目が覚めた。辺りは変わらず闇に埋められ、だが頬が濡れていた。
光は無かった。風もあおいきれも無く、小十郎の気配もなく、ただ饐えたような空気とよどむ闇だけがあった。
天下取りの夢は、無惨にひきちぎられた。
誰のせいかと問えば、己のせいとしか言えない。
自分の力を過信しすぎていた。
小十郎を側から離し、部下の面倒を見させた。
片眼の不利も忘れ、幸村と信玄の二人を相手取っても退却しなかった。
政宗の責だ。
涙があふれる。
見張っているに違いない下郎を意識し、嗚咽こそ漏らさなかったが、それでも、頬を伝うそれを止められなかった。
なぜこんな闇闇しいなかで、たかが下郎の目など気にする。
人目を気にする誇りなど、誇りであるものか。喚きだしたい。苦しいんだ小十郎。
呼びそうになってとっさに自分の腕に爪を立てた。手枷がいやという程ぶつかる。
乾ききった皮膚が切れる。痛い。
光は無かった。風もあおいきれも無く、小十郎の気配もなく、ただ饐えたような空気とよどむ闇だけがあった。
天下取りの夢は、無惨にひきちぎられた。
誰のせいかと問えば、己のせいとしか言えない。
自分の力を過信しすぎていた。
小十郎を側から離し、部下の面倒を見させた。
片眼の不利も忘れ、幸村と信玄の二人を相手取っても退却しなかった。
政宗の責だ。
涙があふれる。
見張っているに違いない下郎を意識し、嗚咽こそ漏らさなかったが、それでも、頬を伝うそれを止められなかった。
なぜこんな闇闇しいなかで、たかが下郎の目など気にする。
人目を気にする誇りなど、誇りであるものか。喚きだしたい。苦しいんだ小十郎。
呼びそうになってとっさに自分の腕に爪を立てた。手枷がいやという程ぶつかる。
乾ききった皮膚が切れる。痛い。
何だっけ家康。あんたがオレに医術を語ってくれたんだ。
あの夏の関ヶ原で、草葉で指先を切ったオレに。
『どんなに小さな傷でも甘く見るんじゃねえ、悪い風が入りこんだら大変だからな』
傷なんか山ほどあるぜ、と嘯く政宗の指先を、愛嬌たっぷりな仕草で口に含んだ。
ばっかやろ、と毒づく政宗に、本当だと繰り返す。
優しく傷口を舐めてくれたあの人影ははるか遠い。
あの夏の関ヶ原で、草葉で指先を切ったオレに。
『どんなに小さな傷でも甘く見るんじゃねえ、悪い風が入りこんだら大変だからな』
傷なんか山ほどあるぜ、と嘯く政宗の指先を、愛嬌たっぷりな仕草で口に含んだ。
ばっかやろ、と毒づく政宗に、本当だと繰り返す。
優しく傷口を舐めてくれたあの人影ははるか遠い。
今オレの体は垢だらけで、爪の間も薄汚ない。
悪い風?そんなもん、きっともう全身に回ってる。オレはただ生かされる肉塊だ。
でもそれでも、……なあ。
抵抗だけはやめねえよ。
拷問の挙げ句座敷牢に押し込めるなんざ、一国の主に対する処遇じゃねえ。
まともな自殺さえさせて貰えねえんだ。
なら、オレだって一国の主らしくもなく足掻いたっていいだろう。
追い詰められた挙げ句に舌噛んで死んだなんて言われるのはまっぴらだ。
小十郎、オレには誇りある死以外の自殺はねえよ。
いや。お前達の命を購うためなら……堕ちてもいい。
悪い風?そんなもん、きっともう全身に回ってる。オレはただ生かされる肉塊だ。
でもそれでも、……なあ。
抵抗だけはやめねえよ。
拷問の挙げ句座敷牢に押し込めるなんざ、一国の主に対する処遇じゃねえ。
まともな自殺さえさせて貰えねえんだ。
なら、オレだって一国の主らしくもなく足掻いたっていいだろう。
追い詰められた挙げ句に舌噛んで死んだなんて言われるのはまっぴらだ。
小十郎、オレには誇りある死以外の自殺はねえよ。
いや。お前達の命を購うためなら……堕ちてもいい。
その考えは追い詰められた政宗の脳裏にするりと忍び込み、そして良く馴染んだ。