「……そういえばアイツ、オトコが出来たんだよな……いいなぁ………」
この日の為に取り寄せた舶来の下着に足を通しながら、政宗は正直な胸の内を吐
露した。
露した。
一方。
奥州を目指す長曾我部の海賊船では、元親が自室の引き出しを引っくり返しなが
ら、大騒ぎをしていた。
「あぁもう!こんな事なら、こないだの南蛮交易の時に、兵器だけじゃなくて、
向こうの装飾品やら服やら手に入れとくんだったーっ!」
「お、お嬢。何もそこまでこだわらなくても、お嬢の美貌なら、奥州の伊達なん
て目じゃな…」
「うるせぇ!今頃アイツは地元の奥州で、俺が来るのを準備万端待ち構えてるん
だぞ!そんなアイツに、生半可な小細工が通用するかよ!?どうしよう…これは
こないだ着ちゃったし、この帯もその前に……」
悔しいが、均整の取れた体躯と、センスの良さを併せ持つ政宗に対抗するには、
自分の特徴を生かすしかない。
かといって、そればかりでは品がないので、小物や見えない所にも細心の注意を
払う必要があるのだ。
「あの、お嬢…?」
船内の元親の部屋は、本人以外の立ち入りは一切禁止なので、海賊達は、扉の前
でビクビクしながら事の成り行きを見守っている。
「……もういい。お洒落は足元からって言うし、つまくれない(マニキュア)し
てから、前に南蛮の行商人に貰った『さんだる』に飾り紐付けて、後は有り合わ
せのモンで何とかする!あ~…今が夏で良かったぁ……」
漸く方針の決まった元親は、政宗との対面を前に最後の確認に入った。
トンボ玉を細工した耳飾りが映えるように銀髪を編み込むと、器用にアップに結
い上げる。
「アイツくらい真っ直ぐな髪だったら、下ろしてても綺麗なんだろうな……」
以前より伸びたとはいえ、クセの強い自分の髪は、油断をするとすぐ方々に跳ね
てしまうのだ。
奥州を目指す長曾我部の海賊船では、元親が自室の引き出しを引っくり返しなが
ら、大騒ぎをしていた。
「あぁもう!こんな事なら、こないだの南蛮交易の時に、兵器だけじゃなくて、
向こうの装飾品やら服やら手に入れとくんだったーっ!」
「お、お嬢。何もそこまでこだわらなくても、お嬢の美貌なら、奥州の伊達なん
て目じゃな…」
「うるせぇ!今頃アイツは地元の奥州で、俺が来るのを準備万端待ち構えてるん
だぞ!そんなアイツに、生半可な小細工が通用するかよ!?どうしよう…これは
こないだ着ちゃったし、この帯もその前に……」
悔しいが、均整の取れた体躯と、センスの良さを併せ持つ政宗に対抗するには、
自分の特徴を生かすしかない。
かといって、そればかりでは品がないので、小物や見えない所にも細心の注意を
払う必要があるのだ。
「あの、お嬢…?」
船内の元親の部屋は、本人以外の立ち入りは一切禁止なので、海賊達は、扉の前
でビクビクしながら事の成り行きを見守っている。
「……もういい。お洒落は足元からって言うし、つまくれない(マニキュア)し
てから、前に南蛮の行商人に貰った『さんだる』に飾り紐付けて、後は有り合わ
せのモンで何とかする!あ~…今が夏で良かったぁ……」
漸く方針の決まった元親は、政宗との対面を前に最後の確認に入った。
トンボ玉を細工した耳飾りが映えるように銀髪を編み込むと、器用にアップに結
い上げる。
「アイツくらい真っ直ぐな髪だったら、下ろしてても綺麗なんだろうな……」
以前より伸びたとはいえ、クセの強い自分の髪は、油断をするとすぐ方々に跳ね
てしまうのだ。
余所の土地から日の本へと流れ着いた祖先を持つ自分とは違い、政宗は、かつて
京の都を席巻していた貴族の流れを汲む、れっきとした良家の子女である。
奥州伊達軍の筆頭として、部下達を纏め上げる度量とカリスマ性に加え、何より
彼女の傍には『竜の右目』の異名を持つ彼がいる。
年上好きで、どちらかといえば面食いな元親にとって、彼はまさに好みのタイプ
の男性だが、生憎彼には政宗以外の女性は、まるで興味がない。
それに。
「他の男の事考えてるなんて、『アイツ』に知られたら、何されるか判ったもんじ
ゃないしな…」
最後に政宗と顔を合わせた後で、元親は、瀬戸内のとある武将と男女の関係になった。
だが、それまで戦いと海の事以外、殆ど何も知らなかった元親は、半ば強引に関係
を結ばされたのもあってか、実は未だに彼の気持ちが判らないでいた。
「俺に近付いたのも、単に兵器や船が目当てかもしれないし…あるいは……」
現代と違い、当時は和服の似合う慎ましやかな体型が美徳とされていて、いわゆる
元親のようなプロポーションは、「はしたない」「みっともない」と見なされてい
たのである。
だから、元親は、彼が自分を抱くのも、「蓼食う虫も好き好き」も通り越えて、単
に興味本位だけなのではないか、そして飽きたら捨てられるのではないか、という
疑念すら抱いているのだ。
京の都を席巻していた貴族の流れを汲む、れっきとした良家の子女である。
奥州伊達軍の筆頭として、部下達を纏め上げる度量とカリスマ性に加え、何より
彼女の傍には『竜の右目』の異名を持つ彼がいる。
年上好きで、どちらかといえば面食いな元親にとって、彼はまさに好みのタイプ
の男性だが、生憎彼には政宗以外の女性は、まるで興味がない。
それに。
「他の男の事考えてるなんて、『アイツ』に知られたら、何されるか判ったもんじ
ゃないしな…」
最後に政宗と顔を合わせた後で、元親は、瀬戸内のとある武将と男女の関係になった。
だが、それまで戦いと海の事以外、殆ど何も知らなかった元親は、半ば強引に関係
を結ばされたのもあってか、実は未だに彼の気持ちが判らないでいた。
「俺に近付いたのも、単に兵器や船が目当てかもしれないし…あるいは……」
現代と違い、当時は和服の似合う慎ましやかな体型が美徳とされていて、いわゆる
元親のようなプロポーションは、「はしたない」「みっともない」と見なされてい
たのである。
だから、元親は、彼が自分を抱くのも、「蓼食う虫も好き好き」も通り越えて、単
に興味本位だけなのではないか、そして飽きたら捨てられるのではないか、という
疑念すら抱いているのだ。
「政宗ならきっと、男なんてよりどりみどりなんだろうな……いいなぁ………」
鏡の向こうの冴えない自分を見て、元親は改めて溜息を吐いた。