「…ふむ…肉がかたくて締まりも良い…。貴様、鍛えておるな」
参謀は、傍らの盆に張られた水で手を濯いだ後、袖から取り出した懐紙で手を拭いながら淡々と言い放った。
「くぅぅ…不覚…不覚にござるぅぅぅ…っ!」
ようやく見えぬ束縛から解放された俺は、蹂躙し尽された羞恥を抱え、悔しげにだんだんと激しく床を叩いた。
忘八殿はと言えば、相変わらず蚊帳の外と言った感じで、寂しげに遠くを見やりながら既に一服始めている。
「色も良い色をしている。桜色と言うよりは紅色をしたそれが羞恥に赤く染まる様がまるで炎が燃え上がるが如く…」
「や、やめるでござるぁぁぁぁあ!!!」
その卑猥な喩えを聞くに堪えず、両耳を塞ぎ大声を上げる。
参謀殿は、何故このような破廉恥な行いに表情一つ崩さないのか、逆に敬意すら覚えてしまいそうだ。
「そういう訳だ、忘八」
くるり、と忘八殿の方を振り返り、静かな声音はどこか楽しそうに告げた。
「水揚げは、大々的に行って損は無さそうだ」
その判断に答える代わりに、忘八殿は軽く肩を竦めて煙を吐き出した。
そうだ、検分が済んだとなれば、いよいよ突き出しだ。
年が空ければ数えで十七。一人前の遊女として独り立ちしなければならない。
「さて、その水揚げの話だが…本願寺の顕如殿から既に申し出を頂いておる」
「…はぁっ?」
あまりの展開ぶりに、俺は乱れた着物を掻き寄せるのも疎かに、間の抜けた声を上げた。
顕如殿と言えば、いつだったか俺が蹴りを入れて気絶させてしまった僧侶だ。
それが、なぜ…
「貴様の一蹴が気に入ったらしい」
疑問符を浮かべる俺の心情を汲んでか、参謀殿が答えを返す。
「おい毛利、それは別に言わなくても良いんじゃぁ…」
忘八殿が慌てたように遮った。
何か、俺に知られてはまずい事なのだろうか。
それよりも、気絶した為に俺が蹴った事は忘れていたのではなかったのだろうか。
何か、嫌な予感がして背筋に冷たいものが走る。
「黙れ、敵娼にこれを説かんとして、いかように客を満足させる」
忘八殿を一瞥した後、座り込む俺を見下しながら、参謀殿は言葉を続けた。
「アレはな…蹴られれば蹴られる程、悦びを覚える性質の人間だ」
言われた意味が分からずに、眉を寄せたまま首を傾げる。
「それでは…変態ではござらぬか」
「そうだ、変態だ」
一寸、場の空気が凍りつく。
「いや、でもそれは毛利が勝手に言ってる事で…顕如の坊さんがそう言った訳じゃぁ…」
「さっきからうるさいぞ忘八。我が客の性癖を読み間違える訳があるまい」
しどろもどろ空気を和ませようとしてくれる忘八殿を、にべもなくあしらうと、参謀殿はどことなしか嬉しそうに目を細めて言った。
「大金を用意してお前の突き出しを楽しみにしているそうだ」
その冷酷な微笑に、俺は全身が凍り付くのを感じた。
参謀は、傍らの盆に張られた水で手を濯いだ後、袖から取り出した懐紙で手を拭いながら淡々と言い放った。
「くぅぅ…不覚…不覚にござるぅぅぅ…っ!」
ようやく見えぬ束縛から解放された俺は、蹂躙し尽された羞恥を抱え、悔しげにだんだんと激しく床を叩いた。
忘八殿はと言えば、相変わらず蚊帳の外と言った感じで、寂しげに遠くを見やりながら既に一服始めている。
「色も良い色をしている。桜色と言うよりは紅色をしたそれが羞恥に赤く染まる様がまるで炎が燃え上がるが如く…」
「や、やめるでござるぁぁぁぁあ!!!」
その卑猥な喩えを聞くに堪えず、両耳を塞ぎ大声を上げる。
参謀殿は、何故このような破廉恥な行いに表情一つ崩さないのか、逆に敬意すら覚えてしまいそうだ。
「そういう訳だ、忘八」
くるり、と忘八殿の方を振り返り、静かな声音はどこか楽しそうに告げた。
「水揚げは、大々的に行って損は無さそうだ」
その判断に答える代わりに、忘八殿は軽く肩を竦めて煙を吐き出した。
そうだ、検分が済んだとなれば、いよいよ突き出しだ。
年が空ければ数えで十七。一人前の遊女として独り立ちしなければならない。
「さて、その水揚げの話だが…本願寺の顕如殿から既に申し出を頂いておる」
「…はぁっ?」
あまりの展開ぶりに、俺は乱れた着物を掻き寄せるのも疎かに、間の抜けた声を上げた。
顕如殿と言えば、いつだったか俺が蹴りを入れて気絶させてしまった僧侶だ。
それが、なぜ…
「貴様の一蹴が気に入ったらしい」
疑問符を浮かべる俺の心情を汲んでか、参謀殿が答えを返す。
「おい毛利、それは別に言わなくても良いんじゃぁ…」
忘八殿が慌てたように遮った。
何か、俺に知られてはまずい事なのだろうか。
それよりも、気絶した為に俺が蹴った事は忘れていたのではなかったのだろうか。
何か、嫌な予感がして背筋に冷たいものが走る。
「黙れ、敵娼にこれを説かんとして、いかように客を満足させる」
忘八殿を一瞥した後、座り込む俺を見下しながら、参謀殿は言葉を続けた。
「アレはな…蹴られれば蹴られる程、悦びを覚える性質の人間だ」
言われた意味が分からずに、眉を寄せたまま首を傾げる。
「それでは…変態ではござらぬか」
「そうだ、変態だ」
一寸、場の空気が凍りつく。
「いや、でもそれは毛利が勝手に言ってる事で…顕如の坊さんがそう言った訳じゃぁ…」
「さっきからうるさいぞ忘八。我が客の性癖を読み間違える訳があるまい」
しどろもどろ空気を和ませようとしてくれる忘八殿を、にべもなくあしらうと、参謀殿はどことなしか嬉しそうに目を細めて言った。
「大金を用意してお前の突き出しを楽しみにしているそうだ」
その冷酷な微笑に、俺は全身が凍り付くのを感じた。




