「う、う……」
「ねェな、予想が外れたぜ。俺はてっきり、股の間に機関銃でも仕込んでるに違いねえと
思ったんだがなあ?」
「そんなもの、そこに隠せるわけないじゃないの!」
足の間を撫でられながらも、濃姫は真っ赤な顔で叫んだ。
「どうだかな」
元親は隻眼で笑って見せた。
茂みのあたりがしっとりと汗ばんで熱を帯びている。
「くっ」
濃姫の体がかすかに戦慄いた。
恥じらいと悔しさが入り混じった表情で、唇を噛み締めている。
「もっと詳しく調べてみるかい?」
健気で可愛いそのしぐさに元親が口元を緩めていると、濃姫の瞳の中に黒曜石の
頑なさが浮き出てきた。
長いまつげが濡れたように艶々と光っている。
押し黙ったままゆっくりとまぶたを閉じ、乱れた呼吸を整えるように胸を上下させた。
「…………」
再び目を開けたとき、彼女の表情は内心の動揺を押し隠すように強張って動かなくなって
いた。
おや、と思うほどの見事な変貌――さながら蟲の変態である。愚鈍でのろまな芋虫が
蝶へ変わっていくような。
頬の引き締まった線が、気位の高そうな彼女の容貌を際立たせた。
濃姫は挑戦的な目つきをした。
「怖いの」
「あァ?」
先ほどまでの動揺がうそのようだ。
身内では心臓が狂ったように鼓動を刻んでいるだろうに、そんな混乱を理性で律している。
「わたしが怖いのね?」
あの、生意気な唇が動く。
「こんなふうに吊るし上げておきながら、その上でビクビクしながらわたしのそばまで
近寄ってくる。言うことときたら他にも武器を持ってはいないか、ですって?
うふふっ、可笑しい。これが海賊? 荒くれ者? おやめなさい、名が泣くわよ?」
心底おかしそうな響きの声が、ほとんど動かない表情の内からこぼれ出た。
唇の隙間から白い歯が覗いている。
声が、微妙にふるえている。芋虫が蝶になったところで脆さはほとんど変わらないと
悟らずにはいられない、滑稽で愛らしい響き。
「ふふ……西国の鬼がこんなに臆病で可愛い子だとは思わなかったわ。なにも寄った
とたんに噛みつくわけでもなし。それとも、わたしがそんなに凶暴な女に見えるのかしら?
――そんなに、わたしが、怖いのかしら?」
一言ひとことをいやらしいほどハッキリと区切って言いながら、濃姫は唇を吊り上げた。
元親は彼女の考えていることを理解した。
なるほど、濃姫の問いに『怖くない』と答えれば、網で捕らえて吊るし上げ、なお
警戒したことをどう説明するのかなどと言及するに違いなく、また逆に『怖い』と
答えたのなら、長曾我部元親は女に怯える日本一の臆病者よと嘲って笑うに違いなかった。
そして、黙ったまま見つめた濃姫の白い頬は、どちらの答えを口にしようとまずは笑って
やろうと待ち構えているように見えた。
――面白れェじゃねえか。
元親は、喉の奥で笑った。
なんと生意気な女なのだろう。
この長曾我部元親を、鬼の頭領を、安い言葉で飼い慣らそうとでもしているつもりなのだ、
魔王とやらの妻ふぜいが。
気づくと元親は、声を上げて豪快に笑っていた。
濃姫は眉をひそめてわずかに口を開いた。
「…………」
開いたもののなにを言おうか迷うような沈黙が続いて、じきに薄紅色の唇は乾いてしまう。
唐突に笑い声を切り、元親は濃姫に迫って言った。
「あァ、そうだな。怖ぇとも。アンタみたいな女は初めてだ。こんなに別嬪で、色っぽい、
鼻持ちならねえ女は、なぁ!」
「ねェな、予想が外れたぜ。俺はてっきり、股の間に機関銃でも仕込んでるに違いねえと
思ったんだがなあ?」
「そんなもの、そこに隠せるわけないじゃないの!」
足の間を撫でられながらも、濃姫は真っ赤な顔で叫んだ。
「どうだかな」
元親は隻眼で笑って見せた。
茂みのあたりがしっとりと汗ばんで熱を帯びている。
「くっ」
濃姫の体がかすかに戦慄いた。
恥じらいと悔しさが入り混じった表情で、唇を噛み締めている。
「もっと詳しく調べてみるかい?」
健気で可愛いそのしぐさに元親が口元を緩めていると、濃姫の瞳の中に黒曜石の
頑なさが浮き出てきた。
長いまつげが濡れたように艶々と光っている。
押し黙ったままゆっくりとまぶたを閉じ、乱れた呼吸を整えるように胸を上下させた。
「…………」
再び目を開けたとき、彼女の表情は内心の動揺を押し隠すように強張って動かなくなって
いた。
おや、と思うほどの見事な変貌――さながら蟲の変態である。愚鈍でのろまな芋虫が
蝶へ変わっていくような。
頬の引き締まった線が、気位の高そうな彼女の容貌を際立たせた。
濃姫は挑戦的な目つきをした。
「怖いの」
「あァ?」
先ほどまでの動揺がうそのようだ。
身内では心臓が狂ったように鼓動を刻んでいるだろうに、そんな混乱を理性で律している。
「わたしが怖いのね?」
あの、生意気な唇が動く。
「こんなふうに吊るし上げておきながら、その上でビクビクしながらわたしのそばまで
近寄ってくる。言うことときたら他にも武器を持ってはいないか、ですって?
うふふっ、可笑しい。これが海賊? 荒くれ者? おやめなさい、名が泣くわよ?」
心底おかしそうな響きの声が、ほとんど動かない表情の内からこぼれ出た。
唇の隙間から白い歯が覗いている。
声が、微妙にふるえている。芋虫が蝶になったところで脆さはほとんど変わらないと
悟らずにはいられない、滑稽で愛らしい響き。
「ふふ……西国の鬼がこんなに臆病で可愛い子だとは思わなかったわ。なにも寄った
とたんに噛みつくわけでもなし。それとも、わたしがそんなに凶暴な女に見えるのかしら?
――そんなに、わたしが、怖いのかしら?」
一言ひとことをいやらしいほどハッキリと区切って言いながら、濃姫は唇を吊り上げた。
元親は彼女の考えていることを理解した。
なるほど、濃姫の問いに『怖くない』と答えれば、網で捕らえて吊るし上げ、なお
警戒したことをどう説明するのかなどと言及するに違いなく、また逆に『怖い』と
答えたのなら、長曾我部元親は女に怯える日本一の臆病者よと嘲って笑うに違いなかった。
そして、黙ったまま見つめた濃姫の白い頬は、どちらの答えを口にしようとまずは笑って
やろうと待ち構えているように見えた。
――面白れェじゃねえか。
元親は、喉の奥で笑った。
なんと生意気な女なのだろう。
この長曾我部元親を、鬼の頭領を、安い言葉で飼い慣らそうとでもしているつもりなのだ、
魔王とやらの妻ふぜいが。
気づくと元親は、声を上げて豪快に笑っていた。
濃姫は眉をひそめてわずかに口を開いた。
「…………」
開いたもののなにを言おうか迷うような沈黙が続いて、じきに薄紅色の唇は乾いてしまう。
唐突に笑い声を切り、元親は濃姫に迫って言った。
「あァ、そうだな。怖ぇとも。アンタみたいな女は初めてだ。こんなに別嬪で、色っぽい、
鼻持ちならねえ女は、なぁ!」