「いや、夜襲と関係ねぇじゃん」
思考が暴走していることにはたと気づき、元親は自分の思考に赤面する。
「やっぱ、どこかの刺客に襲われて……」
夜襲にあったとしたら、急使が入るだろう。
それとも、急使を入れることすらできないほどの損害を受けたのか。
輪刀は持っていっただろうか。自分の武器を忘れるほど間抜けではない。
だが、あれは扱いを誤れば自分を斬る。
夜にあんなものを使えば、自分に返る危険性が高い。
人の動く気配。悲鳴。
はっと元親は顔を上げた。ばたばたと乱れた足音。元親は部屋を飛び出した。
「元就!」
叫んだ。
「うるさい。我の奥方なら、悠然と構えておれ」
憮然とした声。前庭に佇む良人の姿に、元親は涙を覚えた。
衣装が裂け、血にまみれている。やはり想像はまことであった。
「誰に、やられたんだ……」
「分からぬ。問う前に毒を飲みおった。だが、襲えと命じた相手の見当はついている」
「誰だ」
「言わぬ。言えばそなたが襲うであろう」
「当たり前だ! お前、襲われたんだぞ! 下手したら死んでたんだぞ! く、首とか取られて、晒されてたかもしれねぇんだぞ!」
「だが我はこうして無事だ。怪我など治る。縫合もいらぬような怪我など、怪我のうちに入らぬ」
「元就!」
「くどい!」
激昂する元親に、元就は一喝を与えた。元親は口をつぐみ、ぐっと奥歯を噛む。
「元親、これは中国の問題ぞ。そなたに関係ない」
「ある。俺は、お前の」
「その前に、四国の鬼であろう」
見上げてくる、怜悧なまなざし。色のない氷の眼。
「はやるな。我とそなたがはやれば、豊臣や織田が喜ぶだけぞ。なんのために、そなたは我を選んだ?」
中国と四国が手を結ぶ。
そのための婚姻だと言うのか。
「わかった」
顔をそらし、涙を手の甲で擦ってから元就を見下ろした。
元就は血に汚れた衣装を脱ぎ、白い体に血を滲ませている。
痛々しげで見ていられず、元親は背を向けた。
「寝る」
言うや否や駆け出した。追う気配がいくつかあったが、元就の制止に戸惑ったように立ち止まった。
思考が暴走していることにはたと気づき、元親は自分の思考に赤面する。
「やっぱ、どこかの刺客に襲われて……」
夜襲にあったとしたら、急使が入るだろう。
それとも、急使を入れることすらできないほどの損害を受けたのか。
輪刀は持っていっただろうか。自分の武器を忘れるほど間抜けではない。
だが、あれは扱いを誤れば自分を斬る。
夜にあんなものを使えば、自分に返る危険性が高い。
人の動く気配。悲鳴。
はっと元親は顔を上げた。ばたばたと乱れた足音。元親は部屋を飛び出した。
「元就!」
叫んだ。
「うるさい。我の奥方なら、悠然と構えておれ」
憮然とした声。前庭に佇む良人の姿に、元親は涙を覚えた。
衣装が裂け、血にまみれている。やはり想像はまことであった。
「誰に、やられたんだ……」
「分からぬ。問う前に毒を飲みおった。だが、襲えと命じた相手の見当はついている」
「誰だ」
「言わぬ。言えばそなたが襲うであろう」
「当たり前だ! お前、襲われたんだぞ! 下手したら死んでたんだぞ! く、首とか取られて、晒されてたかもしれねぇんだぞ!」
「だが我はこうして無事だ。怪我など治る。縫合もいらぬような怪我など、怪我のうちに入らぬ」
「元就!」
「くどい!」
激昂する元親に、元就は一喝を与えた。元親は口をつぐみ、ぐっと奥歯を噛む。
「元親、これは中国の問題ぞ。そなたに関係ない」
「ある。俺は、お前の」
「その前に、四国の鬼であろう」
見上げてくる、怜悧なまなざし。色のない氷の眼。
「はやるな。我とそなたがはやれば、豊臣や織田が喜ぶだけぞ。なんのために、そなたは我を選んだ?」
中国と四国が手を結ぶ。
そのための婚姻だと言うのか。
「わかった」
顔をそらし、涙を手の甲で擦ってから元就を見下ろした。
元就は血に汚れた衣装を脱ぎ、白い体に血を滲ませている。
痛々しげで見ていられず、元親は背を向けた。
「寝る」
言うや否や駆け出した。追う気配がいくつかあったが、元就の制止に戸惑ったように立ち止まった。




