あれから数年の月日が経った。
天下を包んでいた戦火はさらに激しく燃え広がり、それぞれの思いを胸に秘めた者達が立ち上がった。
その中に、「濃姫」もまた自分の願いのために身を投じていた。
信長を天下人に。
ただ一つの、しかし純粋で強い願いのために。
ふと着物の帯に手を伸ばす。
帯の中から出されたのは綺麗な布で作られた守り袋。
その中には、あの日信長に貰った桔梗の花が入っている。
残念ながら花は枯れてしまったが、それでも捨てるのが勿体無くてずっとこうして守り袋にいれ、
肌身離さず持ち歩いている。
あの日からこのお守りは、濃姫の大切な宝だ。
「濃姫様ー!」
遠くから、子供の声が聞こえる。
振り返れば、此方へと走ってくるまだ幼さの残る少年。
濃姫と信長が我が子同然に可愛がっている部下、森蘭丸であった。
「濃姫様、何を見ていたのですか?」
「ふふ、気になるの?」
手元を覗き込み、続いて自分の顔を見上げてくる蘭丸に濃姫は優しい笑みを浮かべる。
「お守り…?」
「えぇ、私の大切なお守りよ」
ぎゅっとお守りを握り締めれば、顔を見上げていた蘭丸がにっこりと笑った。
「濃姫様、幸せそうですね」
そんな顔に出ていたのだろうか。
思わず顔に手を当てれば蘭丸はさらに笑みを深めた。
「あ、濃姫様赤くなってるー!」
「こ、こら蘭丸君!大人をからかわないの!」
ケラケラと笑う蘭丸に、それ以上怒る気も失せて一緒に笑ってしまう。
「ねぇ、蘭丸君。上様を見かけなかった?」
「信長様なら、さっき縁側のほうでくつろいでましたよ」
丁度いい。
濃姫は蘭丸に礼を述べると、信長のいる縁側へと歩き出した。
そんな濃姫の様子に不思議そうに小首を傾げていた蘭丸だが、口元に小さな笑みを浮かべてその背中を見送っていた。
天下を包んでいた戦火はさらに激しく燃え広がり、それぞれの思いを胸に秘めた者達が立ち上がった。
その中に、「濃姫」もまた自分の願いのために身を投じていた。
信長を天下人に。
ただ一つの、しかし純粋で強い願いのために。
ふと着物の帯に手を伸ばす。
帯の中から出されたのは綺麗な布で作られた守り袋。
その中には、あの日信長に貰った桔梗の花が入っている。
残念ながら花は枯れてしまったが、それでも捨てるのが勿体無くてずっとこうして守り袋にいれ、
肌身離さず持ち歩いている。
あの日からこのお守りは、濃姫の大切な宝だ。
「濃姫様ー!」
遠くから、子供の声が聞こえる。
振り返れば、此方へと走ってくるまだ幼さの残る少年。
濃姫と信長が我が子同然に可愛がっている部下、森蘭丸であった。
「濃姫様、何を見ていたのですか?」
「ふふ、気になるの?」
手元を覗き込み、続いて自分の顔を見上げてくる蘭丸に濃姫は優しい笑みを浮かべる。
「お守り…?」
「えぇ、私の大切なお守りよ」
ぎゅっとお守りを握り締めれば、顔を見上げていた蘭丸がにっこりと笑った。
「濃姫様、幸せそうですね」
そんな顔に出ていたのだろうか。
思わず顔に手を当てれば蘭丸はさらに笑みを深めた。
「あ、濃姫様赤くなってるー!」
「こ、こら蘭丸君!大人をからかわないの!」
ケラケラと笑う蘭丸に、それ以上怒る気も失せて一緒に笑ってしまう。
「ねぇ、蘭丸君。上様を見かけなかった?」
「信長様なら、さっき縁側のほうでくつろいでましたよ」
丁度いい。
濃姫は蘭丸に礼を述べると、信長のいる縁側へと歩き出した。
そんな濃姫の様子に不思議そうに小首を傾げていた蘭丸だが、口元に小さな笑みを浮かべてその背中を見送っていた。