『■■、■■ーっ、枝が!』
名を呼ぶと、どこにもいなかったはずの姿が地中から現れる。
『あらららら、何でこんなかっこうなの、ダメでしょ』
木の枝に引っかかってぼろぼろに乱れた衣を、大きな手のひらが器用に外して前をかき合せる。
『何してたの?』
鳥の足をつかみたかったんだと言うと、がっくりと肩が落ちた。
『何考えてるの』
しのびになりたいと、一生懸命に訴える。
しのびは父様のような、凄く強い人も支えられるから。
空を飛んだり、土にもぐりこんで消えたりできるから、すじがいいなら、がんばったらしのびになれる?
『うわああああ、凄いこと考えたねえ。忍びじゃなくたって支えられるでしょ?』
でも、しのびは空を飛べる。地面にするりともぐりこめる。
『そうだね、■様。でもねー、忍びはゴボウもニンジンもオクラも食べられない■様には難しいかも』
苦手なものを並べられて、どうして知っているのと、笑みの形に細められた目を見上げる。
『それにねえ、土の中にもぐるのも無理かなー?ほらほら、もぐる時にぶわって黒いの出てくるでしょ?』
こっくりとうなずくと、■■はしゃがみこんで視線を合わせてくれた。
『あれねえ、死人の手だよ。死んだ人の手が、こーんなにピッチピチな俺様をつかんで引きずり込んでるの』
言葉なんて挟めずに目を見開いた。
『死んでるから、すっごく冷たいよー。
そんなのが全身をざわざわ撫でて、ざわざわしながら掴んで、息苦しくてくらーいとこに連れていこうと頑張ってるの。
ホントに冷たい手だから、ずっと掴まれてると指先とかの感覚もなくなっちゃうよ。
自分の体も冷えていっちゃうよ。でもね、俺様強いから。
振りほどいてまた地上に戻ってこれるんだなあ。■様にはまぁーだ早いよね?』
涙がこぼれた。
父様も――父上も、そこにいた?
『あああああごめんごめんね、怖がらせすぎちゃったか。…いないよ。心が強い人はそんなこと、しないんだよ』
ほんとう?
『そりゃーもちろん、忍びが嘘ついちゃったら誰も雇ってくれないでしょ。本当に強い人は雲よりも上のほうで、太陽の光を浴びてポカポカしてるもんなんだよ。って事で■様、着替えようねー』
でもまだ怖い。怖いよとしがみ付いた。
■■なら、つめたくて怖い手に勝てる人だから、しがみ付いてたらきっと大丈夫。
ねえ、きょうはずっとそばにいてね。夜になってもいてね。
■■はしがみ付いた体を抱き上げて、軽々と屋敷に運ぶ。
着替えなきゃダメでしょ、と。
でも、衣を脱いだときに手が地面から、ぬうっと伸びてきたらどうしたらいいの。
夜、暗くて寝ているときに出てきたらどうしたらいいの。
『はいはい、大丈夫この俺様が助けに行きますからね。
オマケに今夜は傍でお話していてあげよっか。舟魂なんてどう?』
風になびいた茶色い髪を、大きな手のひらが抑える。
『今は戦国だしね、死んでる人より生きてる人のがずうっと怖いんだからね。知らない人についてっちゃダメだよ。知ってる人でも、こんな風に服はだけられちゃうようなコトになったら、破廉恥でございますー、って叫んで、俺のこと呼ぶんだよ』
はれんち?とおうむ返しに繰り返す。
名を呼ぶと、どこにもいなかったはずの姿が地中から現れる。
『あらららら、何でこんなかっこうなの、ダメでしょ』
木の枝に引っかかってぼろぼろに乱れた衣を、大きな手のひらが器用に外して前をかき合せる。
『何してたの?』
鳥の足をつかみたかったんだと言うと、がっくりと肩が落ちた。
『何考えてるの』
しのびになりたいと、一生懸命に訴える。
しのびは父様のような、凄く強い人も支えられるから。
空を飛んだり、土にもぐりこんで消えたりできるから、すじがいいなら、がんばったらしのびになれる?
『うわああああ、凄いこと考えたねえ。忍びじゃなくたって支えられるでしょ?』
でも、しのびは空を飛べる。地面にするりともぐりこめる。
『そうだね、■様。でもねー、忍びはゴボウもニンジンもオクラも食べられない■様には難しいかも』
苦手なものを並べられて、どうして知っているのと、笑みの形に細められた目を見上げる。
『それにねえ、土の中にもぐるのも無理かなー?ほらほら、もぐる時にぶわって黒いの出てくるでしょ?』
こっくりとうなずくと、■■はしゃがみこんで視線を合わせてくれた。
『あれねえ、死人の手だよ。死んだ人の手が、こーんなにピッチピチな俺様をつかんで引きずり込んでるの』
言葉なんて挟めずに目を見開いた。
『死んでるから、すっごく冷たいよー。
そんなのが全身をざわざわ撫でて、ざわざわしながら掴んで、息苦しくてくらーいとこに連れていこうと頑張ってるの。
ホントに冷たい手だから、ずっと掴まれてると指先とかの感覚もなくなっちゃうよ。
自分の体も冷えていっちゃうよ。でもね、俺様強いから。
振りほどいてまた地上に戻ってこれるんだなあ。■様にはまぁーだ早いよね?』
涙がこぼれた。
父様も――父上も、そこにいた?
『あああああごめんごめんね、怖がらせすぎちゃったか。…いないよ。心が強い人はそんなこと、しないんだよ』
ほんとう?
『そりゃーもちろん、忍びが嘘ついちゃったら誰も雇ってくれないでしょ。本当に強い人は雲よりも上のほうで、太陽の光を浴びてポカポカしてるもんなんだよ。って事で■様、着替えようねー』
でもまだ怖い。怖いよとしがみ付いた。
■■なら、つめたくて怖い手に勝てる人だから、しがみ付いてたらきっと大丈夫。
ねえ、きょうはずっとそばにいてね。夜になってもいてね。
■■はしがみ付いた体を抱き上げて、軽々と屋敷に運ぶ。
着替えなきゃダメでしょ、と。
でも、衣を脱いだときに手が地面から、ぬうっと伸びてきたらどうしたらいいの。
夜、暗くて寝ているときに出てきたらどうしたらいいの。
『はいはい、大丈夫この俺様が助けに行きますからね。
オマケに今夜は傍でお話していてあげよっか。舟魂なんてどう?』
風になびいた茶色い髪を、大きな手のひらが抑える。
『今は戦国だしね、死んでる人より生きてる人のがずうっと怖いんだからね。知らない人についてっちゃダメだよ。知ってる人でも、こんな風に服はだけられちゃうようなコトになったら、破廉恥でございますー、って叫んで、俺のこと呼ぶんだよ』
はれんち?とおうむ返しに繰り返す。




