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みんなのパーティー 第一章

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210 :旅人:2008/09/24(水) 17:20:15 ID:NToRggBX0
08/12/16(火)

「お、これは…決定的な証拠!撮らせていただきますよ…!」

小暮はそう呟きながら小型のデジタルカメラのシャッターボタンを押した。
SDカードに、中年の男性と若い女が喫茶店で仲良くお茶をしている写真が記録される。
 その後、二人は喫茶店を後にした後に繁華街に行き、そこにあった小さく古ぼけて誰も利用しなさそうなラブホテルに入店した。
それを小暮は週刊誌のカメラマンよろしく撮影していく。

「あなたが帰ってきたら、奥様は大いに怒られるでしょうがね…悪く思わないでください、これは僕の仕事なんです。
汚いと罵られても、私立探偵の仕事なんてこんな浮気調査だとかが大半を占める。
漫画のように殺人事件を華麗に解決なんてしないんですよ…」


 三日前、小暮私立探偵事務所なるものを、その何ヶ月前に再び立ち上げた小暮正俊は一つの依頼を受けた。
セレブの奥田夫人が依頼人である。服装から装飾品まで、全てがゴージャスであった。
華々しいを超えて眩しい…まではいかなかった。太陽拳じゃあるまいし。
が、いかにもセレブな雰囲気を醸し出している三十路半ばの美人であった。
 依頼内容は夫の浮気調査である。最近、夫である奥田氏の態度が何やらよそよそしいというのだ。
奥田夫人の女の勘が、夫は浮気しているのではないか…と知らせたのだといい、
地方紙でこの事務所の宣伝を見て直接依頼をしに来たのだという。

 これだよこれ。
そうお金を手にするチャンスを得た小暮は不謹慎ながらも笑顔で依頼を受領し、そして遂行している。

 数枚の写真を保存しているSDカードを咥えているデジタルカメラを大事そうに持ちながら、小暮はある場所へ向かっていた。
依頼人の奥田夫人の住んでいる家である。
確固たる証拠をつかんだらすぐに私の自宅へ来て頂戴と奥田夫人は小暮に言っていたので、小暮はその通りに行動しているのである。


 小暮は奥田夫人の、というよりは奥田氏の豪邸の素晴らしさに圧倒された。
初めて豪邸を見るわけではなかったが、奥田邸は何かが違う。中から発せられる何かが。そう、何かが…
 瞬間、小暮の視界の端で何かがシュッと動いたような気がした。
人か…?と思ったが、きっと猫か何かだったのだろうかと思った。が、何やら嫌な予感がしてならない。
手汗が止まらなくなると、近々嫌なことが起きるというのは最近になって小暮自身が気づいた事だが、その現象が起きた。
奥田邸で、いったい何が起きたのだろうか?

 小暮は、奥田邸の門から玄関まで続く長い庭に用意されている石畳の道を歩いていた。
50メートルはあるだろうな…と小暮は思いながら玄関に着き、チャイムを鳴らす。
しばらくしてからメイドさんが現れ、小暮が奥田夫人に呼ばれている旨を述べると、彼女は奥田夫人の部屋を案内すると言った。
三階建ての奥田邸の二階の小暮が圧倒されていた時に立っていた道の側の一番大きな一番端の部屋が夫人の部屋だという。
そこまで案内して、メイドさんは去って行った。

211 :旅人:2008/09/24(水) 17:22:36 ID:NToRggBX0
「へぇ、それでどうなったのさ」

松木が、小暮がそこまで話したのを聞いてからそう言った。
小暮は松木の目を見ながら、真剣な面持ちで再び語り始めた。

「メイドさんがそこを立ち去ってから、僕は奥田夫人の部屋の戸を開けたんです。そしたら…」





 小暮は奥田夫人の部屋に入った。夫人?と小暮は部屋の明かりをつけながら言った。
何かが決定的におかしい。奥田夫人が部屋にいるのなら、部屋の明かりがついていないのは変だ。
奥田夫人が暗闇が好きだとか言うのなら話は別だが…まぁ部屋の構造がホテルの一室っぽい所か?妙に違和感を感じるところと言えば?
 しかし、それを否定しても小暮の嗅覚が不吉な予感を提示してしまった。鉄の匂いがしたのだ。
それも、鼻血を出した時に鼻の奥で嗅げるあの匂いの種類の鉄の匂い。
 部屋と呼ぶには少々広めなそこは、ホテルの一室のような作りになっていて、寝室とトイレが部屋の中にある。
寝室にはシングルベッドが一つ。薄型のTVが一台。
そしてゆりかごのように動く椅子が一つ。寝室をくまなく探しても夫人はいなかった。ならば。
 小暮は寝室から取って返し、ドアの近くにあるトイレの戸をノックした。
返事がないことを確認した小暮はその戸を開けた。案の定戸は開いて、そして不吉な予感が当たってしまった。
 ホテルの一室によくある、洋式トイレとユニットバスがセットになっているその場所で、
奥田夫人が前に会った時と同じようなゴージャスな服を血で汚しながら、洋式トイレに座っていた。
奥田夫人の胸元には、彼女の血で塗られたナイフが深々と突き立っていた。
 戸を開けた瞬間から強烈に漂った血の匂いが、小暮の右手が彼の鼻を押さえさせた。
そしてその匂いは瞬く間に部屋全体に漂っただろう。もしかしたら外の廊下までにもそれは達したかもしれない。
 見るも無残な凄惨な死体。小暮は初めて見る生の死体を見て吐き気を催したが、それをグッとこらえて死体の観察をし始めた。



「どう見ても即死って感じでしたよ。どう?こんな場で話すような話じゃなかったでしょ?」

松木邸の談話室で語っていた小暮がそう言って、一度語るのを止めた。
談話室の空気が急速に重くなっていくのを感じながら、松木が小暮に言う。

「続きは?その話には続きは無いの?」
「あるよ。でも、あまり面白い話じゃないかも。ここまで空気が重くなっちゃったからね」

それでもいい、と優の隣に座る最年長の男が言って続ける。

「話ってのは中途半端で終わらせちゃあいけないものだよ。さぁ、語ってくれ」

212 :旅人:2008/09/24(水) 17:24:06 ID:NToRggBX0
 トイレ室の四面の壁と天井と床についていた白いタイルが、洋式トイレに座って死んでいる奥田夫人の血飛沫で染まっていた。
その部屋に小暮は立ち入ってしまった。探偵としての使命感か何かを感じていたのかもしれない。
 本来ならここで悲鳴を上げて、それを聞いた第三者が駆けつけて、
彼(又は彼女)が冷静な対応(警察を呼んだり、救急車を呼んだりとか色々)を取るのが普通の流れだが、
小暮は悲鳴を上げなかったし、それで第三者も駆けつけず、そして小暮は警察にも連絡を取らず自分で調査を行おうとしていた。
その行動が、彼の悲劇の始まりを告げていたのかもしれない。

 小暮が死体を観察して、死んだのは十分ほど前と見当をつけた。
その時、奥田邸に入る時に見かけた黒い人影を思い出した。まさか、奴が夫人を?そうとしか思えない。
 それから上着から白い手袋を取り出してそれを履いてナイフを握った、その時だった。
 奥田夫人の部屋のドアがカチャリと音をたてて、その中に「奥様?奥田様からお電話が…」と
小暮を奥田夫人の部屋まで案内したメイドの声が混じっていた。
が、死体調査に全神経を傾けていた小暮にその声は全く届かない。
 メイドは「お電話がきています」と言おうとしたのだが、
奥田夫人の部屋に充満する血の匂いを嗅いで、異常な事態が起きたのだと悟った。
それから、匂いの発信源をトイレ室だと予測を立てた彼女は駆け足でそこに飛び込む勢いで駆けつけ、

「キャアアアアァァァーッ!!!!」

と悲鳴を上げた。その声でようやく小暮は、死体の奥田夫人と自分以外に人がいる事に気づいて、しまった…と思った。
指紋を残さないようにと配慮して装着した白い手袋には、もう赤黒い血がべっとりとついてしまっている。
もう、このメイドは僕が奥田夫人を殺したのだと思っているに違いない!

「違うんだ、落ち着いてってて、僕じゃない、ぼっぼぼ僕じゃない!
 奥田ふっ夫人を殺したのはぼっぼっ僕じゃないんだ!頼むからおち、落ち着いて!」 

落ち着け!と言っている自分こそ落ち着かんかい!と小暮はセルフツッコミを心中でしたが、どこからも笑い声は聞こえなかった。
代わりに聞こえるのは、

「人殺しーっ!!(自分の服のポケットから携帯電話を取り出して)警察?警察ですか!?
 殺人です!事件です!!早く来てください!!!場所?奥田邸ですよ!!!場所は分かるでしょ!?
 早く、早く来てーっ!お願いよーっ!」

という、冷静さを失っても警察に連絡をしているメイドの壊れっぷりが凄まじい通報の声だけだった……

213 :旅人:2008/09/24(水) 17:26:05 ID:NToRggBX0
 08/12/17(水)

 昨日、音安市警察署に一本の電話が入った。
その電話の内容は、同市に住む者なら誰もが知っている「奥田康弘」という金持ちの豪邸で殺人事件が起きたという通報だった。
一人の男が奥田の妻を殺害したというのだ。その男は容疑を否認しており、
彼は警察に通報された時にパニックになったメイドから電話を取り上げ、そしてこう言ったという。

「えー、死体があるっていうのは本当です。でも、僕が殺したんじゃないんですよ。
 さっき通報した女性がパニックになっているだけで、えぇ。
 ……名前?小暮正俊です。はい、私立探偵の。
 ……いえいえ、あの時はお仕事を持ちかけていただいてありがとうございまs…
 え?だから、僕はやっていませんって。……だから、違いますって。
 本当に頭が固いな…………だったら、現場検証の時に田中刑事を呼んでください。
 えぇ、大桟橋爆破未遂事件の時に僕の所によこした、あの刑事さん。
 僕はとりあえず奥田邸で黙っていますから、必ず田中刑事をここに現場検証させに来てください!」




殺人事件が起きた奥田邸の前に二人の刑事と一台の車があった。

「Shall we~promise everyday~go to working the park~」

田中五郎刑事の右隣で、同僚の中井和刑事がそんな歌を歌っていた。
田中はこの歌に聞き覚えがあったが曲名を思い出す事が出来なかった。
何だった、犬の品種の名前だったような気が…チワワだったか?違うな。
いや、それは置いといて……コイツ、本当に音痴だよな…そう田中は思いながら、歌っている中井に声をかけた。

「ここが奥田邸だったか?」
「poodle…え?ああ、そうそう。ここだな」
「お前さ、これから殺しのあった現場に行くってのに、そんな音痴な声で歌ってんじゃねぇよ」
「俺は音痴じゃねぇよ!」
「壊滅的な音痴だよ」

中井はムッとした顔になってから、グッと田中の耳元に自分の口を近づけて大声を上げた。
うるせぇ馬鹿と田中は中井を軽く突き飛ばしてから、奥田邸の玄関の戸を開けた。


 玄関にはメイド一人と、そして小暮正俊が立っていて、二人の刑事を出迎えていた。
小暮は両手を後ろに回され、そしてそれをロープで縛られているようだった。
そのロープは飼い主と飼い犬のような関係で、小暮の隣に立っているメイドの左手に握られていた。

「小暮探偵、お前犬になったか」
「違いますよ。それよりも早く中に入ってください。現場にはもう何人か人がいますから。
 絶対に僕はやっていませんから。田中刑事、あなたなら信用してくれるでしょ?」
「仕事に私情は挟めねぇ。ちゃんとした証拠を見つけられたら、お前は解放されるんだが。
 それまで、お前の身柄はこの中井に預かってもらう。何、心配ねぇよ。こいつの欠点ったら
 壊滅的な音痴って事くらいだからな」

214 :旅人:2008/09/24(水) 17:29:13 ID:NToRggBX0
「お前しつこいんだよ、人の事を音痴音痴って…なんでお前と組まなきゃいけねぇんだよ」
「んじゃあお前帰っていいよ。とりあえず小暮を連れて白壁にでも行ってろ」

は?と小暮は思わず言ってしまった。……警察ってこんなに軽いものだったか?
容疑者に対してそんな扱い方でいいのか?顔で田中にそう問いかけた小暮はこんな答えをもらった。

「いや、先の橋爆破の未遂事件。あれでお前の名前は署に広まってだなぁ…
 今じゃネットでも広まっているったか。でも、そんな事を言いたいんじゃねぇ。
 署の誰もが、お前は奥田夫人を殺してねぇって思ってる。満場一致のシロだよ、お前は」
「じゃ、どうしてここで家に帰らさせてくれないんですか。おかしいじゃないですか。
 僕は全く疑われていないんでしょ?」

お前は肝心な事を忘れてる。そう田中は言ってから続ける。

「取り調べだ。署の取調室で取り調べるよりは、お前がリラックスできる所で
 取り調べようってことだ。これは俺のアイディアだぞ。あそこは結構暗い場所でな……
 まぁ取り調べられる側は結構精神的にくるし、取り調べする奴が怖いんだよな。それよりもな……
 ………出るって話なんだ。まぁ、大半の人間には関係のないことなんだけどな」
「それで、僕を白壁に連れて行ってから事情聴取ですか。最近の警察って凄く軽い姿勢で
 事件解決を目指すのだと思っていたけど…僕に対しての配慮って事ですね」
「そういう事だ。…中井も音ゲーマーだ。アイツは今SP五段だったか六段のレベルだってよ。
 ……お前八段だって言っていたか?」
「えぇ」
「だったら、アイツにアドバイスの一つでもしてくれ。Vが出来ねぇとか仕事中に言うんだよ。
 俺にも出来ねぇものを俺に『アドバイスない?』とか言ってうるさいんだよな。
 取り調べが終わり次第、お前は解放だから。はい、そういう事で…中井!」
「分かった。ほら探偵さん、こっちだ。ほら、どうだい俺のプリウ○。
 ハイブリットだぜハイブリット。地球環境にとってもいいだろ?」

中井って人のキャラが全然つかめない…そんな場違いな事を小暮は思っていたのだった。
そして、中井の車の助手席に乗り込んで、取り調べのために白壁へと小暮と中井は向かって行った……




 話が途切れたところで、松木が小暮に言う。
「へぇ、それでその後は?」
「僕が車で『奥田邸に入る前に謎の人影を見た』とかそういう事を中井刑事に喋って、
 後は中井刑事にVのコツを教えてました。そうそう、あの日と言えば…町田さん?」

話を終えた小暮が隣に座る女性にそう声をかけた。町田と呼ばれた女性は小暮の顔を見て話し出した。

「二日前は…そうそう、これも面白い話じゃないんだけどね。白壁が襲撃されたの」





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