『あのさ元親…悪い事言わないから、
せめて自分の方の気持ちくらいは、ちゃんと見定めとけよ』
せめて自分の方の気持ちくらいは、ちゃんと見定めとけよ』
自分の方の気持ち。
見定めるどころか、んなモン考えた事もねぇよ…。
見定めるどころか、んなモン考えた事もねぇよ…。
穏やかな海を裂くようにして、船が北九州を目指し進んでいく。
少しずつ大きくなっていく陸地を眺めながら、元親は一つ溜息を吐いた。
少しずつ大きくなっていく陸地を眺めながら、元親は一つ溜息を吐いた。
毛利の存在を初めて意識したのは、噂話の中での事だ。
互いの領土の繁栄の為に将来同盟を結び、俺の元へ毛利を嫁がせる…。
俺の親父と毛利の親父がそんな青写真を描いていた事を、
酒を酌み交わすようになってすぐに親父から聞かされた。
互いの領土の繁栄の為に将来同盟を結び、俺の元へ毛利を嫁がせる…。
俺の親父と毛利の親父がそんな青写真を描いていた事を、
酒を酌み交わすようになってすぐに親父から聞かされた。
まぁ出来れば嫁には自分で気に入った女を選びたかったが、だからと言って長きに渡る
四国・中国間の戦を解消する糸口になる政略結婚を拒むほどガキじゃねぇ。
だから親父の言いつけには従うつもりだった。
四国・中国間の戦を解消する糸口になる政略結婚を拒むほどガキじゃねぇ。
だから親父の言いつけには従うつもりだった。
だが程なくして毛利の親父、兄貴、そして兄貴の子供…と、毛利家の嫡男が次々と不慮の死を遂げ。
身内を襲ったたび重なる不幸によって、ついには毛利自身が安芸の国の主にまつり上げられた。
そうなるといくら先代同士が交わした約束とは言え、まさか戦に負けた訳でもねぇのに
国主である毛利自らが他国の国主である俺の元に嫁ぎに来る筈も無く。
結果親父たちの企てていた計画は完全に崩壊した。
身内を襲ったたび重なる不幸によって、ついには毛利自身が安芸の国の主にまつり上げられた。
そうなるといくら先代同士が交わした約束とは言え、まさか戦に負けた訳でもねぇのに
国主である毛利自らが他国の国主である俺の元に嫁ぎに来る筈も無く。
結果親父たちの企てていた計画は完全に崩壊した。
当の毛利が親父たちの目論見を知っていたかは知らねぇが、
俺個人としてはその政略結婚の話が纏まろうが駄目になろうが、
別にそんな事はどうでも良かった。
だが、
『とても聡明で美しい姫君だと聞いておったのに…』
と、あまりにも親父が自分の事みてぇに嘆くもんだから、俺まで段々毛利の事が気になってきて。
-俺の嫁になる筈だった女を一目拝みに行くのも、悪かねぇ-
ただそんな好奇心から、俺は中国に向けて船を出した。
俺個人としてはその政略結婚の話が纏まろうが駄目になろうが、
別にそんな事はどうでも良かった。
だが、
『とても聡明で美しい姫君だと聞いておったのに…』
と、あまりにも親父が自分の事みてぇに嘆くもんだから、俺まで段々毛利の事が気になってきて。
-俺の嫁になる筈だった女を一目拝みに行くのも、悪かねぇ-
ただそんな好奇心から、俺は中国に向けて船を出した。
だがまぁ当主とは名ばかりのお姫様が戦場に出てくる訳無ぇし、
行ってもきっと空振りに終わるだろうがな…。
行ってもきっと空振りに終わるだろうがな…。
そう考えていた俺をあざ笑うかのように、毛利は総大将として最前線で俺を迎え撃って出る策を講じ。
厳島の戦場で-俺達は初めて出会った。
厳島の戦場で-俺達は初めて出会った。
涼しげを通り越して鋭さを宿した容姿は決して愛らしいとは言いがたいが、
その凛とした佇まいに目を奪われた瞬間、
戦場にも関わらず言い表しようの無い何かが喉元までこみ上げてきた。
その凛とした佇まいに目を奪われた瞬間、
戦場にも関わらず言い表しようの無い何かが喉元までこみ上げてきた。
おまけに始めはただお姫様のチャンバラごっこに付き合ってやるつもりだった筈が、
毛利の身のこなしはやたらと素早く、剣技の腕も申し分ない。
加えて舞うように放たれる一太刀毎の斬撃もめっぽう重いと来りゃあ、すぐに
毛利の身のこなしはやたらと素早く、剣技の腕も申し分ない。
加えて舞うように放たれる一太刀毎の斬撃もめっぽう重いと来りゃあ、すぐに
-コイツといつまでも切り結びあって居たい-
そんな高揚感に胸が打ち震えた。
だが個人対個人の果たし合いならいざ知らず。
全く互角の力を持つ二つの国が戦い続ければやがて双方とも疲弊し、
漁夫の利を狙う他国に容易く飲まれる。
刃を交え、毛利も同じ事を感じたんだろう。
更に数度戦を重ねた後に、俺達は同盟を結ぶ事になった。
全く互角の力を持つ二つの国が戦い続ければやがて双方とも疲弊し、
漁夫の利を狙う他国に容易く飲まれる。
刃を交え、毛利も同じ事を感じたんだろう。
更に数度戦を重ねた後に、俺達は同盟を結ぶ事になった。
遠路とまでは行かなくとも女に船旅させるのも酷だし、やっぱこっちから出向いた方が。
…となると円滑に交渉を進める為の手段として、いくらか土産物も必要か?
そんな事を考えていた折に、ウチの斥候から『毛利の御当主は甘味を好む』との報告を聞いて。
だから俺は、四国一と名高い和菓子屋に特注で極上の餅をあつらえさせたのだ。
…となると円滑に交渉を進める為の手段として、いくらか土産物も必要か?
そんな事を考えていた折に、ウチの斥候から『毛利の御当主は甘味を好む』との報告を聞いて。
だから俺は、四国一と名高い和菓子屋に特注で極上の餅をあつらえさせたのだ。
ところが毛利のお屋敷について早々。
厠に行ったついでに、散策も兼ねて遠回りして客間に戻ろうとした俺は、
なんの因果かその餅が毛利家の重臣から部下の兵士…そして侍女の手に渡り、
毛利の部屋へと届けられる瞬間を、たまたま目撃しちまった。
厠に行ったついでに、散策も兼ねて遠回りして客間に戻ろうとした俺は、
なんの因果かその餅が毛利家の重臣から部下の兵士…そして侍女の手に渡り、
毛利の部屋へと届けられる瞬間を、たまたま目撃しちまった。
「元就様…こちらは、長曾我部殿から賜りました代物にございます」
「…中身は何ぞ」
「はい、餅…かと」
すると突然、室内から鈴の音のように綺麗な笑い声が響く。
「餅で我を懐柔しようなど…随分と安く見られた物よ」
おい。
別に安物で済まそうと思って持ってきた訳じゃねぇぞ。
って言うか、土産物なら他にも山ほど持ってきただろうが。
大体、餅はアンタの好物だって聞いたから…。
別に安物で済まそうと思って持ってきた訳じゃねぇぞ。
って言うか、土産物なら他にも山ほど持ってきただろうが。
大体、餅はアンタの好物だって聞いたから…。
「いかがなさいましょう」
「我が処分を下す故、置いて行くが良い」
「…おそれいります」
侍女は部屋の外へ出てうやうやしく一礼すると、毛利の部屋のふすまの戸を両手で丁寧に閉めた。
その後室内からは何の物音もしねぇ。
だから俺も、腹立たしさを堪えておとなしく用意された客間に戻ろうと思った。
その後室内からは何の物音もしねぇ。
だから俺も、腹立たしさを堪えておとなしく用意された客間に戻ろうと思った。




