毛利一行は安芸から九州方面の海をぐるりと回り、長い船旅を終え、
土佐・岡豊城のある浜辺へ着いた。
本州側を避けたのは、織田と豊臣の睨み合いに巻き込まれるのを避けたためである。
九州北部に奇妙な南蛮の宗派が居座っているようだが、それらは海上での戦は得意とはしておらず、
薩摩の島津氏の長も元親と同じく、戦は楽しむものとの考えであり、
航海中の毛利を攻撃してくる事はまずありえなかった。
(北も東もせせこましくていけねぇよな。)
島津のおっちゃん元気かなー、に始まり、元親は浜辺でぼんやり日の本の情勢を考えながら
船から降りて来る毛利兵達を眺めていた。
今ではすっかり好敵手の奥州の竜によると、北は雪害のためただ黙っているだけではすぐ飢え死ぬ。
だから、只でさえ暮らし向きが豊かにはなり難いのに乱世が続けば国の礎である民は滅んでしまう。
せせこましくなるのは当然か、と頭では理解するものの、
土佐の温暖な気候と、豊かな幸を授けてくれる海をこうして眺めているとそんな緊迫感は薄れゆく。
「お?総大将のおでましか?」
毛利軍の列の後方に、今までの兵とは趣の違う影が見えた。
狩衣姿の人物は、後ろに長く曲線を描いた兜を含めても随分と細く小さい。
「なんか、弱っそうな奴ですなアニキ」
「そうだな…知略を巡らすのが得意っつっても、あれじゃただのせこい小男だな」
からからと笑って、元親は毛利元就に大股で歩み寄る。
対面を果たした毛利は、兜ですっかり目を隠し、鼻から下は金糸雀色の薄布で覆っていた。
(顔見えねぇよ…)少しムッとしながらも顔には出さず、快活に笑って握手を求める。
「俺が長曾我部元親だ。よろしくな」
元親が差し出した手から遅れること幾拍か、毛利はやっと握手に応えた。
「毛利、元就だ」
ぽそりとそれだけ呟くと、毛利はすぐ手を離した。
握った手がまたやたら華奢だったのが気になりながらも、
毛利から発せられる冷たい空気に心が沈んでいくのを元親は感じる。
(俺、この短時間でなんか怒らせるような事したか?)
背後で落ち着きなくざわめく長曾我部軍の態度と、
己の国主らしくない身なりには気にも留めず元親はこれからの交渉の行く末を不安に思う。
(それにしても、だ)
勝手にさっさと歩き始めた毛利元就の後姿を見て、違和感を覚える。
ゆったりとした衣服を身に纏いながらも、それでも際立つ腰の細さ。
そこからふわりと広がる骨盤と小さな膝裏、折れそうな足首。
(…男?)
ぎゃあぎゃあと、春だというのにいまだ土佐に残る海鳥が騒ぐ。
元親は、なんとなく心に芽生えはじめた奇妙な高揚感を楽しむ事にした。
土佐・岡豊城のある浜辺へ着いた。
本州側を避けたのは、織田と豊臣の睨み合いに巻き込まれるのを避けたためである。
九州北部に奇妙な南蛮の宗派が居座っているようだが、それらは海上での戦は得意とはしておらず、
薩摩の島津氏の長も元親と同じく、戦は楽しむものとの考えであり、
航海中の毛利を攻撃してくる事はまずありえなかった。
(北も東もせせこましくていけねぇよな。)
島津のおっちゃん元気かなー、に始まり、元親は浜辺でぼんやり日の本の情勢を考えながら
船から降りて来る毛利兵達を眺めていた。
今ではすっかり好敵手の奥州の竜によると、北は雪害のためただ黙っているだけではすぐ飢え死ぬ。
だから、只でさえ暮らし向きが豊かにはなり難いのに乱世が続けば国の礎である民は滅んでしまう。
せせこましくなるのは当然か、と頭では理解するものの、
土佐の温暖な気候と、豊かな幸を授けてくれる海をこうして眺めているとそんな緊迫感は薄れゆく。
「お?総大将のおでましか?」
毛利軍の列の後方に、今までの兵とは趣の違う影が見えた。
狩衣姿の人物は、後ろに長く曲線を描いた兜を含めても随分と細く小さい。
「なんか、弱っそうな奴ですなアニキ」
「そうだな…知略を巡らすのが得意っつっても、あれじゃただのせこい小男だな」
からからと笑って、元親は毛利元就に大股で歩み寄る。
対面を果たした毛利は、兜ですっかり目を隠し、鼻から下は金糸雀色の薄布で覆っていた。
(顔見えねぇよ…)少しムッとしながらも顔には出さず、快活に笑って握手を求める。
「俺が長曾我部元親だ。よろしくな」
元親が差し出した手から遅れること幾拍か、毛利はやっと握手に応えた。
「毛利、元就だ」
ぽそりとそれだけ呟くと、毛利はすぐ手を離した。
握った手がまたやたら華奢だったのが気になりながらも、
毛利から発せられる冷たい空気に心が沈んでいくのを元親は感じる。
(俺、この短時間でなんか怒らせるような事したか?)
背後で落ち着きなくざわめく長曾我部軍の態度と、
己の国主らしくない身なりには気にも留めず元親はこれからの交渉の行く末を不安に思う。
(それにしても、だ)
勝手にさっさと歩き始めた毛利元就の後姿を見て、違和感を覚える。
ゆったりとした衣服を身に纏いながらも、それでも際立つ腰の細さ。
そこからふわりと広がる骨盤と小さな膝裏、折れそうな足首。
(…男?)
ぎゃあぎゃあと、春だというのにいまだ土佐に残る海鳥が騒ぐ。
元親は、なんとなく心に芽生えはじめた奇妙な高揚感を楽しむ事にした。




