そして何かを思いついたか、晴れ晴れと笑う。
「それでもここに来ているとするならば、政宗殿が作られた菓子を食べていると思いまするぞ」
「……何を言っておる」
呆れかえるが、幸せそうな顔で頷かれた。
「政宗殿は美味しい菓子を作られるのでござる。某が喜ぶと政宗殿も喜ばれ、また後日つくって下さる。
真田の姓を持たずとも某はきっと甘い物が好きでござろう。
政宗殿も常々、オレの手料理が好きな奴に悪いヤツはいねえよ、
と言われるからには、伊達家でなくとも手料理を振る舞うのが好きにござろう。
そして政宗殿は、某の食べっぷりが良いと言われる。良い顔で食べると」
少し考えて幸村は言い添えた。
「気に入らなければ手料理を振る舞わぬ方でござるが」
それは、元就への言葉か。
恐らく長曾我部の付け足しで振る舞われたようなものだろうに。
己の価値。
この程度の答えでいいならば、元就は昇陽を浴びることだと言っただろう。
毛利家でなくとも日輪は拝むと。
……あの男はそれも切り捨てるだろうか。俺が言っているのは信仰じゃないと。
「毛利殿の言葉で、某は己の幸福さ、改めて思い知りましたぞ。
この生まれならずばお館様を知ることもなかったはず。
もう一度、お館様に思い上がっていた某を叱っていただきたいが……それこそ贅沢な願いにござるなぁ」
「―――叱って欲しいのか」
真田は大きく肯き笑った。
「お館様は全力で叱って下される。我が身の未熟を骨身にしみるほど教えて下さるは、お館様ただおひとり!」
そんな人物なら元就も知っている。全力で向かい来る、全力で叱りとばす阿呆な男。
これほど元就と違う人物でも、そうした男は心に残るものなのか。
「ふん。我が身の未熟、か。真田、ザビー教に入信せぬか」
きょとんとしながら真田は曖昧に口を開いた。
「ざ、ざびー……?にござるか」
元就は一つ頷く。
着々と広まりゆくザビー教、しかしこの東の地ではうわさ話程度のものとなっている。
元就は天下を狙おうと思っていない。天下人が毛利家に中国地方の統治を委ねればそれでいい。
加えて、天下人がザビー教を保護するか、黙認さえすれば。
「様を付けよ。真田幸村、貴様は南蛮から愛を伝えに来られた聖人、ザビー様の教えに似合いぞ」
「あああああい?はっ、はははれんち!その様な言葉を口にするものではござらぬ!」
またも手を握りしめられ、熱く訴えられる。
「何が破廉恥なものか。我が所領は愛の教えにより着実に富み栄えておる。
我が策と縁組みにより未婚率低下、出生率増加、そのための子育て支援も福利厚生も充実させた。
我は住みよい国中国の言葉を掲げておる。十数年もたてば徳川を圧倒するほどの愛の駒……
否、宣教師達ができあがろうぞ」
―――誰かを使うなら自分自身が駒になるんじゃねえ。
またも、厳島のように脳裏に甦り続ける言葉を刻まれた。
長曾我部は会うたびに何事かを刻み込み、元就の行動を裡から揺さぶっていく。
なんと業腹な事か。
ならば貴様が自由の身を誇ろうと、我が知略を持って絡め取り、我がものとして見せようぞ。
それも、近い将来に。
「あ、あいで富むのでござるか……」
「無論。我が采配によりザビー教の金主にして我が友、本願寺けんにょ君と島津も結ばれたのだぞ。
これにて西国同士の争いは全てなくなった。愛は素晴らしきものぞ」
中央で狭い領土を争いあう者達は、このまま同士討ちさせればいい。
奥州の竜は所詮奥州の竜、どうやら天下の竜ではないようだが構うまい。
ここは中国からは遠く、この国の者も宗教に無関心、過剰に排除することもなさそうだ。
ならばザビー教の宗教活動を認めさせるのみ。
「それでもここに来ているとするならば、政宗殿が作られた菓子を食べていると思いまするぞ」
「……何を言っておる」
呆れかえるが、幸せそうな顔で頷かれた。
「政宗殿は美味しい菓子を作られるのでござる。某が喜ぶと政宗殿も喜ばれ、また後日つくって下さる。
真田の姓を持たずとも某はきっと甘い物が好きでござろう。
政宗殿も常々、オレの手料理が好きな奴に悪いヤツはいねえよ、
と言われるからには、伊達家でなくとも手料理を振る舞うのが好きにござろう。
そして政宗殿は、某の食べっぷりが良いと言われる。良い顔で食べると」
少し考えて幸村は言い添えた。
「気に入らなければ手料理を振る舞わぬ方でござるが」
それは、元就への言葉か。
恐らく長曾我部の付け足しで振る舞われたようなものだろうに。
己の価値。
この程度の答えでいいならば、元就は昇陽を浴びることだと言っただろう。
毛利家でなくとも日輪は拝むと。
……あの男はそれも切り捨てるだろうか。俺が言っているのは信仰じゃないと。
「毛利殿の言葉で、某は己の幸福さ、改めて思い知りましたぞ。
この生まれならずばお館様を知ることもなかったはず。
もう一度、お館様に思い上がっていた某を叱っていただきたいが……それこそ贅沢な願いにござるなぁ」
「―――叱って欲しいのか」
真田は大きく肯き笑った。
「お館様は全力で叱って下される。我が身の未熟を骨身にしみるほど教えて下さるは、お館様ただおひとり!」
そんな人物なら元就も知っている。全力で向かい来る、全力で叱りとばす阿呆な男。
これほど元就と違う人物でも、そうした男は心に残るものなのか。
「ふん。我が身の未熟、か。真田、ザビー教に入信せぬか」
きょとんとしながら真田は曖昧に口を開いた。
「ざ、ざびー……?にござるか」
元就は一つ頷く。
着々と広まりゆくザビー教、しかしこの東の地ではうわさ話程度のものとなっている。
元就は天下を狙おうと思っていない。天下人が毛利家に中国地方の統治を委ねればそれでいい。
加えて、天下人がザビー教を保護するか、黙認さえすれば。
「様を付けよ。真田幸村、貴様は南蛮から愛を伝えに来られた聖人、ザビー様の教えに似合いぞ」
「あああああい?はっ、はははれんち!その様な言葉を口にするものではござらぬ!」
またも手を握りしめられ、熱く訴えられる。
「何が破廉恥なものか。我が所領は愛の教えにより着実に富み栄えておる。
我が策と縁組みにより未婚率低下、出生率増加、そのための子育て支援も福利厚生も充実させた。
我は住みよい国中国の言葉を掲げておる。十数年もたてば徳川を圧倒するほどの愛の駒……
否、宣教師達ができあがろうぞ」
―――誰かを使うなら自分自身が駒になるんじゃねえ。
またも、厳島のように脳裏に甦り続ける言葉を刻まれた。
長曾我部は会うたびに何事かを刻み込み、元就の行動を裡から揺さぶっていく。
なんと業腹な事か。
ならば貴様が自由の身を誇ろうと、我が知略を持って絡め取り、我がものとして見せようぞ。
それも、近い将来に。
「あ、あいで富むのでござるか……」
「無論。我が采配によりザビー教の金主にして我が友、本願寺けんにょ君と島津も結ばれたのだぞ。
これにて西国同士の争いは全てなくなった。愛は素晴らしきものぞ」
中央で狭い領土を争いあう者達は、このまま同士討ちさせればいい。
奥州の竜は所詮奥州の竜、どうやら天下の竜ではないようだが構うまい。
ここは中国からは遠く、この国の者も宗教に無関心、過剰に排除することもなさそうだ。
ならばザビー教の宗教活動を認めさせるのみ。
そして元就は、中国にて長曾我部を跪かせてみせよう。
―――いや。
碇槍を担いで駆け寄ってくる元親を見、元就は軽く眼を細めた。
―――いや。
碇槍を担いで駆け寄ってくる元親を見、元就は軽く眼を細めた。
既に元親の行動など、元就の掌中にあり。
元親は未だに腰が立たない元就を、おかしくなるほどそうっと片腕で抱き上げ、荒々しく声を張り上げた。
「野郎ども!出航だ!」
「アニキィィィィィ―――ッ!!」
見送る真田が、手を大きく振った。
「野郎ども!出航だ!」
「アニキィィィィィ―――ッ!!」
見送る真田が、手を大きく振った。




