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亡きものの記録5

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長曾我部元親は相変わらず少年のような笑みを浮かべて政宗の出迎えを受けた。
「よーう。変わってねぇなあ」
「てめぇもな」
大名としての儀礼や慣習をすっ飛ばした気安い挨拶を交わし、政宗と元親は向かい合って座った。
「それで、今日は何の相談だ?」
「お前を嫁に迎えたい。長曾我部の正室として、だ」
単刀直入な言葉に、政宗は息を止めた。
「jokeも大概にしろよ。大体、家督を継いでるんだぜ?」
「弟がいるだろうが」
「っ…………」
分かっている、と、政宗は目を伏せた。
自分が家督を継いだのは、弟の背後に母の実家があるからだ。元親は、そこまで知らないのだろう。
つまり、母の実家最上家をうまく抑えられれば、弟に家督を譲ってもなんら問題はない。
政宗と実母の関係は冷え切っている。
顔をしかめながら、早く弟に家督を譲ってどこへなりとも嫁げと叱られる度に
奥州が不安だと反論し、そしてそのような事を女子が気にするなと怒られる。
「……俺が奥州を離れる訳にはいかねぇんだよ」
「奥州が安定したら、お前を正式に長曾我部の正室として迎える。これならどうだ?」
「何年待ってもらっても、俺は動かない」
「だったら、海賊らしくお前をさらうだけだ」
元親は口許だけで挑発的に笑った。政宗は目を細め、元親をじっと見つめた。
互いに無言になり、視線を外した方が負けとばかりににらみ合う。右目と左目
失った隻眼の大名同士、ひたすらにらんだ。
先に視線を外したのは元親だった。にっと歯を見せて微笑む。異形とも称される青い目は、
海や空の色で染めたような綺麗な色をしている。
「冗談だよ。そんな事をしたら、右目さんとそのご夫人が、四国を荒野にしてくれるだろうしな。
帰る港がなけりゃ、海賊をやってても意味がねぇよ」
元親は笑って足を崩す。政宗は顔を伏せた。
「……お前のことが、嫌いって訳じゃない。but……」
「悪いな、南蛮の言葉は全っ然分かんねぇ」
唇を動かすが、言葉にならない。
扇子を握り締めた手に、血と脂の感覚が蘇る。

  ――ごめんなさい。

耳に蘇る。柔らかな声。忘れる事などできない。
「……四国に嫁ぐことはできない」
「じゃあ、三河ならいけるのか?」
首を振る。
「……ああ、右目のところに嫁ぎたかったのか」
首を振る。
小十郎は、幼い頃から側にいた。信頼できる男だが、一緒になりたいと考えた事すらない。
そういう対象として、見ていない。
――では、誰なら嫁いでもいいのだろう。
考え、首を振る。
家臣たちは、皆、夫の最期を知っている。しかし、だからといって
伊達の息女をどこにも嫁がせず、婿を迎えさせずにいられるはずがない。
婿を迎えるか、嫁ぐか。
どちらかを選ばねばならない。政宗の決意と罪の意識など、誰も慮ろうとしない。
独りで生きる決意は、誰にも話していない。小十郎は察しているようで、
再婚の話が出る度に複雑な顔を見せる。
「……悪い。そういうことは、考えられない」
政宗は立ち上がった。廊下に小十郎が控えている。
「……小十郎。客人を部屋へ。俺は少し出かける」
「は」
小十郎はいつも通りだ。だから安心できる。

――しかし、いつまでも安心してはいられない。
答えを出さねばならない。期限はそこに迫っていた。


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