「……」
「……」
「……」
民家や商店がせわしなく建ち並ぶエリア。
車道のど真ん中を歩くのは、蟲柱の胡蝶しのぶと、ハムスターにして悪魔のデビハム。
市街地へと足を踏み入れそれなりの時間が経過したというのに、両者の間に会話は無い。
アスファルトを踏みしめる音だけが、無機質に響いていた。
車道のど真ん中を歩くのは、蟲柱の胡蝶しのぶと、ハムスターにして悪魔のデビハム。
市街地へと足を踏み入れそれなりの時間が経過したというのに、両者の間に会話は無い。
アスファルトを踏みしめる音だけが、無機質に響いていた。
自分達の現状に対して、デビハムは何となく気まずい思いとなる。
別にしのぶと仲良しこよしの関係になりたい訳ではないし、そもそもデビハムはそういう仲睦まじい連中が嫌いだ。
もし目の前に手を繋いで歩いている男女が現れたら、あの手この手で二人の仲を粉々にしてやりたくなるくらいには、友情だの愛情だのを嫌悪している。
けど、それにしたってこの何とも言えぬ居心地の悪さはどうにかならないものかと思う。
一応表面上は仲間という事になっているのだし、もうちょっと接しやすい空気になっても良い筈。
少なくとも街を訪れる前はこうではなかった。
程々に雑談に花を咲かせていたのもあって、今よりはずっとマシな空気だった。
別にしのぶと仲良しこよしの関係になりたい訳ではないし、そもそもデビハムはそういう仲睦まじい連中が嫌いだ。
もし目の前に手を繋いで歩いている男女が現れたら、あの手この手で二人の仲を粉々にしてやりたくなるくらいには、友情だの愛情だのを嫌悪している。
けど、それにしたってこの何とも言えぬ居心地の悪さはどうにかならないものかと思う。
一応表面上は仲間という事になっているのだし、もうちょっと接しやすい空気になっても良い筈。
少なくとも街を訪れる前はこうではなかった。
程々に雑談に花を咲かせていたのもあって、今よりはずっとマシな空気だった。
(この女、ほんとに大丈夫なんデビかねぇ……)
戦兎と甜花の悪評を吹き込み、あの二人を追い詰める。
その為にしのぶを利用し、尚且つ戦兎達の説得でこちらの嘘がバレるのを防ごうと、こうして同行している。
だからいざ戦兎達とバッタリ遭った時には、連中を危険な参加者と見て攻撃して貰わねば困るのだ。
なのにこんな、明らかに動揺を強く押し殺している状態で、自分の思い通りに動くのかと疑念を抱いた。
こうなった原因は間違いなくさっきの放送が関係しているのだろうが、それをストレートに尋ねるのはどうにも憚れる。
言葉にせずとも、自分に踏み込むなと言っているような圧力をしのぶからひしひしと感じられた。
その為にしのぶを利用し、尚且つ戦兎達の説得でこちらの嘘がバレるのを防ごうと、こうして同行している。
だからいざ戦兎達とバッタリ遭った時には、連中を危険な参加者と見て攻撃して貰わねば困るのだ。
なのにこんな、明らかに動揺を強く押し殺している状態で、自分の思い通りに動くのかと疑念を抱いた。
こうなった原因は間違いなくさっきの放送が関係しているのだろうが、それをストレートに尋ねるのはどうにも憚れる。
言葉にせずとも、自分に踏み込むなと言っているような圧力をしのぶからひしひしと感じられた。
(…って、何でオイラがこいつを心配するような真似しなきゃならないんだデビ!?)
自分がやろうとした事に、思わず胸中で気持ち悪いと舌を出す。
しのぶの放つ重苦しい空気に当てられて、自分まで妙な考えを起こしそうになってしまったではないか。
一体何時までこの空気に耐えねばならないのかとウンザリしてきた時、前方を歩くしのぶがピタと足を止めた。
後方のデビハムもそれに倣い、何だと尋ねようとすれば、彼女の視線が少し先の施設へ向かっているのに気付いた。
しのぶの放つ重苦しい空気に当てられて、自分まで妙な考えを起こしそうになってしまったではないか。
一体何時までこの空気に耐えねばならないのかとウンザリしてきた時、前方を歩くしのぶがピタと足を止めた。
後方のデビハムもそれに倣い、何だと尋ねようとすれば、彼女の視線が少し先の施設へ向かっているのに気付いた。
「アレは…」
「地図に載っていた施設ですね。私たちが今居る位置からしても間違いないでしょう」
「え~っと確か…何とか学園だったデビ?」
「地図に載っていた施設ですね。私たちが今居る位置からしても間違いないでしょう」
「え~っと確か…何とか学園だったデビ?」
地図を取り出し確認するしのぶの横から覗き込むと、確かにPK学園と記載されている。
そして施設の名が載っているというのはつまり、誰かが既に訪れているという事だ。
そして施設の名が載っているというのはつまり、誰かが既に訪れているという事だ。
「それじゃ、あそこを調べるデビか?」
「ええ。まだいるかどうかは分かりませんが、もしかしたら私の仲間がいるかもしれませんし」
「ええ。まだいるかどうかは分かりませんが、もしかしたら私の仲間がいるかもしれませんし」
それに、ひょっとしたら桐生戦兎と大崎甜花も、と付け加える。
彼らが学園にいるのならば、デビハムの言葉が嘘か真か確かめる良い機会。
そう言われるとデビハムも共に学園へ行くしかない。
しのぶを一人で行かせた結果、反対に戦兎達へ丸め込まれてはラブを壊す計画も台無しなのだから。
彼らが学園にいるのならば、デビハムの言葉が嘘か真か確かめる良い機会。
そう言われるとデビハムも共に学園へ行くしかない。
しのぶを一人で行かせた結果、反対に戦兎達へ丸め込まれてはラブを壊す計画も台無しなのだから。
PK学園にて何が待っているのかを知る由も無く、それぞれの思惑を胸に移動を再開した。
◆◆◆
蛇口を捻ると熱いお湯が頭上から降り注いだ。
腰まで届く長髪、ほっそりとした腰、程良い肉付きの乳房と臀部、スラリと伸びた脚。
一糸纏わぬ身体が熱を帯びていくのを感じ、甜花は何とも言えぬ心地良さに安堵の息を漏らす。
腰まで届く長髪、ほっそりとした腰、程良い肉付きの乳房と臀部、スラリと伸びた脚。
一糸纏わぬ身体が熱を帯びていくのを感じ、甜花は何とも言えぬ心地良さに安堵の息を漏らす。
「はふぅ…」
運動部専用のシャワー室、そこが甜花が今居る場所だった。
校長室で精神と肉体の組み合わせ名簿の確認を済ませた後、来訪者の見張りは貨物船に任せるから好きに休んで良いとDIOに言われ、折角だからと汗を流す為にここへやって来た。
校長室で精神と肉体の組み合わせ名簿の確認を済ませた後、来訪者の見張りは貨物船に任せるから好きに休んで良いとDIOに言われ、折角だからと汗を流す為にここへやって来た。
普段はぐうたらな生活をしているとはいえ、やはり年頃の女の子。
大好きな異性の近くで、汗臭いままでいるのは抵抗がある。
アイドルを始めてからは大勢の前に姿を見せる機会がドンと増えた、故に以前よりも身だしなみには気を遣えている、と思う。
それに今の自分は妹の身体になっているのだ。
いずれ甘奈の元に返してあげる為にも、綺麗にしてあげなければならない。
大好きな異性の近くで、汗臭いままでいるのは抵抗がある。
アイドルを始めてからは大勢の前に姿を見せる機会がドンと増えた、故に以前よりも身だしなみには気を遣えている、と思う。
それに今の自分は妹の身体になっているのだ。
いずれ甘奈の元に返してあげる為にも、綺麗にしてあげなければならない。
備え付けのシャンプーやボディーソープで体を洗う。
ケアの行き届いている髪と、シミ一つ無い素肌が泡で覆われていく。
妹の身体だからだろうか、普段よりも時間を掛けた気がする。
纏わりついた泡を一粒残らず洗い流すと、シャワーを止めて個室を後にした。
ケアの行き届いている髪と、シミ一つ無い素肌が泡で覆われていく。
妹の身体だからだろうか、普段よりも時間を掛けた気がする。
纏わりついた泡を一粒残らず洗い流すと、シャワーを止めて個室を後にした。
ふと、鏡の前で立ち止まる。
全身をハッキリと映し出す、大きな鏡だ。
湯気で曇ったのを掌で拭い取り、映し出された裸の少女をじっと見つめる。
自分と同じ顔、だけど自分よりもずっと可愛い女の子。
改めて考えても不思議な状況である。自分は確かにここにいるのに、体は自分じゃないなんて。
全身をハッキリと映し出す、大きな鏡だ。
湯気で曇ったのを掌で拭い取り、映し出された裸の少女をじっと見つめる。
自分と同じ顔、だけど自分よりもずっと可愛い女の子。
改めて考えても不思議な状況である。自分は確かにここにいるのに、体は自分じゃないなんて。
「なーちゃん……」
妹の名を口にする度、胸が締め付けられるような想いになる。
今どこでどうなっているのかも分からない、そもそも生きているかどうかさえハッキリしない。
心配なのは甘奈だけでなく、千雪と真乃も同じだ。
甜花と甘奈と千雪、三人揃ってアルストロメリア。一人でも欠けてしまえば、もうそれはアルストロメリアなんかじゃない。
「この先もずっと仲良しでいられますように」と初詣で絵馬に書いたお願い、あれがこんな意味の分からない殺し合いなんかで消えてしまうなんて絶対に嫌だ。
千雪の精神の行方も甘奈同様分からず、身体はエボルトと言う凶悪な参加者の手に渡っている。
仮面ライダーである戦兎が強く警戒する相手だ、千雪の事など知った事ではないと言わんばかりに大暴れしているのかもしれない。
真乃に至ってはどんな人物が身体に入っているのか、名前以外全く分からないのだ。
もしもエボルトや翼の生えた少年のような参加者に体を奪われていたら、そして精神にも大きな被害が及んでしまっていたら。
ここにはいないけど、真乃と同じユニットで、自分以上に親交の深い灯織とめぐるはどう感じるのか。
アルストロメリアが三人揃ってアルストロメリアであるように、イルミネーションスターズも三人揃ってイルミネーションスターズだ。
どのユニットも、たった一人でも欠ける事など絶対にあってはならない。
283プロの皆が誰か一人でもいなくなってしまったら、もうそれは甜花の知る283プロではないのだ。
仲間で、ライバルでもあって、時には事務所のアイドル皆で遠出した事もある、そんなキラキラした居場所が無くなってしまう。
起こり得るかもしれない最悪の未来図に、シャワーを浴びたばかりの火照った体がブルリと震える。
今どこでどうなっているのかも分からない、そもそも生きているかどうかさえハッキリしない。
心配なのは甘奈だけでなく、千雪と真乃も同じだ。
甜花と甘奈と千雪、三人揃ってアルストロメリア。一人でも欠けてしまえば、もうそれはアルストロメリアなんかじゃない。
「この先もずっと仲良しでいられますように」と初詣で絵馬に書いたお願い、あれがこんな意味の分からない殺し合いなんかで消えてしまうなんて絶対に嫌だ。
千雪の精神の行方も甘奈同様分からず、身体はエボルトと言う凶悪な参加者の手に渡っている。
仮面ライダーである戦兎が強く警戒する相手だ、千雪の事など知った事ではないと言わんばかりに大暴れしているのかもしれない。
真乃に至ってはどんな人物が身体に入っているのか、名前以外全く分からないのだ。
もしもエボルトや翼の生えた少年のような参加者に体を奪われていたら、そして精神にも大きな被害が及んでしまっていたら。
ここにはいないけど、真乃と同じユニットで、自分以上に親交の深い灯織とめぐるはどう感じるのか。
アルストロメリアが三人揃ってアルストロメリアであるように、イルミネーションスターズも三人揃ってイルミネーションスターズだ。
どのユニットも、たった一人でも欠ける事など絶対にあってはならない。
283プロの皆が誰か一人でもいなくなってしまったら、もうそれは甜花の知る283プロではないのだ。
仲間で、ライバルでもあって、時には事務所のアイドル皆で遠出した事もある、そんなキラキラした居場所が無くなってしまう。
起こり得るかもしれない最悪の未来図に、シャワーを浴びたばかりの火照った体がブルリと震える。
「っ……」
震えを強引に鎮めるように、両腕で体を強く抱きしめる。
そして絶対の「安心」を得ようと、一人の男の姿を思い浮かべた。
甘奈達を助け出すと約束してくれた、誰よりも愛しい男を。
そして絶対の「安心」を得ようと、一人の男の姿を思い浮かべた。
甘奈達を助け出すと約束してくれた、誰よりも愛しい男を。
(大丈夫……DIOさんが、絶対に助けてくれる…)
思い返す、DIOが約束してくれた瞬間の光景を。
あの人の言葉はとても頼りになり、瞳は力強く、抱きしめてくれた時は凄く暖かった。
心の底からあの人と出会えて良かったと感じ、嬉しさで涙が出そうになった程だ。
DIOの事を思い浮かべると、自身を蝕んでいた震えは嘘のように消え去った。
代わりに去来するのは、改めてDIOと出会えた運命への喜び。
DIOを好きになったのは決して間違いなんかじゃないと、強く確信した。
あの人の言葉はとても頼りになり、瞳は力強く、抱きしめてくれた時は凄く暖かった。
心の底からあの人と出会えて良かったと感じ、嬉しさで涙が出そうになった程だ。
DIOの事を思い浮かべると、自身を蝕んでいた震えは嘘のように消え去った。
代わりに去来するのは、改めてDIOと出会えた運命への喜び。
DIOを好きになったのは決して間違いなんかじゃないと、強く確信した。
一つの支給品によって植え付けられたに過ぎない、偽りの愛と安心。
己の心が捻じ曲げられているとは露程も思わず、軽い足取りで更衣室へと出る。
PK学園の備品であるバスタオルで体を拭き終えると、着替えの制服に手を付けた。
シャワー室を利用する参加者が現れる事も想定したのだろうか、ご丁寧に下着まで置いてあった。
飾り気のない色の下着を着け、PK学園の制服を身に纏う。
己の心が捻じ曲げられているとは露程も思わず、軽い足取りで更衣室へと出る。
PK学園の備品であるバスタオルで体を拭き終えると、着替えの制服に手を付けた。
シャワー室を利用する参加者が現れる事も想定したのだろうか、ご丁寧に下着まで置いてあった。
飾り気のない色の下着を着け、PK学園の制服を身に纏う。
前々から着替えを手伝ってもらっていた甘奈の身体で身支度をしている、そんな状況に何とも言えない気分になり、
強引に引き戻すかのように更衣室の扉が開かれた。
強引に引き戻すかのように更衣室の扉が開かれた。
○
校長室とは読んで字の如く、学校内での最高責任者に宛がわれた個室である。
であれば、他の教職員のデスクでごった返している職員室とは当然の如くグレードが違う。
仮にも教育機関に置ける最上位の職員が、他の教員と同等の扱いをされては示しが付かないというもの。
専用のデスク、座り心地の良さを追求した椅子に応接セット、四方を囲む棚でさえも値段の張るものを用意している。
PK学園もまたその例に漏れず、部屋の主の為に十分な金を掛けていた。
調度品一つ取っても、松崎教諭や井口教諭の一ヶ月分の給料を容赦なく削り取るであろう金額だ。
壁に掛けられた歴代の校長達の写真は、この部屋に相応しい人物か否かを見極めるかのように、眼下の者を見下ろしていた。
そんなどこか重々しさを感じられる場所にて、我が物顔で校長専用の椅子に腰かける男が一人。
男は部屋の主でなければ、そもそも学校関係者ですらない。生憎とそれを咎める者は存在せず。
仮にいたとしても、この男を前にすれば咎める気概はあっという間に消え失せ萎縮するのは間違いない。
好青年を絵に描いたような外見とは余りにも不釣り合いな、危険で、同じく抗い難い妖艶な存在感は肉体を変えられようと健在。
であれば、他の教職員のデスクでごった返している職員室とは当然の如くグレードが違う。
仮にも教育機関に置ける最上位の職員が、他の教員と同等の扱いをされては示しが付かないというもの。
専用のデスク、座り心地の良さを追求した椅子に応接セット、四方を囲む棚でさえも値段の張るものを用意している。
PK学園もまたその例に漏れず、部屋の主の為に十分な金を掛けていた。
調度品一つ取っても、松崎教諭や井口教諭の一ヶ月分の給料を容赦なく削り取るであろう金額だ。
壁に掛けられた歴代の校長達の写真は、この部屋に相応しい人物か否かを見極めるかのように、眼下の者を見下ろしていた。
そんなどこか重々しさを感じられる場所にて、我が物顔で校長専用の椅子に腰かける男が一人。
男は部屋の主でなければ、そもそも学校関係者ですらない。生憎とそれを咎める者は存在せず。
仮にいたとしても、この男を前にすれば咎める気概はあっという間に消え失せ萎縮するのは間違いない。
好青年を絵に描いたような外見とは余りにも不釣り合いな、危険で、同じく抗い難い妖艶な存在感は肉体を変えられようと健在。
「フゥム……」
その男、DIOが興味深く視線をぶつけるのは、パラパラとめくる一冊の本。
学校に置いてあっても何ら不思議はなく、大半の参加者には見向きもされないだろう存在。
卒業アルバムという、取り立てて注目する事の無い代物だ。
もしもこのアルバムを甜花に見せたとしても、特別気になる箇所は無いと答えるだろう。
DIOが訪れるよりも先にPK学園に居た戦兎やナナもまた、同じような反応を返したはず。
だがDIOにとっては見過ごす事の出来ない重大な情報を得られた。
卒業生や教師達の名前と顔写真ではない。
承太郎やヴァニラの体となっている少年少女は載っておらず、ジョースターの血統と疑いを抱いている仗助の写真も無かった。
学校に置いてあっても何ら不思議はなく、大半の参加者には見向きもされないだろう存在。
卒業アルバムという、取り立てて注目する事の無い代物だ。
もしもこのアルバムを甜花に見せたとしても、特別気になる箇所は無いと答えるだろう。
DIOが訪れるよりも先にPK学園に居た戦兎やナナもまた、同じような反応を返したはず。
だがDIOにとっては見過ごす事の出来ない重大な情報を得られた。
卒業生や教師達の名前と顔写真ではない。
承太郎やヴァニラの体となっている少年少女は載っておらず、ジョースターの血統と疑いを抱いている仗助の写真も無かった。
DIOが注目したのは、アルバムに載っている生徒たちが卒業した年を記した一文。
2011年という、たったそれだけが大きな収穫となったのだ。
2011年という、たったそれだけが大きな収穫となったのだ。
DIOの感覚からすれば、実に奇妙としか言いようが無い。
何せDIOが百年の眠りから目覚め活動を再開し、エジプトにてジョースター一行と相対したのは1988年のこと。
世界は未だ20世紀を謳歌している真っ最中であり、次の新しい時代を迎えるのは12年先の話である。
だというのに、このアルバムはDIOが記憶している年代と大きく矛盾している。
これを単なる主催者の悪ふざけと言い切るのは簡単だ。
しかしDIOが思うに、あのボンドルドは未だ思惑を明かさぬ不気味さはあれど、そういった無意味な遊びに時間を割くような輩では無いはず。
大体見るかどうかも分からないアルバム一冊に、このような手間を掛けること自体が全くの無駄。
であれば、答えは実に単純。
このアルバム、というよりもこの学園はDIOが活動していた年代よりも未来のものということなのだろう。
何せDIOが百年の眠りから目覚め活動を再開し、エジプトにてジョースター一行と相対したのは1988年のこと。
世界は未だ20世紀を謳歌している真っ最中であり、次の新しい時代を迎えるのは12年先の話である。
だというのに、このアルバムはDIOが記憶している年代と大きく矛盾している。
これを単なる主催者の悪ふざけと言い切るのは簡単だ。
しかしDIOが思うに、あのボンドルドは未だ思惑を明かさぬ不気味さはあれど、そういった無意味な遊びに時間を割くような輩では無いはず。
大体見るかどうかも分からないアルバム一冊に、このような手間を掛けること自体が全くの無駄。
であれば、答えは実に単純。
このアルバム、というよりもこの学園はDIOが活動していた年代よりも未来のものということなのだろう。
「……」
驚きは無く、むしろ納得がいった。
既にDIOは甜花との情報交換によって、主催者の持つ強大な力の一端の情報を得ている。
参加者はそれぞれ別の世界から連れて来られている。
住んでいる国が違うとか、貧富の差故に価値観が違う事への比喩などではなく、文字通りの異なる世界。
並行世界、並行宇宙、パラレルワールドとも呼ばれる存在から参加者を集める力。
そのような力を有しているのであれば、「時間」を行き来する事すら可能であっても何らおかしくはない。
既にDIOは甜花との情報交換によって、主催者の持つ強大な力の一端の情報を得ている。
参加者はそれぞれ別の世界から連れて来られている。
住んでいる国が違うとか、貧富の差故に価値観が違う事への比喩などではなく、文字通りの異なる世界。
並行世界、並行宇宙、パラレルワールドとも呼ばれる存在から参加者を集める力。
そのような力を有しているのであれば、「時間」を行き来する事すら可能であっても何らおかしくはない。
「『世界』と『時間』、か」
己のスタンドに大きく関わる二つの言葉を、あえて口に出してみる。
どうやらボンドルドらの持つ力は、バトルロワイアル当初に想定していたものよりもずっと強大らしい。
スタンド能力か、杉元の身体の少女のようなスタンドではない異能か、はたまた仮面ライダーへの変身アイテムのような未知の技術か。
力の正体が何にせよ、ソレを我が物としているボンドルドたち主催者。一筋縄ではいかないのは確実。
どうやらボンドルドらの持つ力は、バトルロワイアル当初に想定していたものよりもずっと強大らしい。
スタンド能力か、杉元の身体の少女のようなスタンドではない異能か、はたまた仮面ライダーへの変身アイテムのような未知の技術か。
力の正体が何にせよ、ソレを我が物としているボンドルドたち主催者。一筋縄ではいかないのは確実。
尤も連中を警戒はしても、恐れなどDIOは毛先ほども抱いてはいない。
それよりも主催者が持つ世界と時間を行き来する力、それの使い道の方にこそ関心がいく。
並行世界や過去と未来を渡り歩く力など、初めて見るのだ。
ひょっとすれば、天国への到達に何らかの形で使えるかもしれない。
それよりも主催者が持つ世界と時間を行き来する力、それの使い道の方にこそ関心がいく。
並行世界や過去と未来を渡り歩く力など、初めて見るのだ。
ひょっとすれば、天国への到達に何らかの形で使えるかもしれない。
ボンドルド達が油断ならない力の持ち主である事は理解した。
だがその程度では恐れるに足りない、このDIOの歩みを止めるには至らない。
DIOの方針は勝利して、支配すること。
それは何もバトルロワイアルに優勝する事だけではない。ボンドルド達主催者をも懐柔し、支配下に置く。
仮に自分と決定的に相容れないのならば、殺して連中の力を己のものとするまで。
だがその程度では恐れるに足りない、このDIOの歩みを止めるには至らない。
DIOの方針は勝利して、支配すること。
それは何もバトルロワイアルに優勝する事だけではない。ボンドルド達主催者をも懐柔し、支配下に置く。
仮に自分と決定的に相容れないのならば、殺して連中の力を己のものとするまで。
自然と笑みが浮かぶ。
世界を手中に収めんとする邪悪の化身に相応しい、それでいてクリスマスシーズンの玩具屋に連れて来られた少年のような、どこか期待に満ちた笑み。
仮面ライダーなる戦士に変身する機械、この場では意味が無いが巨人という伝承の存在に変化させるワイン。
そしてボンドルド達の保有する強大な力。
元居た世界だけでは知る機会の無かったであろう未知の存在の数々に、柄にもなく心が滾っているらしい。
参加させられた当初はくだらないものに巻き込まれたと辟易していたが、今は中々どうして面白いと感じている。
だからといって主催者達に感謝などするつもりは無いが。
世界を手中に収めんとする邪悪の化身に相応しい、それでいてクリスマスシーズンの玩具屋に連れて来られた少年のような、どこか期待に満ちた笑み。
仮面ライダーなる戦士に変身する機械、この場では意味が無いが巨人という伝承の存在に変化させるワイン。
そしてボンドルド達の保有する強大な力。
元居た世界だけでは知る機会の無かったであろう未知の存在の数々に、柄にもなく心が滾っているらしい。
参加させられた当初はくだらないものに巻き込まれたと辟易していたが、今は中々どうして面白いと感じている。
だからといって主催者達に感謝などするつもりは無いが。
「しかし…奴らが過去にも行けるのならば、少々話は違ってくるかもしれんな」
ジョナサンの肉体が五体満足でここにある。
これについてDIOは最初、見せしめとして殺された者を蘇生させた時と同じ力でジョナサンの体を復活させたと考えた。
だがボンドルド達が時間を自由に行き来出来るのなら、別の可能性も浮上して来る。
現在DIOの精神が宿っているジョナサンの肉体は、ボンドルドが生前のジョナサンがいた時代に赴き、殺し合いの為に拉致したものではないだろうか。
となると、気になるのはこの肉体の元の持ち主であるジョナサンの精神の行方。
参加者名簿に名前が無かった以上、精神に用は無いとしてボンドルドに始末されたのか。
ひょっとすると、参加させる気は無いが別の使い道があるとして捕らえられているのかもしれない。
これについてDIOは最初、見せしめとして殺された者を蘇生させた時と同じ力でジョナサンの体を復活させたと考えた。
だがボンドルド達が時間を自由に行き来出来るのなら、別の可能性も浮上して来る。
現在DIOの精神が宿っているジョナサンの肉体は、ボンドルドが生前のジョナサンがいた時代に赴き、殺し合いの為に拉致したものではないだろうか。
となると、気になるのはこの肉体の元の持ち主であるジョナサンの精神の行方。
参加者名簿に名前が無かった以上、精神に用は無いとしてボンドルドに始末されたのか。
ひょっとすると、参加させる気は無いが別の使い道があるとして捕らえられているのかもしれない。
(それとも……お前は今も“ここ”にいるのか?)
衣服がはち切れん程の筋肉に覆われた胸を、軽く小突いて問い掛ける。
DIOが思い浮かべた第三の可能性。
それは即ち、ジョナサンの精神は今もこの肉体に宿ったままである。
今こうして体を動かしているDIOに干渉できないよう、奥深くへと精神を追いやられ幽閉されている。
その場合、もし何らかの切っ掛けでジョナサンの精神が解放されたならば、一体どうなるのか予想が付かない。
体はジョナサンで、精神は本人とDIOの二つが宿っていて、波紋とザ・ワールドを使う。
ジョナサンとDIO、どちらか一方の精神がもう片方に呑まれ消え去るのか。
それとも、別人同士の精神は一つになり全く新しい存在になるとでも言うのか。
DIOが思い浮かべた第三の可能性。
それは即ち、ジョナサンの精神は今もこの肉体に宿ったままである。
今こうして体を動かしているDIOに干渉できないよう、奥深くへと精神を追いやられ幽閉されている。
その場合、もし何らかの切っ掛けでジョナサンの精神が解放されたならば、一体どうなるのか予想が付かない。
体はジョナサンで、精神は本人とDIOの二つが宿っていて、波紋とザ・ワールドを使う。
ジョナサンとDIO、どちらか一方の精神がもう片方に呑まれ消え去るのか。
それとも、別人同士の精神は一つになり全く新しい存在になるとでも言うのか。
そうなった時、ソレはジョナサン・ジョースターやディオ・ブランドーと呼べる存在なのか?
「……笑えんな」
自分自身の考えでありながら、実におぞましいものだと吐き捨てる。
現段階ではただの可能性止まりでしかないそれを早々に頭から追い出し、チラリと壁掛け時計を見やる。
定時放送から2時間以上が経過していた。
放送前に負わされた痺れもほとんど回復済みだ。戦闘への支障は無いと見て良いだろう。
現段階ではただの可能性止まりでしかないそれを早々に頭から追い出し、チラリと壁掛け時計を見やる。
定時放送から2時間以上が経過していた。
放送前に負わされた痺れもほとんど回復済みだ。戦闘への支障は無いと見て良いだろう。
今後の動きを思案し始め、強制的に中断させるかの如く校長室の扉が開かれた。
○
DIO達が休んでいる間の見張り、それが貨物船への命令だった。
命令された内容への不満は無い。
主の手足となり率先して動くのは、部下として当然のこと。
もしDIOが何も言って来なかったなら、自分から学園を訪れる参加者が現れるか見張っていると申し出る事も考えていた。
主の手足となり率先して動くのは、部下として当然のこと。
もしDIOが何も言って来なかったなら、自分から学園を訪れる参加者が現れるか見張っていると申し出る事も考えていた。
ただ一つ、気に入らない事があるとすれば甜花の存在だ。
あの少女は支給品の効果でDIOに従っているに過ぎない。
真にDIOへの忠誠を誓った自分とは違う、体のいい操り人形のはず。
そう頭では分かっていても、苛立ちが沸々と湧き上がって来る。
自分は傷と疲労も癒え切らぬまま働いているというのに、あの小娘は呑気に休憩中。
このまま学園を訪れる者が現れなければ、貨物船そっちのけでここぞとばかりにDIOにべったりとくっ付くに決まっている。
あの少女は支給品の効果でDIOに従っているに過ぎない。
真にDIOへの忠誠を誓った自分とは違う、体のいい操り人形のはず。
そう頭では分かっていても、苛立ちが沸々と湧き上がって来る。
自分は傷と疲労も癒え切らぬまま働いているというのに、あの小娘は呑気に休憩中。
このまま学園を訪れる者が現れなければ、貨物船そっちのけでここぞとばかりにDIOにべったりとくっ付くに決まっている。
「ウキ…!」
想像した光景が非常に面白く無くて、八つ当たりのように壁を蹴りつける。
続けて二度三度と蹴ろうとしたが、その程度でストレスが発散されるはずもなく、無駄に足を痛めるだけなのでやめておいた。
続けて二度三度と蹴ろうとしたが、その程度でストレスが発散されるはずもなく、無駄に足を痛めるだけなのでやめておいた。
鬱屈した気分で見張りを続けてどのくらい経過しただろうか、遂に参加者が学園へ近づいているのを発見した。
発見するや否や、貨物船はすぐさま報告へ走る。
先に向かうのは甜花のいるシャワー室。
DIOからは、誰か来たなら甜花も連れて自分の所へ知らせに来い、との指示を受けている。
甜花への苛立ちは健在だが、それを理由にDIOの命令を無視する事は出来ない。
駆け足で甜花の元へ到着、ノックもせずに飛び込んで来た自分へ驚いている彼女と目が合った。
それに構わず付いて来るよう身振りで伝えると、向こうも察したようでたどたどしい足取りながら共にDIOのいる校長室へと走った。
先に向かうのは甜花のいるシャワー室。
DIOからは、誰か来たなら甜花も連れて自分の所へ知らせに来い、との指示を受けている。
甜花への苛立ちは健在だが、それを理由にDIOの命令を無視する事は出来ない。
駆け足で甜花の元へ到着、ノックもせずに飛び込んで来た自分へ驚いている彼女と目が合った。
それに構わず付いて来るよう身振りで伝えると、向こうも察したようでたどたどしい足取りながら共にDIOのいる校長室へと走った。
そして今、一人と一匹はDIOの元へと馳せ参じた。
「そうか」
貨物船からの報告を受け、顎に手を当て暫し考え込むDIO。
学園に近付いて来る者は二人。戦兎達ではないとのこと。
承太郎が新たな仲間と共にいるのか、若しくはヴァニラが使える人材を引き連れているか。
そのどちらでもなく、DIOとは初対面の参加者か。
何にせよ、ここに来るというのなら会わない選択肢は無い。
吸血鬼の身体であれば応対は部下に任せ、自分は日光の当たらない最奥で待ち構える手を取る所だが、今の肉体なら日中外に出ても問題無い。
学園に近付いて来る者は二人。戦兎達ではないとのこと。
承太郎が新たな仲間と共にいるのか、若しくはヴァニラが使える人材を引き連れているか。
そのどちらでもなく、DIOとは初対面の参加者か。
何にせよ、ここに来るというのなら会わない選択肢は無い。
吸血鬼の身体であれば応対は部下に任せ、自分は日光の当たらない最奥で待ち構える手を取る所だが、今の肉体なら日中外に出ても問題無い。
「なら、出迎えてやろうではないか。甜花、念の為いつでも変身できるよう準備しておいてくれ」
「う、うん……」
「う、うん……」
指示に従い、甜花が戦極ドライバーを装着する。
それを見届けると、部下を伴い堂々とした足取りで正面玄関へと向かう。
外へ出た途端に降り注ぐ太陽の光。
吸血鬼の天敵であるそれは、しかし人間であるジョナサンの身体には何の悪影響を齎さない。
校門を潜って来た二人の参加者へ、値踏みするような視線をぶつける。
それを見届けると、部下を伴い堂々とした足取りで正面玄関へと向かう。
外へ出た途端に降り注ぐ太陽の光。
吸血鬼の天敵であるそれは、しかし人間であるジョナサンの身体には何の悪影響を齎さない。
校門を潜って来た二人の参加者へ、値踏みするような視線をぶつける。
三角帽子にカールした髪の毛の少女。
腰には一本の剣、いや刀か。
柔和な笑みを浮かべてはいるが、それがどこか作り物めいて見える。
腰には一本の剣、いや刀か。
柔和な笑みを浮かべてはいるが、それがどこか作り物めいて見える。
もう一人は少年。こちらも少女と同じく刀を腰に差している。
目を引くのは頭上と背中の異物。輝きを放つ光輪と、折り畳んだ白い翼。
万人が抱く天使の特徴、ただ服装は至って普通のスーツ。
目を引くのは頭上と背中の異物。輝きを放つ光輪と、折り畳んだ白い翼。
万人が抱く天使の特徴、ただ服装は至って普通のスーツ。
さてまずは何と言おうかと口を開きかけ、少年が驚愕の表情を作っているのに気付いた。
彼が見ているのはDIOではない、その背後にいる存在。
視線の先にいるのは甜花。そちらを見ると甜花も少年と同じような顔をしている。
ただこっちは驚き以外にも、怯えのようなものも浮かんでいた。
そこでようやく思い出す。
確かDIOがPK学園を訪れるよりも前、まだ甜花が戦兎と行動を共にしていた時に襲って来た参加者。
その者の外見は、天使のような姿だったと聞いている。
彼が見ているのはDIOではない、その背後にいる存在。
視線の先にいるのは甜花。そちらを見ると甜花も少年と同じような顔をしている。
ただこっちは驚き以外にも、怯えのようなものも浮かんでいた。
そこでようやく思い出す。
確かDIOがPK学園を訪れるよりも前、まだ甜花が戦兎と行動を共にしていた時に襲って来た参加者。
その者の外見は、天使のような姿だったと聞いている。
「甜花、彼は――「あ、あいつデビ!オイラを騙した性悪女は!!」」
君を襲った相手なのか。
そう問おうとしたDIOの言葉を遮り、少年が叫んだ。
そう問おうとしたDIOの言葉を遮り、少年が叫んだ。
○
その男が現れた瞬間、場の空気が一変したのを嫌でも感じ取った。
PK学園に到着したしのぶとデビハムを真っ先に迎えたのは、鍛え上げられた肉体の青年。
顔立ちからして日本人ではないだろうその青年を目にした二人は、意識せずに体が強張った。
青年はしのぶ達に対して何もしていない。
ただ正面の入り口から姿を現しただけ。まだ一言も口にしてすらいない。
なのにこの威圧感。精神由来か肉体由来かは不明だが、そこいらの一般人とは明らかに一線を画する者であると、本能で理解させられるかのようだ。
顔立ちからして日本人ではないだろうその青年を目にした二人は、意識せずに体が強張った。
青年はしのぶ達に対して何もしていない。
ただ正面の入り口から姿を現しただけ。まだ一言も口にしてすらいない。
なのにこの威圧感。精神由来か肉体由来かは不明だが、そこいらの一般人とは明らかに一線を画する者であると、本能で理解させられるかのようだ。
(この男……)
青年が放つ気配は、鬼殺隊の隊士がお館様と呼び慕う男とは全くの別物。
されど、上に立つべき人間、或いは支配者とも言うべき存在である。
言葉一つも交わしていないというのに、しのぶはそう感じずにはいられなかった。
横目でデビハムの様子を見ると、緊張し切った表情で冷汗を掻いている。
彼もまた青年の威圧感にやられたらしい。
されど、上に立つべき人間、或いは支配者とも言うべき存在である。
言葉一つも交わしていないというのに、しのぶはそう感じずにはいられなかった。
横目でデビハムの様子を見ると、緊張し切った表情で冷汗を掻いている。
彼もまた青年の威圧感にやられたらしい。
視線を真正面に戻すと、青年の背後に何者かがいるのが見えた。
一人は少女。精神はまだ不明だが、肉体はカナヲやアオイと同年代のようだ。
もう一人、というかもう一匹は何と動物だった。
何故か服を着ている大きな猿。放送で参加者の肉体は人間以外のものもあると知ったが、実際に目にするとやはり驚いてしまう。
一人は少女。精神はまだ不明だが、肉体はカナヲやアオイと同年代のようだ。
もう一人、というかもう一匹は何と動物だった。
何故か服を着ている大きな猿。放送で参加者の肉体は人間以外のものもあると知ったが、実際に目にするとやはり驚いてしまう。
何にしても、このままずっと黙っているつもりもない。
そう考えた所で、向こうの方から口を開いた。
そう考えた所で、向こうの方から口を開いた。
「あ、あいつデビ!オイラを騙した性悪女は!!」
が、青年の言葉はデビハムの叫びによって掻き消される。
青年の存在に固まっていた姿は何処へ行ったのやら、今度は驚きと怒りが混ざったような顔で少女を睨みつけていた。
推理ドラマで犯人を暴く探偵のように、ビシリと人差し指を突き付けるおまけ付きだ。
推理ドラマで犯人を暴く探偵のように、ビシリと人差し指を突き付けるおまけ付きだ。
甜花がビクリと震えるのを意に介さずデビハムは言葉を続ける。
予想していたとはいえ、本当にまだ街に留まっていて、しかも見た事の無い大男や猿と一緒にいるのは驚いた。
だがここで何もアクションを起こさなければ、自分の吐いた嘘が暴かれてしまう。
きっと相手の大男達は甜花からデビハムが危険人物だと聞かされているに違いない。
だったらここは強引にでも自分の嘘を貫き通し、甜花の方が悪党と言う事にしなくては。
大男…DIOの放つプレッシャーを今だけは必死に無視して、甜花を責め立てた。
予想していたとはいえ、本当にまだ街に留まっていて、しかも見た事の無い大男や猿と一緒にいるのは驚いた。
だがここで何もアクションを起こさなければ、自分の吐いた嘘が暴かれてしまう。
きっと相手の大男達は甜花からデビハムが危険人物だと聞かされているに違いない。
だったらここは強引にでも自分の嘘を貫き通し、甜花の方が悪党と言う事にしなくては。
大男…DIOの放つプレッシャーを今だけは必死に無視して、甜花を責め立てた。
「だ、騙したって……何言ってるの……?」
「しらばっくれるなデビ!お前があの戦兎とかいう奴とグルになって、オイラを殺そうとしたのは誤魔化せないデビよ!
どうせ今度はそいつらを騙して、殺すチャンスを狙ってるんデビね!その内またどっかに隠れてる戦兎に殺させる気なのは、分かってるデビ!」
「しらばっくれるなデビ!お前があの戦兎とかいう奴とグルになって、オイラを殺そうとしたのは誤魔化せないデビよ!
どうせ今度はそいつらを騙して、殺すチャンスを狙ってるんデビね!その内またどっかに隠れてる戦兎に殺させる気なのは、分かってるデビ!」
一切の反論もさせまいと、強気な態度に出る。
見るからにおどおどした様子の少女には、これで益々効いただろうと手応えを感じつつ、更に追及しようとした。
見るからにおどおどした様子の少女には、これで益々効いただろうと手応えを感じつつ、更に追及しようとした。
「や……やめて……!!!」
その一言に、デビハムは思わず口を噤んだ。
最初に見つけた時の雰囲気からは想像も出来ない、怒りに満ちた声。
嫌悪感を強く滲ませた一言に、デビハムは息を呑む。
最初に見つけた時の雰囲気からは想像も出来ない、怒りに満ちた声。
嫌悪感を強く滲ませた一言に、デビハムは息を呑む。
「戦兎さんなんて……もう知らない……。あんな人、次に会ったら絶対に……!」
「へっ?え、えーと……」
「甜花が大好きなのは…DIOさんなんだから……。なのに戦兎さんも、ナナちゃんも、燃堂さんまで……みんな…だ、大っ嫌い…!!」
「へっ?え、えーと……」
「甜花が大好きなのは…DIOさんなんだから……。なのに戦兎さんも、ナナちゃんも、燃堂さんまで……みんな…だ、大っ嫌い…!!」
顔を歪め吐き捨てたかと思えば、頬を赤く染め熱っぽい瞳で傍らのDIOに好意を告げた。
かと思えばまたもや苛立たし気に、殺意まで露わにし出す。
予想外過ぎる反応にデビハムは戸惑いを隠せない。
デビハムから見た戦兎という男は、困っているハムスター達を助けて回っていたあの憎き相手、ハム太郎と同じお人好し。
その戦兎に守られていた少女がどうしてこうも豹変しているのか。
訳が分からず目を泳がせ、やがて一つの結論に辿り着いた。
かと思えばまたもや苛立たし気に、殺意まで露わにし出す。
予想外過ぎる反応にデビハムは戸惑いを隠せない。
デビハムから見た戦兎という男は、困っているハムスター達を助けて回っていたあの憎き相手、ハム太郎と同じお人好し。
その戦兎に守られていた少女がどうしてこうも豹変しているのか。
訳が分からず目を泳がせ、やがて一つの結論に辿り着いた。
(ハッ!?ま、まさかこの女……最初からあの戦兎って奴を騙してたデビか!?)
一方的に守られるだけの大人しい少女、というのは参加者を騙す為の仮の姿。
そうやってか弱い女の子を演じて、男を都合の良い駒として利用する。それが甜花の正体だとデビハムは結論付けた。
きっと自分が街を離れて病院にいた間に、利用する相手を戦兎からDIOに乗り換えたに違いない。
外見だけなら、この筋肉モリモリ男の方が強そうなのだし、可能性はある。
そうやってか弱い女の子を演じて、男を都合の良い駒として利用する。それが甜花の正体だとデビハムは結論付けた。
きっと自分が街を離れて病院にいた間に、利用する相手を戦兎からDIOに乗り換えたに違いない。
外見だけなら、この筋肉モリモリ男の方が強そうなのだし、可能性はある。
(とんでもない悪女だデビ!おっかない女デビよ~…!!)
ドス黒い本性の女だと勘違いし、内心恐々するデビハム。
だが直ぐにそんな場合ではなくなった。
だが直ぐにそんな場合ではなくなった。
「あ、あなたも……DIOさんのこと、傷つける気なの……?」
「…は?ちょ、ちょっと待つデビ!オイラは…」
「…は?ちょ、ちょっと待つデビ!オイラは…」
敵意の籠った目で睨まれ、さっきとは逆にデビハムの方が口籠る。
洗脳下にあるとはいえ、甜花にとってデビハムは有無を言わさず襲って来た危険人物。
おまけに自分から襲って来たくせに、甜花の方が危険だと堂々と嘘を吐いてきた。
戦兎の名前を出されて、頭に血が昇っているのもあるのだろう。
デビハムも戦兎と同じく、DIOに危害を加えようとする輩だと怒りを向けた。
洗脳下にあるとはいえ、甜花にとってデビハムは有無を言わさず襲って来た危険人物。
おまけに自分から襲って来たくせに、甜花の方が危険だと堂々と嘘を吐いてきた。
戦兎の名前を出されて、頭に血が昇っているのもあるのだろう。
デビハムも戦兎と同じく、DIOに危害を加えようとする輩だと怒りを向けた。
「DIOさんに手を出すなんて、そんなの……甜花が絶対に……ゆ、許さない……!」
相手が何を言って来るかなんて関係ない。
DIOの敵は自分の敵。
逸る殺意のままにロックシードを取り出した。
DIOの敵は自分の敵。
逸る殺意のままにロックシードを取り出した。
『メロン!』
「変身!」
『ロックオン!ソイヤッ!』
クラックから出現した巨大な果実が、甜花へと降下する。
上半身へと果実が展開し、緑の網目状というメロンの色彩と似た装甲を纏う。
鎧武者のようにも見える外見のアーマードライダー、斬月への変身があっという間に完了した。
上半身へと果実が展開し、緑の網目状というメロンの色彩と似た装甲を纏う。
鎧武者のようにも見える外見のアーマードライダー、斬月への変身があっという間に完了した。
『メロンアームズ!天・下・御・免!』
戦極ドライバーから流れる電子音声が、存在を猛烈にアピールするかの如く響き渡る。
製作者の趣味を存分に発揮させたものだとは露知らず、ただまさか甜花まで奇妙な装甲姿に変身した光景へデビハムはまたもや驚く羽目になった。
相手がどんな反応を見せようと関係ない。
甜花の頭にあるのは、愛する男の障害を排除するという一点のみ。
腰に差した無双セイバーを勢い良く抜き放ち、未だ呆けるデビハムを斬り殺すべく駆けた。
製作者の趣味を存分に発揮させたものだとは露知らず、ただまさか甜花まで奇妙な装甲姿に変身した光景へデビハムはまたもや驚く羽目になった。
相手がどんな反応を見せようと関係ない。
甜花の頭にあるのは、愛する男の障害を排除するという一点のみ。
腰に差した無双セイバーを勢い良く抜き放ち、未だ呆けるデビハムを斬り殺すべく駆けた。
「のわぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げながら、デビハムは斬月の一刀を防ぐ。
反応の速さは肉体と支給品の恩恵によるものだろう。
黒い刀身の日本刀での防御に成功すると、表情を驚きから一転して憤怒に染め上げる。
反応の速さは肉体と支給品の恩恵によるものだろう。
黒い刀身の日本刀での防御に成功すると、表情を驚きから一転して憤怒に染め上げる。
「何するデビ!あの戦兎って奴とお似合いの乱暴さデビね!」
「ッ!うるさい……!」
「ッ!うるさい……!」
互いに敵意を刃に乗せ、得物を振るい合う。
現代の市街地ではミスマッチな、金属同士がぶつかり合う音が絶え間なく繰り返された。
現代の市街地ではミスマッチな、金属同士がぶつかり合う音が絶え間なく繰り返された。
残された者達もまた、動き始める。
二人の争いを止めようとしたしのぶ、その眼前へDIOが立ち塞がった。
「何を…」
「甜花の援護をしてやれ」
「甜花の援護をしてやれ」
しのぶの問いかけを無視し、部下へ指示を出す。
ほんの一瞬不満気に眉を顰めたが、DIO直々の命令とあっては逆らう気は皆無。
たとえそれが気に入らない相手を助ける事だろうと、主の言葉は絶対だ。
頷いて肯定の意思を見せると、貨物船は内心嫌々ながらも甜花の援護をすべく、デビハムへと剛腕を振るう。
部下の動きを最後まで見届けず、しのぶへと笑みを向けた。
ほんの一瞬不満気に眉を顰めたが、DIO直々の命令とあっては逆らう気は皆無。
たとえそれが気に入らない相手を助ける事だろうと、主の言葉は絶対だ。
頷いて肯定の意思を見せると、貨物船は内心嫌々ながらも甜花の援護をすべく、デビハムへと剛腕を振るう。
部下の動きを最後まで見届けず、しのぶへと笑みを向けた。
「君の同行者の…デビハム君だったか。甜花から聞いた話では、先に襲ったのは彼の方らしい」
「…私がデビハム君から聞いたのは、あの甜花という女の子に騙されたという内容でしたね」
「フム?どうやら情報の食い違いがあるようだ。ということは、どちらかが嘘を言っている事になる」
「それを確かめる為にも、二人を止めたいのですが?早くそこを退いてくれません?」
「…私がデビハム君から聞いたのは、あの甜花という女の子に騙されたという内容でしたね」
「フム?どうやら情報の食い違いがあるようだ。ということは、どちらかが嘘を言っている事になる」
「それを確かめる為にも、二人を止めたいのですが?早くそこを退いてくれません?」
涼しい笑みのDIOに、貼り付けた笑みで冷たく正論をぶつける。
この時点でしのぶにとってDIOは「どんな方針であれ警戒した方が良さそうな男」から、「強く警戒すべきであり、絶対に相容れない男」へと印象が変わっていた。
もし殺し合いに反対の善人であれば呑気に自分と会話などせず、一刻も早くデビハムと甜花の戦闘を止めるに決まっている。
だが実際には止めるどころか仲間らしき猿を焚き付ける始末。
信用できる相手でない事は明白であった。
この時点でしのぶにとってDIOは「どんな方針であれ警戒した方が良さそうな男」から、「強く警戒すべきであり、絶対に相容れない男」へと印象が変わっていた。
もし殺し合いに反対の善人であれば呑気に自分と会話などせず、一刻も早くデビハムと甜花の戦闘を止めるに決まっている。
だが実際には止めるどころか仲間らしき猿を焚き付ける始末。
信用できる相手でない事は明白であった。
「デビハム君には後でゆっくり話を聞くとして、今は君の方にも興味があってね。ええと、良ければ名前を教えてもらえるかい?」
「口説き文句のつもりなら時と場所を選んで頂けます?呑気に自己紹介している場合でない事くらい分かりますよね?」
「手厳しいな。その気の強さは嫌いではないよ」
「口説き文句のつもりなら時と場所を選んで頂けます?呑気に自己紹介している場合でない事くらい分かりますよね?」
「手厳しいな。その気の強さは嫌いではないよ」
埒が明かない。
そう判断したしのぶは警戒を解かないまま、強引にDIOを押しのけようとし――
そう判断したしのぶは警戒を解かないまま、強引にDIOを押しのけようとし――
「君がその笑顔の裏に、何をそこまで必死に押し隠しているのかがどうしても気になってね」
ピタリと、動きを止めた。
「おや?図星だったかな?これでも人を見る目には少しばかり自信があるのでな」
しのぶの反応へ事も無げに言って見せた。
心なしか意地の悪く聞こえる声色に、しのぶの笑みは崩れない。
が、何も感じていない訳では無い。
心なしか意地の悪く聞こえる声色に、しのぶの笑みは崩れない。
が、何も感じていない訳では無い。
こちらの事情を何一つ知らない癖に、土足で踏み込みそのまま我が物顔で居座るような言葉。
構う必要は無い。時間の無駄だ。
頭では分かっているのに、心がざわめくのを止められない。
男の言葉一つで、ピシリピシリと笑顔という仮面に罅が入る。
構う必要は無い。時間の無駄だ。
頭では分かっているのに、心がざわめくのを止められない。
男の言葉一つで、ピシリピシリと笑顔という仮面に罅が入る。
普段のしのぶならばDIOの言葉に思う所はあれど、軽く受け流すくらいはできた。
だが今は、余りにもタイミングが悪過ぎたとしか言いようが無い。
自らの与り知らぬところで姉の仇が死んだ。
たった一つの、されどしのぶにとっては無視できない心を蝕む事実。
出会って数時間程度の間柄のデビハムにさえ異常を察知される程の動揺を見せた今のしのぶには、DIOの言葉をのらりくらりと受け流す余裕は持てない。
仮に、放送後に傍にいたのが悲鳴嶼行冥だったなら。
しのぶが胸に抱いた形容し難い感情を吐き出させ、姉の仇に先に死なれ傷ついた心の支えになれただろう。
現実には悲鳴嶼は別行動を取っており、代わりにいた少年はしのぶの心の乱れに気付きこそしたものの、それ以上は踏み込もうとしなかった。
だが今は、余りにもタイミングが悪過ぎたとしか言いようが無い。
自らの与り知らぬところで姉の仇が死んだ。
たった一つの、されどしのぶにとっては無視できない心を蝕む事実。
出会って数時間程度の間柄のデビハムにさえ異常を察知される程の動揺を見せた今のしのぶには、DIOの言葉をのらりくらりと受け流す余裕は持てない。
仮に、放送後に傍にいたのが悲鳴嶼行冥だったなら。
しのぶが胸に抱いた形容し難い感情を吐き出させ、姉の仇に先に死なれ傷ついた心の支えになれただろう。
現実には悲鳴嶼は別行動を取っており、代わりにいた少年はしのぶの心の乱れに気付きこそしたものの、それ以上は踏み込もうとしなかった。
だからこうして、童磨という鬼の死に心を蝕まれたまま、救い難い悪と対峙する結果となった。
「もう一度だけ言います。そこを退いてください」
これが最後通告。
それでも聞き入れないのなら実力行使も辞さない。
刀に手を掛け告げるしのぶの姿をどう受け取ったのか、余裕の笑みを浮かべたままDIOが返す。
それでも聞き入れないのなら実力行使も辞さない。
刀に手を掛け告げるしのぶの姿をどう受け取ったのか、余裕の笑みを浮かべたままDIOが返す。
「ほォう…女だてらに様になっているじゃあないか。お飾りで剣をぶら下げているのではないらしい。
そうなると、君の腕前がどれ程のものか確かめたくなったよ」
「…そうですか。もう結構です」
そうなると、君の腕前がどれ程のものか確かめたくなったよ」
「…そうですか。もう結構です」
これ以上は話をするだけ時間の無駄。
そう結論付けると、刀を鞘から引き抜いた。
心が恐ろしく冷え切っているのが自分でも分かる。
そう結論付けると、刀を鞘から引き抜いた。
心が恐ろしく冷え切っているのが自分でも分かる。
だけど今更止められない。
眼前の障害を押し退けるように、或いはこの耐え難い感情を一時でも振り払うかのように、駆け出した。
眼前の障害を押し退けるように、或いはこの耐え難い感情を一時でも振り払うかのように、駆け出した。
対するDIOもまた、やはり戦うのは無しだなどと言う気は無い。
迫る少女を視界に収め、慌てる事無く謡うように言い放つ。
迫る少女を視界に収め、慌てる事無く謡うように言い放つ。
「世界(ザ・ワールド)」