「なあ、政宗。こないだお前がくれた野菜、小十郎さんが作ってるってホントか?」
政宗の言葉を遮るように、明るく大きな元親の声が、沈みかけた周囲の空気を吹き飛ば
した。
「あ…?ああ。伊達家の敷地内に、小十郎の作った畑があるぜ」
「そうなのか?こないだお裾分けで貰った野菜が、凄く美味かったんだ。四国の実家に
も野菜を作ってる畑があんだけど、そこで取れるモノとは、全然違うんだよなぁ」
『西国の鬼』の異名を持つ元親は、実は肉よりも魚、そして己の肌の為にと野菜を特に好んで食している。
そんな元親にとって、小十郎が栽培したという野菜は、実家の野菜とは違った美味さがあり、実は密かに今回の奥州入りの際、政宗に会う目的の他に、件の野菜の秘訣を教えて貰おうと思っていたのである。
した。
「あ…?ああ。伊達家の敷地内に、小十郎の作った畑があるぜ」
「そうなのか?こないだお裾分けで貰った野菜が、凄く美味かったんだ。四国の実家に
も野菜を作ってる畑があんだけど、そこで取れるモノとは、全然違うんだよなぁ」
『西国の鬼』の異名を持つ元親は、実は肉よりも魚、そして己の肌の為にと野菜を特に好んで食している。
そんな元親にとって、小十郎が栽培したという野菜は、実家の野菜とは違った美味さがあり、実は密かに今回の奥州入りの際、政宗に会う目的の他に、件の野菜の秘訣を教えて貰おうと思っていたのである。
「小十郎さん。これからその畑へ案内して貰えないか?俺、アンタの作ったあの美味い野菜が、どんな風に栽培されてるのか、どうしても知りたいんだ」
「いや…しかし…」
「お願い!この通り!」
「……」
一国の主に拝む真似までされてしまっては、小十郎も大人しく首肯するしか出来ない訳で。
「付いて来い」と短く告げると、何やら形容し難い表情のまま、元親を連れて歩き始めた。
小十郎の先導で、政宗と幸村の前を通り過ぎようとした元親は、政宗に顔を寄せるとぼそりと囁く。
「いや…しかし…」
「お願い!この通り!」
「……」
一国の主に拝む真似までされてしまっては、小十郎も大人しく首肯するしか出来ない訳で。
「付いて来い」と短く告げると、何やら形容し難い表情のまま、元親を連れて歩き始めた。
小十郎の先導で、政宗と幸村の前を通り過ぎようとした元親は、政宗に顔を寄せるとぼそりと囁く。
「貸しひとつ、だぜ♪」
「……わーってるよ。礼は舶来の服と下着でいいか?」
「菓子も付けろよ」
「それは欲張りすぎだ!小十郎の野菜でevenだろが!」
「……わーってるよ。礼は舶来の服と下着でいいか?」
「菓子も付けろよ」
「それは欲張りすぎだ!小十郎の野菜でevenだろが!」
かしましく何やら算段をしている東西の姉貴達を、今ひとつ状況を飲み込めていない幸村は、半ば見惚れたまま傍観者に徹していた。
小十郎の菜園に案内された元親は、そこに実っている作物に、目を丸くさせた。
「凄ぇや。菜っ葉の付き方や、作物の種類も、四国とは随分違うんだ」
「……奥州と四国じゃ、気候も土壌も違う。逆に、こっちじゃ日当たりが命といわれる柑橘類は、どうも上手く実らねぇ」
「なるほどなあ」
興味深そうに畑の野菜を眺めている元親に、悪い気はしないものの、小十郎は気難しい表情は崩さずに、横目で元親を軽く睨んだ。
「お前の野菜好きは、政宗様から聞いた事があるから、あながちウソではないんだろう
が…さっきは、よくもチンケな策、弄(ろう)してくれたもんだな」
「え?何の事だよ」
「とぼけんじゃねぇ。俺を政宗様から引き離す為に、白々しい芝居打ちやがって」
「馬に蹴られる寸前の、小姑根性丸出しの男に言われたくないね。あのふたりが好き合
ってる事くらい、じゅうぶん判るだろうが。一体、何が気に入らねぇんだよ?真田は、
いいヤツじゃないか」
「アイツが悪いヤツじゃねぇって事くらい、俺だって判ってる。……ただ、政宗様にはもっと相応しいお相手がいる。そして、それはアイツじゃないってだけだ」
「ウソだね」
小十郎の返事を聞いた元親は、即座に否定の相槌を打つ。
「たとえ時の将軍様でも、京の帝様でも、アンタが認めようとする男なんざ、いないんだろ?」
「──ナマ言うのも、程ほどにしとけや、小娘…」
「…ハッ!じゃあ、そんな小娘に図星指されてるアンタは、何なんだよ」
「凄ぇや。菜っ葉の付き方や、作物の種類も、四国とは随分違うんだ」
「……奥州と四国じゃ、気候も土壌も違う。逆に、こっちじゃ日当たりが命といわれる柑橘類は、どうも上手く実らねぇ」
「なるほどなあ」
興味深そうに畑の野菜を眺めている元親に、悪い気はしないものの、小十郎は気難しい表情は崩さずに、横目で元親を軽く睨んだ。
「お前の野菜好きは、政宗様から聞いた事があるから、あながちウソではないんだろう
が…さっきは、よくもチンケな策、弄(ろう)してくれたもんだな」
「え?何の事だよ」
「とぼけんじゃねぇ。俺を政宗様から引き離す為に、白々しい芝居打ちやがって」
「馬に蹴られる寸前の、小姑根性丸出しの男に言われたくないね。あのふたりが好き合
ってる事くらい、じゅうぶん判るだろうが。一体、何が気に入らねぇんだよ?真田は、
いいヤツじゃないか」
「アイツが悪いヤツじゃねぇって事くらい、俺だって判ってる。……ただ、政宗様にはもっと相応しいお相手がいる。そして、それはアイツじゃないってだけだ」
「ウソだね」
小十郎の返事を聞いた元親は、即座に否定の相槌を打つ。
「たとえ時の将軍様でも、京の帝様でも、アンタが認めようとする男なんざ、いないんだろ?」
「──ナマ言うのも、程ほどにしとけや、小娘…」
「…ハッ!じゃあ、そんな小娘に図星指されてるアンタは、何なんだよ」
仁吼義侠の猛者、と謳われる自分を相手に一歩も引かない西国の鬼の隻眼を、小十郎は忌々しげに睨み付けた。




