アットウィキロゴ
創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki

みんなのパーティー 第三章 -前編-

最終更新:

beatnovel

- view
管理者のみ編集可
347 :旅人:2008/11/15(土) 23:28:48 ID:UaM+b6q20
 二階から休憩スペースに向かうには一つのルートしかない。
ギャラリースペースと休憩スペースを繋ぐものが、一つのドアしかないからだ。
そのドアはガラス製で、特に何の細工(曇りガラスとか)もされていなかった。
よって、小暮は休憩スペースの中をある範囲でだが見る事が出来た。
 先程眠らせた敵から小さな拳銃とその弾、そして二つの手榴弾を奪っていた
小暮の装備は装弾数12の大型拳銃が一丁(だが、予備弾倉はない)、装弾数15の小型拳銃が一丁(これも予備弾倉はない)、
そして計5つの手榴弾であった。どれもこれも人を殺せるものばかりだが、
決して殺しだけはしたくないというのが小暮の心からの願いだった。

 先の敵を引きずった場所から、袋の中から双眼鏡を使って休憩スペースの中の様子を窺っていた小暮は、
腕に包帯を巻きつけていた男がいる事に気がついた。
筋肉質の男だった。確かドラマニとDDRをメインにやっている人だったはずだ。
彼にまきついていた、その包帯には血が染みていた。小暮はその男を見て、何とも言えない気持ちになった。

あなた、撃たれちゃったんですか。大人しく捕まっておけば……あれ?

 ここで小暮はある事に気がついた。銃声なんてしただろうか?
袋の中に入れておいた二挺の拳銃を見て、おかしいと小暮は思った。
 普通、銃は撃てばその銃口から火が噴いて銃弾が飛び出し、標的にダメージを与える。
そして引き金を引くと、当然のように物凄い爆音を立てるのだ。それが銃声と呼ばれるものである。
 小暮の道具、閃光拳銃は銃声がクラッカー音なので、銃声とは呼べない。
その後は思い思いの声ネタを収録した爆音装置と、閃光円盤より強い光を放つ装置のスイッチが作動して、
辺り一帯に爆音と閃光をまき散らす。それ以外に銃声のような音を聞いた覚えが小暮には全く無かったのだ。
 過大評価かもしれないが、銃声と言う物は相当響くものだと小暮は思っていた。
白壁が占拠されたのが、コンビニで中井刑事に事件解決を依頼されて、コーラと肉まんを頼んだ時なのだから
あの男が撃たれたのは早くてもその時あたりとなる。外に出ていた中井はそれを聞いたという話もしなかった。
それからずっと白壁の近く、そして白壁内にいた小暮が銃声を聞かないというのは変な話なのだ。

 そうだ、町田さんは?彼女は銃声を聞いたなんて言っただろうか?
小暮は記憶を辿って、町田が銃声を聞いたと言っていなかったと思い出した。
 ならば、奴らはサプレッサーとかいう物を銃につけているのだろうか?
そうなのだろうと小暮は考えた。いや、それしか考えられない。
今まで拘束した奴らの装備は決まって銃と手榴弾だった。刀とか針とか糸とかでは決してなかった。
その事から、奴らは銃声を消音又は小さくしている事が考えられた。
 だが、小暮はここで決定的におかしな事に気がついた。
何が変なのか、小暮はそれを確かめるためにもう一度、双眼鏡で休憩スペースの中を覗いた…


 小暮との通話を終えた田中は、それから一分も経たないうちに携帯電話を手にした。
小暮からの写真が添付されているメールを受信したことを確認した田中はそれを閲覧する。
二挺の拳銃の画像だった。様々なアングルで写真が撮られていて、田中の頭の中でどういう拳銃の形を
しているのかが三次元で再現し易かった。本文は「何か変なところはありませんか?」というものだった。
田中は「中井~!」と呼んだのだが、彼が「迎えの人」を捜索している事を思い出した。
それで、近くの警官と相談することにした。
田中は何かを決めたり調べる時、決して自分一人ではやらない人間だったのだ。
それが、これまでの彼の活躍に結びついている。
数十秒後、田中の携帯電話を借りていた警官が「これ、今まで見たことのない銃ですよ」と言った。

348 :旅人:2008/11/15(土) 23:33:18 ID:UaM+b6q20
「今までに見た事がない?どういう事だ」
「実は私、ガンマニアでして。結構銃器には詳しいと自負しています。
 今まで色んなメーカーの拳銃を見ましたが、これは初めて見るものですよ」
「何か、変なものはないか?小暮探偵がそう聞いてきているんだよ」
「……中に何か細工していますね。いや、パッと見ですよ。
 威力を上げるための加工をしているのか、
 サプレッサーのような物を内蔵しているんでしょうと思うのですが…いや、パッと見です。
 現物があれば、分かると思うんですけどね。写真だけじゃこのくらいのコメントしか
 あ、待って下さい。消音がサプレッサーとかがなくても、
 初めから消音機能が出来る『消音拳銃』という種類の拳銃はありますが…
 この写真の拳銃、これはそのうちのどれでもないんです。全く、初めて見る拳銃ですよ
 ……あまり役に立てなくて、スミマセン」
「いや、いい。ありがとう。少ない情報でも探偵にとっては大きな助けになるはずだ」

ありがとうな、と田中はもう一度自称ガンマニアの警官に言って、田中は小暮にメールを送った。

「小暮探偵、自称ガンマニアの警官
 によればその拳銃、中に何か細工
 をしているらしいそうだ。それに
 その警官曰く、全く初めて見る消
 音機能付き拳銃かもしれないらし
 い。
 これでオーケイか?それじゃあ無
 事を祈っている。      」



 小暮は田中からのメールを受信し、その本文を見た。
そして、双眼鏡で休憩スペースの巡回をしている敵の手に握られている拳銃を凝視した。
 ……そう言う事だったのか。
全く初めて見る消音機能付き拳銃。
小暮にとってそれはあまり関心のない、どうでもいい事であったのだが…(どうでも良くはないが)
それで、銃声がなかった事と何かがおかしいという事の正体に気がついた。
サプレッサーやサイレンサーは、銃身に取り付けるタイプのものであると小暮は考えていた。
世界のそれらには、その小暮の常識は通用しないのかもしれないが、
ガラス越しに見た休憩スペースの見張りの敵達は、明らかにそれだと分かる物を銃身につけていなかったのである。
それが、小暮が感じた違和感の正体だった。
 そして小暮は、彼らの正体が何となく分かったような気がしたのだ。
 彼らは、裏の世界の住人という事だ。恐らくは殺し屋か何か。
だとすると、奥田夫人が死んでしまったのも何となく合点がいきそうな気がする。小暮はそう考えた。
 だが、何故彼らは奥田夫人を殺害したのか?
中井からのメールでは、支店長が書き残した手紙によると「犯行グループは夫人を殺害していない」
という事らしいが、そんな事信用できるか?支店長の言葉を鵜呑みにしてはいけないんじゃないのか…?


          …………そうか。そういう事か!


 小暮は思わず大声を出すところだった。何て事だ。もしかしたら、この推理が当たったとしたら。
そうだ、そう言う事かもしれない。あの人は………もしかしたら………
突然思いついた推理を、小暮は中井に電話して伝えようとして電話をかけた。
そして、中井は一旦車を道の脇にでも停めたのだろう、ちょっと待ってろと残して
少しの間が空き、で、どうしたよと小暮に訊いた。

349 :旅人:2008/11/15(土) 23:38:52 ID:UaM+b6q20
「中井刑事、今どこにいるんですか?」
「今?緑公園ってとこだ」
「そこから奥田邸は近いですか?」
「う~ん、遠くはないな。二キロ位の距離だと思う」
「じゃ、奥田邸に行ってください。もしかしたら、
 そこに『迎えの人』がいるかもしれないんです」
「分かった。これ、田中には伝えたのか?」
「いいえ。中井刑事から伝えておいてください。
 これから僕が、奴らを痛めつけます。その時に奴らは迎えの人に救出されます。
 でも、中井刑事がそれを封じているため、奴らは逃げ出せないという事です
 あ、そうそう。中井刑事が迎えの手段を封じた事を確認してから僕は行動します。
 携帯電話か何かで知らせてください」

オーケイ、と中井は返し、そして言った。

「で、探偵さんの推理、聞かせてくれないか?」
「はい。まだ数分は時間はありますから。お話ししましょう。
 …昨日僕は奥田邸に行って、奥田夫人の死体を目撃しました。
 その死体の観察をしていた所をメイドさんに見つかり、捕まって今に至る…というのが今の状況ですよね。
 話は飛びますが、率直に言うと、僕は支店長が書き残した見えない手紙の内容を信じていません。
 犯行グループの一味であった以上、疑いがかかるのは仕方がないんです。
 だから、犯行グループのうちの誰かが奥田夫人を殺したと思います。
 そして、支店長は白壁に行っているはずがないんです」
「どうしてそう言い切れる?」
「支店長がステルス迷彩のような物を持っていれば話は別ですよ。
 ……犯行グループは白壁の全ての場所を調べ尽くした。
 その証拠に監視カメラの大半が使えなくなっているんです。 
 中には見つからなかったのか、使えるものもありましたが」
「つまり探偵が言いたいのはこういう事か。
『殆どの監視カメラを壊しまわっているくらいなのだから 支店長が見つからない訳がない。
 それに、ゲーセンという閉鎖的空間な訳だから、見つからないのであればそこに居ないと考えるのが妥当だ』という事か?」
「はい。そして、支店長こそが『迎えの人』ではないかと思っています。
 そして、迎えの道具は奥田邸に忍ばせているはずです。
 奥田夫人が殺されたの理由は…支店長、もしくは犯行グループの誰かが奥田邸に侵入して、
 その道具を隠している時に奥田夫人に見つかり、口封じの為に殺されてしまったと僕は推理します。
 道具の隠し場所に奥田邸を選んだのは、あそこが広いからだと思います。
 TVの企画ものとかでも、豪邸で宝探し、かくれんぼとかあるじゃないですか。それですよ」
「そうか。まぁ俺達もハナっから支店長の手紙を信じていたわけじゃねぇけど。
 探偵さん程の考えまではいかなかった。ありがとな。今から奥田邸に行ってくる」
「気をつけてください。支店長も馬鹿ではないはずです。
 自衛の手段をいくらでも取ってくるかもしれません」
「分かった分かった。簡単に殺されるほど俺はヤワじゃねぇ。それじゃあな」

350 :旅人:2008/11/15(土) 23:43:43 ID:UaM+b6q20
 数分後。中井刑事は奥田邸の前に立っていた。
現場検証を担当する者たちの内の一人の若い男が中井に「どうしたのですか」と聞いてきた。
それは「何で白壁に居ないんですか」という意味も孕んでいた。
忘れものをしてな、取りに来たんだ。そう中井は返して奥田邸の中へ進んでいった。
 玄関からシャンデリアか…そう中井は思いながら二階へと上がっていく。
階段が軋まない。畜生、羨ましい。俺の家は階段がギィギィ軋むんだ。リフォームするったら高いしよ…はぁ……
何だって富豪の家って奴は…広いんだ?かくれんぼには最適だが、これは最悪だ。
そんな事を思いながら中井は「迎えの人」の疑いが最も強い○×銀行支店長の姿がないか、慎重に調べていった。
だが、どの部屋を開けて中を見ても、どこを開けて見ても支店長はいなかった。
……どこに居るんだ?悩みだした中井の頭に、何か諺のようなものが浮かび上がった。


          「 犯 人 は 現 場 に 二 度 現 れ る」


確かそんなような言葉だった。人間心理学がどうとかという奴らに言わせると、
放火や殺人を犯して逃走した犯人は、それが成功したかを確かめに来るために
野次馬に紛れて自分が成した事を確認するのだという。そのまま逃げれば捕まらないだろうに………
 …だが、それだ。奥田夫人を殺した奴が誰かは分からない。支店長が殺したとは限らない。
だが、奥田夫人の部屋にヒントのような物があるんじゃないのだろうか?
そこまで考えた中井は、一瞬、視界のなかに瑞光を見た。奥田夫人の部屋から、それは放たれていた……ように見えた。




 小暮は休憩スペースを巡回している敵にも人質にも見つからないように
ギャラリースペースと休憩スペースを繋ぐドアの前に到達、すぐさま右に九十度曲がってからしゃがみ込んだ。
白壁は二階の壁全体がガラス張りだが、休憩スペースと面している所だけは白い壁になっている。
小暮は自分が白壁に潜入する前、マンホールの蓋を開けて白壁に到達した時に見た休憩スペースの様子を思い出していた。
休憩スペースは、壁が白壁と面している所以外は透明なガラス張りだった。
そこから人質の配置も分かったし敵がどんな武装をしているかも分かった。
ただ一つ分からなかったのは巡回ルートのみであった。休憩スペースの監視カメラは全て破壊されていたからだった。
 小暮はギャラリースペースの壁がガラスの壁になる二歩手前まで歩いて、それからそこで座り込んだ。
袋の中に両手を突っ込み、右手に取りだしたものは屋上の敵から奪った大型拳銃。
田中からの情報によると、それは消音拳銃らしいのだが、そのような銃は初めて確認されたという怪しげな代物だ。
左手に取りだしたのは二個の手榴弾だった。それからもう一度袋の中に手を突っ込んで、
今度は両面テープを取り出した。小暮は少しの間目を閉じ、目を開けてから作業に取り掛かった。

351 :旅人:2008/11/15(土) 23:49:51 ID:UaM+b6q20
 その頃、中井は奥田夫人の部屋にいた。そこに居た現場検証をしている人達に
何か変なものがあるか、誰か不審な人物がいなかったか等を聞き込んだが
何も手掛かりとなる情報は得られなかった。
 中井が畜生と悪態をつきながらある物を見た。
白壁占拠事件を生中継しているTV番組が、この部屋の薄型TVで流れていた。
中継ヘリから送られる画面はあまり白壁にズームしていなかったので、中の様子が鮮明ではなかった。
屋上に数人の人が倒れていて、起きているようだったが、体を縛られていて
まるで採れたてのエビのような動きを見せていた。
 ヘリに乗っているレポーターが何かを言っていたが、中井にはそれが聞こえなかった。
白壁上空を周回するように動くヘリから送られる映像を見て、ある物を見つけたので。

……そして、それが、そのある物こそが………


「これが……迎えの道具………」だったので。


そう呟いて、中井は静かに奥田夫人の部屋を出た。
彼はもう、行き先を決めていた。目指すは……



 同時刻。奥田邸の屋上。
そこに一人の男がいた。服装はスーツの上にコートという、この寒い時期に合わせての物だった。
彼の右手にはリモコンらしき端末が握られていて、男はそのボタンを押した。
ウィイイイィィィィィと機械の駆動音がして、屋上の床に変化が表れ始めた。



 上から響く機械の駆動音はいつしか止んでいた。
早くしなければ。早くしなければならない。この足を止めてはならない。
階段を駆ける中井は、息をゼェゼェとしながら奥田邸の屋上へ続く階段を駆け上がっていた。
 中井刑事は奥田邸の屋上へ階段を使って上がっていた。
彼の視界には、前々から怪しいと思っていた人物がいた。
…銀行でその人物の写真を見た。やはり、アンタだったんだな……
 そして、中井の視界の左よりの所に黒い大きな金属製の物体があった。
どこかで見たかと思えば、これ、ヘリコプターかよ。
ところでこりゃあ、力づくで決めるのか?見たところ機関銃もミサイルも取り付けてねぇみたいだけどな…

356 :旅人:2008/11/24(月) 01:10:44 ID:YoHxel6O0
 中井が物音をたてたからか、屋上にヘリと立つ人物が中井の方を向いた。
彼の着こんでいるコートが、吹き込む風で少し靡いていた。
眼鏡をかけたインテリ風な男。ビジネスマンってルックスだな。中井はそう思った。
 その男は、自ら自己紹介した。自分の置かれている立場を理解していない様子で。

「あぁ、見つかっちゃいましたね。私、○×銀行の支店長を務めております、加藤です」
「知ってる。大人しく捕まってくれ」
「そうはいかないんですよ。私はこれから彼らを迎えに行かなきゃいけない」

このヘリでね、と続けて加藤支店長が言った。
そして加藤がヘリに向けて右足を一歩踏み出したその時、ジャキッと音が屋上に響いた。

「動くな。次に左足を動かしたら死なない程度に数発鉛玉をぶち込むぞ」

中井が脅しをかけるように銃を構えた。この時、彼の脳内で再生されていたのは「poodle」だった。
緊張が彼の頭をおかしくしたのだろうか。全く場の雰囲気にマッチしていない選曲だ。
加藤は頭のおかしくなった中井の質問に答える。その顔に怯えはなかった。

「じゃ、右足で擦って動けば撃たれないんですか?」
「それでも撃つ。とにかく動くな。両手を上げてそれから床に伏せろ」
「……そうするとどうなりますか?」
「俺がお前に近づいて手錠をかける。それから脱出手段を封じたと連絡して、お前らは終わりだ」
「……大桟幕橋爆破未遂事件の、あの彼に協力を頼んだのですか。
 全く、警察というのは無能なものですね。撃つ気もないのに物騒なものをただぶら下げていて…」
「その、無能な奴らの一味にお前は命の危険を晒している。デカイ口叩いてないで言われた通りにしろ」

撃てるんですか?と、加藤が中井に言った。日本の警察というのは一発銃を撃っただけでも色々と面倒になる。
犯人を自己防衛のためと言って殺してしまったとしても、後ろ指を指される。
中井も加藤も、そんな事は分かり切っていた。だから加藤は、中井が自分を撃てるわけがない、
もし威嚇射撃で外して撃ったとしても、そうする事が後の多大な面倒を生じさせる事が分かっているのだから
絶対に自分を撃てるわけがない。余裕だ。命の心配をすることなんて全然ない。
 そんな事を0.5秒程度で考えた加藤だったが、次の瞬間、前方15,6メートル程先に居る銃を構えた男が
両手に握る古めかしい銃の銃口が火を噴いたのを見て目を疑った。
 中井はトリガーを引き絞ったのだ。IIDXの筐体が響かせる爆音なんて目じゃねぇと銃が語った、と中井は思った。
そう、その瞬間に走馬灯やthe trigger of innocenceの銃声の音量を遥かに上回る銃声が屋上に盛大に響き渡ったのだ。

「俺は本気だ。何ならお前の脳味噌をそこにぶちまけちまっても構わねぇんだ。掃除するのは俺じゃないからな」

357 :旅人:2008/11/24(月) 01:13:46 ID:YoHxel6O0
銃声に驚いたのか、それとも中井の持つ銃の威力を感じさせる銃声に驚いたのか、
はたまた中井が発砲したという事実に自分のアテが外れた事にショックを受けたのか、
加藤の表情が言葉で言い表せないものになっていた。
言うならば、負の感情が加藤の表情に宿り始めていた…と表現できる。
いや、それでも表わしきれない。そんな加瀬の口が素早く動く。

「ここで貴様のような奴に捕まる訳にはいかないんだ!
 私は多額の借金を抱えている、奴の誘いに乗るしかなかった!」
「それが理由になるとでも?」
「うああぁぁああ!捕まえようってんなら殺してやるぞ!人一人殺したくらいで何になる!」

 加藤が腰のあたりに右手をあてた。
彼はそこから何かを取り出そうとしているらしいと中井が勘づいた時、
加藤が右手にバタフライナイフを持っていた。昔、何かのニュースで見たような気がすると中井はそれを見て思った。

「ちっ、武器を持ってやがったか」

中井が吐き捨てるように言って、加藤が器用にナイフを回転させてブレード部分を出して構えたのも同時だった。
加藤は普通に持ったナイフできいぇえあぁぁー!と声を荒げながら中井に突っ込んできた。
中井は右に転がり、加藤の突進を避けた。それから加藤が突っ込んだ方へ拳銃を構えた。

   ―撃つ。出来れば手足を撃つ。もっと出来ればあのナイフを撃ち飛ばす―

 バキュゥウン!と一つの銃声。中井は一発加藤に向けて撃った。
すぐにキーン!と金属音が気持良く響き渡り、間を開けてナイフが床に落ちる音が屋上に響いた。
 加藤は呆然と自分の右手を見つめていた。先程まで自分の持っていたナイフが銃弾で吹き飛ばされ、
床にカシャッと落ちたのを確認しようとしているらしかった。
 その隙を中井は逃さなかった。手錠を取り出しながら加藤を床に押さえつけ、
そして両手首に手錠をかけた。それから、早く誰か来い!と叫びながら携帯電話を取りだした。

 …加藤の嘆きと絶望に満ちた叫び声が、奥田邸屋上に響き渡っていた。







 小暮は両面テープと手榴弾を使った作業を終えていた。
二階のギャラリースペースと休憩スペースを隔てる白い壁に、一個の手榴弾が張り付けられていた。
その壁の向こう側の近くに人質はいないはずだ…と小暮は踏んでいた。後は中井刑事からの連絡を待つのみ。
町田との通話は、彼女にこの作戦の事を伝えてから切っておいてある。
マナーモードにしてある携帯電話が震え出したら、小暮がその電話に出て、彼の作戦が開始される合図となっていた。

358 :旅人:2008/11/24(月) 01:15:28 ID:YoHxel6O0
 携帯電話が震えた。直ぐに小暮はその電話に出る。
携帯電話の表示が小暮の思っていた人物であることを表していた。

「中井刑事?」
「ああ。いま、迎えの手段を封じた。
 奥田邸の屋上にヘリが隠されていた。それを、支店長が動かそうとしていた」
「分かりました。それでは、こちらも動くとします」

言って、小暮は通話を切ってから休憩スペースへと繋がる扉の前まで移動した。
それから、右手に消音拳銃を持って片手で構えた。
…狙いは、手榴弾を張り付けてある壁だった。







「じゃあ、ここで一旦休憩にしましょうか。あと少しでこの話は終わりますけどね」

小暮はそこまで話して休憩を提案した。談話室にいるメンバー全員がそれに同意して
緊張感からの解放からかふーっと息をついた。
 松木が屋敷の使用人に頼んで、人数分のお茶を内線電話で持ってこさせるように指示し、それから続けて言う。

「皆さん、ちょっといいですか?」

どうした、と坂野が聞いて、松木は談話室のTVの方へ歩き出した。
それからテレビを乗せている台の傍らでしゃがみ込み、
テレビ台の中に仕舞ってあるDVDプレーヤーに一枚のDVDを再生させ、そしてTVの電源を入れる。
 松木がTVのリモコンで色々操作をしていくと、DVDプレーヤーが出力する映像がTVモニターに流れた。
それは12月17日水曜日に起きた、先程まで町田と小暮が喋っていた白壁襲撃事件を特集している
ワイドショーか何かの番組の生中継を録画した映像だった。事件の初期の方から映像は流れていた。
(小暮が屋上から白壁に侵入し終わった頃から生中継されていたようで、
 屋上には二人の武装した人間が寝ていながら暴れているのが見えた)
外に響く声ネタの数々、警察の動き等は二人の話の通りに進んでいっていた。
 そうそう、さっき話した場面はここなんですよと小暮が解説を入れていた時、談話室の扉が開いた。
白い髭を生やした黒スーツを着た執事風の老人が、湯気の立っている紅茶を乗せた手押しワゴンを室内に入れる。
松木は「石坂さん、ありがとう」と言って、石坂と呼ばれた老人は一礼してから談話室を去った。
 それから一分もしない内にドオオオォォンとTVから爆発音が響き、数分経つと白壁の屋上に二人の人影が追加された。
拳銃を構える白壁の制服を着た男と、黒コートを羽織った一種の異様な雰囲気を放つ男である。
 松木は、小暮の表情の変化をそこで読み取った。
あまりいい表情ではない。辛い思い出が、あの時白壁の屋上で小暮に深く刻まれたのだと松木は悟った。

359 :旅人:2008/11/24(月) 01:18:20 ID:YoHxel6O0
 不意に、暗い表情をした小暮が松木に向けて言った。

「何だ、この番組見ていたんじゃないんですか。だったら、事件のオチも分かってますよね?」
「いいえ。僕はこの事件の映像を見るのは初めてです。
 その時は仕事でした。ちょっと遠方に依頼があったので……ですが………」

松木が答えてから数秒後、耳をつんざく爆発音が聞こえて映像は暗闇にノイズを流すのみとなった。
五人は耳をふさぎ、驚きの表情でモニターを見つめる。
映像はスタジオを映し、キャスターの女性が中継のアナウンサーに向けて「中野さん?中野さん!?」
と大声を張り上げるのが流れていた。
 松木がDVDプレーヤーのリモコンを手に取って停止ボタンを押し、それから小暮に言う。

「ここまでは僕はリアルタイムで見ていませんでしたけど、夜のニュースで繰り返しこの映像が流れていたのを
 覚えています。多分、ゆうさんも加瀬さんも。でも、これたぶん小暮さんと…この事件の実行犯ですよね?
 これからどうなったかが殆どの人が知らない。2chを見ても、中継が途絶えた後の事は何も分からない。
 現場に居た野次馬を名乗る人々の書き込みを見ても、いきなり白壁が消えて、数分後にまた現れたとあるだけです。
 もっと言うと…そこに居たすべての人が、白壁が黒い壁のような何かに覆われて見えなくなった。
 口裏を合わせたかのように同じような書き込みが複数確認されています。コピペでもしたかのように。
 …これって一体、どーゆー事なんでしょうかね?小暮さん?」

町田の名は、映像の中で確認できなかったために口に出さなかった松木は、小暮に話の続きを急かす。
嫌な記憶を掘り起こそうとした小暮は、町田の一言でそれを躊躇った。

「いや、黙秘権っていうのは無いの?だって、あれは結構酷い話だとおも…」
「はい。ないと思って下さい。言ってみれば…
 修学旅行とかで宿泊先の部屋で『誰と誰がつきあっている』とかそういう話題って
 黙秘権なんかないですよね?強引に喋らされていますよね?
 勝手で悪いとは思っていますが、知的好奇心の悪戯です。すみませんが、教えてくれると嬉しいです」

この回答に町田は絶句した表情を見せた。松木に対するイメージがぶっ壊れたのだろうか。
その隣で、小暮は観念したかのように一言、ボソッと呟いた。

「…カー」

松木は、え?と返してもう一度その言葉を、その続きの言葉を待った。数秒間後、小暮が語り出す。

「…ジョーカー。奴が、NO.9って奴を殺したんです。
 あの場に居た全てのテレビ局のヘリを壊したのも、奴でした。
 奴らは秘密犯罪組織のようなものだったと思います。トランプの数字、それがメンバーにつけられていました。
 階級は『大富豪』で普通に強い数字の順番が…つまり3が一番下っ端でジョーカーが頂点に立つらしいです。
 NO.9って奴がそう言っていました。ハッキリとは言っていませんが。…上手く僕の口からでは説明できないけど……」

そう言ってから、小暮は話の時間軸をずらしてから話を再開させた。
小暮の口調が少し変わった、と松木は感じた。あの日、そこで刻まれた記憶はそれほどまでに凄まじかったのだろう。

 事件の核心の少し前について語り始める前に小暮はこう言った。


               「最後の壁はあまりにも無邪気に、僕を押し潰しました………」





コメント

名前:
コメント:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー