その後、何とか夜更け前には宿場街に辿り着き、二人は宿をとった。
遅い夕餉を済ませ、軽く温泉につかり、早々に床に就く。
男の二人旅を装っている関係で、宿での部屋は相部屋だ。
これまで散々命を狙われたというのに、小十郎は風魔の隣で無防備に寝入っていた。
風魔は小十郎が熟睡しているのを確認すると、装備を整え、一人宿を抜けだした。
遅い夕餉を済ませ、軽く温泉につかり、早々に床に就く。
男の二人旅を装っている関係で、宿での部屋は相部屋だ。
これまで散々命を狙われたというのに、小十郎は風魔の隣で無防備に寝入っていた。
風魔は小十郎が熟睡しているのを確認すると、装備を整え、一人宿を抜けだした。
◇
満月の美しい夜だった。
青い月光が森を照らし、木々の合間に濃い闇を閉じ込めている。
風魔は辺りで一番高い木のてっぺんに登り、その月をじっと見つめていた。
山一つ越えた向こうから、狼の遠吠えが微かに聞こえてくる。
狼の群れの頭は、一番強い狼だ。
通常は雄の狼なのだろうが、風魔には狼の雌雄の区別などつかないし、そんなことに興味はなかった。
それは忍の世界でも変わらない。
自分が一番強かったから、『風魔小太郎』の名を継いだ。
風魔衆の首領の性別など、その強さの前では意味のないこと。
そして、今でも自分が一番強い。
女であることを自覚したからといって、弱さの理由にはならないのだと悟った。
今ならやれると風魔は思った。
青い月光が森を照らし、木々の合間に濃い闇を閉じ込めている。
風魔は辺りで一番高い木のてっぺんに登り、その月をじっと見つめていた。
山一つ越えた向こうから、狼の遠吠えが微かに聞こえてくる。
狼の群れの頭は、一番強い狼だ。
通常は雄の狼なのだろうが、風魔には狼の雌雄の区別などつかないし、そんなことに興味はなかった。
それは忍の世界でも変わらない。
自分が一番強かったから、『風魔小太郎』の名を継いだ。
風魔衆の首領の性別など、その強さの前では意味のないこと。
そして、今でも自分が一番強い。
女であることを自覚したからといって、弱さの理由にはならないのだと悟った。
今ならやれると風魔は思った。
寝静まった夜の森で、人の息遣いが空気を震わせている。
徐々に近づいてきたそれは、風魔の立つ木の上からよく見えるひらけた草原にその姿を現した。
「風魔!」
木の上に探し人の影を見つけた小十郎は、忍装束をまとった風魔を見て目を見開いた。
次に、風魔の周囲の空気が研ぎ澄まされていることに気がつき、無意識のうちに身構える。
風魔は頭から突っ込むように飛び降りると、あいさつ代わりとでもいうような見え見えの太刀筋で小十郎に斬りかかった。
派手な金属音を立て、風魔と小十郎の剣が交差する。
「てめえ、今度はなんだってんだ!?」
「……………」
激昂する小十郎の問いを風魔は無視した。
刀を傾け、力の均衡を崩したところに、足技をかける。
それもかわされると、風魔は冷静に間合いを取った。
素早く刀をしまって両手で印を結ぶ。
月の光を浴びた風魔の影が、三つに分裂した。
「なっ! どこまでも本気か!」
三人に増えた風魔に小十郎が怒鳴る。
風魔はいっせいに小十郎に襲いかかった。
徐々に近づいてきたそれは、風魔の立つ木の上からよく見えるひらけた草原にその姿を現した。
「風魔!」
木の上に探し人の影を見つけた小十郎は、忍装束をまとった風魔を見て目を見開いた。
次に、風魔の周囲の空気が研ぎ澄まされていることに気がつき、無意識のうちに身構える。
風魔は頭から突っ込むように飛び降りると、あいさつ代わりとでもいうような見え見えの太刀筋で小十郎に斬りかかった。
派手な金属音を立て、風魔と小十郎の剣が交差する。
「てめえ、今度はなんだってんだ!?」
「……………」
激昂する小十郎の問いを風魔は無視した。
刀を傾け、力の均衡を崩したところに、足技をかける。
それもかわされると、風魔は冷静に間合いを取った。
素早く刀をしまって両手で印を結ぶ。
月の光を浴びた風魔の影が、三つに分裂した。
「なっ! どこまでも本気か!」
三人に増えた風魔に小十郎が怒鳴る。
風魔はいっせいに小十郎に襲いかかった。
風魔の分身は、どれも本人と同じくらいに強かった。
三人がかりで小十郎を追い詰め、幾度となく必殺の攻撃を放つ。
が、小十郎も負けてはおらず、ギリギリのところで風魔の攻撃をかわしては、反撃に転じた。
攻撃の手数は圧倒的に風魔の方が多かったが、なんとか渾身の攻撃をあてた小十郎が、風魔の分身を一人倒した。
それを見て、風魔がまた間合いをとる。
風魔の涼しい顔とは対照的に、小十郎は肩を大きく上下させるほどに呼吸を乱していた。
三人がかりで小十郎を追い詰め、幾度となく必殺の攻撃を放つ。
が、小十郎も負けてはおらず、ギリギリのところで風魔の攻撃をかわしては、反撃に転じた。
攻撃の手数は圧倒的に風魔の方が多かったが、なんとか渾身の攻撃をあてた小十郎が、風魔の分身を一人倒した。
それを見て、風魔がまた間合いをとる。
風魔の涼しい顔とは対照的に、小十郎は肩を大きく上下させるほどに呼吸を乱していた。