「この酒になら、酔ってしまってもよさそうだな」
「明日に残すなよ。結構きついぜ?」
「なぁに、わしなら大丈夫だ。酒に負けたことはねぇ」
「へぇ」
く、と一息に酒を飲み干す。
ふ、と体の中から何かがせり上がってくるような感覚に襲われた。
落ち着くために深く息を吐き出す。じっとりと湿った息は家康を驚かせた。
じわじわと体が侵食されていく。まずい、と思うが、このまま「それ」に身を任せると
気持ちいいだろう、という予感があった。
体が熱い。むずむずする。
「おい」
「ん……」
杯を置いて家康に寄りかかる。着物越しでも人の温もりが気持ちいい。
腕を背中に回した。ぎゅうっと抱きしめる。あわわわ、と家康が手足をじたばたさせる。
「お前、酔うの早すぎるぞ!」
「……ちょっと、速すぎたか……」
立て続けに飲みすぎた。大して酒に強いわけでもないくせにかぱかぱ明ければ、
酔うのは当たり前だ。
「大丈夫か。水貰ってこようか?」
「だいじょーぶだって」
舌が回りにくい。とろんと酒精に潤んだ目で家康を見上げる。家康の顔が赤い。酔いが
回った訳ではなさそうだ。
「ま、政宗。わしは……だな」
「んー?」
にんまり笑うと、腕を回す場所を背中から首に変えて体をより密着させる。
――このまま、家康のものになるのもいいかもしれない。
家康はいい奴だ。頭もいいし腕も悪くない。機械が好きすぎる辺りが少々難だが、
国を傾ける程ではないので我慢できる範囲だろう。
背は低いが、顔は悪くない。意外と女好きなところがあるが、政宗を泣かせることはないだろう。
何より、傍にいて落ち着ける。苛々することがない。
苛々するのは、誰だっただろう。
考えるのが面倒だ。
見つめあって、唇を寄せる。酒の匂いごと飲み込み、舌を探り当てて絡めとる。
生温く粘ついた感覚に頭が痺れる。
家康の手が頭に回った。機械を潤滑に動かすための油の臭いがする指先。唇を離し、
家康の指を手に取った。
そっと、齧ってみる。油で黒ずんでいるせいだろう、油の嫌な臭いがした。
土臭くて泥臭い、実り豊かな匂いとは違う。
大きくて無骨で、指も節くれ立っていて、齧るとごぼうのような匂いと味がする指を知っている。
政宗を撫でたり叱ったりと忙しい手。
最近は叱られない。家督を継いで主君となってからは特に減った。
それが寂しい。わざと怒られるような真似をしても、小十郎は渋い顔をするだけだ。
――また、あの顔をさせるな。
急に体が冷えた。
家康の手が、政宗の肩に回った。
視界が揺らぐ。丁寧に押し倒されているせいだけではない。
「……阿呆」
家康が困ったように笑ってる。政宗は呆然とした表情を家康に向けた。
目の辺りを手の甲で擦る。いつの間にか泣いていた。
起き上がって着物を直す。家康に背を向け、顔を擦った。
「恥ずかしい真似するんじゃねぇ。俺はおめぇとは、そういう風になりたくねぇ」
「……ごめん」
「謝るくらいなら最初から誘うな、阿呆」
「悪い。ちょっと、どうかしてた」
「一晩付き合ってもらうぞ」
「OK」
家康に顔を向けた。杯を持ち上げた家康は笑っている。笑顔の裏には様々な感情が
渦巻いているはずなのに、それを見せようとしない。
多大な罪悪感とほんの少しの優越感を覚えながら、政宗は家康の杯に酒を注いだ。
「明日に残すなよ。結構きついぜ?」
「なぁに、わしなら大丈夫だ。酒に負けたことはねぇ」
「へぇ」
く、と一息に酒を飲み干す。
ふ、と体の中から何かがせり上がってくるような感覚に襲われた。
落ち着くために深く息を吐き出す。じっとりと湿った息は家康を驚かせた。
じわじわと体が侵食されていく。まずい、と思うが、このまま「それ」に身を任せると
気持ちいいだろう、という予感があった。
体が熱い。むずむずする。
「おい」
「ん……」
杯を置いて家康に寄りかかる。着物越しでも人の温もりが気持ちいい。
腕を背中に回した。ぎゅうっと抱きしめる。あわわわ、と家康が手足をじたばたさせる。
「お前、酔うの早すぎるぞ!」
「……ちょっと、速すぎたか……」
立て続けに飲みすぎた。大して酒に強いわけでもないくせにかぱかぱ明ければ、
酔うのは当たり前だ。
「大丈夫か。水貰ってこようか?」
「だいじょーぶだって」
舌が回りにくい。とろんと酒精に潤んだ目で家康を見上げる。家康の顔が赤い。酔いが
回った訳ではなさそうだ。
「ま、政宗。わしは……だな」
「んー?」
にんまり笑うと、腕を回す場所を背中から首に変えて体をより密着させる。
――このまま、家康のものになるのもいいかもしれない。
家康はいい奴だ。頭もいいし腕も悪くない。機械が好きすぎる辺りが少々難だが、
国を傾ける程ではないので我慢できる範囲だろう。
背は低いが、顔は悪くない。意外と女好きなところがあるが、政宗を泣かせることはないだろう。
何より、傍にいて落ち着ける。苛々することがない。
苛々するのは、誰だっただろう。
考えるのが面倒だ。
見つめあって、唇を寄せる。酒の匂いごと飲み込み、舌を探り当てて絡めとる。
生温く粘ついた感覚に頭が痺れる。
家康の手が頭に回った。機械を潤滑に動かすための油の臭いがする指先。唇を離し、
家康の指を手に取った。
そっと、齧ってみる。油で黒ずんでいるせいだろう、油の嫌な臭いがした。
土臭くて泥臭い、実り豊かな匂いとは違う。
大きくて無骨で、指も節くれ立っていて、齧るとごぼうのような匂いと味がする指を知っている。
政宗を撫でたり叱ったりと忙しい手。
最近は叱られない。家督を継いで主君となってからは特に減った。
それが寂しい。わざと怒られるような真似をしても、小十郎は渋い顔をするだけだ。
――また、あの顔をさせるな。
急に体が冷えた。
家康の手が、政宗の肩に回った。
視界が揺らぐ。丁寧に押し倒されているせいだけではない。
「……阿呆」
家康が困ったように笑ってる。政宗は呆然とした表情を家康に向けた。
目の辺りを手の甲で擦る。いつの間にか泣いていた。
起き上がって着物を直す。家康に背を向け、顔を擦った。
「恥ずかしい真似するんじゃねぇ。俺はおめぇとは、そういう風になりたくねぇ」
「……ごめん」
「謝るくらいなら最初から誘うな、阿呆」
「悪い。ちょっと、どうかしてた」
「一晩付き合ってもらうぞ」
「OK」
家康に顔を向けた。杯を持ち上げた家康は笑っている。笑顔の裏には様々な感情が
渦巻いているはずなのに、それを見せようとしない。
多大な罪悪感とほんの少しの優越感を覚えながら、政宗は家康の杯に酒を注いだ。




