今しがた目醒めたかのように我に返ると、元親はきちんと正座して姿勢を正す。
そして家臣達の目をはばかりつつも、草色の餅に手を伸ばしかけていた元就に小声で耳打ちした。
そして家臣達の目をはばかりつつも、草色の餅に手を伸ばしかけていた元就に小声で耳打ちした。
「ところで毛利、その…こないだの返事…は」
「かように人の多い所で、機密の話など出来ぬ」
「…そっ、そう…だよな…ははっ……は…」
元親は言葉では同意を示しながらも、肩をガックリ落としてうなだれる。
対照的に、元就は表情を変える事なく一口大の草色の餅を食した。
そしてそれを皮切りに瞬く間に白色の餅、桃色の餅へと進攻し、やがてそのいずれをも完食する。
対照的に、元就は表情を変える事なく一口大の草色の餅を食した。
そしてそれを皮切りに瞬く間に白色の餅、桃色の餅へと進攻し、やがてそのいずれをも完食する。
「……………………」
黙って空へと伸ばされた、元就の右手。
侍女の一人がうやうやしくその手を取り、適度に湿った木綿の布で丁寧に拭いた。
こうして手の穢れが払われると、元就はおもむろに立ち上がる。
侍女の一人がうやうやしくその手を取り、適度に湿った木綿の布で丁寧に拭いた。
こうして手の穢れが払われると、元就はおもむろに立ち上がる。
「長曾我部よ…我はこれにて休むが、貴様は心ゆくまでゆるりとくつろぐが良い」
「ちっ…ちょっと待ってくれ!」
元親はとっさに、歩き出しかけた元就の着衣の裾を掴んだ。
そして引っ張られた違和感がきっかけで振り返った元就に、真摯な眼差しで訴える。
そして引っ張られた違和感がきっかけで振り返った元就に、真摯な眼差しで訴える。
「その、後ほんの少しだけで良いからアンタにここに居て欲しいんだが…駄目か?」
「我は酒を嗜まぬゆえ、食事を終えた今この場に居てもする事が無い」
「別に酒じゃなくても、アンタはアンタの好きなモン食えば良いじゃねぇか」
「………………」
元就は天井の隅の辺りをジッと眺めた。
そして何やら思いを巡らせた後に、再び元親の隣に座り直す。
そして何やら思いを巡らせた後に、再び元親の隣に座り直す。
「…早々に膳を下げよ。
そして長曾我部殿には酒と肴を、我には濃茶と団子を持て」
そして長曾我部殿には酒と肴を、我には濃茶と団子を持て」
侍女達は一度元就達に平伏し、素早く食膳を下げる。
程なく入れ替わるようにして別な侍女が二人の前に新たな膳を運んできた。
銚子と黒い盃と酒の肴が数品、加えて抹茶の入った翡翠色の茶器にみたらし団子…。
元就はまずそれらを確かめるように膳を一瞥する。
次いで銚子に手を伸ばすと、視線だけで元親に盃を取るよう促した。
程なく入れ替わるようにして別な侍女が二人の前に新たな膳を運んできた。
銚子と黒い盃と酒の肴が数品、加えて抹茶の入った翡翠色の茶器にみたらし団子…。
元就はまずそれらを確かめるように膳を一瞥する。
次いで銚子に手を伸ばすと、視線だけで元親に盃を取るよう促した。
「おい…まさかアンタがお酌してくれるってのか!?」
「我の酌では酒が飲めぬと申すか」
「そうじゃねぇが、いくらなんでもアンタに侍女の真似事なんざさせらねれぇよ」
「長曾我部よ…貴様も客人と差しで酒を酌み交わす事があろう」
「…えっ…? あ、あぁ………」
「なれば我が女だからとて、余計な気遣いなど無用ぞ」
「…そっか…じゃぁ、せっかくだから遠慮なくいただくぜ」
滲み出る喜びに思わず口元を綻ばせたまま、元親は手にした盃を元就へと差し出す。
こんな風に毛利の方から進んで酌してくれるって事は、もしかして結構脈有り…なのか…?
いっ、いいや駄目だ駄目だ、はっきり告白の返事を聞くまで過度な期待は禁物だぜ。
…にしても、毛利の些細な一挙一動にこうまで浮かれたりへこんだりしちまうとは。
『惚れた弱み』とは良く言ったもんだ…。
いっ、いいや駄目だ駄目だ、はっきり告白の返事を聞くまで過度な期待は禁物だぜ。
…にしても、毛利の些細な一挙一動にこうまで浮かれたりへこんだりしちまうとは。
『惚れた弱み』とは良く言ったもんだ…。
トクトクトク…。
手にした漆黒の盃に無色透明な清酒がそそがれていく音に、元親自身の心音が重なる。
酒でいっぱいに満たされた盃に優しく口づけた後、元親はそれを一気に飲み干した。
手にした漆黒の盃に無色透明な清酒がそそがれていく音に、元親自身の心音が重なる。
酒でいっぱいに満たされた盃に優しく口づけた後、元親はそれを一気に飲み干した。
「………………」
まるで清水のようにすっきりとした飲み口だが、かなり度数の強い逸品なのだろう。
熱を帯びた竜が口内から喉元を通り体内へ直下していくかのような余韻を堪能した後に、
元親は大きな溜息を吐き出しながら感嘆の眼差しを元就へと向ける。
熱を帯びた竜が口内から喉元を通り体内へ直下していくかのような余韻を堪能した後に、
元親は大きな溜息を吐き出しながら感嘆の眼差しを元就へと向ける。
「…これ食事の時に飲んだのとは、全然味が違うな」
「いかにも。趣きの異なる酒も多少は必要かと、今宵のため遠方より取り寄せた銘酒ぞ」
「だろうな…さっきのも美味かったが、こりゃぁまた格別だ」
「……………」
「まぁ…格別美味いのは、アンタが注いでくれたからかもしれねぇけどな」




