清かに吹く微風の中、睨み合う長政と元就の沈黙を破ったのは市であった。
事もあろうに、
「可愛い人…お人形さんみたい」
などと、元就の思考の範囲外の言葉で彼女を評した声で。
呆れて視線を市の顔に移せば、市はうっとりと胸元で手を合わせ元就に対する微笑みを深くする。
成る程。これがこの浅井の手か。
正義だ理だと、さも清廉潔白な自身を強調しておいて、本当の所は甘言と色香で人心を惑わす。
元就の背に悪寒が走る。
「戯言はそれだけか。…汚らわしきは、浅井、その方らだ。
我が直々に削除してやろう。貴様らに倣って、な」
喉を絞るように出した低い声音は、女と気取られぬようにとの演技ではなく、
不快さから来る本心のものである。しかし、そんな元就を無視して、市は何やら、
何もない空中を見上げ、ぽそぽそと、時折軽く笑って呟いていた。
まるでそこに誰かかいて、会話するかのように。
元就は不審に思うが、すぐに『物狂いであったか』と得心する。
自身の理論に狂信的な夫と、夢と現の別が判らぬ妻。似合いではないか。
共に地の獄に送ってやろう。構わず、元就が輪刀を振り上げると、市がまた彼女をしかと見据えて言った。
その笑みは花の如く可憐。
事もあろうに、
「可愛い人…お人形さんみたい」
などと、元就の思考の範囲外の言葉で彼女を評した声で。
呆れて視線を市の顔に移せば、市はうっとりと胸元で手を合わせ元就に対する微笑みを深くする。
成る程。これがこの浅井の手か。
正義だ理だと、さも清廉潔白な自身を強調しておいて、本当の所は甘言と色香で人心を惑わす。
元就の背に悪寒が走る。
「戯言はそれだけか。…汚らわしきは、浅井、その方らだ。
我が直々に削除してやろう。貴様らに倣って、な」
喉を絞るように出した低い声音は、女と気取られぬようにとの演技ではなく、
不快さから来る本心のものである。しかし、そんな元就を無視して、市は何やら、
何もない空中を見上げ、ぽそぽそと、時折軽く笑って呟いていた。
まるでそこに誰かかいて、会話するかのように。
元就は不審に思うが、すぐに『物狂いであったか』と得心する。
自身の理論に狂信的な夫と、夢と現の別が判らぬ妻。似合いではないか。
共に地の獄に送ってやろう。構わず、元就が輪刀を振り上げると、市がまた彼女をしかと見据えて言った。
その笑みは花の如く可憐。
「あなた…兵のみんなに、ご褒美で自分の体を…脚を、開いているのね」
ざわりと、背後の兵士達がどよめいた。
元就も、まさかの言葉に頬が強張る。
何?何と?何と言ったあの女は。
どういう事だ?と口を開いたのは長政で、市の言葉をよく聞こうとわずかに身をかがめる。
市は、わざと大仰にしているのか、幼子の内緒話のように両手を口に添え、夫の耳元で囁く。
しばしの後、話を聞き終えたのか長政は、ただ無言でしかめ面を元就に向ける。そして、
「汚い…中国はこのような淫猥な女に掌握されていたというのか。大毛利が聞いて呆れる」
元就も、まさかの言葉に頬が強張る。
何?何と?何と言ったあの女は。
どういう事だ?と口を開いたのは長政で、市の言葉をよく聞こうとわずかに身をかがめる。
市は、わざと大仰にしているのか、幼子の内緒話のように両手を口に添え、夫の耳元で囁く。
しばしの後、話を聞き終えたのか長政は、ただ無言でしかめ面を元就に向ける。そして、
「汚い…中国はこのような淫猥な女に掌握されていたというのか。大毛利が聞いて呆れる」
ざわざわと元就の首筋が屈辱に粟立った。
密偵がいたのだろう。きっとそうだ。そうでなければあの件は外部に知られようはずもない。
兵達にさえ、褒美の内容は大っぴらにはふれてはいないのだ。
密かに、功績を挙げた者にだけ与える直前でそうと示す。
人の口に戸は立てられぬものであるから、褒美を賜った者は仲間に伝えていくだろう。
それでいい。あけすけなものは飽きが早い。確信も持てずに夢想するものこそ、
長く、確実に人の心を縛るのだ。
背徳を利用するのは何も元就だけではない。目の前の女だって、何も変わらない。
そう、だから、元就が恥じるのは、みすみす密偵を見逃していたうかつさだけで、
こんな、こんな相手に、屈辱を感じる必要などは、決して…
元就の眉が歪む。頬の強張りは強くなる。
彼女が必死に心を静めようとしているのを知ってか知らずか、…楽しそうな笑顔は、
確実にわかっていて浮かべるそれだけれども、市は声を弾ませて言葉を繋げる。
密偵がいたのだろう。きっとそうだ。そうでなければあの件は外部に知られようはずもない。
兵達にさえ、褒美の内容は大っぴらにはふれてはいないのだ。
密かに、功績を挙げた者にだけ与える直前でそうと示す。
人の口に戸は立てられぬものであるから、褒美を賜った者は仲間に伝えていくだろう。
それでいい。あけすけなものは飽きが早い。確信も持てずに夢想するものこそ、
長く、確実に人の心を縛るのだ。
背徳を利用するのは何も元就だけではない。目の前の女だって、何も変わらない。
そう、だから、元就が恥じるのは、みすみす密偵を見逃していたうかつさだけで、
こんな、こんな相手に、屈辱を感じる必要などは、決して…
元就の眉が歪む。頬の強張りは強くなる。
彼女が必死に心を静めようとしているのを知ってか知らずか、…楽しそうな笑顔は、
確実にわかっていて浮かべるそれだけれども、市は声を弾ませて言葉を繋げる。
「いいのよ?何も恥ずかしがることはないの。
兵のみんなはあなたを愛してるし…あなただって、愛されて嬉しいのでしょう?
もう、淋しくないのだもの。」
兵のみんなはあなたを愛してるし…あなただって、愛されて嬉しいのでしょう?
もう、淋しくないのだもの。」
かっと、頬を紅潮させて元就は市を睨む。
それでもなお臆する事無く微笑む市が心から憎い。
人を、淫らな女のように決め付けて。
大体、褒美にしたところで初めから望んだ事ではなかった。
成り行き上、仕方なく、ああ、そうしなければ壊れてしまいそうだったから。
それでもなお臆する事無く微笑む市が心から憎い。
人を、淫らな女のように決め付けて。
大体、褒美にしたところで初めから望んだ事ではなかった。
成り行き上、仕方なく、ああ、そうしなければ壊れてしまいそうだったから。
最初に…脚を、体を開かされたのは、無理矢理にだった。
寝屋に自軍の兵達が入り込んできて、無防備だった元就は、
複数の男達に、もう何人いたかも定かではないが、取り囲まれて、蹂躙された。
寝屋に自軍の兵達が入り込んできて、無防備だった元就は、
複数の男達に、もう何人いたかも定かではないが、取り囲まれて、蹂躙された。
忌まわしいあの夜は月が明るく、元就は目を逸らす事さえ恐ろしく、
ただ、こんな形で処女を散らされる自らの体を見ている事しか出来ずにいたのだった。
ただ、こんな形で処女を散らされる自らの体を見ている事しか出来ずにいたのだった。