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トップランカー殺人事件 第三話『☆12のトリック』 -phase3-
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| 337 :トップランカー殺人事件(87) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/09(日) 23:47:16 ID:GQ4itVKI0 |
空気が顔を強張らせた。
「今何て言ったんすか?」
「だから、そもそも1046が犯人だってのは
俺達の勝手な思い込みだったりしたらどうすっかな……なんて」
「今更そりゃないっすよー」
「だから、そもそも1046が犯人だってのは
俺達の勝手な思い込みだったりしたらどうすっかな……なんて」
「今更そりゃないっすよー」
空気は首を上方向へ直角に曲げて、仰々しい呆れ方をした。
「俺自身、あれだけクロだクロだと騒ぎ立てておきながら
今更そりゃないと思うけどさ。
しょうがないじゃん、アリバイは完璧だし、それに……」
「それに?」
「……」
今更そりゃないと思うけどさ。
しょうがないじゃん、アリバイは完璧だし、それに……」
「それに?」
「……」
乙下の口が止まった。
喉のごく手前まで出かけていた言葉を飲み込む。
1046はシロであるという仮定が動かしがたい事実として
具現化してしまうようで怖かったのかも知れない。
それでも、乙下は踏ん切りをつけた。
喉のごく手前まで出かけていた言葉を飲み込む。
1046はシロであるという仮定が動かしがたい事実として
具現化してしまうようで怖かったのかも知れない。
それでも、乙下は踏ん切りをつけた。
「1046は泣いてた」
乙下は至極短いそのメッセージを口にすることで、
1046の細い体から今にも溢れ出しそうだった万感の思いの正体を手繰り寄せようとする。
1046の細い体から今にも溢れ出しそうだった万感の思いの正体を手繰り寄せようとする。
「1046、悲しそうに泣いてた。
最初は単なるフリか、それともBOLCEを殺っちまった罪悪感が
そうさせているのかとも思ったんだけど……
それにしちゃ本気で悲しそうに泣いてた。
あれが嘘泣きだとしたら演技派俳優としてもランカーになれるよ」
「イケメンですからね。
もし俳優になったら、きっと抱かれたい男性部門でもランカーっす」
最初は単なるフリか、それともBOLCEを殺っちまった罪悪感が
そうさせているのかとも思ったんだけど……
それにしちゃ本気で悲しそうに泣いてた。
あれが嘘泣きだとしたら演技派俳優としてもランカーになれるよ」
「イケメンですからね。
もし俳優になったら、きっと抱かれたい男性部門でもランカーっす」
空気は乙下に倣って、口では軽々しくうそぶきつつも
少しばかり俯きがちになって表情を曇らせている。
感化されやすい空気の性格を鑑みて、
乙下は今自分もこんな表情をしているのだろうか、と初めて自覚する。
少しばかり俯きがちになって表情を曇らせている。
感化されやすい空気の性格を鑑みて、
乙下は今自分もこんな表情をしているのだろうか、と初めて自覚する。
「『1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない』」
「1046ちゃん?」
「店長が言ってた。随分むきになって弁護してたよ、1046のこと」
「ふーん」
「『BOLCE君は人から恨みを買うようなヤツじゃねぇ』とも言ってた」
「みんなやたらと信頼が厚いっすね」
「な。そんな話聞いちゃうと自信無くすだろ」
「……」
「1046ちゃん?」
「店長が言ってた。随分むきになって弁護してたよ、1046のこと」
「ふーん」
「『BOLCE君は人から恨みを買うようなヤツじゃねぇ』とも言ってた」
「みんなやたらと信頼が厚いっすね」
「な。そんな話聞いちゃうと自信無くすだろ」
「……」
空気は首を下方向へ直角に曲げて、またも仰々しく思索に耽るふりをした。
かと思えばすぐに乙下へ向き直って言い放つのだった。
かと思えばすぐに乙下へ向き直って言い放つのだった。
「だとしたら、これまでの推理はどうなっちゃうんすか」
「だから困ってるんだってば」
「だから困ってるんだってば」
1046がクロであることを示す理由と、1046がシロであることを示す理由。
二チームの綱引きは互角の戦いを展開していた。
乙下はアナウンスを務めるような気分で戦況の分析に臨む。
二チームの綱引きは互角の戦いを展開していた。
乙下はアナウンスを務めるような気分で戦況の分析に臨む。
「空気。これまでに見つけた1046がクロっぽい根拠は何だった?」
| 338 :トップランカー殺人事件(88) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/09(日) 23:52:44 ID:GQ4itVKI0 |
「そりゃもう、まずはボクの見つけた1046式固定運指のダイイングメッセージ」
「うん。他は?」
「えっと、『銀行強盗=店長』は
報道されてない情報のはずなのに1046が知ってたこと」
「うん。他は?」
「あとは、アリバイが余りにも出来過ぎていること」
「うん。他は?」
「……以上、かな。
あれ、何だか思ってたより割と少ないっすね。
オトゲ先輩が自信満々に1046を容疑者扱いするもんだから、
すっかりボクもそんな気になってたけど……」
「うん。他は?」
「えっと、『銀行強盗=店長』は
報道されてない情報のはずなのに1046が知ってたこと」
「うん。他は?」
「あとは、アリバイが余りにも出来過ぎていること」
「うん。他は?」
「……以上、かな。
あれ、何だか思ってたより割と少ないっすね。
オトゲ先輩が自信満々に1046を容疑者扱いするもんだから、
すっかりボクもそんな気になってたけど……」
戸惑う空気に向かって先輩風を吹かすつもりも無いのだが、
乙下は教訓めいて告げる。
乙下は教訓めいて告げる。
「いいか、刑事は嘘を見抜く商売だ」
空気はくすりと薄笑いした。
「またまた。オトゲ先輩ってばカッコつけちゃって」
「うるせーなバカ、そういうんじゃなくてさ」
「うるせーなバカ、そういうんじゃなくてさ」
別に笑うところでもないだろうと抗議したくなったが、
乙下は部下の無礼を我慢して話を戻すことにする。
乙下は部下の無礼を我慢して話を戻すことにする。
「そもそも俺が1046に疑いを向けたきっかけは、
アイツの様子が目に見えておかしかったからなんだ。
昨日の朝、俺達の前に現れた1046の緊張は半端じゃないと思わなかったか?」
「んー……言われてみれば、そうかも」
「あれは間違いなく嘘つきの顔だよ。
俺の勝手で不確かな主観に聞こえちゃうかも知れないけど、
これでも一応は根拠ってもんがあるんだぞ」
アイツの様子が目に見えておかしかったからなんだ。
昨日の朝、俺達の前に現れた1046の緊張は半端じゃないと思わなかったか?」
「んー……言われてみれば、そうかも」
「あれは間違いなく嘘つきの顔だよ。
俺の勝手で不確かな主観に聞こえちゃうかも知れないけど、
これでも一応は根拠ってもんがあるんだぞ」
乙下は漠然と記憶した1046の表情と行動を、瞼の裏で断片的に再生してみる。
例えば、合わせようとしない目線。
例えば、上擦った口調。
例えば、落ち着かない指先。
例えば、上擦った口調。
例えば、落ち着かない指先。
いずれも嘘をついている、
もしくは何かを隠している人間が発する典型的なシグナルだ。
もしくは何かを隠している人間が発する典型的なシグナルだ。
| 339 :トップランカー殺人事件(89) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/09(日) 23:58:52 ID:GQ4itVKI0 |
もし突然親友が殺されるという異常事態にさらされたのならば、
混乱・悲哀・疑問・憤怒といった感情に襲われるのが普通のはずだ。
ところが、昨日の1046にはそういった感情よりも
後ろめたさや恐怖、焦りの類……すなわち「嘘つき」の心情が
全面に押し出されていた。
混乱・悲哀・疑問・憤怒といった感情に襲われるのが普通のはずだ。
ところが、昨日の1046にはそういった感情よりも
後ろめたさや恐怖、焦りの類……すなわち「嘘つき」の心情が
全面に押し出されていた。
それらしく言えば「犯罪心理学に基づいた読心術」などと
偉そうに吹聴したくなる部類の技能なのであろうが、
乙下は単に刑事としての経験と持ち前の観察眼からこれを体得していた。
偉そうに吹聴したくなる部類の技能なのであろうが、
乙下は単に刑事としての経験と持ち前の観察眼からこれを体得していた。
「もちろん超能力とは違うんで大まかな心情しか見抜けないんだけど、
経験上読みが外れたことは少ない……つもり」
「へぇ、やっぱオトゲ先輩は凄いっすねー。
尊敬しちゃいますよ!」
経験上読みが外れたことは少ない……つもり」
「へぇ、やっぱオトゲ先輩は凄いっすねー。
尊敬しちゃいますよ!」
空気に持て囃されて、自慢話っぽくなってしまったことを
自覚した乙下は軽く反省した。
もしやこの空気による誇張気味の喝采は
彼の白けた気持ちを暗示したものなのではなかろうか、とさえ邪推してしまう。
自覚した乙下は軽く反省した。
もしやこの空気による誇張気味の喝采は
彼の白けた気持ちを暗示したものなのではなかろうか、とさえ邪推してしまう。
そうは言っても、これまで乙下が
このアバウトな読心術とロジカルな推理とを組み合わせるスタイルで
いくつもの難事件を解決してきたことは、紛れも無い事実であった。
料理をする際にまず目分量で調味料を入れ、
次に味見をしながら少しずつ目標の味へ近付けていくやり方に似ている。
このアバウトな読心術とロジカルな推理とを組み合わせるスタイルで
いくつもの難事件を解決してきたことは、紛れも無い事実であった。
料理をする際にまず目分量で調味料を入れ、
次に味見をしながら少しずつ目標の味へ近付けていくやり方に似ている。
「しかし、だ」
しかし、その過程で積み上げられた自信があるからこそ、
1046の様子は乙下にとって腑に落ちない点が多々あるのだった。
1046の様子は乙下にとって腑に落ちない点が多々あるのだった。
「どうもおかしい。妙だ」
「何がっすか?」
「今日の1046は『一貫していない』」
「何がっすか?」
「今日の1046は『一貫していない』」
| 340 :トップランカー殺人事件(90) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/10(月) 00:03:49 ID:+IDkPqIZ0 |
空気は眉根に皺を寄せて、どういう意味なのだ、と目で訴える。
「なんつーか、昨日の1046は終始緊張して『嘘つき』の顔をしていた。
特に、俺が1046へ疑いの目を向けていることをほのめかした途端、
アイツの緊張はますます顕著になったんだ」
特に、俺が1046へ疑いの目を向けていることをほのめかした途端、
アイツの緊張はますます顕著になったんだ」
俺を疑ってるんですか、と呟いた1046。
執拗なまでに乙下と目を合わせまいとする彼は、
とうとう乙下と別れるその時まで同じ態度を保っていた。
執拗なまでに乙下と目を合わせまいとする彼は、
とうとう乙下と別れるその時まで同じ態度を保っていた。
「ところが、今日の1046は掴み所が無かった。
途中までは昨日と同じように極力俺と目を合わせまいとしてたんだが、
俺がもう疑ってはいないことをほのめかした途端、1046の様子が変わった」
途中までは昨日と同じように極力俺と目を合わせまいとしてたんだが、
俺がもう疑ってはいないことをほのめかした途端、1046の様子が変わった」
BOLCEを殺した犯人に対し怒り、犯人に殺されたBOLCEに対し涙を流し、
必ず事件を解決すると宣言した乙下に対し微笑んだ。
そこには純粋に事件を憎み、親友の死を悼み、警察へ無念を託す青年の姿があった。
とても演技には見えない。
必ず事件を解決すると宣言した乙下に対し微笑んだ。
そこには純粋に事件を憎み、親友の死を悼み、警察へ無念を託す青年の姿があった。
とても演技には見えない。
その旨を説明すると、空気は肩をすくめて反論するのだった。
「それって一貫しないどころか、ある意味普通の反応じゃないっすか?
だって、疑われたら緊張するでしょ。
逆に疑いを解かれたら、緊張も解けるでしょ。
だから、そこから先は伸び伸びと演技出来たんじゃないっすかね」
「いや、それは無いよ。
1046が見せた喜怒哀楽はとても演技に見えなかった。
逆に、俺の目をごまかせるほど高い演技力を持っているというのであれば、
そもそも緊張の有無なんかで演技が左右されること自体起こり得ないだろ」
だって、疑われたら緊張するでしょ。
逆に疑いを解かれたら、緊張も解けるでしょ。
だから、そこから先は伸び伸びと演技出来たんじゃないっすかね」
「いや、それは無いよ。
1046が見せた喜怒哀楽はとても演技に見えなかった。
逆に、俺の目をごまかせるほど高い演技力を持っているというのであれば、
そもそも緊張の有無なんかで演技が左右されること自体起こり得ないだろ」
空気は自転車を手押ししたままの格好で、器用にもますます肩をすくめてみせた。
「てことは……1046はクロなのかシロなのか、
支離滅裂過ぎてもう何が何だか分かんないじゃないっすか」
「だからそう言ってんじゃん」
「……でしたね」
支離滅裂過ぎてもう何が何だか分かんないじゃないっすか」
「だからそう言ってんじゃん」
「……でしたね」
空気はがっくりと肩を落としてしまう。
そんな部下を慰めてあげたいといったような
殊勝な心がけがあったわけではなく、単純に自分を元気づけたい一心で乙下は口走った。
そんな部下を慰めてあげたいといったような
殊勝な心がけがあったわけではなく、単純に自分を元気づけたい一心で乙下は口走った。
「……たった一つだけ、筋の通る推理がある」
| 341 :トップランカー殺人事件(91) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/10(月) 00:14:19 ID:+IDkPqIZ0 |
空気が顔を上げて希望に満ちた目を向けてくるのを先回りするように、
乙下はほとんど息継ぎをしないまま
乙下はほとんど息継ぎをしないまま
「期待はするな。かなり抽象的な推理だ」
と付け加える。
だが空気はそんな乙下の思惑などどこ吹く風かと言わんばかりに、
早速希望に満ちた目を輝かせていた。
こうなると乙下もお構いなしに話を切り出す他ない。
だが空気はそんな乙下の思惑などどこ吹く風かと言わんばかりに、
早速希望に満ちた目を輝かせていた。
こうなると乙下もお構いなしに話を切り出す他ない。
「つまりはこういうことだ。
やはりBOLCEを殺した犯人は1046である。
ただし……『1046がBOLCEを殺したのは、やむを得ない理由からだった』。
そう考えると少しは辻褄が合うと思わないか?」
「やむを得ない理由?」
「そう。本当は1046も親友を殺すなんて酷い真似はしたくなかった。
1046に悪意は無かった。
だが、やむを得ない理由でBOLCEを殺さざるを得なかった」
「それ、どんな理由っすか」
「知るかよ」
やはりBOLCEを殺した犯人は1046である。
ただし……『1046がBOLCEを殺したのは、やむを得ない理由からだった』。
そう考えると少しは辻褄が合うと思わないか?」
「やむを得ない理由?」
「そう。本当は1046も親友を殺すなんて酷い真似はしたくなかった。
1046に悪意は無かった。
だが、やむを得ない理由でBOLCEを殺さざるを得なかった」
「それ、どんな理由っすか」
「知るかよ」
空気は泡を食ったように早口で捲し立てる。
「知るかよって、そりゃないじゃないすか。
大体、何がどう辻褄が合うんすか」
「まぁ落ち着け。
昨日の朝1046が俺達と会って緊張していたのは、1046がBOLCEを殺した犯人だから。
これは合点がいくな?」
「いきます」
「次に、1046が見せた怒りの表情。
これは事件の犯人に対する憎悪ではなく、望んでもいないのに
BOLCEを殺すはめになってしまった『何らかの事情』に対する憎悪だった」
「自分で殺しておきながら?」
「うん、自分で殺しておきながら。
次に、1046が見せた涙。
これもまぁ今のと同じだ。
理不尽な事情で殺されてしまったBOLCEに対する悲しみ。
そして、理不尽な事情で手を汚すはめになってしまった
自分自身の運命に対する悲しみ」
「自分で殺しておきながら?」
「しつこいな、そうだよ」
大体、何がどう辻褄が合うんすか」
「まぁ落ち着け。
昨日の朝1046が俺達と会って緊張していたのは、1046がBOLCEを殺した犯人だから。
これは合点がいくな?」
「いきます」
「次に、1046が見せた怒りの表情。
これは事件の犯人に対する憎悪ではなく、望んでもいないのに
BOLCEを殺すはめになってしまった『何らかの事情』に対する憎悪だった」
「自分で殺しておきながら?」
「うん、自分で殺しておきながら。
次に、1046が見せた涙。
これもまぁ今のと同じだ。
理不尽な事情で殺されてしまったBOLCEに対する悲しみ。
そして、理不尽な事情で手を汚すはめになってしまった
自分自身の運命に対する悲しみ」
「自分で殺しておきながら?」
「しつこいな、そうだよ」
空気は耳の裏を掻きながら、しかめっ面になっている。
「さっき俺は『必ず事件を解決する』と宣言し、
それに対して1046は『期待してます』と微笑んだ。
この笑顔も、こう考えれば一本に繋がる。
つまり、1046は『本当は自分は悪くないことも含めて』
俺が事件の真相を解き明かすことを期待した」
「うーん……」
それに対して1046は『期待してます』と微笑んだ。
この笑顔も、こう考えれば一本に繋がる。
つまり、1046は『本当は自分は悪くないことも含めて』
俺が事件の真相を解き明かすことを期待した」
「うーん……」
空気はしかめっ面のまま、不満げに唸った。
「理屈は分かったんすけど、そのやむを得ない事情ってのが
はっきりしないことには何とも言えないんじゃないっすか?」
「まぁそれはね、その通りだ」
「もしその推理が的を射てるとすれば、
どうして1046はBOLCEを殺したのか……そこっすよね」
はっきりしないことには何とも言えないんじゃないっすか?」
「まぁそれはね、その通りだ」
「もしその推理が的を射てるとすれば、
どうして1046はBOLCEを殺したのか……そこっすよね」
「動機、か」
| 342 :トップランカー殺人事件(92) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/10(月) 00:21:08 ID:+IDkPqIZ0 |
ここまで乙下は首尾一貫して
「誰がBOLCEを殺したか」と「どうBOLCEが殺されたか」を考えてきた。
しかし「なぜBOLCEが殺されたか」、ここにはまだ踏み込んでいない。
「誰がBOLCEを殺したか」と「どうBOLCEが殺されたか」を考えてきた。
しかし「なぜBOLCEが殺されたか」、ここにはまだ踏み込んでいない。
「二人は親友だったんすよね。
しかも高校の頃からほぼ毎日のように顔を合わせてきたらしいじゃないですか。
それくらいの仲だったら、ボク達じゃ知りようの無い
深い内情みたいなものがあったのかも知れないっすね」
しかも高校の頃からほぼ毎日のように顔を合わせてきたらしいじゃないですか。
それくらいの仲だったら、ボク達じゃ知りようの無い
深い内情みたいなものがあったのかも知れないっすね」
そこでまた店長の言葉が頭の中で再生される。
1046がBOLCEを殺すなど、天地が引っ繰り返ってもあり得ないと。
1046がBOLCEを殺すなど、天地が引っ繰り返ってもあり得ないと。
「あれだけ親密にしていた店長が知らなかったほどの事情だ。
俺達が考えて分かるわけない。
店長以外で、いや、店長よりも深く
二人と付き合いがあった人物を探して事情聴取をする必要がある」
「そんな人、いるといいっすけど……」
「シルバーの常連を当たるしかないな」
俺達が考えて分かるわけない。
店長以外で、いや、店長よりも深く
二人と付き合いがあった人物を探して事情聴取をする必要がある」
「そんな人、いるといいっすけど……」
「シルバーの常連を当たるしかないな」
アーケードが一旦途切れ、分厚い国道との交差点に差し掛かった。
横断歩道の向こう側ではアーケードの続きが盛岡駅の方向へ真っ直ぐに伸びている。
もうしばらく歩けば道沿いにシルバーが見えてくるはずだった。
横断歩道の向こう側ではアーケードの続きが盛岡駅の方向へ真っ直ぐに伸びている。
もうしばらく歩けば道沿いにシルバーが見えてくるはずだった。
だが今は赤信号が点灯しており、進むことが出来ない。
多くの通行人の歩みが堰き止められており、
彼らは目の前を大小色とりどりの自動車が横切っていく様をぼんやりと見届けている。
その人だかりから一歩引いた後方で、二人は立ち止まった。
多くの通行人の歩みが堰き止められており、
彼らは目の前を大小色とりどりの自動車が横切っていく様をぼんやりと見届けている。
その人だかりから一歩引いた後方で、二人は立ち止まった。
「そうっすね、後はひたすら聞き込み捜査っすね。
もうこれ以上ボク達だけで考えたところでどうにもならないっぽいし」
もうこれ以上ボク達だけで考えたところでどうにもならないっぽいし」
期待が大きかった分、空気の落胆は激しいようだった。
絞り尽くした雑巾から染み出した最後の一滴が、
立ち所に蒸発してしまうイメージを乙下は抱いた。
絞り尽くした雑巾から染み出した最後の一滴が、
立ち所に蒸発してしまうイメージを乙下は抱いた。
「だから期待すんなって言っただろ、バカ」
乙下自身、この推理が何も生み出さないことは承知していた。
どちらかと言えば、1046が犯人である最後の可能性を残したいという
ただそれだけの目的のために、途切れそうな糸をぎりぎりで紡いだような感覚だった。
どちらかと言えば、1046が犯人である最後の可能性を残したいという
ただそれだけの目的のために、途切れそうな糸をぎりぎりで紡いだような感覚だった。
不毛だ。
乙下は「1046が犯人である」という仮説に固執し過ぎて、
ほとんど呪縛のような状態になっている。
それをはっきりと意識した瞬間、
乙下は限りなく意固地な自分の有り様が、急激に不毛なものへと思えてきた。
ほとんど呪縛のような状態になっている。
それをはっきりと意識した瞬間、
乙下は限りなく意固地な自分の有り様が、急激に不毛なものへと思えてきた。
歩道の信号が青になり、人々は一斉に歩き始める。
乙下もまた、新しい一歩を踏み出す。
乙下もまた、新しい一歩を踏み出す。
「空気。1046が犯人じゃないとしたら、どんなヤツが犯人だと思う?」
| 343 :トップランカー殺人事件(93) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/10(月) 00:26:19 ID:+IDkPqIZ0 |
相変わらず億劫そうに自転車を押しつつも
すでに前を歩き始めている空気は、振り返らずに喋る。
すでに前を歩き始めている空気は、振り返らずに喋る。
「オトゲ先輩、ついに1046はシロだって結論に行き着いたんすか?」
「違うよ。
たださ、今までの俺達は頭っから1046が犯人だと決めてかかって物事を見ていた。
そういうやり方だと大事なことを見逃しちまいそうだし、
捜査に進展が無いのもその変が原因のような気がしたんだ。
1046が犯人だろうとそうでなかろうと、一度まっさらな視点で考え直してみないか?」
「うん、それもそうっすね。
でもこれまで1046が犯人だとばかり思って考えて来ましたからね。
そうじゃなければどんなヤツが犯人かなんて、今更想像しづらいっす」
「違うよ。
たださ、今までの俺達は頭っから1046が犯人だと決めてかかって物事を見ていた。
そういうやり方だと大事なことを見逃しちまいそうだし、
捜査に進展が無いのもその変が原因のような気がしたんだ。
1046が犯人だろうとそうでなかろうと、一度まっさらな視点で考え直してみないか?」
「うん、それもそうっすね。
でもこれまで1046が犯人だとばかり思って考えて来ましたからね。
そうじゃなければどんなヤツが犯人かなんて、今更想像しづらいっす」
空気は乙下の提案に概ね賛同したようだったが、
推理のきっかけを掴めないのか、回答に窮している。
それを情けないと切り捨てる感情は、今の乙下には無い。
乙下も全く同様だったからだ。
推理のきっかけを掴めないのか、回答に窮している。
それを情けないと切り捨てる感情は、今の乙下には無い。
乙下も全く同様だったからだ。
何か手掛かりはないものか。
乙下は少し斜め前を行く空気の足取りを眺めながら、
おもちゃ箱を引っ繰り返すかのように
昨日から今日にかけて手にした情報の記憶を辿った。
乙下は少し斜め前を行く空気の足取りを眺めながら、
おもちゃ箱を引っ繰り返すかのように
昨日から今日にかけて手にした情報の記憶を辿った。
1046はクロか。
1046はシロか。
記憶から芋づる式に掘り出されるのは、そんな二者択一ばかりだ。
思い返せば本当にそれだけを考え巡らせていた。
視野狭窄にもほどがあるな、と乙下は自分の単純さが情けなくなる。
1046はシロか。
記憶から芋づる式に掘り出されるのは、そんな二者択一ばかりだ。
思い返せば本当にそれだけを考え巡らせていた。
視野狭窄にもほどがあるな、と乙下は自分の単純さが情けなくなる。
クロか。
シロか。
シロか。
シロ。
シロ。
シロ、シロ、シロ……。
シロ。
シロ、シロ、シロ……。
どうやら空気は横断歩道の白い部分だけを歩いている。
「お前何やってんだよ」
「え、何がっすか」
「ったく、ガキじゃないんだからさぁ。
まぁ確かに俺も小さい頃はよくやったけどね」
「何が?何が?」
「え、何がっすか」
「ったく、ガキじゃないんだからさぁ。
まぁ確かに俺も小さい頃はよくやったけどね」
「何が?何が?」
空気は何を指摘されているのか理解出来ず、ただ翻弄されている。
それでも白いペイントから足を踏み外さない徹底ぶりは天晴れだ。
それでも白いペイントから足を踏み外さない徹底ぶりは天晴れだ。
「……待てよ」
横断歩道を渡り終えると同時に、乙下は何か引っ掛かりを感じた。
| 344 :トップランカー殺人事件(94) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/10(月) 00:33:00 ID:+IDkPqIZ0 |
素早くポケットからメモ帳を取り出し、パラパラとめくる。
すぐに目的のページは見つかった。
そこに並んだ単語を、穴が開くほどじっと見つめる。
すぐに目的のページは見つかった。
そこに並んだ単語を、穴が開くほどじっと見つめる。
乙下の中で、急速に新たな推理が構築されていく。
それは「1046が犯人である」という仮定から遠く掛け離れた筋書きだった。
両立することはあり得ない。
だから自分の組み立てた推理を簡単には信用出来ない。
ただ、むざむざ却下してしまうには惜しい……そう思わせるだけの感触を持つ内容だった。
それは「1046が犯人である」という仮定から遠く掛け離れた筋書きだった。
両立することはあり得ない。
だから自分の組み立てた推理を簡単には信用出来ない。
ただ、むざむざ却下してしまうには惜しい……そう思わせるだけの感触を持つ内容だった。
「オトゲ先輩?」
空気に呼ばれて乙下は我に返った。
「どうしたんすか、急に黙りこくっちゃって」
「悪い、ちょっと考えことをしてた。それよりさ」
「悪い、ちょっと考えことをしてた。それよりさ」
乙下は今しがた自分の中で構築された新しい推理を、
自らの手で正当性を評価するかのように用心深くアウトプットしようとした。
自らの手で正当性を評価するかのように用心深くアウトプットしようとした。
「お前、プロファイリングって知ってるよな」
「プロファイリング」
「プロファイリング」
空気は初めて聞いた言葉のように、いい加減な発音で繰り返す。
「知らないとは言わせんぞ。
警察学校で習っただろ、これくらいの知識」
「忘れちゃいました、サーセン」
「本当にどうしようもねぇなお前は。
よく覚えておけ、プロファイリングってのは
犯行状況の分析をもとに犯人の特徴を推理することだ」
「そうそう。そうでした」
警察学校で習っただろ、これくらいの知識」
「忘れちゃいました、サーセン」
「本当にどうしようもねぇなお前は。
よく覚えておけ、プロファイリングってのは
犯行状況の分析をもとに犯人の特徴を推理することだ」
「そうそう。そうでした」
空気は白々しい照れ笑いで誤魔化しながら
「で、オトゲ先輩はどんなプロファイリングをしたんすか?」
と先を促してくる。
さっさと話を次に進めたいのが見え見えだ。
さっさと話を次に進めたいのが見え見えだ。
「これまでの推理を覆すような話だから、ちょっと言いにくくもあるんだが……」
乙下はそこで一度言葉を切ったが、
まっさらな視点で考え直そうと提案した責任もあったので、すぐに覚悟を決めた。
まっさらな視点で考え直そうと提案した責任もあったので、すぐに覚悟を決めた。
「……この事件の犯人は中学生、あるいは高校生。
もしかしたらそのくらいの年齢かも知れない」
もしかしたらそのくらいの年齢かも知れない」
「ちゅっ……中高生!?」
空気は目を丸くした。
| 371 :トップランカー殺人事件(95) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 01:25:45 ID:bV1yRrD+0 |
「中高生って、オトゲ先輩そりゃちょっと」
突拍子もなさ過ぎです、と空気が否定的な決まり文句を放つより先に、
乙下は開いたままのメモ帳を彼が運ぶ自転車のカゴへ放り投げた。
乙下の角張った筆跡が並ぶそのページを、
空気は上から覆い被さるようにして読み上げる。
乙下は開いたままのメモ帳を彼が運ぶ自転車のカゴへ放り投げた。
乙下の角張った筆跡が並ぶそのページを、
空気は上から覆い被さるようにして読み上げる。
「生ゴミ、社会のガン細胞、う○こ製造マシーン……これって確か」
「うん、店長からの事情聴取で聞いたキーワード。
犯人は脅迫電話の中で、店長や客のゲーマーをそんな風に罵ったらしい。
どう思う?」
「どうもこうも、ふざけてるとしか言えないっすよ」
「うん、店長からの事情聴取で聞いたキーワード。
犯人は脅迫電話の中で、店長や客のゲーマーをそんな風に罵ったらしい。
どう思う?」
「どうもこうも、ふざけてるとしか言えないっすよ」
乙下は空気の喉元を目掛けて、一直線に人差し指を伸ばした。
「そう、それ。『ふざけてる』。
犯人は子供を誘拐してその身柄を盾に一億円を要求するという
言い逃れようのない立派な犯罪を犯している。
その割には発言の随所で、まるでこれが一種の悪ふざけであるかのような
幼稚さやナンセンスさを感じさせるんだよね」
「だからって、一概に犯人が中高生だとは限らないんじゃないっすか?」
「でも大の大人がう○こ製造マシーンはねぇだろ」
「まぁ大の大人がう○こ製造マシーンはないですね」
犯人は子供を誘拐してその身柄を盾に一億円を要求するという
言い逃れようのない立派な犯罪を犯している。
その割には発言の随所で、まるでこれが一種の悪ふざけであるかのような
幼稚さやナンセンスさを感じさせるんだよね」
「だからって、一概に犯人が中高生だとは限らないんじゃないっすか?」
「でも大の大人がう○こ製造マシーンはねぇだろ」
「まぁ大の大人がう○こ製造マシーンはないですね」
乙下はたった今組み上がったばかりの推理を空気へ披露しながら、
同時に自分自身へも言い聞かせる。
それにより、頭の中で考えを自然と整理させていく。
同時に自分自身へも言い聞かせる。
それにより、頭の中で考えを自然と整理させていく。
犯人の発言は幼稚でナンセンスだ。
単語の幼稚さは言うまでもないし、加えて理屈のナンセンスさも際立っている。
単語の幼稚さは言うまでもないし、加えて理屈のナンセンスさも際立っている。
ゲームの存在が社会をダメにする、だから店長は罪人である、
よって店長は償いとして一億円を支払わなければならない。
ソクラテスも驚きの異次元論法だ。
風が吹けば桶屋が儲かることの方がまだすんなりと納得出来る。
よって店長は償いとして一億円を支払わなければならない。
ソクラテスも驚きの異次元論法だ。
風が吹けば桶屋が儲かることの方がまだすんなりと納得出来る。
まるで横断歩道の白い部分だけを渡り歩くかのようなナンセンスさ。
なぜ犯人は店長に対し、このナンセンスな理屈を片手に糾弾して迫ったのか。
なぜ犯人は店長に対し、このナンセンスな理屈を片手に糾弾して迫ったのか。
乙下は逆に考えた。
「空気さ、お前さっき横断歩道の白い部分だけ選んで歩いてたけど、
あの行動に何の意味があるわけ?」
「えぇ、そんなことしてたっすか?」
あの行動に何の意味があるわけ?」
「えぇ、そんなことしてたっすか?」
空気は顔を赤らめている。
「何となく……っすね。
別に意味は無いけど、つい面白くてやっちゃうんすよ」
「この犯人も同じことだ」
「え?」
別に意味は無いけど、つい面白くてやっちゃうんすよ」
「この犯人も同じことだ」
「え?」
答えは簡単だ。
「面白いから」、それに尽きる。
「面白いから」、それに尽きる。
| 372 :トップランカー殺人事件(96) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 01:39:09 ID:bV1yRrD+0 |
「ヤツは『わざと低脳な口ぶりで犯罪をしでかすこと』、
それ自体を面白がっている節があるように思えてならない」
「……どういうことっすか?」
「俺も最初から言ってたように、どうもこの犯人からは
本気で店長から金をかすめ取ってやろうという魂胆が微塵も感じられなかった。
だから犯人の目的は金以外の場所にある、そう思っていた。
今ようやく、金じゃないのなら何なのかが分かったよ。
犯人は無意味で幼稚な言葉を振りかざして、
社会的な規範や道徳を踏み潰すことに快楽を感じていたんだ」
「つまり、この脅迫事件は愉快犯ってことっすか?」
「有り体に言えばそうなる。
犯人は本気で一億円が手に入ることなど期待していなかった。
むしろ、安直で現実感の伴わない『一億円』という金額を
澄ました顔で提示することそのものを楽しんでたんじゃないかな」
「楽しんでた……」
それ自体を面白がっている節があるように思えてならない」
「……どういうことっすか?」
「俺も最初から言ってたように、どうもこの犯人からは
本気で店長から金をかすめ取ってやろうという魂胆が微塵も感じられなかった。
だから犯人の目的は金以外の場所にある、そう思っていた。
今ようやく、金じゃないのなら何なのかが分かったよ。
犯人は無意味で幼稚な言葉を振りかざして、
社会的な規範や道徳を踏み潰すことに快楽を感じていたんだ」
「つまり、この脅迫事件は愉快犯ってことっすか?」
「有り体に言えばそうなる。
犯人は本気で一億円が手に入ることなど期待していなかった。
むしろ、安直で現実感の伴わない『一億円』という金額を
澄ました顔で提示することそのものを楽しんでたんじゃないかな」
「楽しんでた……」
空気はメモ帳を覗き込んだままの姿勢で、棒読みをするように言った。
乙下の推理が想像を超えたものだったのか、
空気の目はまるで地面を通して地球の反対側を眺めているかのように虚ろだ。
乙下の推理が想像を超えたものだったのか、
空気の目はまるで地面を通して地球の反対側を眺めているかのように虚ろだ。
「ただし、全てが愉快犯的な動機なのかと言えばそうでもない。
この犯人、確かに一億円を奪い取るつもりはなかったかも知れない。
ところが別のモノはしっかりと奪って行った」
「200万円!」
「そういうこと。
犯人の狙いは絵に描いた餅の一億円なんかじゃない。
最初から、シルバーの金庫の中で
現実に存在している200万円が彼らのもう一つの目的だったんだ」
この犯人、確かに一億円を奪い取るつもりはなかったかも知れない。
ところが別のモノはしっかりと奪って行った」
「200万円!」
「そういうこと。
犯人の狙いは絵に描いた餅の一億円なんかじゃない。
最初から、シルバーの金庫の中で
現実に存在している200万円が彼らのもう一つの目的だったんだ」
ところどころで頷きながら乙下の推理を聞いていた空気は、
そこで首の動きを前に倒すのではなく、横に傾げる方向に変えた。
そこで首の動きを前に倒すのではなく、横に傾げる方向に変えた。
「……彼『ら』?」
「まぁ、これはあくまで俺の想像でしかないんで
参考程度に聞いて欲しいんだけどさ」
「まぁ、これはあくまで俺の想像でしかないんで
参考程度に聞いて欲しいんだけどさ」
乙下は長い説明に備えて唾を飲み込もうとしたが、
乾いた喉にあっては口の奥の筋肉が上下に蠕動しただけであった。
声が出しにくいのを辛抱し、乙下は一つ咳払いをしてから語り始める。
乾いた喉にあっては口の奥の筋肉が上下に蠕動しただけであった。
声が出しにくいのを辛抱し、乙下は一つ咳払いをしてから語り始める。
| 373 :トップランカー殺人事件(97) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 01:45:47 ID:bV1yRrD+0 |
「まずはどうして俺が犯人を中高生だと推定したのか、って話からな。
さっき言った通り、犯人はわざと稚拙な言葉を使って挑発的に一億円の要求を迫った。
この時点でヤツの精神年齢の低さが自ずと見えてくる。
だが、犯人の口調にはもう一つ見逃せない特長があるんだよ。
分かるか?」
さっき言った通り、犯人はわざと稚拙な言葉を使って挑発的に一億円の要求を迫った。
この時点でヤツの精神年齢の低さが自ずと見えてくる。
だが、犯人の口調にはもう一つ見逃せない特長があるんだよ。
分かるか?」
さっぱり分かんないっす、と、空気はいつものように
敬意の欠片も感じられない若者流の敬語表現を使う。
敬意の欠片も感じられない若者流の敬語表現を使う。
「それを言うなら『分からないです』だろうが。
何度言ったらお前はまともな敬語を使うようになるんだよ、このバカ」
「申し訳ないっす……じゃなかった、申し訳ありませんでした」
「こりゃ一生直んねぇな。
お前、少しこの犯人を見習った方がいいんじゃないの」
何度言ったらお前はまともな敬語を使うようになるんだよ、このバカ」
「申し訳ないっす……じゃなかった、申し訳ありませんでした」
「こりゃ一生直んねぇな。
お前、少しこの犯人を見習った方がいいんじゃないの」
空気は口に手を当て、そのまま一拍だけ置いてから言った。
「もしかして、犯人の特長ってそれのことっすか?」
「よく気付いた。
ヤツの口調は終始『過剰なまでに丁寧な敬語』、これを忘れちゃならない」
「よく気付いた。
ヤツの口調は終始『過剰なまでに丁寧な敬語』、これを忘れちゃならない」
これも店長との長い事情聴取の中で得た情報だった。
例外の無いですます調。
尊敬語と謙譲語の正しい使い分け。
客商売を長く続けてきた店長が耳にした限り、
ほぼ完璧な敬語表現を使いこなしていたというのだ。
例外の無いですます調。
尊敬語と謙譲語の正しい使い分け。
客商売を長く続けてきた店長が耳にした限り、
ほぼ完璧な敬語表現を使いこなしていたというのだ。
つまり、「生ゴミ」や「う○こ」等の
実に汚らしい表現を好む一方で、妙に紳士的な文末。
この異様なギャップをどう捉えるかだ。
実に汚らしい表現を好む一方で、妙に紳士的な文末。
この異様なギャップをどう捉えるかだ。
「なんかさ、この犯人って反抗期のガキが
思い切りバカになりきるのを楽しみながらも
懸命に背伸びして大人ぶってるような、
そんなちぐはぐな印象を受けない?」
「……あ、それって」
思い切りバカになりきるのを楽しみながらも
懸命に背伸びして大人ぶってるような、
そんなちぐはぐな印象を受けない?」
「……あ、それって」
空気は指をパチッと鳴らした。
「それ、いわゆる『中二病』っすよ」
| 374 :トップランカー殺人事件(98) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 01:53:11 ID:bV1yRrD+0 |
「中二病?」
「ネットでは今オトゲ先輩が言ったような雰囲気の人に
『中二病』ってレッテルを貼って貶める風潮があるんすよ」
「へぇー」
「ネットでは今オトゲ先輩が言ったような雰囲気の人に
『中二病』ってレッテルを貼って貶める風潮があるんすよ」
「へぇー」
乙下は中二病なるスラングを初めて知ったが、
説明されずともその言葉が纏うニュアンスはそこはかとなく窺い知ることが出来た。
何せ乙下自身が「中高生らしい」と判断した性質に、
ご丁寧にも「中二病」という名前が付いていたのだ。
概念に名前があることを知ったというただそれだけで
世の中が味方をしてくれているような、
そんな錯覚に身を預けてしまいそうになるのを堪え、
乙下は推理の続きに戻る。
説明されずともその言葉が纏うニュアンスはそこはかとなく窺い知ることが出来た。
何せ乙下自身が「中高生らしい」と判断した性質に、
ご丁寧にも「中二病」という名前が付いていたのだ。
概念に名前があることを知ったというただそれだけで
世の中が味方をしてくれているような、
そんな錯覚に身を預けてしまいそうになるのを堪え、
乙下は推理の続きに戻る。
「とにかく、こいつすごく中高生っぽいんだよね。
幼稚で汚らしい表現とは言え、小学生のように単純ではない。
『社会のガン細胞』にしろ『う○こ製造マシーン』にしろ、
きちんと俗世への皮肉で一捻りしてあるっていうのかな。
ある意味では、なかなかウィットに富んだブラックジョークともとれる。
そこへ丁寧な敬語表現をミックスすることで、
より馬鹿馬鹿しい犯人像をキャラクタ的に仕立て上げている。
この辺も小学生の犯行にしてはかなり高度だ。
かと言って、逆に18歳以上の大学生や社会人の犯行って線で考え出すと今ひとつしっくりこない。
やはり全体的に隠しきれない背伸び感みたいなのが滲み出てるし、
何より大人の考えたことにしてはイタズラっぽ過ぎるよ」
「イタズラ、っすか……」
幼稚で汚らしい表現とは言え、小学生のように単純ではない。
『社会のガン細胞』にしろ『う○こ製造マシーン』にしろ、
きちんと俗世への皮肉で一捻りしてあるっていうのかな。
ある意味では、なかなかウィットに富んだブラックジョークともとれる。
そこへ丁寧な敬語表現をミックスすることで、
より馬鹿馬鹿しい犯人像をキャラクタ的に仕立て上げている。
この辺も小学生の犯行にしてはかなり高度だ。
かと言って、逆に18歳以上の大学生や社会人の犯行って線で考え出すと今ひとつしっくりこない。
やはり全体的に隠しきれない背伸び感みたいなのが滲み出てるし、
何より大人の考えたことにしてはイタズラっぽ過ぎるよ」
「イタズラ、っすか……」
そう、これはイタズラなのだ。
思春期の自意識過剰な少年達が寄り集まってふざけ合いながらイタズラをしでかしている、
そういった光景が乙下の脳裏に描かれた。
思春期の自意識過剰な少年達が寄り集まってふざけ合いながらイタズラをしでかしている、
そういった光景が乙下の脳裏に描かれた。
「だからさ、どっかの捻くれたガキが一人で黙々と犯行に挑んだってよりは、
複数のアホなガキ共が揃って万引きするようなイメージっつーか。
赤信号みんなで渡れば、みたいなそんなノリじゃない?これ」
「うんうん、段々そんな気がしてきたっす」
「そう考えれば金庫の200万円が狙いっていうスケールの小ささも、
中高生の犯行ゆえってことで筋が通る」
複数のアホなガキ共が揃って万引きするようなイメージっつーか。
赤信号みんなで渡れば、みたいなそんなノリじゃない?これ」
「うんうん、段々そんな気がしてきたっす」
「そう考えれば金庫の200万円が狙いっていうスケールの小ささも、
中高生の犯行ゆえってことで筋が通る」
今にして思えば、金庫の中身を全額奪わずに50万円だけ残したのは、
子供達が持っていた最後の良心だったのかも知れない。
乙下がそう思い至ったところで、隣の空気が大きく息を吸い込んだ。
子供達が持っていた最後の良心だったのかも知れない。
乙下がそう思い至ったところで、隣の空気が大きく息を吸い込んだ。
「さーっすがオトゲ先輩!
そこまで真相が分かっちゃうなんて、マジで神過ぎっす!」
そこまで真相が分かっちゃうなんて、マジで神過ぎっす!」
空気は1046の神業プレイを目の当たりにした時と同じ恍惚の表情で、
惜しみのない賞賛を送ってきた。
乙下は少し居心地が悪い。
惜しみのない賞賛を送ってきた。
乙下は少し居心地が悪い。
「いや、あのさ。
これはあくまでプロファイリングだから。
要するに全部俺の想像なわけよ。
プロファイリングなんて聞こえはいいけど、
これがまた当てにならないんだって」
これはあくまでプロファイリングだから。
要するに全部俺の想像なわけよ。
プロファイリングなんて聞こえはいいけど、
これがまた当てにならないんだって」
| 375 :トップランカー殺人事件(99) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 02:02:01 ID:bV1yRrD+0 |
「んー、それもそうっすね。
やっぱり中高生が犯人だなんて無理がありますもん」
やっぱり中高生が犯人だなんて無理がありますもん」
空気はあっさりと態度を翻した。
こうなるとまた別の居心地の悪さがある。
そんな微妙な心境の乙下を気遣う様子もなく、空気は空気なりの意見を述べた。
こうなるとまた別の居心地の悪さがある。
そんな微妙な心境の乙下を気遣う様子もなく、空気は空気なりの意見を述べた。
「今の話、アイデアとしては面白いんですけど、
BOLCEが殺されたことについては全く触れられてないじゃないっすか」
「……だよね」
BOLCEが殺されたことについては全く触れられてないじゃないっすか」
「……だよね」
非常に痛いところだ。
乙下の新しい推理は、肝心要であるはずの
「BOLCE殺害」という要素がすっぽりと抜け落ちていた。
乙下の新しい推理は、肝心要であるはずの
「BOLCE殺害」という要素がすっぽりと抜け落ちていた。
「オトゲ先輩の言うように
脅迫事件と窃盗事件が中高生のイタズラの延長だったとして、
さすがに殺人事件は洒落じゃ済まないっすよね?」
「うーん、例えばだけど、彼らも最初はBOLCEを殺すつもりじゃ無かった。
けど、不慮のいきさつでBOLCEに犯行現場を目撃されてしまい、
勢い余って殺してしまった……とか?」
脅迫事件と窃盗事件が中高生のイタズラの延長だったとして、
さすがに殺人事件は洒落じゃ済まないっすよね?」
「うーん、例えばだけど、彼らも最初はBOLCEを殺すつもりじゃ無かった。
けど、不慮のいきさつでBOLCEに犯行現場を目撃されてしまい、
勢い余って殺してしまった……とか?」
自信の無さから、乙下は語尾の音量を段々と小さくしていった。
それもこれも、思わず口をついて出たのが
当初の乙下の推理と矛盾するものだったのだから無理もない。
それもこれも、思わず口をついて出たのが
当初の乙下の推理と矛盾するものだったのだから無理もない。
犯人の目的はBOLCEの殺害。
どんな理由があるのかは分からないが、
店長への脅迫や200万円の窃盗は、BOLCEの殺害に付随する二次的な犯行。
当初乙下はそう確信しており、これは店長に対して自信を持って話した内容でもあった。
どんな理由があるのかは分からないが、
店長への脅迫や200万円の窃盗は、BOLCEの殺害に付随する二次的な犯行。
当初乙下はそう確信しており、これは店長に対して自信を持って話した内容でもあった。
ところが、たった今プロファイリングにより編み出された乙下の新しい推理では、
犯人の目的はまず店長への脅迫と200万円の窃盗がありきで、
BOLCEの殺害はこれに付随する二次的な犯行というシナリオだった。
譜面にミラーオプションをかけるがごとく、内容が完全に反転してしまっている。
犯人の目的はまず店長への脅迫と200万円の窃盗がありきで、
BOLCEの殺害はこれに付随する二次的な犯行というシナリオだった。
譜面にミラーオプションをかけるがごとく、内容が完全に反転してしまっている。
自分の一貫性の無さに目が眩みそうになる乙下へ、空気は追い打ちをかける。
「それじゃ、1046についてはどうなんすか?
1046は24歳っすよ。
別段精神年齢が低いようには見えませんし、
犯人が中高生であるって推理と1046犯人説は絶対に両立しないっす。
1046はやっぱりこの事件とは無関係だったってことっすか?」
「……」
1046は24歳っすよ。
別段精神年齢が低いようには見えませんし、
犯人が中高生であるって推理と1046犯人説は絶対に両立しないっす。
1046はやっぱりこの事件とは無関係だったってことっすか?」
「……」
乙下は言い返せない。
これまでの捜査結果を振り返るに、
1046がクロである可能性を一切排除したとしても、
彼が事件と無関係の人物だとはどうしても考えられなかった。
これまでの捜査結果を振り返るに、
1046がクロである可能性を一切排除したとしても、
彼が事件と無関係の人物だとはどうしても考えられなかった。
すると、犯人は中高生であり
なおかつ1046も何らかの形で事件に関与している、という話になるのだろうか?
なおかつ1046も何らかの形で事件に関与している、という話になるのだろうか?
| 376 :トップランカー殺人事件(100) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 02:13:56 ID:bV1yRrD+0 |
――キリがない。
乙下は足を止めた。
目を閉じて、そのままハンカチで額の汗を拭う。
胸のざわつきが収まらない。
目を閉じて、そのままハンカチで額の汗を拭う。
胸のざわつきが収まらない。
巨大な樹形図の迷路を当てもなく走り彷徨う。
「無限の可能性」というフレーズは
未来ある若者にとって希望そのものに違いないのだろうが、
困難な事件に相対する刑事にとっては絶望そのものだ。
それこそシラミ潰しをするように真実を追いかけても、
その影を踏むことさえ叶わない場合もある。
「無限の可能性」というフレーズは
未来ある若者にとって希望そのものに違いないのだろうが、
困難な事件に相対する刑事にとっては絶望そのものだ。
それこそシラミ潰しをするように真実を追いかけても、
その影を踏むことさえ叶わない場合もある。
やがて巨大な樹形図はその枝葉を伸ばし、乙下の手足を雁字搦めにする。
動けない。
動けない。
乙下は少し疲れていた。
いつの間にか、思考回路は推測と事実の狭間で
辻褄合わせをする作業だけに没頭していた。
まるでそれ以外の機能を忘れてしまったかのように。
そんな自分に疲れていたし、そうならざるを得ない現状に疲れていた。
辻褄合わせをする作業だけに没頭していた。
まるでそれ以外の機能を忘れてしまったかのように。
そんな自分に疲れていたし、そうならざるを得ない現状に疲れていた。
乙下は目を瞑ったままぼやく。
「あーぁ。やっぱ駄目かな、中高生犯人説」
「いや、駄目とは言わないっすけど……。
推理自体が的外れでも、意外とこれをきっかけに捜査が進んだりするかも知れませんよ」
「だといいけどさ。
まぁ、どっちにしろこの推理はお蔵入りにする」
「いや、駄目とは言わないっすけど……。
推理自体が的外れでも、意外とこれをきっかけに捜査が進んだりするかも知れませんよ」
「だといいけどさ。
まぁ、どっちにしろこの推理はお蔵入りにする」
乙下は捜査の妨げにならないよう、
推測で推測を塗り固めただけの疑わしいプロファイリング結果である
「中高生犯人説」を潔く破棄することに決めた。
推測で推測を塗り固めただけの疑わしいプロファイリング結果である
「中高生犯人説」を潔く破棄することに決めた。
でも本当にこれでいいのだろうか。
この推理が何か重要な真実を含んでいるような、そんな予感が乙下にまとわりつく。
しかし、乙下は勇気を出してその最後の引っ掛かりを断ち切るのだった。
この推理が何か重要な真実を含んでいるような、そんな予感が乙下にまとわりつく。
しかし、乙下は勇気を出してその最後の引っ掛かりを断ち切るのだった。
そうしてからゆっくり目を開けると、
立ち止まった乙下の前で、空気が優しげに目を細めていた。
立ち止まった乙下の前で、空気が優しげに目を細めていた。
| 377 :トップランカー殺人事件(101) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2008/11/25(火) 02:25:47 ID:bV1yRrD+0 |
「でも先輩。
結果的にはオトゲ先輩の狙い通りになったんだから、
これはこれで良かったじゃないですか」
「何がよ」
「ほら、元はと言えばオトゲ先輩が
『まっさらな視点で考え直そう』って言ったんじゃないっすか。
ある意味、その部分については成功ですよね」
「……そう言えばそうだな」
「この調子で新しい視点から推理していけば、
その内真相にぶつかるような気がしません?
ボクはそんな気がしますよ」
結果的にはオトゲ先輩の狙い通りになったんだから、
これはこれで良かったじゃないですか」
「何がよ」
「ほら、元はと言えばオトゲ先輩が
『まっさらな視点で考え直そう』って言ったんじゃないっすか。
ある意味、その部分については成功ですよね」
「……そう言えばそうだな」
「この調子で新しい視点から推理していけば、
その内真相にぶつかるような気がしません?
ボクはそんな気がしますよ」
何気無い部下の一言は、呆気ないほど簡単に乙下の胸のざわめきを晴らした。
今まで何を思い悩んでいたのか不思議になるくらいに、
空気の根拠無き自信が乙下の心へ溶け込んでいく。
今まで何を思い悩んでいたのか不思議になるくらいに、
空気の根拠無き自信が乙下の心へ溶け込んでいく。
「そう簡単にいくかよ、バーカ」
「ひっでぇ、ボクちょっと良いこと言った気がするんですけど!
そこは素直に感謝するとこだと思うんですけど!」
「ひっでぇ、ボクちょっと良いこと言った気がするんですけど!
そこは素直に感謝するとこだと思うんですけど!」
乙下は再び歩みを進め、立ち止まっている空気の横を抜き去った。
その瞬間、乙下は誰にも聞こえないよう注意して「サンキュ」とだけ呟いたのだが、
わざわざ小声にするまでもなく乙下の囁きは空気の素っ頓狂な大声に掻き消された。
その瞬間、乙下は誰にも聞こえないよう注意して「サンキュ」とだけ呟いたのだが、
わざわざ小声にするまでもなく乙下の囁きは空気の素っ頓狂な大声に掻き消された。
「オトゲ先輩!もし仮に。仮にですよ」
何事かと振り返ると、空気が怪訝そうな目つきで前方を真っ直ぐに見据えていた。
「もしオトゲ先輩の言うように、この事件の犯人が中高生だとしたら……」
「おいおい、その推理は封印したばかりだろ」
「いや、仮にですって。もし仮に犯人がそれくらいの年齢だとしたら」
「おいおい、その推理は封印したばかりだろ」
「いや、仮にですって。もし仮に犯人がそれくらいの年齢だとしたら」
空気はその表情を崩すことなく、顎を僅かに前へ突き出した。
「例えばあんな感じっすか?」
空気の顎で示された方向を見やると、そこは紛れもなく
事件現場となったアミューズメント・シルバーその場所であった。
入り口に「営業停止中」の張り紙が貼られたその建物は、
周囲の空間から取り残されてしまったかのように暗く佇んでいる。
事件現場となったアミューズメント・シルバーその場所であった。
入り口に「営業停止中」の張り紙が貼られたその建物は、
周囲の空間から取り残されてしまったかのように暗く佇んでいる。
そして、シルバーの前で屹然と立っている一人の少女。
暗い店内をじっと見つめたまま、ただただそこに立ち尽くしている。
その表情は、今のシルバーに勝らずとも劣らないほど暗く沈んだものに見えた。
その表情は、今のシルバーに勝らずとも劣らないほど暗く沈んだものに見えた。
「……あの娘、さっきからずっといるんです。
ボク、先輩に言われてABCとシルバーの間をチャリで何往復もしましたけど、
その間もずっとあそこにいたんです」
ボク、先輩に言われてABCとシルバーの間をチャリで何往復もしましたけど、
その間もずっとあそこにいたんです」