贅を尽くされた料理を黙々と食する元就を、元親はそっと見やる。
そしてふと気づいた事をそのまま口にした。
そしてふと気づいた事をそのまま口にした。
「なぁ、アンタ…ちょっと痩せたか?」
「別段目方に変わりは無い、貴様の気のせいであろう」
「そっか…なら良いんだけどよ」
安堵したように頷きながら盃片手に鍋をつつき始める元親を一瞥し、元就は僅かに瞳を伏す。
「そう言う貴様は、少々やつれたように見受けられるが」
「…そうか?
まぁ心当たり無い訳でもねぇが、俺のはただの不摂生っつーか…自業自得だ」
まぁ心当たり無い訳でもねぇが、俺のはただの不摂生っつーか…自業自得だ」
「心当たりが有るのであれば、即刻改善いたせ。
貴様は四国の主…なれば貴様の身は貴様だけの物では無いのだからな」
貴様は四国の主…なれば貴様の身は貴様だけの物では無いのだからな」
「…珍しいじゃねぇか。
アンタもしかして、俺の事心配してんのか?」
アンタもしかして、俺の事心配してんのか?」
「勘違いするでない、我は国主の心得を説いたまでの事」
それきり元就は、再び押し黙ったまま食事を続けた。
苦笑いした元親も次々と安芸の味覚を平らげながら、その趣き豊かな滋味の数々に舌鼓を打つ。
苦笑いした元親も次々と安芸の味覚を平らげながら、その趣き豊かな滋味の数々に舌鼓を打つ。
「……………」
数刻後、元親は満足げな眼差しであっと言う間に空になった膳の上を眺めた。
そして唯一…敢えて最後まで残しておいた一品に目を留める。
膳の隅にある大鉢に盛られていたのは、絶妙な焼き加減の炙り鰹だ。
箸で一切れ摘んで咀嚼すると、さっぱりとした鰹の芳醇な旨みが口中に広がる。
同時に元親の脳裏には、この鰹を獲るため屋敷を飛び出して行った大勢の兵達の姿が過ぎった。
そして唯一…敢えて最後まで残しておいた一品に目を留める。
膳の隅にある大鉢に盛られていたのは、絶妙な焼き加減の炙り鰹だ。
箸で一切れ摘んで咀嚼すると、さっぱりとした鰹の芳醇な旨みが口中に広がる。
同時に元親の脳裏には、この鰹を獲るため屋敷を飛び出して行った大勢の兵達の姿が過ぎった。
いくら『夕刻までに、必ずや主の客人の好物を獲よ』なんて命令されたからって、
兵士が慣れねぇ魚獲りをするなんざ普通に考えて無謀すぎる。
なのにあんな短時間でここまで上物の初鰹を献上して来たって事は…
アイツ等、一体どんだけ血眼になって海原を駆け回ったんだ?
兵士が慣れねぇ魚獲りをするなんざ普通に考えて無謀すぎる。
なのにあんな短時間でここまで上物の初鰹を献上して来たって事は…
アイツ等、一体どんだけ血眼になって海原を駆け回ったんだ?
「………………」
無論、自分と自分を慕う者達との関係性とはいささか異なる。
だがどんなに無茶な主の命令にも誠実に従う毛利の兵達の忠義に思いを馳せながら、
元親はじっくり味わうようにその鰹を食した。
そしてそのほとんどを平らげた後、元就に向き直る。
だがどんなに無茶な主の命令にも誠実に従う毛利の兵達の忠義に思いを馳せながら、
元親はじっくり味わうようにその鰹を食した。
そしてそのほとんどを平らげた後、元就に向き直る。
「なぁ、毛利」
「…何ぞ」
「これ釣る為に頑張ってくれた奴らに、俺が礼を言っていたと伝えてくれねぇか」
「貴様が他国の一兵卒ごときの事まで気にかける必要など無い。
駒共が我の命令に従うは当然の事ぞ」
駒共が我の命令に従うは当然の事ぞ」
「だがそいつ等が実際海に出て頑張って来てくれたおかげで、
こんなに美味い鰹を喰う事が出来たんじゃねぇか…感謝しねぇとな」
こんなに美味い鰹を喰う事が出来たんじゃねぇか…感謝しねぇとな」
そう言いながら最後の数切れの鰹に箸をつけようとした元親は、もう一度元就…
いや、正確に言うと元就の膳に視線を戻す。
元就の膳に、炙り鰹を盛った大鉢は乗っていなかった。
その代わりに置かれている小皿の上には、白、草色、桃色の小さな餅が並んでいる。
いや、正確に言うと元就の膳に視線を戻す。
元就の膳に、炙り鰹を盛った大鉢は乗っていなかった。
その代わりに置かれている小皿の上には、白、草色、桃色の小さな餅が並んでいる。
「…なぁ、アンタは鰹喰わねぇのか?」
「要らぬ。鰹など別に好きでも嫌いでも無い」
「でもこれ本っ当美味いぞ? もし嫌いじゃねぇなら食ってみろよ」
元親は残りの初鰹を全て箸で摘むと、片膝を付いて立ち上がり元就の横に回りこむ。
そしてしゃがみこんだ自分を怪訝そうな顔で見やる元就のすぐ口元に、炙り鰹を持っていった。
そしてしゃがみこんだ自分を怪訝そうな顔で見やる元就のすぐ口元に、炙り鰹を持っていった。
「………………」
一瞬の沈黙の後、元就は目障りだと言わんばかりに目前の鰹をはむっと口に含む。
そのままもくもくと咀嚼する元就を間近に臨み、元親は瞳を細めた。
そのままもくもくと咀嚼する元就を間近に臨み、元親は瞳を細めた。
「な…美味いだろ?」
「……………」
元就はあくまでも無言で…だが僅かながらも確かにコクリと頷く。
そんな元就の頭を撫で回したい衝動をすんでの所で堪えながら、元親も何度も頷いた。
そんな元就の頭を撫で回したい衝動をすんでの所で堪えながら、元親も何度も頷いた。
ああ…こんなに長い間、ケンカの一つもしねぇで毛利と同じ空間に居るのは初めてだ。
だがもし毛利と夫婦になったら、毎日こんな風に…って、いやいや…妄想はまだ早いぜ。
今はほんの少しでもこうして長く一緒に居られれば、それだけで十分だろ。
って…………確かにそうなんだが、何か大事な事忘れちゃいねぇか……?俺…。
だがもし毛利と夫婦になったら、毎日こんな風に…って、いやいや…妄想はまだ早いぜ。
今はほんの少しでもこうして長く一緒に居られれば、それだけで十分だろ。
って…………確かにそうなんだが、何か大事な事忘れちゃいねぇか……?俺…。
「……っ!!!??」




