最高の忍び働きが出来る、その言葉通りに佐助は駆けた。
そのたびに幾つもの悲鳴と血飛沫があがり、力を失った肉が地に叩きつけられる。
かつて佐助を育て、くのいちではなく戦忍とした師は、佐助を最高の忍びだと言った。お前は殺し殺されるために生まれたのだと。
佐助の影分身が二つ三つと生まれ、更に増えた。
少しも敵の数は減らない。
それでも佐助は戦場を駆け続けた。
みしり、と。
身体の奥から不吉な音がした。
口の中は血の味がする。
全身の苦痛は耐え難い強さまで達している。
だがそれがなんだと言うのか。今佐助は幸村のために戦をしているのだ。
これ以上の幸せがあるというのか。
ずしりと地が震え、腹の底に響くような駆動音がした。
そのたびに幾つもの悲鳴と血飛沫があがり、力を失った肉が地に叩きつけられる。
かつて佐助を育て、くのいちではなく戦忍とした師は、佐助を最高の忍びだと言った。お前は殺し殺されるために生まれたのだと。
佐助の影分身が二つ三つと生まれ、更に増えた。
少しも敵の数は減らない。
それでも佐助は戦場を駆け続けた。
みしり、と。
身体の奥から不吉な音がした。
口の中は血の味がする。
全身の苦痛は耐え難い強さまで達している。
だがそれがなんだと言うのか。今佐助は幸村のために戦をしているのだ。
これ以上の幸せがあるというのか。
ずしりと地が震え、腹の底に響くような駆動音がした。
槍を振り、血を落とした。
どうやら佐助は上手くやっていてくれているようだ。
あの猿飛佐助が帰ってきた、実は生きていたのだという事実は武田軍を熱狂させた。
殴りあう信玄と幸村、それを諫める佐助。
かつての武田を思いださせるのだ。
『ゆき』は、確かにか弱い女だった。
なのになぜ、今の『佐助』はあんなに動けるのか。
佐助がいるのは頼もしく嬉しいが、どうしても不安は消えなかった。
ふと視線を落とせば、運良く誰にも踏まれず血や泥を浴びる事なく済んでいた小さな花が目に入った。
あの日、名も知らぬ少女から貰い、名も知らぬままに女へと贈った、枯れてしまったいじましい花。
「どうした、真田殿」
馬を寄せてきたのは、かつて『ゆき』の事で幸村をからかってきた男だった。
「ああ、その花か。確か名は」
『ねえ旦那、俺、嘘ついてたんだ』
「いや、いい」
『もし旦那がちゃんと帰ってきたら、俺が持ってる唯一のものをあげるよ』
「かえったら、きく」
『俺の、佐助でもなくゆきでもない、本当の名前』
「…行くぞ。お館様の仇を討ち、生きて帰るのだ」
あの時、知らぬ顔で笑っていた。
馴染んだ『佐助』でも、いじらしい『ゆき』でもなかったが、その女を抱きたいと確かに幸村は思ったのだ。
どうやら佐助は上手くやっていてくれているようだ。
あの猿飛佐助が帰ってきた、実は生きていたのだという事実は武田軍を熱狂させた。
殴りあう信玄と幸村、それを諫める佐助。
かつての武田を思いださせるのだ。
『ゆき』は、確かにか弱い女だった。
なのになぜ、今の『佐助』はあんなに動けるのか。
佐助がいるのは頼もしく嬉しいが、どうしても不安は消えなかった。
ふと視線を落とせば、運良く誰にも踏まれず血や泥を浴びる事なく済んでいた小さな花が目に入った。
あの日、名も知らぬ少女から貰い、名も知らぬままに女へと贈った、枯れてしまったいじましい花。
「どうした、真田殿」
馬を寄せてきたのは、かつて『ゆき』の事で幸村をからかってきた男だった。
「ああ、その花か。確か名は」
『ねえ旦那、俺、嘘ついてたんだ』
「いや、いい」
『もし旦那がちゃんと帰ってきたら、俺が持ってる唯一のものをあげるよ』
「かえったら、きく」
『俺の、佐助でもなくゆきでもない、本当の名前』
「…行くぞ。お館様の仇を討ち、生きて帰るのだ」
あの時、知らぬ顔で笑っていた。
馴染んだ『佐助』でも、いじらしい『ゆき』でもなかったが、その女を抱きたいと確かに幸村は思ったのだ。