「……なぜ、そう思う」
「俺は、できぬ妻だ。料理も裁縫も下手くそで、気も付かないし、頭も悪い」
「何を今更」
はっきり言われると、分かっていても結構傷つく。
「俺は、女中を妻に持った覚えはねぇよ」
寒いんだ、と腕が伸びる。逞しい腕にくるまれ、褥の中に導かれる。
小十郎の体温で既に温まったそこに潜り込めば、悩んでいたことがどうでもよくなる。
「……泣いてただろう。目が赤い」
「大した事ではない。……小十郎殿にいつもため息をつかせる俺が悪いのだ」
「ため息?」
「――いつも、ため息をおつきになる。それから頭をかいて、一人で何事かを思われている」
「ああ……いや、大したことじゃねぇよ」
「なれど」
「俺のくせだ」
そんなくせなど持ってないだろう、と言い返す前に唇を塞がれる。折角の綺麗な紅が、小十郎の唇についてしまった。
「嫌になったか?」
首を振った。
追いつけなくて、苦しくて、情けなくなる。小十郎はなんでもできるから、自分の不甲斐無さに嫌になる。
「一回りも違うんだ。経験で並べるはずがないだろう」
「なれど、着物は綺麗に仕立てられた方が嬉しいだろう? 食事はおいしい方がいいだろう?」
「着物は肌が隠れればいい。食事は食えればいい。……長い間やってりゃ、うまくなるだろ」
ぎゅうっと抱き締められながら、何度も何度も頷いた。溢れる涙を堪えきれず、声を上げて泣いた。
泣くな、と背を撫でる手が優しくて泣けてくることは、絶対に言えなかった。
「俺は、できぬ妻だ。料理も裁縫も下手くそで、気も付かないし、頭も悪い」
「何を今更」
はっきり言われると、分かっていても結構傷つく。
「俺は、女中を妻に持った覚えはねぇよ」
寒いんだ、と腕が伸びる。逞しい腕にくるまれ、褥の中に導かれる。
小十郎の体温で既に温まったそこに潜り込めば、悩んでいたことがどうでもよくなる。
「……泣いてただろう。目が赤い」
「大した事ではない。……小十郎殿にいつもため息をつかせる俺が悪いのだ」
「ため息?」
「――いつも、ため息をおつきになる。それから頭をかいて、一人で何事かを思われている」
「ああ……いや、大したことじゃねぇよ」
「なれど」
「俺のくせだ」
そんなくせなど持ってないだろう、と言い返す前に唇を塞がれる。折角の綺麗な紅が、小十郎の唇についてしまった。
「嫌になったか?」
首を振った。
追いつけなくて、苦しくて、情けなくなる。小十郎はなんでもできるから、自分の不甲斐無さに嫌になる。
「一回りも違うんだ。経験で並べるはずがないだろう」
「なれど、着物は綺麗に仕立てられた方が嬉しいだろう? 食事はおいしい方がいいだろう?」
「着物は肌が隠れればいい。食事は食えればいい。……長い間やってりゃ、うまくなるだろ」
ぎゅうっと抱き締められながら、何度も何度も頷いた。溢れる涙を堪えきれず、声を上げて泣いた。
泣くな、と背を撫でる手が優しくて泣けてくることは、絶対に言えなかった。
ため息をついている自覚はあった。頭をかくのは己のくせだ。
失敗を見るたびに、どうしていいのか分からなくなる。
下手だからといって笑う訳にはいかず、一生懸命なのは分かっているから怒ることもできない。
優しく宥めるのはいつも姉や使用人の役目で、幸村が泣きそうな顔で焦げた煮物や
滅茶苦茶な羹を持ってくるたびに、何を言えばいいのか分からない。
失敗を見るたびに、どうしていいのか分からなくなる。
下手だからといって笑う訳にはいかず、一生懸命なのは分かっているから怒ることもできない。
優しく宥めるのはいつも姉や使用人の役目で、幸村が泣きそうな顔で焦げた煮物や
滅茶苦茶な羹を持ってくるたびに、何を言えばいいのか分からない。
傷つけてからかってばかりいたから、優しくすることも、叱る事もできない。
女相手にいつも好きなようにやっていたから、どうすれば相手が喜ぶのかも知らない。
何をしても、酷く傷つけてしまうのではないかと思えてくる。
竜の右目が何を臆病なことを、と思う。だが、腕の中の少女を傷つけてしまうことが、
今の小十郎には一番恐ろしいことだった。
女相手にいつも好きなようにやっていたから、どうすれば相手が喜ぶのかも知らない。
何をしても、酷く傷つけてしまうのではないかと思えてくる。
竜の右目が何を臆病なことを、と思う。だが、腕の中の少女を傷つけてしまうことが、
今の小十郎には一番恐ろしいことだった。
幼い頃から知っている政宗なら、喜ばせる方法も傷つける方法も分かる。幸村は
ここ一年ほどの姿しか知らない上に、最初が最悪だった。
傷つける方法ならいくらでも知っているくせに、喜ばせる方法を何も知らない。
ようやく泣き止んだ幸村が顔を上げた。涙で顔がぐしょぐしょだ。
また、こんな顔をさせてしまった。
「その……悪い」
幸村は首を振った。手の甲で涙の跡を擦り、にこりと笑う。
「怒ってないのなら、いい」
腕が回り、ぎゅうっと抱き締められる。
(……なんだ)
お互い様のようだ。傷つけやしないか、怒りやしないかと怯えている。
似たもの夫婦とはこのことか、と笑った。
「もう落ち着いたか?」
「はい。……よき妻になるよう努力いたします故、よろしくご指南くだされ」
「ああ」
にっこり笑う妻の顔は、何よりも綺麗だと思うものの一つだった。
ここ一年ほどの姿しか知らない上に、最初が最悪だった。
傷つける方法ならいくらでも知っているくせに、喜ばせる方法を何も知らない。
ようやく泣き止んだ幸村が顔を上げた。涙で顔がぐしょぐしょだ。
また、こんな顔をさせてしまった。
「その……悪い」
幸村は首を振った。手の甲で涙の跡を擦り、にこりと笑う。
「怒ってないのなら、いい」
腕が回り、ぎゅうっと抱き締められる。
(……なんだ)
お互い様のようだ。傷つけやしないか、怒りやしないかと怯えている。
似たもの夫婦とはこのことか、と笑った。
「もう落ち着いたか?」
「はい。……よき妻になるよう努力いたします故、よろしくご指南くだされ」
「ああ」
にっこり笑う妻の顔は、何よりも綺麗だと思うものの一つだった。




