一枚目は緑色を基調に、金糸の唐草模様が施された打掛…
多分これが毛利のいつも着ている服の雰囲気に一番近い。
二枚目は淡い桃色を基調に、銀糸で縫われた桜の花びらが幾重にも散りばめられた打掛…
毛利には案外こんなのも似合うんじゃねぇかと思う。
三枚目は純白を基調に、白の絹糸で菊や藤の花が刺繍された打掛…
こんな白無垢みてぇな打掛着て毛利が目前に現れたら、俺は間違いなくその場で毛利を掻っ攫う。
まぁ毛利ならどれでも、公家のお姫様みてぇに如才なく着こなすんだろうが…。
多分これが毛利のいつも着ている服の雰囲気に一番近い。
二枚目は淡い桃色を基調に、銀糸で縫われた桜の花びらが幾重にも散りばめられた打掛…
毛利には案外こんなのも似合うんじゃねぇかと思う。
三枚目は純白を基調に、白の絹糸で菊や藤の花が刺繍された打掛…
こんな白無垢みてぇな打掛着て毛利が目前に現れたら、俺は間違いなくその場で毛利を掻っ攫う。
まぁ毛利ならどれでも、公家のお姫様みてぇに如才なく着こなすんだろうが…。
「…………」
しばらくの間、元親はうんうん唸りながら畳の上に並べた三枚の打掛を見比べる。
だが吟味の末にやがて納得したような笑みを浮かべると、その内の一枚を目の前に広げた。
だが吟味の末にやがて納得したような笑みを浮かべると、その内の一枚を目の前に広げた。
「……やっぱ、これだな」
元親が選んだ純白の打掛を見て眩しそうに目を細めた後、家臣はそれを傍らに控えていた
侍女へと手渡す。
そして再び、長い廊下を歩き出した。
侍女へと手渡す。
そして再び、長い廊下を歩き出した。
「…では、次はこちらの部屋へどうぞ」
その後も畳一面に帯が敷き詰められた部屋から気に入った柄の帯を一つ選び、
次いで畳一面に髪飾りやかんざしが敷き詰められた部屋から気に入った形の髪飾りを一つ選び、
更に畳一面に扇が敷き詰められた部屋から気に入った柄の扇を一本選び、
極めつけは畳一面を埋め尽くすほど香炉が置かれた部屋から気に入った薫りの香を一つ選び…
日が暮れる頃になってようやく普通の客間に通されたと同時に、元親は精も根も尽き果て畳の上に突っ伏した。
次いで畳一面に髪飾りやかんざしが敷き詰められた部屋から気に入った形の髪飾りを一つ選び、
更に畳一面に扇が敷き詰められた部屋から気に入った柄の扇を一本選び、
極めつけは畳一面を埋め尽くすほど香炉が置かれた部屋から気に入った薫りの香を一つ選び…
日が暮れる頃になってようやく普通の客間に通されたと同時に、元親は精も根も尽き果て畳の上に突っ伏した。
…はぁ。
何も置かれてねぇただの畳の部屋を、これほどまでにありがたいと思った事はねぇな。
だがもしあれを全部毛利が身につけたら…きっとこの世の物とは思えねぇ程すっげぇ綺麗だぜ。
その姿を拝めるってんなら、この程度の苦労なんざ安いモンか。
って…ところで俺は一体いつになったら毛利に会えるんだ…?
何も置かれてねぇただの畳の部屋を、これほどまでにありがたいと思った事はねぇな。
だがもしあれを全部毛利が身につけたら…きっとこの世の物とは思えねぇ程すっげぇ綺麗だぜ。
その姿を拝めるってんなら、この程度の苦労なんざ安いモンか。
って…ところで俺は一体いつになったら毛利に会えるんだ…?
「…元就様はもう間もなくこちらへ参られますゆえ、
どうかそれまでごゆるりとお過ごしくだされ」
どうかそれまでごゆるりとお過ごしくだされ」
元親に対し一礼すると、家臣は襖を閉めようとする。
慌てて飛び起き、元親は家臣の背に声をかけた。
慌てて飛び起き、元親は家臣の背に声をかけた。
「なっ…なぁ、毛利はここ数ヶ月、どんな風に過ごしてたんだ?」
「別段、いつもと変わった様子は見受けられませぬ。
元就様はずっと自室に篭もり、物思いにふけっておられました」
元就様はずっと自室に篭もり、物思いにふけっておられました」
「物思い……って?」
「わかりませぬ。我々は元就様の御心の内をおもんばかる事は出来ぬのです」
「そっか…」
「……ただ…」
「………?」
「あれだけお考えを巡らせておられたにも関わらず、
元就様からたまわります御指示の量が、いつもに比べ少ないように感じました」
元就様からたまわります御指示の量が、いつもに比べ少ないように感じました」
「………………」
他国の者に余計な情報を漏らしたとなれば、おそらく元就から懲罰を受けるのだろう。
だから元親と半日近く一緒に居ても、この者は必要最低限の言葉しか発さなかった。
にも関わらず最後にあえて私見を付け加えたその気遣いに、元親は会釈で応える。
だから元親と半日近く一緒に居ても、この者は必要最低限の言葉しか発さなかった。
にも関わらず最後にあえて私見を付け加えたその気遣いに、元親は会釈で応える。
「…そっか…教えてくれてありがとうな」
毛利の家臣は元親の笑顔につられて笑みを浮かべかけた。
だが慌ててそれを取り繕うかのように大きな咳払いをすると、改めて神妙な面持ちを作る。
だが慌ててそれを取り繕うかのように大きな咳払いをすると、改めて神妙な面持ちを作る。
「………………」
無言のまま丁重に一礼して、静かに襖を閉めた毛利の家臣…。
その姿を見送ると無意識の内に張り詰めていた気持ちを緩ませ、元親は壁にもたれかかった。
そして己の屋敷とは異なる造りの天井をぼんやりと眺める。
その姿を見送ると無意識の内に張り詰めていた気持ちを緩ませ、元親は壁にもたれかかった。
そして己の屋敷とは異なる造りの天井をぼんやりと眺める。
ずっと何かを考えてた割に、家臣への指示の量が少なかった…って事は毛利の奴、
執務の合間にでも多少は俺の事を考えてくれたりしてた…のか?
まぁ考えて結論が出たからこそ、こうして俺の事を呼び出したんだろうが。
…駄目だ、あれこれ考えたって毛利と話さねぇ事には何も分からねぇ。
それより何より…あぁ、早く毛利の顔が見てぇな………。
執務の合間にでも多少は俺の事を考えてくれたりしてた…のか?
まぁ考えて結論が出たからこそ、こうして俺の事を呼び出したんだろうが。
…駄目だ、あれこれ考えたって毛利と話さねぇ事には何も分からねぇ。
それより何より…あぁ、早く毛利の顔が見てぇな………。
僅かながら複数の足音がこちらへ近づいてくる気配を察し、元親は慌てて姿勢を正す。
ほぼ同じタイミングで襖が開いて、元親が待ち焦がれて止まなかった元就その人が姿を現した。
ほぼ同じタイミングで襖が開いて、元親が待ち焦がれて止まなかった元就その人が姿を現した。