次の瞬間、元親はつい漏らした軽口を悔いた。
元親の言葉を聞いて俯く寸前、元就の顔が不愉快そうにしかめられ紅潮したのを見たからだ。
元親の言葉を聞いて俯く寸前、元就の顔が不愉快そうにしかめられ紅潮したのを見たからだ。
やべぇ、うっかり口を滑らせちまった。
…毛利の奴、凄ぇ顔真っ赤にして怒っちまったじゃねぇか…。
…毛利の奴、凄ぇ顔真っ赤にして怒っちまったじゃねぇか…。
「……………」
………………んっ?
…まさかこれ、怒ってるんじゃなくて……毛利の奴、照れて…?
いや、わっ…分かんねぇぞ??
ちくしょう…確かめようにも俯いてっから、顔も全然見えねぇしよぉ…っ!!
…まさかこれ、怒ってるんじゃなくて……毛利の奴、照れて…?
いや、わっ…分かんねぇぞ??
ちくしょう…確かめようにも俯いてっから、顔も全然見えねぇしよぉ…っ!!
「……かような戯言を、家臣達の前で軽々しく口にするでない……」
「…えっ? あっ、あぁ……悪ぃ……」
「……………」
「………………」
室内に篭もった言い得ぬ空気を払うかのように、元就は元親の胸元へグイッと銚子を突き出した。
元親も元就の表情が見えぬもどかしさを押し殺す為、盃にそそがれた酒を一気に飲み干す。
また間髪入れずに元就がそそいだ酒を、元親もまた呷り…。
二人はしばらくの間ぎこちなく、黙々とそそぎ呷りを繰り返した。
元親も元就の表情が見えぬもどかしさを押し殺す為、盃にそそがれた酒を一気に飲み干す。
また間髪入れずに元就がそそいだ酒を、元親もまた呷り…。
二人はしばらくの間ぎこちなく、黙々とそそぎ呷りを繰り返した。
「…そっ、そうだ!! そう言やぁ、こないだ慶次の奴がウチに来て…」
さっ…さすがに何か喋らねぇと、間が持たねぇ…。
だが俺が本当にしてぇのは、こんな話じゃなくて…もっと、こう…。
だが俺が本当にしてぇのは、こんな話じゃなくて…もっと、こう…。
内心悶々としつつも、元親は当たり障りの無い世間話を絶え間なく元就に喋り続ける。
そして俯いたままの元就も、その話に時折あいづちを打つ。
…にも関わらず、何故か互いのそそぎ呷りのペースは全く衰える事を知らず。
しばしの語らいの後、元就のかたわらに整然と並べられた空の銚子は七本に達していた。
すっかり酩酊した元親の顔は火照って赤らみ、その心臓が奏でる鼓動も随分と高鳴っていた。
そしてそれに比例するように、まぶたは心地よいまどろみに誘われてどんどん重くなる。
そして俯いたままの元就も、その話に時折あいづちを打つ。
…にも関わらず、何故か互いのそそぎ呷りのペースは全く衰える事を知らず。
しばしの語らいの後、元就のかたわらに整然と並べられた空の銚子は七本に達していた。
すっかり酩酊した元親の顔は火照って赤らみ、その心臓が奏でる鼓動も随分と高鳴っていた。
そしてそれに比例するように、まぶたは心地よいまどろみに誘われてどんどん重くなる。
やべぇ…眠くなってきやがった。
だがこの場で酒を飲んでいるのは俺だけだ。
って事は俺が飲むのを止めたら…宴は自然とお開きになる。
駄目だ、もう少し…ほんの少しでも長く、毛利と一緒に居てぇ-
だがこの場で酒を飲んでいるのは俺だけだ。
って事は俺が飲むのを止めたら…宴は自然とお開きになる。
駄目だ、もう少し…ほんの少しでも長く、毛利と一緒に居てぇ-
元親はゆるゆる頭を振ってなんとか睡魔を追い払う。
次いでとろんとした眼差しで、まだ膳の上に乗っている団子に目を留めた。
次いでとろんとした眼差しで、まだ膳の上に乗っている団子に目を留めた。
「アンタは…甘味が好きなんだな」
「左様…」
「なぁ、その…せっかくだから、互いの好きな物の話でもしようぜ…?
アンタは甘味と、おてんと様と……他には何が好きなんだ?」
アンタは甘味と、おてんと様と……他には何が好きなんだ?」
「……………」
「俺は…そうだな、以前は腕に覚えの有る奴と闘り合ったり、その後で一緒に酒飲んだり、
船で大海原を気ままに駆け巡ってお宝探したり、野郎共と飲めや歌えやの大宴会したり…
楽しくて凄ぇ好きだった…
…だが…最近は…もっぱら……アンタの事………ばかり…………」
船で大海原を気ままに駆け巡ってお宝探したり、野郎共と飲めや歌えやの大宴会したり…
楽しくて凄ぇ好きだった…
…だが…最近は…もっぱら……アンタの事………ばかり…………」
ろれつが回らなくなった元親はとうとう睡魔に屈し、二度三度小さく横に揺れた。
その上ついには元就のなで肩に頭を乗せて、幼子のようにうとうと居眠りを始める。
部屋の隅に控えていた家臣や侍女達は、そのありさまを見て唖然とした。
だがその状況をまじまじと目に留めること自体、主への不敬に当たると考えたのだろう。
不躾にもたれかかってきた客人にも主が一切無反応である以上、従者である一同もそれに倣い…
さりげなく二人から視線を外すと、それきり微動だにせず畳を凝視する。
その上ついには元就のなで肩に頭を乗せて、幼子のようにうとうと居眠りを始める。
部屋の隅に控えていた家臣や侍女達は、そのありさまを見て唖然とした。
だがその状況をまじまじと目に留めること自体、主への不敬に当たると考えたのだろう。
不躾にもたれかかってきた客人にも主が一切無反応である以上、従者である一同もそれに倣い…
さりげなく二人から視線を外すと、それきり微動だにせず畳を凝視する。
誰かが息を飲む音すら聞こえそうな静けさの中。
元就はそっと、自分に対して無防備に身を預け熟睡している元親に視線を向けた。
加えて自身の頬を少しだけ元親の柔らかな銀髪へと傾け、瞳をつむる。
元就はそっと、自分に対して無防備に身を預け熟睡している元親に視線を向けた。
加えて自身の頬を少しだけ元親の柔らかな銀髪へと傾け、瞳をつむる。
「………………」
しかしそれはほんのひと時の合間の出来事に過ぎず。
やがて元就はうたかたの夢から目覚めたかのように、ゆっくり瞼を開ける。
そして姿勢を正すといつもと変わらぬ表情、声音でただ一言だけ家臣達へ指示を下した。
やがて元就はうたかたの夢から目覚めたかのように、ゆっくり瞼を開ける。
そして姿勢を正すといつもと変わらぬ表情、声音でただ一言だけ家臣達へ指示を下した。
「…長曾我部殿は長旅でお疲れぞ、早々に寝床にお連れするがよい」
止まっていた室内の時は元就の命令を合図に再び流れ、家臣達がいっせいに慌ただしく動き出す。
だがたとえその言葉に従おうとも、元就の胸中を推し量る事が出来る者は誰一人として居なかった。
だがたとえその言葉に従おうとも、元就の胸中を推し量る事が出来る者は誰一人として居なかった。




