以前、天王山に長い髪の幽霊が出るという噂を聞き、秀吉と肝試しに出かけた。
だが、行けども行けども奇妙な笑い声が響くだけで、真っ暗な山道が続くばかり。
そろそろ帰ろうぜ―――そう言いかけた矢先。
ぽつり。不穏な気配に後ろを振り返ると鬼火がぽっと灯った。
出やがった、と秀吉を呼ぼうとした瞬間、周囲全てに鬼火が広がり、たちまちのうちに囲まれ秀吉とふたり、後ろも見ず転げ落ちるようにして山を駆け下りたのであった。
ふもとには半兵衛がいた。鬼火が、と蒼白になって説明する慶次と秀吉に
「僕の家の者だけど」
白い髪をくるくる弄びながら何でもないことのように言う。
「へ?」
「遅いから迎えにやらせたんだ。十面埋伏の陣っていうんだけど知らないのかい?」
よく見れば鬼火は、九枚笹の家紋が描かれた提灯だった。
だが、行けども行けども奇妙な笑い声が響くだけで、真っ暗な山道が続くばかり。
そろそろ帰ろうぜ―――そう言いかけた矢先。
ぽつり。不穏な気配に後ろを振り返ると鬼火がぽっと灯った。
出やがった、と秀吉を呼ぼうとした瞬間、周囲全てに鬼火が広がり、たちまちのうちに囲まれ秀吉とふたり、後ろも見ず転げ落ちるようにして山を駆け下りたのであった。
ふもとには半兵衛がいた。鬼火が、と蒼白になって説明する慶次と秀吉に
「僕の家の者だけど」
白い髪をくるくる弄びながら何でもないことのように言う。
「へ?」
「遅いから迎えにやらせたんだ。十面埋伏の陣っていうんだけど知らないのかい?」
よく見れば鬼火は、九枚笹の家紋が描かれた提灯だった。
四国の海に行ったときは、褌一丁で寝ていたら体の上に砂の城を作られて死にかけた。
「昼に作ったから一昼城かな」ってアホかお前は。
「昼に作ったから一昼城かな」ってアホかお前は。
夕食に呼ばれていったら、鍋に毛利元就を入れようとしていた。
「オクラは南蛮野菜だよ、だから元就君も野菜だろう?」
とか変な三段論法を涼しい顔で言うんじゃねぇ。
それを「さすがよ、半兵衛」とか全部感心して見ている秀吉もわからない。
「オクラは南蛮野菜だよ、だから元就君も野菜だろう?」
とか変な三段論法を涼しい顔で言うんじゃねぇ。
それを「さすがよ、半兵衛」とか全部感心して見ている秀吉もわからない。
とにかく。
「俺は恋ってもっとマジメなものだと思ってるんだ」
少なくとも、友人の迎えに家人を動員して意味もなくややこしい伏兵を仕掛けたり、人の上に城を作ったり鍋にオクラを入れたりする味覚の持ち主、しかも時間がどうとか言って
朝食を湯漬けの10秒チャージで済ませる奴は、いくらなんでも対・象・外!
恋だけで結婚する時代ではないが、慶次は跡継ぎではない。多少の夢は見たいのだ。
「広い世の中にはきっと俺の運命の人がいる。だから安易に妥協するのは」
「慶次、それはモテない殿方の言い訳です」
「そうだそうだ!」
若さも夢も、結婚生活を堪能するおしどり夫婦の前には無力である。
朝食を湯漬けの10秒チャージで済ませる奴は、いくらなんでも対・象・外!
恋だけで結婚する時代ではないが、慶次は跡継ぎではない。多少の夢は見たいのだ。
「広い世の中にはきっと俺の運命の人がいる。だから安易に妥協するのは」
「慶次、それはモテない殿方の言い訳です」
「そうだそうだ!」
若さも夢も、結婚生活を堪能するおしどり夫婦の前には無力である。