そんな矢先。
毛利の部屋の戸が、静かに開いた。
そして周囲を見渡し誰も居ないことを確認すると、部屋の主が自室から出てくる。
その両手には、見覚えのある箱。
毛利の部屋の戸が、静かに開いた。
そして周囲を見渡し誰も居ないことを確認すると、部屋の主が自室から出てくる。
その両手には、見覚えのある箱。
「……………」
毛利は縁側に正座すると、ゆっくり箱を開けた。
白色の大福の中身は練り餡、桃色の大福の中身は白餡。
他にも豆大福、草大福、すあま等、中にはさまざまな種類の餅がずらりと並んでいた。
それらをただジッと、毛利は眺める。
その時、毛利の顔に張り付いている氷の面の内側から…
どことなく物欲しげな感情が透けて見えた。
白色の大福の中身は練り餡、桃色の大福の中身は白餡。
他にも豆大福、草大福、すあま等、中にはさまざまな種類の餅がずらりと並んでいた。
それらをただジッと、毛利は眺める。
その時、毛利の顔に張り付いている氷の面の内側から…
どことなく物欲しげな感情が透けて見えた。
「………………」
ああ…別にどれにも毒なんざ盛っちゃいねぇから、さっさと喰えよ。
俺はいつのまにか柱の影に身を潜めつつ、
その用心深さに半ばじれったさすら覚えながら毛利の動向を見守る。
俺はいつのまにか柱の影に身を潜めつつ、
その用心深さに半ばじれったさすら覚えながら毛利の動向を見守る。
その時、一匹の三毛猫が縁側に寄ってきた。
中庭に迷い込んでしまったらしい野良猫の存在に気づき、思案に思案を重ねると…
毛利は箱の中から餅を一つ取り出し、無造作に庭に放る。
ぼとりと土の上に落ちたそれに、野良猫はすばしっこく駆け寄った。
そして鼻を鳴らしながら執拗に匂いを嗅いだ後に、大きな口を開けて餅に噛み付く。
中庭に迷い込んでしまったらしい野良猫の存在に気づき、思案に思案を重ねると…
毛利は箱の中から餅を一つ取り出し、無造作に庭に放る。
ぼとりと土の上に落ちたそれに、野良猫はすばしっこく駆け寄った。
そして鼻を鳴らしながら執拗に匂いを嗅いだ後に、大きな口を開けて餅に噛み付く。
つか、毒見のつもりだろうが。
猫に餅なんざ喰わせたら、毒が入ってなくても喉詰まらせて死ぬんじゃねぇのか…?
猫に餅なんざ喰わせたら、毒が入ってなくても喉詰まらせて死ぬんじゃねぇのか…?
だが俺の予想に反して、猫はさも美味そうに餅を平らげるとにゃぁと鳴いた。
その様子を微動だにせず眺めていた毛利は、顛末を見届けた後視線を再び手元の箱に移す。
そしてしばし吟味して一つの餅を選ぶと、ようやくそれをひとくち口に含んだ。
すると、なんと餅を咀嚼していく内に氷の面が静かに溶けて。
…毛利は微かに目じりを下げ、そして僅かに口角を上げたのだ。
その様子を微動だにせず眺めていた毛利は、顛末を見届けた後視線を再び手元の箱に移す。
そしてしばし吟味して一つの餅を選ぶと、ようやくそれをひとくち口に含んだ。
すると、なんと餅を咀嚼していく内に氷の面が静かに溶けて。
…毛利は微かに目じりを下げ、そして僅かに口角を上げたのだ。
おいおい…アイツ、笑ったら意外と…
だが遠くでかすかに自分を探す声が聞こえ、俺は慌ててその場を立ち去った。
幸い俺がその光景を見ていた事を、毛利には気づかれていないようだった。
幸い俺がその光景を見ていた事を、毛利には気づかれていないようだった。
随分と珍しい物を見た。
アイツでも…たまにはあんな顔する事が有るんだな。
アイツでも…たまにはあんな顔する事が有るんだな。
歩きながら、自分でも自然と己の表情が緩むのが分かる。
…もしかすると、今度の話し合いは結構上手く行くんじゃねぇのか?
だがそんな俺の予想に反して、数刻の後話し合いの場に現れた毛利はいつもの無愛想な顔で。
むしろいつにも増して辛らつな言葉の数々を浴びせかけては俺を苛立たせた。
むしろいつにも増して辛らつな言葉の数々を浴びせかけては俺を苛立たせた。
「ちっ…長曾我部殿…!?」
毛利家の家臣達が、唖然として俺を凝視する。
気づけば俺は、怒りに任せて目前にあった文机をひっくり返していた。
机の上に置かれていたすずりや紙や筆やらが畳の上に派手に散乱するのもお構いなしで。
俺は双方の家臣達の制止を振り切って対面していた毛利にズカズカ近づくと、その胸倉を掴む。
気づけば俺は、怒りに任せて目前にあった文机をひっくり返していた。
机の上に置かれていたすずりや紙や筆やらが畳の上に派手に散乱するのもお構いなしで。
俺は双方の家臣達の制止を振り切って対面していた毛利にズカズカ近づくと、その胸倉を掴む。
「アンタなぁ…そこまで言うならお望みどおりさっさと帰ってやるから、
さっき渡した土産全部返しな」
さっき渡した土産全部返しな」
別に、本当に土産を返して欲しかった訳じゃない。
ただそう問うた場合、既に手をつけてしまった餅の事をどう切り返してくるのか、
少しだけ興味があった。
毛利は一瞬瞳を見開いたが、すぐさま不遜に笑うと冷ややかに言葉を返す。
ただそう問うた場合、既に手をつけてしまった餅の事をどう切り返してくるのか、
少しだけ興味があった。
毛利は一瞬瞳を見開いたが、すぐさま不遜に笑うと冷ややかに言葉を返す。
「あのような下賎な食物、全て野良猫にくれてやったわ。
『土産』などと恩着せがましく申すのであれば、
次からはせめて人が食す事の出来る代物を持ってまいれ…この田舎者めが」
『土産』などと恩着せがましく申すのであれば、
次からはせめて人が食す事の出来る代物を持ってまいれ…この田舎者めが」
「っつ!!!」
テメェさっき美味そうに喰ってただろうがっ!!!!
と口から出掛かったが、それを言ってしまえば多分即座に否定され、
あの時の笑みすら、うたかたの幻となって消えちまう…。
予感が胸をよぎり、俺はとっさに言葉を飲んだ。
と口から出掛かったが、それを言ってしまえば多分即座に否定され、
あの時の笑みすら、うたかたの幻となって消えちまう…。
予感が胸をよぎり、俺はとっさに言葉を飲んだ。
その一瞬の隙を突いて、毛利と長曾我部双方の重臣達が数人がかりで俺を毛利の目前から引き剥がす。
まぁそんな訳で、同盟の話し合いは綺麗さっぱり御破算。
だが派手にドンパチやり合うのも、互いに自重…てな羽目になって、
それきり四国と中国は多少の小競り合いを除いて、再び瀬戸内の対岸で睨み合う均衡状態が続いた。
まぁそんな訳で、同盟の話し合いは綺麗さっぱり御破算。
だが派手にドンパチやり合うのも、互いに自重…てな羽目になって、
それきり四国と中国は多少の小競り合いを除いて、再び瀬戸内の対岸で睨み合う均衡状態が続いた。