目で落ちないでしょ」
「それは過大評価です。
 俺が落ちたのはDUE TOMORROWって曲なんだけど、乙下さん知ってます?」
「すっげぇ速い曲だよね。NORMALならクリアした」
「そう、すっげぇ速い曲。
 あの曲はANOTHERだと☆12で、とんでもない糞譜面なんですよ。
 とにかく初っ端から密度が高くて、少しでもズレたらあっという間にBADハマりして終了です。
 そりゃ俺だって真剣にやればそう簡単には落ちないですけど、休憩した後で少し気が抜けてたのかな」
「ふーん、トップランカーでも落ちるんだ」
「ランカーだろうが何だろうが、落ちる時は落ちますよ」

それは乙下にとってにわかには信じがたい事実であったが、
今は空気が不在のため真偽を確認することも出来ない。

「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど」
「さっきから何回『もう一つだけ』聞いてるんですか」
「悪い悪い、これで本当に最後。
 アンタ、その後12:03にプレイを始めて、12:09には終えてるね。
 他のプレイ時間はどれも11~12分くらいなのに、
 さっきの一曲目落ちの時ほどじゃないにしろ、やけに短くない?」
「それはFREEモードを選んだからです。
 二曲しか遊べないんで、普段の半分のプレイ時間になって当たり前」
「だとしたら、どうしてこの時だけFREEモードを選んだ?」
「さっき『ランカーだろうが落ちる時は落ちる』って話しましたけど、
 やっぱ一曲目で死んだのは久しぶりなんで、ちょっとショックだったんですよ。
 だから、気合い入れてDUE TOMORROWにリベンジしたんです。
 念には念を押して、FREEモードで」
「はー、そういうこと。リベンジは成功した?」
「さすがに」

乙下は報告書の余白にペンで殴り書いた。


 ・来店~11:55 → 通常プレイ
 ・11:55~12:00 → 疲れたので休憩
 ・12:00~12:02 → 休憩後で気が抜けたのか、DUE TOMORROWで一曲目HARD落ち
 ・12:03~12:09 → FREEモードでDUE TOMORROWリベンジ
 ・12:09~12:20 → 通常プレイ
 ・12:20~12:35 → 昼メシ
 ・12:35~12:37 → トイレ(監視カメラに映る)
 ・12:37~退店 → 通常プレイ


「つまりはこういうことだよね」
「つまりはそういうことですね」

254 :トップランカー殺人事件(62) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 21:39:33 ID:48yKkmLX0
「なるほど。
 データで見ただけだと脈絡無くて不自然なように見えたけど、
 こうしてみると一連の流れがあるんだなぁ。
 なるほどなるほど」
「……あの、俺に謝りに来たんじゃなかったんですか。
 これじゃ丸っきり昨日の取り調べの続きですよ」
「あーいやいや、気を悪くしないでよ。
 さっきも言ったように、ちょっと気になってたもんだから参考までに聞いただけ。
 だってしょうがないじゃん、アンタのイーパス履歴の不自然な時刻と
 BOLCEの死亡推定時刻が見事に重なってるんだもん。
 アンタが何か良からぬ企てでもしてたんじゃないかなぁ、とか
 そんなこと思っちゃう人が出て来てもおかしくないでしょ?」
「それ、自分のことでしょう」

1046は怒りを通り越したのか、半ば呆れ顔になっている。

「昨日までならともかく、アンタを疑う気持ちはもうこれっぽっちもないんで、どうか安心して欲しい」
「本当ですか?」
「本当だよ。だってアンタの潔白は俺自身が証明したことなんだから。
 これから説明してやる」

乙下はポケットから一枚の写真を取り出し、1046にちらつかせた。
1046は写真を見るなり「BOLCEのバッグだ」と呟く。

「さすが親友だね。
 アンタの言う通り、これはBOLCEのバッグとその中に入っていた物の写真だ。
 いわゆる遺留品ってやつだな。
 この写真がアンタの潔白を証明している」
「……何故ですか」
「ここにイーパスが写ってるだろ。
 BOLCEのイーパスはバッグの中の財布の中のカード入れの中に入っていたんだ」
「それが?」
「BOLCEは殺される間際までデラをプレイしてた。
 最後のイーパスの使用履歴が12:30~12:40。
 そのイーパスがBOLCEの財布の中に入ってたってことは、
 犯人は12:40の時点でシルバーにいる必要がある」
「ん、それはどういう理屈?」
「よーく考えてみてくれ。
 もし財布にイーパスを入れたのがBOLCE自身だとしたら、
 BOLCEは12:40の時点で生きていたことになる。OK?」
「OK」
「逆に言えば、BOLCEが殺されたのは12:40以降ってことだ。
 よって、犯人は12:40より前にシルバーを立ち去ることは出来ない。
 これもOK?」
「……あぁ、それもOK」
「じゃ次に、財布にイーパスを入れたのが犯人だとしたら?」
「えーと、ちょっと待てよ……あぁそうか、分かりました。
 犯人がBOLCEの財布にイーパスを入れるためには、12:40まで待たなければならない。
 12:40まで待って、ようやくイーパスがカードリーダーから出て来るわけですから」
「そういうこと。
 よって、やはり犯人は12:40より前にシルバーを立ち去ることは出来ない。
 以上より、犯人は12:40の時点でシルバーにいなければならない」
「……」

1046は左手のトリルを続けたままの状態で、少しの間目を細ませ熟考しているようだったが、
やがて「そうですね、そうなります」と納得したようだった。
もしくは、最初から全てを理解した上で考え込むふりをしていたか、だ。

255 :トップランカー殺人事件(63) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 21:54:08 ID:48yKkmLX0
「ところがアンタは12:35にはここの監視カメラに姿が映ってた」
「そうです。
 昼メシを終えて戻って来て、すぐにここのトイレを使わせてもらったんです」
「みたいだね。
 そして12:37以降はここで絶え間なくデラをプレイしていた履歴が残っている。
 これが、アンタがBOLCEを殺した犯人ではあり得ないことの証明」

1046が乙下を見た。
乙下の真意を確かめようと、目の色を窺っている目の色だ。
見つめ返してもすぐに視線を逸らさないのは、
警戒心の薄まりからだろうか。

乙下は1046と見つめ合いながら、と言えばよいのか、
睨み合いながら、と言えばよいのか、とにかく先を続けた。

「まだある。
 11:10~11:15、12:15~12:18、13:18~13:21。
 これ何の時刻だか分かる?」
「さぁ」
「犯人が店長に電話をかけた時刻。
 NTTの記録から追ったデータだから間違いない」
「へぇ。それが?」
「脅迫犯はシルバーの中の様子を監視しながら電話をかけたらしいんだ。
 店長との電話の中で、店内の様子を見張っていることを
 逐一アピールしてたんだって。
 おかげで店長は行動を束縛されたんだ」
「やり方がいけ好かないですね。虫酸が走る」

1046は吐き捨てるように言った。
これまで乙下に対して見せてきた嫌悪感とは、どこか種類が異なる。
深さが異なる、と表現した方が正確かも知れない。
全霊をかけた強烈な忌避。
乙下は、理屈抜きにそう感じた。

「アンタはこのいずれの時刻もここでデラをプレイしていた。
 ここでデラをプレイしながら遠く離れたシルバーの中を監視して、
 その上で店長へ脅迫電話をかけるなんて出来るかな」
「出来ませんね」
「これが、アンタが店長を脅した犯人ではないことの証明。
 おめでとう、BOLCE殺しにしても店長脅迫にしても、アンタは無実だ」
「だから言ったじゃないですか。
 俺はやってないって、最初から言ってたじゃないですか……っ」

1046は語尾を荒げた。

256 :トップランカー殺人事件(64) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 21:58:48 ID:48yKkmLX0
濡れ衣を着せようとした乙下に対する怒りなら、受け止める覚悟はあった。
だが1046の掴み所のない激情は乙下の頭上を飛び越えて、そのまま禍々しい何かへと放たれているようだった。

「1046さん、随分機嫌がよろしくないね」
「……犯人が許せないだけです。
 この犯人だけは、許せない」

店長の言葉が、乙下の心へ染み入るように蘇る。

いいか、1046ちゃんは人殺しをするようなヤツじゃねぇ。
ましてや相手は親友のBOLCE君だ。
ライバルだ。
男の友情だ。
熱い魂の分身だ……。

「本当に」
「え?」
「本当に、仲が良かったんだな」
「……俺と、BOLCEの話ですか」

乙下はだまって頷いた。
1046もだまって頷いた。

「あれは、いつのことだったかな……」

1046の左手の動きが徐々に緩やかになり、やがてトリルは収まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あれはいつのことだったろう。

1046とBOLCEは夕焼けに染まる小高い丘の上にいた。
盛岡市街を一望できるこの場所で、二人はしばしば語り合った。

「1046は、このまま中途半端で終わっていいの?」
「……分からない」
「僕はまだ上を目指すよ」
「上って何だよ」
「トップだよ。トップランカーを目指す。
 僕が世界で一番IIDXの上手い男になる」
「BOLCE、お前本気かよ」
「本気だ」
「無理だ」
「無理じゃない」
「無理だ」
「無理じゃない」
「どうして言い切れる」
「1046がいるからだ」
「俺が……?」
「君と僕、二人ならやれる。必ず」
「二人で?」
「そうだ。切磋琢磨して、二人でトップランカーにのし上がる。
 僕らは永遠のライバルだ」

そう言ったBOLCEの瞳は、1046が見る限り、伊達でも酔狂でもなかった。
本気だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

257 :トップランカー殺人事件(65) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/12(日) 22:04:08 ID:48yKkmLX0
「最初から上手かったわけじゃないんだ。
 俺もそうだし、BOLCEもそうだ。
 少しずつ、ほんの少しずつ階段を上がって行ったんです。
 時にはスランプに陥ったりもしたけど、その度に励まし合ったり、互いのスコアでモチベーションを高めたり。
 だから、何て言うのかな。
 周りは俺達のことを親友とかそんな風に呼んだけど、実際はもっとサバサバしてました。
 敢えて言うなら戦友って方がしっくりきます」

そういうのを親友って呼ぶんだよ、と指摘したい気持ちもあったが、
二人の関係に水を差してしまうのも躊躇われて、乙下は口をつぐんだ。
ましてや二人の関係性はBOLCEの死により固形化してしまい、もう二度と変容を遂げることはないのだから。

「ちくしょう。
 まだ一度もアイツに勝ってないのに。
 ずるいよ、勝ち逃げなんてずるい……」

1046は唇を震わせながら、右手で両方の目を覆う。
その仕草にあざとさや胡散臭さは見つけられない。
1046の言葉は額面通りの意味で、するりと乙下の胸に吸い込まれる。
そして、淡い切なさがこみ上げる。

目を覆った1046の右手がもどかしそうだ。
大量に降りかかるオブジェを余さずに受け止めることは出来るのに、
どうして止めどなく流れ落ちる涙を抑えることは出来ないのだ、と。

もう一度、店長の言葉が聞こえた。

「1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない」

乙下には分からなかった。
1046が犯人でないのなら、誰が犯人なのか。
あるいは、自分にこの不可解な事件を解くことが本当に出来るのか。
主に後者の意味で、乙下には分からなかった。

280 :トップランカー殺人事件(66) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/20(月) 23:35:43 ID:Ub30dvaJ0
外は猛暑だった。
ABCの店内は隅々まで冷房が効いていたので、
冷えつつあった体に放射する太陽光線の熱気が心地良い。
しかしそれもごくごく短時間のことで、
暑さを思い出した乙下の皮膚はすぐさま発汗という名の悲鳴をあげ始めた。

1046の皮膚もしっとりと水気を帯びていたが、それは泣き腫らした顔をトイレで洗ったためだ。
胸にこびりついたやり切れなさも一緒に洗い流せたのか、
1046の表情は幾分かすっきりとしており、彼の周辺にだけ凛とした涼しさが漂っていた。
そのやり切れなさが喪失感から生まれたものなのか、
罪悪感から生まれたものかなのか、乙下には結論を出せなかったのだが。

「本当にもう帰っちゃうの?
 まだ一回しかプレイしてないじゃん。
 俺が目障りなら心配しないでよ、こっちこそもう帰るとこなんだからさ」
「いいんです。どうせこんな不安定な精神状態じゃ
 ろくな記録出せないから帰ることにしただけですし」

それはまるで楽しむためではなく記録を出すためにゲームをやっていると白状しているようなものではないだろうか。
乙下にはそのことがストイックな、しかしながら病的なことに思えたが、
もしかするとトップランカーたるものそうした気概が必要なのかも知れない。

「乙下さん、まだ俺のこと疑ってるでしょう」
「え。うん、どうだろ」

唐突過ぎる問いかけに、乙下の口をついて出たのは表面的な取り繕いでしかなかった。

「誤魔化さなくてもいいんです、それくらい分かりますよ」
「……」

正確には「1046が犯人である可能性を捨て切れない」なのだが、訂正するわけにもいかない。
押し黙った乙下の意など介さないと言わんばかりに、1046は先を続ける。

「乙下さんの推理には穴がある」

心臓が大きな音を立てた。
乙下は「穴?」とほとんど疑問文に聞こえないほど単調なイントネーションで聞き返したが、
それは狼狽をひた隠しにしようとする内心の裏返しだった。

「一見すると俺に犯行は無理だ。
 理由はさっきご丁寧に説明してくれた通りです。
 俺にはBOLCEを殺すことも店長を脅迫することも出来ない」
「あぁ、その通りだ」
「……だけど、共犯者がいたら?」

だけど、共犯者がいたら?
乙下の心の声と1046の肉声が重なった。

「もし共犯者がいたとすれば、俺のアリバイは大きく崩れる。
 乙下さんも最初から気付いてたんでしょう?」
「確かに、たった一人の共犯者がいるだけで雲泥の差だ」

そうなのだ。
もし1046に共犯者がいたとすれば、鉄壁に見えたアリバイは瞬間的に砂上の楼閣と化す。

281 :トップランカー殺人事件(67) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/20(月) 23:43:41 ID:Ub30dvaJ0
共犯者がいたと仮定した場合の7月16日のシナリオはこうだ。

1046はあらかじめ、自分のイーパスを共犯者に預ける。
午前中の間、共犯者はABCで1046のイーパスを使いIIDXを一心不乱にプレイし続ける。
特に難しくはない。
IIDXには本人認証の仕組みとして暗証番号しか用意されていないのだ。
指紋による認証システム等が採用されているのならまだしも、
今回は1046が共犯者へ暗証番号を教えてしまうだけで済む話だ。
また、ABCにおける平日午前の客入りは皆無に等しい。
その上でカーテンを閉めてしまえば、誰かに顔を見られる危険性はほぼ無くなる。

一方で自由に行動できる1046は、シルバー付近で店内を監視できるどこかへ身を潜める。
11:10、店長へ一回目の脅迫電話をかける。
12:15、店長へ二回目の脅迫電話をかける。
12:18、電話を終えた店長がBOLCEと最後の会話を交わし、
外に飛び出したのを見計らって、1046はBOLCEのいるデラ部屋へと足を踏み入れる。

この時のBOLCEのイーパス使用履歴を見ると、
12:19~12:30と12:30~12:40の二回に渡りプレイした記録が残っている。
12:19にIIDXを始めたのは、他でもないBOLCEの意志によるものだ。
BOLCEがIIDXをプレイする様子を、1046はしばらく後ろのベンチに座って見学する。

さて、12:20にプレイを終えた共犯者は、ABCを後にして一路シルバーへと急ぐ。
所要時間は五分程度。
12:25頃、1046と共犯者はデラ部屋で合流した。

そして、1046はBLOCEの殺害に及んだ。

282 :トップランカー殺人事件(68) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/20(月) 23:51:22 ID:Ub30dvaJ0
この時の共犯者の役割は、BOLCEに代わってIIDXをプレイすることだ。
IIDXを放置してしまうとすぐにゲームオーバーとなりプレイ時刻の履歴が不自然になるため、重要な役割だ。

12:30、共犯者が次のプレイを開始すると同時に1046はシルバーからABCへ移動を始める。
この時点ですでにBOLCEは絶命している。
たった五分でこの犯罪の全てをこなすのは非常に厳しいが、
BOLCEを殺害するというただ一点に絞れば困難とは言えない。
すなわち、BOLCEの死体を筐体に吊ったりシルバーの金庫から200万円を奪うといった付随的な作業は、
12:40以降に共犯者が慌てず実行すれば良いのだ。

12:35、ABCに到着した1046は速やかに入店し、監視カメラに映り込んだ。
その後しばらくはIIDXをプレイし、アリバイの確保に徹する。

12:40、プレイを終えた共犯者はイーパスを回収し、BOLCEの財布へ仕舞う。
共犯者はBOLCEのイーパスを使うに当たり暗証番号が必要だったはずだが、どうクリアしたのか。
これもさして難しくない。
ATMの暗証番号ならまだしも、たかがゲームの暗証番号だ。
必死になって隠すほどのものでもあるまい。
1046があらかじめBOLCEから聞き出しても良いし、
その気になればテンキーの操作をさり気なく覗き込むことだって出来る。
もしかしたら長い付き合いの中、何かの拍子で元々知っていた情報かも分からない。
いずれにせよ、共犯者にとってBOLCEのイーパスの使用を阻まれる要素は何一つない。

BOLCEの死体を吊り、さらに金庫から200万円を奪った共犯者はABCへと舞い戻る。
おそらく13:00頃だ。
ここで共犯者は1046と交代し、1046のアリバイを成立させるべく再び脇目も振らずにIIDXをプレイし始める。
1046は共犯者と交代し、事件を仕上げるべく再びシルバー方面へ向かう。

13:18、1046は店長へ三回目の脅迫電話をかける。
この揺さ振りにより選択肢を失った店長は、岩手銀行を襲うことになる。
1046はその一部始終を近くで見ていた。
だからこそ、1046は報道されていない事実を知っていたのだ。

16:00、1046はBOLCEの死体の第一発見者となり、警察へ通報する。
その裏で、BOLCEの死体を世界で一番最初に見た人間、という意味合いにおいても
変わらず1046が第一発見者だったというわけだ。


……推測の域を出ないが、これが乙下の考える
「事件の犯人は1046」かつ「1046には共犯者がいた」
という前提に基づいた場合の事件の顛末だ。

283 :トップランカー殺人事件(69) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/20(月) 23:58:52 ID:Ub30dvaJ0
乙下はこの推理へ安易に寄りかかりたくはなかった。

そもそも乙下は、いくつかの理由からこの事件は1046単独による犯行であると見ていた。
しかし、1046は鉄壁とまで言えるほどの周到なアリバイを備えていた。
1046が鉄壁の間を縫って犯行を起こすことが可能だとしたら、共犯者の存在に活路を見出す他に手が無かった。

だが、その共犯者という方向性は事件解決への切り札と言えるような代物ではなく、
縋りつきたくなる衝動にさえ駆られない一本の細い藁でしかなかった。
それほどまでに、乙下は単独犯であるという前提を堅持するだけの理由を持ち合わせていた。

だが、現在分かっている事実だけを慎重に組み合わせていくと、
否が応でも「共犯者」の結論にならざるを得ないのだ。

だが、やはり乙下にはこの事件に共犯者がいるとは考えにくかった。
だが、やはり共犯者の存在無しに犯行は不可能だ。
さすれば、1046が犯人であるという前提自体がやはり誤りなのか。

そんな無限ループに陥った乙下の思考へ手を差し伸べたのは、
まさかの1046本人だった。

「乙下さん、俺にはもう一個アリバイがあるんです。
 しかも、そのアリバイによって俺には『共犯者がいない』ことを100%証明出来るんです」

284 :トップランカー殺人事件(70) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/21(火) 00:02:41 ID:Ub30dvaJ0
「……へぇー。聞こうじゃない」

乙下は気のないふりをしたが、心の奥底では不安と期待が過度に入り交じってよろめきそうになっていた。
堅牢極まりない鉄壁のアリバイが、さらに分厚く変貌を遂げようとしている。
その一方で、新たな捜査の材料が増える。
何よりも、「共犯者がいるかいないか」の堂々巡りに容疑者自ら一つの解答を提示しようと言うのだ。

乙下は一度両手で汗ばんだ顔を覆い、そのまま手を上へ動かして前髪を掻き上げた。
そうして再度視界に出現した1046は、ゆっくりと開口した。

「コナミのサーバーには『いつ誰がどこでプレイしたか』の情報が記録されます。
 それはもうご存じですよね」
「おかげ様で」
「でも記録されるのはそれだけじゃないんです。
 一体他に何が記録されるか、知ってます?」
「さぁ」


「……AKIRA YAMAOKA」


1046は一呼吸だけ置いて、少し思わせぶりな口調で言った。
アキラ ヤマオカ、と言ったのだ。

乙下はその名前をよく知っていた。
IIDXを代表するコンポーザーの一人で、
珍妙な歌詞を持つ楽曲を数多く制作している。
逆にIIDXを嗜む人でその名前を知らない人間は稀だろう。

とは言え、このタイミングで藪から棒に彼の名前が登場すること自体
はなはだ珍妙であり、乙下の頭の中は疑問符でいっぱいに埋まった。

1046はそんな乙下の反応を楽しんでいるようだった。
悪戯っぽく微笑んだ後、ナゾナゾの答えを明かすかのごとくもったいぶって口を開く。

299 :トップランカー殺人事件(71) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/10/27(月) 00:03:46 ID:sWi2UvQ50
「乙下さん、俺はね、一昨日の午前中はずっと
 AKIRA YAMAOKAコースのスコアアタックをしてたんです」
「AKIRA YAMAOKAコース……?」

乙下は1046の意図を手探りで拾おうとした。

「コース」と言えばEXPERTモードのことだろう。
何らかのコンセプトに沿って定められた五曲を連続でプレイし、スコアを競うモード。
コンポーザーの氏名を冠したコースとなれば、
当該人物の制作した楽曲が集められたファン御用達のコースであろうことは想像に難くない。

そこまでは普段STANDARDモードを中心にプレイしている乙下にも察しがついたが、
はてどう1046のアリバイに関与するのか、その辺の意図を汲むことが出来ない。
乙下は考えても分からないことが早々に分かり1046へ質問を浴びせる構えとなったのだが、
それよりも早く1046は外に停めてあったマウンテンバイクで帰路につく準備を始めている。

「それじゃ俺は帰ります」
「おいおいそりゃねーだろ。
 AKIRA YAMAOKAコースがどうしたってんだよ、ちゃんと説明してくれよ」
「説明するまでもないです。
 昨日一緒にいた物知りさんにでも聞いてみればいいんじゃないですか?
 あの人ならきっとすぐに気付くと思いますよ」

手押しされたマウンテンバイクのチェーンがカラカラと乾いた音を立てた。
その音は、空回りばかりが続く二人の空間へ一際大きく響くようだった。

「……1046さん」
「……何ですか」

マウンテンバイクに跨り、今まさに漕ぎだそうとしていた1046は、背中で返事をした。

「これまで俺に解けなかった事件は無い。ただの一つもだ」
「それは凄いですね」
「だから、今回の事件も必ず真相を暴く。犯人も逮捕してみせる」

1046は乙下の方を振り返り、唇の端を持ち上げた。
そして、

「期待してます」

とだけ言い残し、そのまま走り去った。

ABCの地上、真夏の太陽。
振り返った1046、疾走する自転車。
昨日の別れ際と同じシチュエーションだ。
ただ一つの違いは、1046が笑ったことだった。




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