――再戦の機会は訪れなかった。
時は流れた。
隆盛を誇っていた織田が滅び、豊臣が消え、日の本の勢力図はわずか数年でまったく形を変えていた。
滅亡、併呑、淘汰。
武田家も、要の信玄が病に倒れ、今や風前の灯だった。
隆盛を誇っていた織田が滅び、豊臣が消え、日の本の勢力図はわずか数年でまったく形を変えていた。
滅亡、併呑、淘汰。
武田家も、要の信玄が病に倒れ、今や風前の灯だった。
自らの進むべき道を失った幸村は、どうすることもできなかった。
ひとりの力で天下の沙汰が変わることなどない。
もしそれが可能な人間がいるとして、それが自分でないことは確かだ。幸村は、無力さに打ちひしがれていた。
ひとりの力で天下の沙汰が変わることなどない。
もしそれが可能な人間がいるとして、それが自分でないことは確かだ。幸村は、無力さに打ちひしがれていた。
何をすべきか。何を為すべきか。
馬を繰って駆けた先はあの川中島で――そして水辺に竜を見つけた。
深い蒼の着流しは肌蹴きって、肩に引っかかっているだけ。
馬を繰って駆けた先はあの川中島で――そして水辺に竜を見つけた。
深い蒼の着流しは肌蹴きって、肩に引っかかっているだけ。
幸村は目を疑った。あらわになっている首筋から円い胸にかけて、点々と赤い跡が見える。
水べりで屈みこんでいた竜が、気配に気づいてふっと首を持ち上げた。
水べりで屈みこんでいた竜が、気配に気づいてふっと首を持ち上げた。
視線が交錯して、幸村の体内に炎の尾が生まれる。
(女性……これは、まことに伊達殿か?)
独眼竜は、悠然と視線を外して再び川に手を伸ばした。竜は水を統べるものだと言う。
眷属は雫となって、陽に焼けぬままの肌を滑り落ちる。赤い汚れを落としながら。
眷属は雫となって、陽に焼けぬままの肌を滑り落ちる。赤い汚れを落としながら。
(血……?)
「伊達殿! どこかお悪いのか!」
「伊達殿! どこかお悪いのか!」
人である限り病には勝てぬ。甲斐の虎と呼ばれ、文武に優れた武田信玄でさえも。
今の幸村には、破廉恥よりも恐れるものができてしまった。反射的に駆けよる。
今の幸村には、破廉恥よりも恐れるものができてしまった。反射的に駆けよる。
「Shut up ! うるさい!」
血を落とした政宗が叫び、犬でも追い払うように手を振った。後半の言葉だけ理解する。
「しかし、薬師に診せた方が」
「俺のじゃねえよ」
「俺のじゃねえよ」
そう言い放ち、肩を一度上下させ着物を羽織りなおす。肌蹴きっているのは直さぬまま。
「道中で襲われたから、斬ってきた。単に返り血だ」
こともなげに言う。幸村はもう知っている。襲うとは生命を狙うだけでなく、もうひとつの意味も持っている。
そして、独眼竜は笑った。
そして、独眼竜は笑った。
「……それより、ずいぶんな挨拶じゃねえか。人の裸を見といて一言もなしとはな、真田幸村」
――あのときの名乗りを、覚えていてくれたのか。
一度はおとなしくなった炎の尾が暴れ出す。政宗の笑みが消えた。
どちらともなく手を伸ばす。ぶつかるみたいに口づける。
どちらともなく手を伸ばす。ぶつかるみたいに口づける。
そして、あとはただ熱く熱く、燃えるように。




