閃劇のリベリオン過去ログ Ⅸ

罪剣事件の後、私たちは戦いの傷を癒す為に各々に休息の一時を過ごした。


翌日、私は神界政府へ戻り、罪剣事件の概要をデイリンさんに報告した。プルストさんが証言してくれたこともあって、この事件は公にならず無事解決してほっとした。


今回の罪剣事件に大きく貢献してくれたメタナイトさんは、別れた後にまた何処かへと飛び去っていった。きっと、次に起こり得る事件の解決に臨むんだと思う。


風の様に現れ、消えていったレインドさんは、今何処で何をしているのか分からない。でも、きっと世界に何かが起きた時、また救いに現れることを信じている。


そして氷冬は…刀剣武祭が復興するまでの短期間、ASさんとの修行に励んだ。氷冬はもっと強くなって帰ってくる。もう二度と、負けないために。


その時私とスカーフィは、氷冬と初めて出会った時のことの思い出話で盛り上がっていた。いつかは氷冬も交えて三人で語り合いたいな。


あれから二週間後が経った。そして、十刀剣武祭が再開された―――――



――― West・D・Land 十刀剣武祭 会場 ―――


キリギリス「――― レディースアァーンドジェントルメンッ!!!長らくお待たせいたしましたァッ!!十刀剣武祭のぉ~~~~――――再開だああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!!!」


うおおおおおああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!!!(会場一帯に大歓声が響き渡る)


シグマ「フン…(この際だ。最後まで見せてもらうぞ…人間の、限界を越えた力とやらを。)(客席に居座る)」

キリギリス「この度はみな皆様方に多大なご迷惑をおかけいたしましたことを、深く…深くッ!深くお詫び申し上げます!!我々刀剣武祭運営陣は、伝統あるこの大会の存続のために!そして、数多の刀剣者たちの夢を叶えるために!!これからも精進いたしますッ!!!」

エゴ猫「ゴルァ…まったくだ。おかげで俺様重傷だぜ…(全身を包帯で覆っている) 」

エー「英雄に轢かれるなんてすごい奇跡なんですよ、エゴさん。よかったじゃありませんか。でも私は嫌ですね!。(ドーンッ!)」

エゴ猫「エゴハァーンッ!?!?!?Σ(゚Д゚ ; ) 」

キリギリス「さあ、それではさっそく…始めましょうかァッ!!!第六試合!!氷冬 vs 雛菊だあああああああぁぁぁぁぁッ!!!!生まれ変わった刀剣武祭に華を咲かせるのはこの二人!!これは間違いなく、白熱した激戦になるだろうッ!!選手はステージへどうぞォッ!!!」

氷冬「スゥ…ハァ…―――――― よし。(深呼吸をひとつ。眦を決してステージへとゆっくり駆け上がる)」

スカーフィ「かぅ!!氷冬、来たよ…!!(彼女の登場に歓喜し興奮する)」

フーナ「……!ふふっ…(氷冬…また強くなったね。)(より強かに、凛とした瞳をした氷冬を見て不敵に微笑んだ)」

雛菊「 フ ワ ―――――(麗しい碧の長髪を靡かせると淡い碧光が零れる。威風堂々たる足取りでステージへと駆け上がる)…この時を…ずっと待っていました。(ステージ上で再び彼女と対峙し、喜びに満ちた表情で微笑みかける)」

ヒロ「…ほぉ、おもしれぇ…あの二人が対戦とはな…(雛菊と氷冬を見て) 」

氷冬「ええ、雛菊。お互いに悔いの残らない試合にしましょう。(緊張も不安も淀みもない、澄んだ瞳で真っ直ぐに見据える)……(AS…私に付き合ってくれたのはこの為だったのね…礼を言うわ。もう、何も恐れない…―――――)――――― ス … (四刀の内の一本に手を添え、戦闘態勢に)」

AS「さあ―――お前の行き着く境地を、見せてみるがいい。(氷冬に、見守るようで、期待するような視線を向けている) 」

モララー「待ちわびたぜ、この時をな。…楽しませてくれよな。(観客席でにししと笑んで)」

眼鏡の女性「ふわわっ…!すごいですね…この歓声、熱気!世界の強い剣士たちが集いに集っている…!こんな大会があったなんて、驚きました…!(モララーの真横の席で興奮し、眼鏡を輝かせている)」

モララー「んあ…?(なんだこいつ…関わるとめんどくさそうだな…)(やや退き気味に女性を睥睨し、手にしたうまい棒(マヨネージ風味)を銜える)」

眼鏡の女性→たしぎ「おや…?可愛い猫さんですね♪(モララーに気付き、可愛いものを見て興奮する少女の様に目を輝かせる)私は「たしぎ」と言います。本大会の噂を聞きつけ調s…いえ、見物にきました!よろしくです。(モララーに微笑んで)」

モララー「ん、ああ…よろ…(…こいつも剣士、なのか…)(たしぎの腰元にある刀を一瞥する)」

雛菊「悔いの残らない様に…そうですね…(まるで自分自身に言い聞かせるように、そう呟いて手を胸元に添える)それなら、出し惜しみはしません。…全力でお相手いたします。チャキ…(愛刀「蕨」を鞘に納めたまま身構える)……(――― 見ていてください、お師匠様…)」

キリギリス「それでは両者構えてェ~…!! 試合 ―――――」

氷冬/雛菊『―――――――!(互いに睨み合いながら姿勢を低くし、抜刀態勢に入る)』

キリギリス「――――― 開 始 ィ ィ ア ッ ! ! ―――――」


BGM♪



氷冬「 タ ン ッ (先制したのは氷冬―――雛菊へと駆け出す最中に一刀を音もなく抜き出し、風を切るような疾駆と共にその軌道が僅かに凍結を帯びる) ス ァ ン ッ ! (一刀を横一文字に振り抜いた)」

雛菊「……!( ザ キ ィ ン ッ ! ! )(彼女を迎える様に、垂直に構えた刀から抜刀した半身で斬撃を防ぐ)はっ…!(納刀、旋回、不可視の高速居合抜きで反撃に回る)」

氷冬「 ス ン ッ ――― はっ!( ズ ァ ッ ! ! )(仰向けに反ってその刃の鋭い軌道を避け、懐から刀を振り上げる)」

雛菊「フ ォ ン ッ ――― ブォン、 フォン、 ズァッ ! !(流れるような動作から攻撃を受け流し、隙の無い三段斬りを繰り出す)」

氷冬「ガキィンッ、ガキィン、 ガキャァンッ ! ! (繰り出される三閃を退け、回転からの突きと袈裟斬りを浴びせる)」

雛菊「キィンッ ! ! フォンッ… ! (突きだされた刀を弾き返し、続けて繰り出された斬撃を屈んで避ける)フォンッ―――(瞬間的にその場から姿を消す)」


フォンッ、フォン、フォンッ―――― ! !(雛菊の鮮やかな残像が、刀を振った軌跡の様に描きながら氷冬を覆う様に翻弄する)


氷冬「……!(早い…でも――――)(落ち着いた表情でを瞳を閉ざし、風を感じるように感覚を研ぎ澄ます)」

雛菊「 フ ォ ン ッ ――――(氷冬の背後に出現するや否や、その死角から刀を振い上げる)」

氷冬「―――― そこッ!!(振り返ることなく刀を背後へ回し凶刃を防御する)はああぁっ!!(そして回転斬りで反撃し、更に雛菊との距離を詰めながら刀を振い続ける)」

雛菊「―――ッ!(読まれた―――柊木さんとの試合以来だ…!)く…っ……!(繰り出される苛烈な斬撃を後退しながら弾き返していく)はっ、せいっ…やぁっ!!(早蕨、蕨、花蕨と、納刀と抜刀を高速的に繰り返しながら変幻するように伸縮する斬撃で圧倒していく)」

大剣使いの男「参刀流の剣技…やはりその太刀筋は見えん…(雛菊独特の剣術に目を細めて頷く)」

たしぎ「……!(雛菊が手にしている刀「蕨」に目を光らせる)彼女の刀…納刀と抜刀を繰り返す度に刀身が伸縮している…!?(刀の変幻…まさか彼女は…――――)」

モララー「……(…初見であの刀のからくりを見抜くか…こいつ、ただの眼鏡じゃなさそうだな。)(腕を束ね、隣のたしぎに一瞥を与える)」

氷冬「っ…!(初めて対峙した試合がフラッシュバック。伸縮自在の刀に翻弄されていた当時を思い出す)……!(刀と剣士の一体化によって成せる剣技… やっぱり強い…でも…!)ズザァァ-…ッ… ! ! (一刀で受け止め、吹き飛ばされるのを踏みこんで反動を和らげる) 一刀流…“天神”から“轍”まで、斬撃技混成接続…!!( ザギィンッ―――ズァンッ、ズァンッ――ズッ、バァンッ ! ! ! ! )(鮮やかにして強かな刀捌きで次々と剣技を叩き込んでいく)」

雛菊「(―――!) “脆巧三昧”…!(押し寄せる斬撃の嵐を、高速剣技で迎え撃つ)」


ガキィンッ、キャギィンッ、ギャキィンッ、カンッ ! ! ! キィン、カキャァンッ ! ! ギィン、ギィンッ ! ! ガキィインッ、カキィンッ ! ! ! (音速を越えた刀の衝突によって火花が煌めきながら咲き誇る)


雛菊「 ス ン ッ ――――― ド ゴ ォ ッ ! ! ! (隙を突き、納刀したままの刀の柄で氷冬を上空へ殴り飛ばす) タ ン ッ ――――(そして自らも飛翔し、空中へ身を投げ出した)」

氷冬「あぐ…ッ…!(腹部に感じた打撃の痛みに表情を歪ませる)――――!(この状況…まさか……!)」

シグマ「(空中での居合を可能にするということは、空中での剣戟も可能だということだ…) あの女(雛菊)…地の利を突いたか!(空中へ翔んだ雛菊を見上げる)」

氷冬「……いいえ、それでも私は―――― やってみせる…ッ!(宙で身を翻し、もう一刀を振り抜く)――― " 飛 出 " ―――(二刀を翼の様に羽ばたかせ、下方から迫る雛菊をしっかりと見定める)」

雛菊「……!(空中で刀を身構えた氷冬に目を見張るも、すぐに不敵な笑みを浮かべ、彼女に応えるように空中で居合の態勢に入る)――― ス ワ ン ッ(更に虚空を蹴り、氷冬のもとへ飛翔する)―――“ 華 蝶 風 月 ”―――(かつて氷冬に敗北の二文字を刻んだ最強剣技を炸裂させる)」

氷冬「(誓ったのよ、『彼』と再び―――"語り合う"ために!!)(縊鬼の像が過ったその時、二刀で大きく薙ぎ払い―――)  ガ キ ィ ィ ン ッ ! ! ! (雛菊の“華蝶風月”をいなした)」

雛菊「―――――!!?(弾き返された閃撃に驚愕を露わにするも…)……!はああぁっ!!(再び虚空を踏みこみ、次なる斬撃を繰り出す)」

氷冬「はっ!( ガ キ ィ ン ッ ! ! ギ ャ キ ャ ン ッ ! ! ! )(足場の無い宙で、強く羽ばたく鳥の様に刀を振って拮抗する)」

剣士「嘘だろ…!?あ、あいつら…あんな所でも戦えるのか…!?(空中でぶつかりあう二人を見て仰天する)」

ロックマンゼロ「……!!(何より驚いたのは、あの"華蝶風月"と空中で渡り合っている雪女の剣士だ。もはや百刀剣武祭の時とは違う。あの女…明らかに、急激な成長を遂げている…!)」

ヒロ「ど、どうやったら、あんなとこで戦えるってんだ…!?なんか道具でも使ってるってのか!? 」

破龍皇帝・グランドジークフリート「蝶の様に舞う可憐な剣豪と、鳥の様に羽ばたく純潔な剣士… なるほど、もはや大地に立つ時は終わったのだ。娘たちは更なる高みへと翔んでいくのだ…! 」

AS「好いな、上等だ。もっと羽ばたけ、そのために俺は・・・(二人の剣戟に、微笑みを向けている) 」

氷冬「 ガ キ ャ ア ン ッ ――――― タ ン ッ (斬撃を退け華麗に着地する。そして雛菊が降りてくるタイミングで駆け出し、彼女の頭上へ跳躍) ブ ォ ン ッ ―――― (頭上から二刀を振り下ろした)」

雛菊「っ……!!( ガ キ ィ ィ ――― ン … ッ … ! ! )(頭上より迫る二閃を水平に構えた刀で受け止める)っは…!(そのまま背後へ受け流し、踵を返すと同時に薙ぎ払う)」

氷冬「スタンッ、クル―――― キ ャ ギ ィ ン ッ ! !(雛菊の頭上を越えて彼女の背後で着地。反撃が回ってくるのを予測し、アンビションで硬化した一刀で受け止める) “鳳凰”!!( ズ ア ア ア ァ ァ ッ ! ! ! )(刀身が火炎を帯び、その燃え盛る二刀を力強く振り抜く)」

雛菊「 “火蜂”!!( シ ュ ド ド ド ァ ッ ! ! ! )(高速抜刀による摩擦発火を帯びた刀身で高速刺斬を繰り出す)」


ガ キ ィ ン ッ ! ! ! ガ キ ィ ン ッ ! ! ! ガ キ ィ ン ッ 、 ガ キ ィ ン 、 ガ キ ン ッ 、 ガ キ ン ッ 、 ガ キ ィ ン ッ ! ! ! ! (焔を纏う剣舞が、閃の祭典で鮮やかに、強かに、己が"刃"の叫びを放つ)


たしぎ「凄い…!凄すぎて…息を呑むのも忘れてしまいそうです…!(そう言い、ずれた眼鏡をかけ直し激戦を見守る)」

氷冬「ふぅー…ふぅー……!(斬撃の応酬から退き、肩で息をしながら雛菊を見据える)ふぅ…(苦手な炎の剣武で挑んだことにより、熱気によって汗が滴る)」

雛菊「はぁ…はぁ……(口元を拭い、表情を崩さずふふっと笑みを零す)流石です…本当に強くなられましたね。驚きました…!(柄を強く握りしめたまま激励し)」

氷冬「当然よ。貴女を越えられなきゃ…『世界』は越えられないんだから…!(ススス…―――― ス チ ャ ン )スゥ…ハァ……(二刀を鞘に戻し、深呼吸一つ。そして…) ジ ャ キ ャ ァ … ッ … ! ! ! ! (矢庭に四刀を振り抜き、雛菊に構える)」

スカーフィ「かぅ、氷冬が本気を出すよ…!(刀四本を抜き出した彼女に興奮する)」

大剣使いの男「出たな、四刀流…!(感心するようにその構えを見つめる)」

AS「目の前の強敵に見せてやれ、お前の・・・お前だけの剣<じぶん>を。(四刀を手にした氷冬を見て、呟く) 」

氷冬「それに、成長したのは私だけじゃない。(そう言うと、両腕を広げて四刀を広々と展開する。目を閉じると全身から迸る強かな覇気が鼓動から胸に、胸から腕に、腕から刀へと伝わっていく)」

氷冬「――――『 春 颯 』(はるはやて)―――― ( ビ ュ オ ワ ア ァ ァ … ッ … ! ! )( 旋風が詠う )」

氷冬「――――『 夏 椿 』(なつつばき)―――― ( ボ ォ ア ア ァ … ッ … ! ! !)( 火炎が唸る )」

氷冬「――――『 秋 霞 』(あきがすみ)―――― ( ガ キ ャ ア ァ ン … ッ … ! ! ! )( 鋼鉄が軋む )」

氷冬「そして…―――『 冬 芽 』(ふゆめ)――――( ヒ ュ ア ア ァ … ッ … ! ! ! )( 吹雪が鳴く )」


春夏秋冬の四刀が、氷冬の意思に呼応するように変幻し始めていく―――――


たしぎ「―――――!!?……ぁ…あれは…(―――…ま、間違いない…!) あれは…あれは…――――(変幻する氷冬の四刀を目にした時、尋常ではない驚愕の色を露わにする。そして、確信したようにあることを呟き始める―――)―――――『 刀 剣 覚 醒』( リ ベ リ オ ン) … ッ … !!!」

モララー「……!(なんだ…?刀が…みるみると変わって…)あん…?なんだそれ…?(いぶかしむ様にたしぎを横目で見つめ、耳にしたその名を繰り返すように呟く)」

たしぎ「…一部の剣士たちの間で、こんな伝説があります… "刀剣を愛し、愛される者にしか芽生えない『力』がある"と…!」

たしぎ「この世界では、刀剣は生み出された瞬間から"心"という潜在的な力を持っています。その力を呼び起こすには所有者と刀剣、互いの心が共鳴し合う必要があります。覚醒した刀剣は本来の姿形と名前を取り戻し、特有の能力を顕現できるんです…!それが――――」


――――― 『 刀 剣 覚 醒 』( リ ベ リ オ ン ) ―――――


剣士「な、なんだ…!?なんだなんだ…!!?奴の刀が…変化したぞ!!」

たしぎ「所詮は伝説上の出来事だと思っていました…ですが、今なら、確信できる…!この十刀剣武祭には強者たる剣士が集う。強い剣士は実力での強さだけじゃなく、"刀剣に認められた"ということ!あの『力』を顕現できた二人は…間違いなく、刀に愛された剣豪…っ!!すごい…本当にすごいです!!本物の刀剣覚醒を、そしてそれを顕現する真の実力者をこの目で見られるなんて…!!」

モララー「ほーん……(つまるところ、めちゃくちゃすげえってことだけはわかった。それには確かに頷ける。あいつらの目を見れば…モノホンの強者だってことをな。)(口角を上げて不敵な笑みを浮かべ、再びステージ上の二人を見据える)」

氷冬「私とこの子たちは一心同体。私が強くなれば、当然この子たちも強く輝く。――――― " 四 刀 流 の 氷 冬 " ――――― 押して参る!!!(天衣無縫の四閃が覇の路を刻み、激震する)」

雛菊「――――――!(強烈な覇気を感じる…っ… ただでは感じ得られることのない…そう、『剣豪』を相手にしたような感覚を…!)(氷冬から迸る覇気に圧倒され思わず驚嘆する)…ふ、ふふ…っ… 見違えました、氷冬さん。今の貴女は、まさに、剣の頂点に立つ者と同じ気を羽織っている… それなら、私も認めなくてはいけない。(蕨を両手に握りしめ、その柄を額にそっと当てる)」

大剣使いの男「…氷冬と言ったか。クロリアー暴走時でもはっきりと感じたが、奴は進化を遂げた。……だが…(一方で不思議な構えを取った雛菊を見る)…"華蝶風月"は簡単には落ちんぞ。(あの構え… まさか、奥の手とやらを隠し持っているのか…)(体が硬直したように戦慄が走る)」

雛菊「(額と密着した蕨が淡く発光し、その光が全身へと伝導する)天の空、人の傾、修羅の路、畜生の末、餓鬼の腹、地獄の扉… 魂魄は廻り廻って輪廻する… 断ち切れ――――」

雛菊「――――― ≪ 六 道 ≫ ―――――


―――――― ド  オ  ゥ  ッ  !  !  ! ――――――(雛菊の全身に大きな異変が発生する。彼女の身を包んでいた光が爆発し、弾け飛ぶ。そして、弾け飛んだ碧の光は吸い込まれる様に彼女の額へと集結していく)」


プルスト「くッ……!(雛菊から発せられた眩い光に目が眩む)……!(魂魄の力…あの雛菊という女性から、霊力に近いものを感じる…!) 」

ソードプリム「こ…今度は何だ!!?」

雛菊(六道)「 ヒ ュ ォ ォ ォ … ッ … (炸裂した光が徐々に消滅する。そこに姿を現したのは、神々しい光の衣を纏い、仄かに蒼白い発光を帯びた麗しい碧髪をした、変貌を遂げた雛菊の姿。周辺に浮遊する六つの勾玉を取り巻き、その右手には…鞘を失った刀『蕨』がしっかりと握られていた)」

氷冬「…ッ……!(迸る衝撃に表情が歪み、吹き飛ばされまいと強く踏み込み耐え忍ぶ)…… …… ……!!!(徐々に目を開け、そこにいる変わり果てた雛菊の姿に大きく目を見張った)」

雛菊(六道)「……(ゆっくりと瞳が開かれる。その紫瞳の中に、銀河を閉じ込めた様な神々しい輝きが煌めいている)…この力を解放するのは、本当に久方ぶりです。ですが、以前発動した時に比べると…完成されたこの力は、ついに洗練されたみたいですね。…正直、私自身も驚いています。だからこそ、感謝しています…氷冬さん。貴女に出会えて私は…更なる"限界"を見出せたのですから。」

たしぎ「な…ッ…!?な、ななな…なんですか、あれ…!!?(変わり果てた雛菊の姿に思わず目を奪われる)」

モララー「なんだ、刀に精通しているあんたなら、大凡のことは理解できるんじゃねえのか。…あいつ…"覚醒"しやがったんだ… あんたが言っていた『刀剣覚醒』なのかどうかは、わかんねえけどな。(感じるぜ…あれは間違いなく、"強い"…!)(鋭く細めた眼に雛菊を捉える)」

氷冬「……(やっと届いたと思えば、限界突破… 私が上を目指せば目指すほど、彼女もまた上へと上り詰めていく… ……これが『世界』の本当の実力…っ…)………だけど…(小さく呟いて、変幻された四刀を構え直す)ここで退いたら剣士の名折れ。剣士はただ、己よりも強い者に惹かれ、強くなっていく…!(そう、ずっと…これはずっと不変だった。銀閣とも、ASとも、そして、縊鬼… かつて剣豪と刃を交わした時から、私の気持ちは何一つ変わっていない…――――)」

氷冬「――― "強くなれ、その為なら、強くあれ"。自分を信じて、刀を信じて…勝利を信じる。雛菊…――― 私は貴女を越えていく…ッ!!( ド ヒ ュ ア ア ア ア ァ ァ ァ ッ ! ! ! ! )(四刀が虚空を裂き、覇気を纏う猛吹雪が吹き荒れる)」

雛菊(六道)「……(この方には、確固たる強い意思がある… でも、意思の強さなら…私も負けない。)――――― 閃劇・第二幕の開演です、氷冬さん。(自らも己の勝利を頑なに信じ、刀を振って氷冬を迎える)」


BGM♪



氷冬「 ス … ――――― ダ ァ ン ッ ! (倒れ込む様な前傾から駆け出す最中、指間に挟んだ二刀を薙刀の様に持ち替える) ド ヒ ュ ン ッ ―――― ズ ア ァ ッ ! ! (空間を穿つような鋭い突きを繰り出し、そのまま腕を振ってもう一対の刃で薙ぎ払う)」

雛菊(六道)「……(――『 天 の 輪 廻 』――) ス ァ ン ッ、 ブ ワ ァ … ッ … ! (皮膚に掠れる寸前で刃を紙一重で避け、続く二撃を屈んで受け流す)」

アラモス卿「姿形が変わったのはただの見かけ倒しではなかったか。(雛菊の繊細な挙動に感嘆するように頷く)」

氷冬「はっ…!つっ…!(刺突、薙ぎ払い、回転斬りの隙の無い連撃を畳みかける)」

雛菊(六道)「 ス ァ ン ッ、 ブ ン ッ ! ! ス ッ … ガ キ ィ ン ッ ! ! (氷冬の四閃の鋭い軌道を凝視するように目視し、繰り出される刃を避け、受け流し、刀で弾き返し悉く退けていく)」

氷冬「―――――!(感覚が鋭敏になった……!?以前言ってたあの“佩”という足運び… いえ、少し違う…!)(刀を振い、かわされる度に僅かな動揺が走るが、冷静に雛菊の立ち回りを解析する)」

雛菊(六道)「 ニ ヤ … ―――――(不敵な笑みを浮かべ、刹那の内に突きの態勢に入る)」

氷冬「ッ…!(攻撃態勢に入られ反撃されると踏んで距離を置こうと退くが…)」

雛菊(六道)「―――“汝汪蜂”(じょうおうばち)―――( シ ュ ガ ガ ガ ガ ァ ッ ! ! ! ! )(荒れ狂うの様な刀捌きから無数の刺突が繰り出される。強かにして鮮やかな突きの矛先は無駄がなく、そのすべてが氷冬に向かれる)」

八頭身ギコ侍「ふむ…かの娘の"太刀"…某の「卍解」とは似て非なる力を秘めているでござるな。見事な太刀筋よ。(客席で団子の串を歯に銜えながら、観戦している)」

氷冬「くッ……!( ガキャキィキャギィガキャンッ ! ! ! ! )(高速刺斬に対し何度も刀を振って応戦し、矛先を叩き落としていくが…) ッ―――――(幾重の鋭い針が頬や衣を掠め、白い肌から赤い雫が滴り落ちる)」

スカーフィ「かぅ……(圧倒されていく氷冬を心配そうに見つめては固唾をのみ、祈る様に見守っている) 」

雛菊(六道)「……(本当に強いお方…だけど、私にも引けない覚悟がある。絶対に負けられない…っ!!)(互いの刀が交錯する最中、その瞳は真っ直ぐ氷冬に向けられた)スタァンッ――――ブォンッ、ガキィンッ、ズァッ ! ! ! (空へと翔び、虚空を歩く様な浮遊移動から何度も刀を振って撃退していく)」

氷冬「あッ…く…!(さっきよりも攻撃が重く、鋭くなった…見かけ倒しの変身なんかじゃない。…これが、彼女の――― "覚醒"…!)(上空から振り下ろされる刀とぶつかり合う度に、雛菊の強い意思が籠った"刀"を受け止める)スワンッ―――ズザザザァー…ッ… ! ! ! (バク転後退から距離を置き、従来の構えに戻る)」

たしぎ「すごい…!あんな態勢から曲芸みたいな斬撃できるなんて…並大抵の剣士には真似できませんよ…!(驚くあまりずれる眼鏡をくいっと上げる) 」

雛菊(六道)「スタン…―――― ド ヒ ュ ア ッ ! ! ! (着地と同時に砲弾の如き勢いで襲撃する)―――“風車”!!( ズギャアアアァァンッ ! ! ! )(螺旋斬撃波を解き放つ)」

氷冬「ザ キ ィ ィ ン ッ ! ! (四刀を地面に突き刺し…)―――“穿琉減惧”(ばるべく)!( ズ シ ャ ア ア ア ァ ァ ァ ッ ! ! ! )(そのまま螺旋を描く様に回転し、地面を抉り出しながら刀を振り上げ砂塵を捲き上げ衝撃を飛ばす。衝撃によって斬撃波は相殺される)」

雛菊(六道)「……!(前方より押し迫る衝撃と砂塵に目を細め、その刹那に一閃を刻み、断裂する)」


――― ザ   ン   ッ   !   ! ―――(巻き上がる砂塵が霧払いの様に断裂されるが、そこに氷冬の姿はなく―――)


氷冬「 ボ フ ン ッ ―――――― “去霧照蛇”(さるむでるた)!!(ギュルンギュルンギュルン――――― ズ ァ ン ッ ! ! )(砂塵上空より現れ、縦回転しながら斬りかかる)」

雛菊(六道)「―――――!(いない……!そうか、これは――――) ! ! ! (氷冬の技巧に翻弄され、一瞬後れを取って上空からの斬撃を受け止めるが…)…ぁ…っ……!(頭上からの急襲という不利な状況から吹き飛ばされる)」

フーナ「氷冬が押し返した…!(安堵したように一息つく)」

氷冬「まだよ…!(吹き飛んだ雛菊へ追い打ちを仕掛けるべく、一度の踏み込みで瞬く間に距離を詰める)ッッッ!!!(真横から二刀で薙ぎ払う)」

雛菊(六道)「うっ……!(――『 人 間 の 輪 廻 』――) ガ キ イ ィ ィ ィ ン ッ ! ! ! (強靭化された刃で受け止める。受け止めた衝撃によって全身が1mmも微動することなく完全静止し、その状態から斬り払う)」

氷冬「―――!?(硬い…っ…!いや、硬く"なった"…!?)(斬撃の応酬で雛菊の刀の強度はある程度把握していたが、その強度が明らかに増しているのを瞬時に感じ取り動揺する)ッ…!(斬り払いから逃れように後退する)」

雛菊(六道)「(――『 修 羅 の 輪 廻 』――) ド ゥ ン ッ ――― ザギィンッ、ザギィンッ、ザギイィィンッ ! ! ! ! (斬り込めば斬り込むほどにその刀は徐々に重く、鋭く、速くなっていく)」

氷冬「……ッ…!!?(雛菊の刀による一撃が苛烈になっていくのを感じ取り、受け止める度に衝撃が全身を走り、時に跳ね上げられるように圧倒されていく)」

雛菊(六道)「 “一重三砕”…!(ひと思いに純粋な"力"で蹂躙するべく、破壊力を重ねた強烈な一撃を炸裂させる)」

氷冬「(この剣圧――――!!)(雛菊が繰り出す次の技にただならぬ危機感を覚え、こちらも両腕に力をこめる)――――“ 獅 子 王 ”(レオン)ッ!!!(彼女の一撃に合わせるように、力いっぱい振った)」


―――――    ガ    ア    ァ    ン    ッ   !   !   !   !   ―――――(刀の斬響ではなく、まるで隕石が互いに衝突し合うかのように空間に轟いた)


ロックマンゼロ「…ッ……!(大気に迸る衝撃に目を鋭く細める) 」

雛菊(六道)「ッ…つ…ッ……!!!( ギ ャ リ リ リ リ ィ ッ … ! ! ! ! )(意地でも退かないと歯を食いしばり、拮抗する衝突に全力をかける)」

氷冬「ぐ…ぅッ……!!!( ズ ァ ギ ギ ギ ギ ィ ッ … ! ! ! ! )(尋常ではない重力の奔流に抗うかのように凄まじい鍔鳴りを響かせながら衝突し合う。刀が折れるか、腕の骨が折れるか、あるいは…衝突し合う二人が"折れる"まで、決して吹き飛ばされることはなかったが…)」


ガ ギ ャ ア ン ッ ――――― ズ シ ャ ア ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ー ー ー ー ン ッ ! ! ! ! ! (刹那――拮抗した二人は音速を越えて互いに吹き飛び、ステージ上の壁面に激突した)


氷冬「きゃぁ…ッ……!!(壁面に激突し、瓦礫に埋もれてしまう)」

雛菊(六道)「はぐぅ…ッ……!!(同様に壁に全身がめり込み、土煙に包まれる)」

キリギリス「こっ…これはすごい激突だああああああぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーッ!!!!両者ともに弾け飛んだ!!!さあ、立つのはどっちだああああァァァァ~~~~ッ!?!?!?!?」

大剣使いの男「……実力伯仲だな…(頬に感じる二人の覇気に目を見張る) 」

氷冬「――――― ボ ゴ ォ ン ッ … ! (瓦礫を押し退け、ステージへと復帰する)はぁ…はぁ…ッ…(荒い喘鳴をあげ、先程の衝撃によって痙攣しかける両腕を鎮めようと自らを奮い立たせる)」

雛菊(六道)「――――― ボ フ ン ッ … ! (土煙から跳び出し盤上へ復帰する)はぁ…ふぅ……っ…(肩で息をしながら、先の激突によって刀身が…否、腕が僅かに震えているのを察知し、瞳を閉ざし呼吸を整えようとする)」

シグマ「人間にしては、その領域を遥かに凌駕しているともいえよう… ここまでの強者を、我はこの目にしたことがない。 」

雛菊(六道)「はぁ…はぁ……――――は…ぐ…ッ……(額に突き刺さる様な頭痛に表情が歪み、そっとその部位に手を当てる)」


――――「お前に帰るところなどないんだよ!失せろ、化け物…!!」――――


雛菊(六道)「はぁ…っ……はぁ…っ…―――― く…ぁ……!(脳裏に響き渡る罵詈雑言を払拭せんと、鉄の様に重い身体を持ち上げる様に奮い立たせる) はぁ……はぁ……(煩悩との戦い…『六道』によってかかる負荷はあまりにも… …… …… ……長くは続かない… 慈悲を与える暇もないほどに… 邪な記憶に魂を喰らわれる前に…決着を…付けないと…ッ…)チ ャ キ …――――(血相を変え、表情に焦燥が現れる。紫の瞳の奥で、赤い何かが渦巻いている)」

氷冬「ふぅ……ふぅ……――――― ス … (あの目…ええ、間違いない…―――― "本気"だ…)(雛菊の瞳の奥に潜む感情を汲み取り、四刀を振って身構える)」

雛菊(六道)「はぁ…はぁ……"ここ"まで…私を引き出してくれて……ありがとうございます…氷冬、さん……そして…―――――― 終わりにしましょう。(   フ   ォ   ン   ッ   !   !   !   )(突然、全身から残像が剥がれ出て、雛菊と瓜二つの姿をした分身が二体出現する)……!(――『 畜 生 の 輪 廻 』――) ダ ン ッ ! ! ! (三人に増えた剣豪が、間髪いれず氷冬に襲いかかる)」

氷冬「――――!(残像剣…!?いや、それよりもっと上の…――――)くッ…はあああぁぁー…ッ!!!(真正面から三人の雛菊を迎え討ち、刀を強く振って扇状の斬撃波を解き放つ)」

雛菊(六道)「 フ ォ ン ッ ――― フ ォ ン ッ ――― フ ォ ン ッ ―――(斬撃波に直撃した瞬間、三人が陽炎の如く揺らめいて姿を消す)――― ズバァンッ、ザキィンッ、ザァンッ ! ! ! (そして、空間を突き破るように虚無から現出し、三方向から氷冬を斬り伏せる)」

氷冬「ッ―――!?(消えた――――)きゃふ…ッ…!!(全身に刻まれた三閃に苦悶の表情を浮かべ、痛みに耐えようと歯を食いしばる)」

雛菊(六道)「 フ ォ ン ッ ―― フ ォ ン ッ ――――― フ ォ ン ッ ―― フ ォ ン ッ ――――(空間を支配し、尚も高速移動を繰り返す三つの像が氷冬を攪乱する)……!!(――『 餓 鬼 の 輪 廻 』――)( ド ヒ ュ ア ア ア ァ ァ ッ ! ! ! )(鞘を失った蕨の刀身が瞬間的に伸縮を発動。遠距離、近距離、四方八方から鋭利な凶刃が氷冬を襲う。それはまるで、どんなに離れていても至近距離からとどめをさせるほどに、絶対的な神業だった)」

モララー「――――!(あいつ…刀の伸縮を自在にしやがった…っ…!)(雛菊の類稀なる剣術に思わず吃驚する)」

ヒロ「…………!!?(雛菊の連撃を見て)…まずいな、これ…ピンチじゃねーのか(氷冬を見て) 」

氷冬「ザシュ ――― ズバァンッ ―――― ザンッ ――――ズシャアァッ ―――(三人の雛菊、そして全方向より届く刃に成す術もなく切り裂かれて、衣服の切れ端や烏色の髪の毛、血飛沫が宙へと舞い上がる)」

フーナ「氷冬――――ッ!!!(一方的に攻め立てられる氷冬に酷く狼狽する)」

スカーフィ「やばい…やばいよ…っ… 負けちゃダメ…――――負けないで、氷冬あああぁーーーーーッ!!(声を震わせ、涙声で彼女に叫んだ)」

氷冬「―――――――――」


――― ああ…また…だ……私には、届かなかった… ―――


――― これが、本当の『世界』…一度踏み込めば、その力の強大さに呑みこまれていかれそう… ―――


――― 努力して、這い上がっても…報われないことはある… ―――


――― …ここが、私の"限界"だったんだ…… ―――





――― …… …… …… ―――




――― …… …… …… ―――





――― …… …… …… ―――






―――――         本   当   に   ?       ―――――






氷冬「――――――――――」


――― " 神様、彼女が帰ってきた時だけ、僕の贅沢を聞いてほしい。 " ――――


――― " 今まで、数百年何一つの贅沢をしなかった僕の、一つのお願いを… " ――――


氷冬「――――――――――」


――― …待ってくれている人がいる… ―――


――― そして私には… ―――


――― そ の 人 と の 『 約 束 』 が あ る ―――


氷冬「――――― ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ! ! ! !(雄叫びは痛みを、限界を、現実を越えて、今―――)」


――――― 斬 り 進 め 、 己 が "刃" と 共 に ―――――


氷冬「 で う ッ ! ! ! ! ( ズ ダ ァ ン ッ … ! ! ! )(強い踏み込みが大地を揺らし、嶄然と輝く刃を陽光に照らし、風となって駆け出す)」

雛菊(六道)「―――――!?(尚も斬撃を繰り返す最中、傷つきながらも立ち上がり、向かってくる氷冬に動揺を隠しきれない顔で見据える)」

氷冬「(行くんだ、『約束』の先へ…―――) グ ゥ ン ッ ―――(もう迷わない…見失わない!進むべき路(みち)は、いつだって―――――)―――――“ 明 路 彫 走 ”(あくろほりす)!!」


ギ ャ キ ィ ン ッ ―――― ギ ャ キ ィ ン ッ ――― ギ ャ キ ィ ィ ン ッ ――――― ! ! ! ! (空間を牛耳る斬撃の嵐を"吹雪"が掻い潜る様に吹きつける)


氷冬「 ヒ ュ ン ッ ―――――はああああぁぁぁーーーッ!!!(直角に高速移動しながら突き進み、瞬く間に雛菊本体との距離を詰め、一撃特化の刺突撃を繰り出した)」

雛菊(六道)「―――――ッ!?(早すぎる…っ…!!)――― きゃあああぁぁ…ッ…!!(強烈な一撃が腹部に炸裂し上空へ跳ね上がる)」

フーナ&スカーフィ『――――止まるな(止まらないで)っ!!氷冬っ!!!!』

氷冬「――― “ 錐 卍 射 路 ”(きりまんしゃろ) !!!―――( ズ グ ァ ア ア ア ア ア ァ ァ ッ ! ! ! ! )(大気を貫く真空衝斬波を解き放った)」

雛菊(六道)「くぁ…ッ……!(宙で吐血し、それと共に頭痛の様な激痛が彼女の精神を蝕んでいく)……!(お願い… 私はまだ…こんなところで……!)…… 三 千 ――――― 世 界 ッ!!!!(強烈な居合抜きを炸裂させ、真空斬撃波を相殺する)スタン……はぁ…はぁ…ッ……!(着地後、肩で息をする度に心臓を握り潰されそうな痛みが走り、表情にも限界の色が浮き彫りになり始める)」

大剣使いの男「…凄まじい接戦だ……だが…(互いに限界が近づいてきているのを察し、その行方を静かに見守る)」

雛菊(六道)「はぁ…はぁ…!……わかり、ますよ…っ……氷冬さん… あなたにも、決して退けない覚悟がある…っ… その強い意思が、刀に伝わって…刀から、私に伝わって…感じ取れましたから… です…が…ッ……お分かりでしょう… 私にも、その『覚悟』があるということ…っ… 絶対に…負けられない覚悟が…はぁ…はぁ……!」

氷冬「ふぅ…ふぅ…っ……ええ、言われなくても、分かるわよ… 雛菊、貴女は"強い"… 貴女の刀が、それを教えてくれたから… …ふふっ…どう、やら… お互いに、頑固なところはそっくりね…(苦しそうに息をしながらも、不敵な笑みを窺わせる)」

雛菊(六道)「はぁ…はぁ…はぁ…… ええ、ふふっ…… …こんなに…純粋に刀を振ったのは…本当に久しぶりです… こんな…楽しいこと…ほんとは…終わらせたくありません… ……でも…っ…――――」

氷冬「…ええ……決着は、しっかりつけないとね…っ……!…スゥー……ハァー……(がくんと頭が垂れる度に弾ける汗。赤熱を帯びた陽に燃え盛る身体を鎮める様に、深く、深く、息を吸って深呼吸する)」

雛菊(六道)「……(……貴女と出会えて…本当に良かったと、今なら感じられます… ……だから、見せてさしあげましょう…私の…全身全霊の"太刀"を……!)  ス  ァ  ン  ッ  ! (杖代わりに突き刺していた蕨を抜き取り、天高く掲げ、虚空を斬り払う)」


―――――― 『 地 獄 の 輪 廻』 ――――――


雛菊(六道)「    ド    ッ    グ    ン    ッ    !    !    !    !    !   !  (強大な何かが全身に乗り移った様に、大きな異変が生じる。紫瞳の奥で渦巻く赤いものが瞬く間に瞳を染め上げていく)」

氷冬「(まだ、強くなれるのね…っ……)……ふ…ふふ…なんだろう……恐怖とか、興奮とか…そんな、ものじゃない… この体の震えは…―――――(…そうか、これが…武者震い…て奴ね… もう、既に…何度も体感したことじゃない…)(対峙する雛菊の強大な覇気に、呑まれるわけでも慄くわけでもなく、ただ…まだ見ぬ強者との"語り合い"に期待するかのように、無邪気な瞳を輝かせる)」

雛菊(六道)「はぐ…ゥ…ッ… …ぁ…が……っ……!("地獄の門扉"を開いた自身への負荷はあまりにも大きく。開門と共に、彼女の脳裏に忌まわしき過去が輪廻する)」


―――「出ていけ、この人殺し…!」「ここにはお前の居場所なんてないんだよ」「消えろ、目障りなんだよ…!」「道場の面汚しが…!」―――


―――「 お前は、『師範』に恩を仇で返したんだ。恥を知れ。」―――


雛菊(六道)「―――― う わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ー ー ー ッ ! ! !(悲痛な鬼哭が天を裂く)」

氷冬「ッ――――!?(先程までとは雰囲気が打って変わる雛菊の様子に、思わず目を見張る)」

スカーフィ「……!?…かぅぅ…何だろう…あの人…すごく、悲しそう…(一変した雛菊を見て)」

雛菊(六道)「 ォ ン ――――――     ズ     ォ    ッ    !  (音もなく消えた直後、瞬く間に氷冬の懐にその凶刃が迫った)」

氷冬「ッ―――――!!?(間一髪その軌道を逃れるが、髪の毛が僅かに斬り落とされる)……ッ…!(雛菊……っ…?)(豹変した彼女に只ならぬ雰囲気を感じ取る)」

雛菊(六道)「ふぐぅ…ッ…あ…ぐ……ッ……!(『お師匠様』……私…わた…は……ッ…――――)(目の前の景色が、真っ暗になっていく…) くあああああああぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!(その場に留まったまま刀を縦横無尽に振り抜く)」


ザ ア ァ ン ッ ! ! ! ザ ア ァ ン ッ ! ! ! ザ ア ァ ン ッ ! ! ! ザ ア ァ ン ッ ! ! ! ザ キ ャ ア ア ァ ァ ン ッ ! ! ! ! ! (雛菊に切り裂かれた空間が文字通り"裂け"、断裂された空間から見えざる凶刃が幾重にも放たれ氷冬を襲った)


モララー「ッ……!?(なんちゅー…無茶苦茶な攻撃だよ…おい…!!)」

氷冬「 ! ! ! ? (研ぎ澄まされた“アンビション”によって見えざる刃を感知するものの、空間を喰らうその獰猛な獣の牙の如き刃を掻い潜るのに必死で、二の足を踏んでしまう)……ッ…!(攻撃が…荒々しすぎて…これじゃあ、何処から飛んでくるのか予測しきれない…!!)」

プルスト「何ですか…今のは……!?(愕然とした様子でステージ上にでき上がる深い爪痕に戦慄する)」

シグマ「むっ……!(あの女から…荒れ狂う者の気を感じる…!?奴め…剣豪と呼ばれるに相応しい器の持ち主だったはずだが…何故…あのような…)(雛菊の豹変に顔をしかめ、冷や汗が滴る)」

ヒロ「………まずいな………(錯乱した雛菊を見て)……まともな精神状態じゃなくなってる……!? 」

雛菊(六道)「はぁ…はぁ…ッ… っ……ぁ…くぁ…ッ……!(流れ出た血涙が衣を紅に染め上げていく。その様は何かに酷く怯えている幼子の様で、『罪』に囚われ苦しみもがく人間そのものだった)」

氷冬「…雛菊…っ……(今の雛菊に、かつて対峙したクロリアーが重なり、居た堪れない表情で彼女を見つめる。その最中でも、見えざる刃によって体の至る部位に次々と掠り傷ができ上がっていく)……(…貴女がこの試合に負けられない理由が…ようやく分かった気がする…)(惨状の中、懐に忍ばせていた一通の手紙をそっと抜き出し、それに一瞥を与えた後に深くしまい込んだ)」

氷冬「…そして雛菊…貴女も…『罪』に囚われた人間の一人だったのね…(クロリアーとの邂逅、激突、和解が走馬灯の様に思い出され、自分が取るべき行動を考え、そしてその答えを導き出す―――)……AS、貴方から教えてもらった『剣』…ここで使うよ。 縊鬼にいの一番に披露したかったんだけど…ここで使わなきゃ、彼女も救えないし、倒せない。スゥーー………(ゆっくりと瞳を閉じ、深く息を吸う)」

大剣使いの男「……っ…(大いなる力は暴走を引き起こす… いくら肝の据わった剣豪でも、例外ではない……)……?(何をする気だ…氷刀…)(幾重の爪痕が刻まれる中、瞳を閉じた氷冬を訝しむ) 」

たしぎ「ちょ…あの人、一体何を…!?あのままじゃ、攻撃の餌食に…!(苛烈な斬撃がステージを喰らう最中、平然と瞳を閉ざした氷冬に驚愕する)」

氷冬「―――――(深く…深く…より深く……―――――)(尚もゆっくりと息を吸い続ける)」


―――― ザキィンッ、ザキィンッ、ザキィンッ ! ! ! ! (交錯する幾重の不可視の斬撃が、氷冬に襲いかかる―――)


氷冬「(深く……深く……深くまで――――――)―――――!(そして、解き放て――――)」



――――― ≪ 八 舞 ≫ ―――――



BGM♪



スンッ―――― ザァン、 ザンッ、 ザグンッ、 ザァンッ、 ザキィンッ、 ズバンッ、 ザンッ、ザキャアァンッ ! ! ! ! ! ! ! ! (氷冬が四刀を鮮やかに振るうと、彼女に迫る刃が相殺され朧となって消えていく。しかしこの時、誰もが目を疑ったのは―――――氷冬の刀が、『 八 刀 』に見えたことだ)


フーナ「―――――!?(ぇっ……?) …… …… ……な、何が…起きたの…っ…?(…それに今…氷冬の刀が…二重になって見えた様な……??)(咄嗟の出来事に目をぱちくりさせている) 」

ぼうれい騎士「……あの娘、今何をした…?(呆然)」

雛菊(六道)「―――――!!?(振り切られた斬撃に驚いたように、暴走する本能が鎮まり返る)」

氷冬(八舞)「 シ ュ ゥ ゥ ゥ … ――――(水色の瞳が真っ白に染まっている以外は何一つの変化はない。手に握られた刀も、いつもと同じ四刀だった。だが…―――) ス ス ス ス … … ――――― ギ ュ ラ ア ァ … ッ … ! ! ! ! (鮮やかに四刀で弧を描くと、その軌道がはっきりと具現化される。完成された残像剣…『八本の刀』が現出したのだ)」

AS「・・・さぁ、今こそ語るがいい。お前だけの、剣の理を―――此処に・・・刻みつけてやれ。(見守るように、けれども楽しげに剣戟を見据えている) 」

氷冬(八舞)「……(氷の様に冷たく閉ざされた表情。唇から零れる白い吐息が空気を凍てつかせる。)……この世には、「何も斬らない剣士」がいるんだってね、AS。触れるものすべてを斬り伏せる剣は、本当の剣じゃない。傷つけるためのものなんかじゃなく、"救うため"のものなんだと… それが…貴方が言っていた「最強の剣」。……やっと、見つけたんだ。(右足を上げ、片足立ちで四刀を構える。それは今までの氷冬の構えには無かった、"武"とはかけ離れた異例の構えだった)」

氷冬(八舞)「“八色之姓”(やくさのかばね)を奏で、閃劇に踊る≪ 八 舞 ≫(やまい)―――― 魅せてあげる。( チ ャ キ … ッ … )(胸元を覆うように交差した両腕と共に展開される四刀が、吹き付ける吹雪風によって時折「八刀」となって揺らめく。その様は孔雀の羽の様に、偉大で、美しく、神々しい)」

スカーフィ「わぁ……!氷冬…なんだかとっても綺麗だよ…♪(思わず彼女の姿にうっとりと見惚れる)」

AS「嗚呼、好い・・・それが、お前だけの答えだ。その剣こそが、お前そのものだ。―――故に、それは何よりも強い。(頬を撫でる吹雪に、微笑みかける)お待ちかねの彼女にも魅せてやれ・・・ 」

雛菊(六道)「……ぁ…ッ…ぐ……!(再び頭蓋に激痛が響いた時、血に飢えた獣の様な呻き声を上げてよろめく)はぁ…はぁ…ッ…―――――――  シ   ュ   オ   ン   ッ   !   !   ! (今にも体力の限界によって倒れそうだった身体が前傾したその瞬間、音速を越えた速度で氷冬の懐に潜り込み、既に刀を振っていた)」

フーナ「――――!!(氷冬ッ…!!)」

氷冬(八舞)「―――――(雛菊の凶刃が首元に届きそうになった…その瞬間だった―――)    ガ   ッ   キ   ャ   ァ   ン   ッ   !  (閃光と共に、雛菊の刀が弾き返された)」

雛菊(六道)「っ――――!!?(弾かれた瞬間、緩慢化された空間の中で氷冬をその瞳に捉える)」

たしぎ「……っ……!?(彼女(雛菊)の刀が届いたと思ったのに……何故、急に刀が弾かれて…!?)」

モララー「…"弾いたんだ"。(呟くようにたしぎにそう応える)」

たしぎ「…っ…!?で、ですが…あの距離で刀を振うことなんて―――」

モララー「できるんだよ。今のアイツならな。(静かに瞳を閉ざす。そして再び氷冬の姿を捉えるや否や、不敵な笑みを浮かべる)…これから"一瞬の出来事"だ。目ぇ離すんじゃねえぞ。」

カイ「ほーぅ…何が起こったのかよく分からんが、あの嬢ちゃんの仕業なのは確かだろうな。ククク…惚れるねぇ~♪(激励を口笛に乗せて) 」

AS「気づくのが遅かったようだな泉の騎士・・・いや、今はもう、猫か?(ようやく気づいたのか、と言うかのように笑う)・・・半端なものは教えてなどいない、脳裏に焼き付けるがいい、秒すら惜しむ剣の語り合いだ。 」

雛菊(六道)「ズバァンッ、 ズァンッ、 ザキィィンッ ! ! ! ! (空間を断裂する勢いで刀を振い、強烈な斬衝が螺旋を描きながら氷冬に喰らいつく)」

氷冬(八舞)「八色之姓…―――― “真壱”(まひと)。」


――――― ザ    ア     ァ    ン    ッ    !    !    !    ! ――――― (荒れ狂う津波の様に入り乱れる斬撃が、一瞬にして蒼白い一閃に崩され、"地平線"となる)


剣士「切り崩した…!?あの斬撃の嵐を…ッ…!!」

ヒロ「……………!?あのたくさんの斬撃を一瞬で…!? 」


武舞(ぶのまい)が魅せる波動により、四刀は鮮やかな軌道を残し、八つとなる ―――自らの意識を深く落した先にある無我の境地で踊る、神楽の舞。それが ―――


―――― ≪ 八 舞 ≫ ――――


氷冬(八舞)「スススス…―――(緩慢化された空間の中で八刀を滑らせるように虚空を切り撫でる)」

雛菊(六道)「(…負けたくない…)――― ぁ…あああぁ…っ…!!(遠距離から伸縮自在の刀を振い、接近を許さない苛烈な斬撃で何度も氷冬に斬りかかっていく)」

氷冬(八舞)「スゥ…ハァ…(深呼吸をひとつ。深い呼吸と共に、瞳の中の白銀世界が更なる白みを帯びていく―― )二の段…――― “遊味”(あそみ)。(ギュラアアァ――― ザギャギャギャギャグァンッ ! ! ! ! )(身体を捻りながら宙へと翻し、空中で逆さまのまま四刀を素早く振う。刀の軌道が二重となり、「八閃」の刃が雛菊の刀を悉く弾き落としていく)スタン…―――― フ ォ ン ッ (着地後、滑る様な足運びと共に、舞い踊る様な立ち回りで八閃を奏でる)」

プルスト「(傍から見れば、明らかに戦いの構えではない…なのに、それでいて全く無駄のない動きで彼女(雛菊)の剣を掻い潜り、相殺する…!フーナの友人…あれは、人の動きじゃない…!)(見違えるほど動きが鋭くなった氷冬に思わず息を呑む) 」

雛菊(六道)「(…手放したくない…) ググッ――― ビュオワアアアァァァッ ! ! ! (回転斬りと共に斬撃の竜巻“風恋”を放って雛菊の行く手を阻む)

氷冬(八舞)「 ヒ ュ オ ァ ッ ! (斬撃の竜巻に避けるでも相殺するわけでもなく、真っ直ぐにその中へと飛び込む)」

ブーメランプリム「馬鹿な…!あいつ…自ら斬撃の中へ…っ…!!!(驚愕した顔で)」

スカーフィ「かぅ…っ…氷冬……!(…だ、大丈夫…ボクは信じてるから…――――― 氷冬、キミが必ず勝つってこと…!!)(張り詰めた緊張からぎゅうと胸元の衣服を掴む)」

大剣使いの男「………!!(勝負に出るか、氷刀…!!)」

氷冬(八舞)「――――― “剥音”(すくね) ―――――」


ザ キ イ ィ ィ ―――――――――――― ン … ッ … ! ! ! ! (音を剥き、彗星の如く解き放たれた一閃が、雛菊に届く)


雛菊(六道)「 ! ! ! ? (その紫電を目にした時には既に遅く、五臓六腑に迸る残響によって宙へと舞う)―――――(宙を漂う中、群青広がる空を眩しそうに仰ぐ。まるで水中の中へ身を投じたような不思議な感覚が過る。眩しい陽の光に視界が真っ白に塗り潰されていく中、懐かしい風を頬に感じそっと瞳を閉じる…――――)」




BGM♪



―― ある春の日の花畑 ――


色とりどりの花が咲き誇る野原を裂く様に、ただ真っ直ぐへと続く長い道を男が歩いている。


腰元に一振りの刀を携え、陽気な鼻歌を歌って、春の路を差す陽光を浴びながら歩く彼だったが、前方に花ではない小さな影を見つけて目を細めた。


男が見据えた先にひとつの人影――― 少女の姿があった。ぼろぼろの白い布切れに身を包んだ小柄な少女。道の真ん中で、何かに怯えている様に身を縮めている。


男が声をかけると、少女は恐る恐る顔を上げて彼の顔を覗きこんだ。生きる目的を失ったかのように、ハイライトの無い瞳。陰に覆われた様に黒味を帯びた碧の髪。この時男は、少女のその姿から捨て子だと察した。


男が名前を尋ねる。しかし少女は答えなかった。答えられなかったのだ。名前も持たない者に名乗ることはできない。生まれ育った故郷。両親の顔。友達のこと。好きなもの。何を尋ねても無言しか返ってこなかった。


そこで男はしばらく考え、少女を養子にすることを決めた。生きる目的の無い少女はそれを否定しなかった。生まれて初めて知った様な温かな感情に揺るがされた少女はゆっくりと立ち上がり、男と見つめ合った。


その時男は、少女の小さな両手に弱弱しく握られている一輪の花を見る。白い花弁に金色の花芯。小さくてころんとした可憐な花が、少女にそっくりだとほくそ笑んだ男は、彼女をこう名付けた。


――――――― " 雛 菊 " ―――――――




―― とある剣道場 ――


雛菊(当時:11歳)「――― はあああぁぁー!!(凛とした強い瞳で見据えた相手に、振りかざした木刀を振う)」


バ ス ン ッ … !


道場生「ぐぅ…!(彼女の気迫に負かされ隙を見せてしまい、瞬く間に倒される)」

鑢「そこまで。勝者は雛菊。…見事だね、これで130勝目にしてここまで無敗。日々の行いの賜物だ。この調子で鍛錬を怠ることなく、そして自分の実力を驕ることなく、精進するんだ。」

雛菊「はい、お師匠様!(汗で煌めく白い肌と本来の艶を取り戻した鮮やかな碧の髪。そして、自らに生きる目的を与えてくれた男に向けたその輝いた瞳は、"生"に満ち溢れていた)」



「あの雛菊って奴、女のくせに…目障りなんだよ。」「あいつばかり師範からちやほやされやがって…」「師範の実の娘じゃないから余計腹が立つぜ…」「あいつさえいなければ…」「ヒソヒソ…」

雛菊「 ブ ン ッ … ブ ン ッ …(道場の隅で懸命に素振りの稽古を行っている。他の道場生の囁きが耳に入っているのかどうかは不明だが、彼らには見向きもせず、ただひた向きに努力に勤しんでいる)」



雛菊「お師匠様が直々にお相手してくださるなんて、光栄です。よろしくお願いします。(深々と頭を下げる)」

鑢「今日まで君は本当に強くなった。だから、これが最後の稽古だ、雛菊。私を倒せたなら、君はこの道場を卒業できる。そして、卵から孵った"雛"の様に、『世界』へと旅立つんだ。」

雛菊「お師匠様…私は…貴方から大切なことをたくさん教わりました。でも、これからもずっと貴方の傍で『剣』を振いたい。たとえここで貴方に打ち勝てたとしても、私は…この道場を継ぐために残ります。」

鑢「…… …… ……我が娘ながら、可愛いことを言うね。(やれやれと苦笑しながら)」

雛菊「……(しかし内面では、自分自身ですら把握できないほどひどく緊張状態に陥っている。骨の髄まで痙攣するかのように全身が硬直しかけている)」

鑢「…雛菊、君の全身全霊を込めた太刀を振いなさい。もしもその覚悟があるなら、私もそれに応え、全力で太刀を振おう。(木刀を構える)」

雛菊「はい…!(同様に木刀を構え、しっかりとその相手を見据える)」

道場生「―――――― は じ め ! !(試合開始の合図を下す)」

雛菊「―――――!( タ ン ッ )(合図が下されるや否や爆発的な踏み込みから先制攻撃を仕掛ける。かわされても鑢との距離を保ちながら隙の無い剣戟を叩き込んでいく)」

鑢「 ス ン ―――― ガ ッ  ガ ン ッ カ コ ン ッ ! !(流れる様な歩法から刀を受け流し、苛烈に繰り出される攻撃を刀身で受け止め弾き返していく) タ ン ―――― ズ ゥ ン ッ (雛菊の刀の軌道をずらし、死角から薙ぎ払う)」

雛菊「――――!(弾き返された直後に巧みに刀を振り回してその凶刃を防ぐ)」

鑢「 ガ ッ カ コ ン ッ ズ ァ ッ (どうした、いつもより粗いよ。いつもの「君」はどうした。私を越えられないのなら、自分さえも越えられないよ、雛菊――――)」

雛菊「ッ……!(お師匠様…私は…――――――)」


―――― 私は…貴方にとても感謝しています。貴方と出会わなければ、今の私はなかったのですから。…いいえ、今に私はいなかったかもしれません。 ――――


―――― そう、これは恩返し。私に剣道を教えてくれた貴方に、強くなった自分を見てもらうために。 ――――


―――― …だからこそ、私は… ――――


雛菊「 (―― 自 分 に 負 け る わ け に は い か な い !――) 」

鑢「―――――――!」


――――――    バ    ァ    ン    ッ    ――――――


鑢「……ふ、ふふ…っ…」


―――― 君が私の娘でよかったよ、『雛菊』… ――――


鑢「 ド サ リ … ―――(ゆったりとした空間の中を泳ぐようにその身体が崩れる。仰向けに倒れる最中に朧げに映る娘の姿を静かに捉え、床に大の字に倒れる。頭部から、真っ赤な滝がだらりと流れ出す…)」

雛菊「はぁ……はぁ……―――!!?(接戦の末に勝敗を喫したその時――刃を交えた相手が血を流して倒れている現状に大きく目を見開いた)」

道場生『師範ーーーッ!!!(決着がついたその瞬間、多くの道場生が倒れた鑢のもとへと駆け寄る。応急処置や救急車の呼び出しのために何人かが慌てて道場から出ていく)』

雛菊「…ぁ……ぁ…… ぉ…お師匠様…っ……(眦に雫を溜め、狼狽する)」

道場生「……ていけよ…」

雛菊「……!?」

道場生「――― 出ていきやがれッ!!この恩知らずの人殺しが!! ―――」

雛菊「――――!!!( ビ ク ン ッ )(生きることに満ち溢れていた瞳が、一瞬で絶望一色に染まり上がる)」


「そうだ!ここから出ていけ恥知らずが!!」「お前は師範に勝った…なら、この道場を出ていく理由にもなるだろ?…出ていけ。」「てめぇは師範に、恩を仇で返した大馬鹿者だよ。去れよ…!」 『出ていけぇッ!!』『出ていけ!!』


雛菊「ぅ…ぁ……っ…あ……――――――」


―――― ちがう…わたし、は……わたしはただ、あのひとに…… ――――


雛菊「カランカラン… ! ――――(耐えきれない感情に木刀を手放してしまい、逃げ出すように道場から姿を消した)」





―― 翌日・翡翠家 ――


女性(鑢の妻)「……心配いらないよ、雛菊。幸いにも鑢は致命傷には至らなかった。少し…目覚めるのに時間はかかりそうだって、お医者様がそう言っていたけどね。(敷布団に眠る鑢を見つめながら)」

雛菊「……(今にも泣き出しそうな、悲愴に暮れた瞳で静かに眠りこんでいる鑢を見つめている)」

女性「…気持ちは分かるが、そう悲しい顔をするんじゃない。鑢とて剣道を極めた師範。弟子と稽古をすれば、こうなることは重々分かっていたことさ。…この人もそろそろ歳だからね。我が子と稽古に励むとなれば、少年心が擽られた様に無茶したかったのさ。そんなものだよ。」

雛菊「………(正座の上に作った握り拳を強く握りしめ)」

女性「この人はねえ…昔からお人よしが過ぎるんだよ。道場を開いたのも、貴女をこの家に連れてきたのも、その理由はただ一つ。若い者に、生きる目的を見出してほしかったからなのさ。」

雛菊「……?」

女性「生きる目的を失い、命を絶つ人はこの世に五万といる。この人は、そういう人たちに生きる目的を自分で見出させ、新たな人生に導くことに生き甲斐を感じていたんだ。…雛菊、ここへ来て貴女が幸せだと感じたのなら、それは鑢の本望だよ。」

雛菊「……」

女性「だから、ね…お願いだから、「自分」を許してちょうだい。…鑢だって、そう言うに違いないわ。」

雛菊「…… …… ……はい…っ…(涙声にそう応え、口元を手で覆い、溢れ出る蒼い感情を流し出す)」

女性「…この人のもとで育ったんだから、優しすぎるのね。貴女が私たちの子で本当に良かった。」



雛菊「―――…それでは、長い間…本当にお世話になりました。(風呂敷を両手に、深々とお辞儀する)」

女性「よせやい、絶縁するわけでもあるまい。…いつでも帰ってきなさい。」

雛菊「はい…!……あの……」

女性「…ああ、わかっているよ。鑢にはちゃんと伝えるから。貴女は、貴女が目指すところへ行きなさい。いつか立派になった貴女を、あの人はきっと心待ちにしているわ。…さぁ、お行きなさい。でないと、汽車に乗り遅れてしまうよ。こんなど田舎だから、乗り遅れたらあと半年も待たなきゃいけなくなるかもねえ。(冗談交じりに笑いながら)」

雛菊「ふふっ…そうですね。では、お師匠様によろしくお願いします。…行ってきます、お母さん。(女性に再び頭を下げ、田舎道を進んでいく)」

女性「気をつけてね。(旅立つ雛菊の背を、懐かしむ様に見送る)」

雛菊「(お師匠様、見ていてください。貴方に教えてもらった「剣」で、私は強くなります…―――――)」



雛菊「―――――― ド サ ァ … ッ … ! ! (刹那と久遠が入り混じる記憶を辿って還ってくる。飛び疲れた華蝶が儚げに命を散らすように、その身が地面に落ちる) シ ュ ゥ ゥ ゥ … (全身を纏っていた光衣は消滅し、瞳を覆い尽くしていた罪の渦は波のように引き返していく)」

氷冬「―――――― フ ォ ン (雛菊の精神が鎮まると共に、自らも元に戻る)…はぁ……はぁ…っ……!(実践では始めてだったけど…上手くいけたみたいね…)(呼吸を落ち着かせようと胸元に手を添え)はぁ……はぁ…… ……(目の前で仰向けに倒れ込んだ雛菊に一瞥を与える)」

キリギリス「……!!?おおっと…!!ここで、ついに決着かああぁーー!!??(倒れ伏した雛菊に思わず身を乗り出すように)」

雛菊「…… …… …… …… ……ピク…(片手の指が、静かに微動する)」

騎兵「……!いや、まだだ…!」

雛菊「…… …… …… やっと、思い出しました。(ぽつりと空へ呟く様に)…私が生きる理由… 刀を握る理由… 強くなる理由… そして……ここにいる理由を。(その身を起こし、傍らに落ちている蕨を拾い上げる)…ありがとうございます、氷冬さん。危うく私は、そのすべてを、忘れてしまうところでした。(傷だらけの身体でなおも笑顔を見せ、心の底から感謝するように氷冬に微笑んだ)……――― 決着をつけましょう。(眼を閉じ、再び開けた時…その眦を決した瞳はただ一人の剣士として、爛々と輝いていた)」

ヒロ「…………なに、まだ…立てるというのか…!?」

モララー「…まだだ。こんなすげぇ戦い、まだ終わるはずがねぇ。そうだろ? 」

氷冬「……それはお互い様よ。貴女に出会わなければ、今の私はなかったのかもしれないのだから…―――(互いに微笑み合い、ぶら下がった四刀を振り上げて身構える)――― ええ。(強い覚悟を刻んだ瞳で向き合う)」

雛菊「(…背負った罪をしっかりと受け止めて… もう、自分を見失わないために―――)スゥ…ハァ……(淀みも歪みもない瞳をゆっくりと閉ざし、呼吸する)」

氷冬「(…一度決めた決意は、絶対に曲げない… もう、自分を見失わないために―――)ハァ…ハァ……(乱れた呼吸を整え、刀を強く握りしめる)」


ヒ ュ ォ ァ ァ ァ … (閃劇に、冬風と春風が入り混じる)


氷冬/雛菊『――――――    ダ   ッ    ―――――――』






――― とある田舎道 ―――

笠の男「ふぅ…ふぅ…… やはり、彼女に託して良かったな…。歩くだけでここまで苦しいとは…もはや歳だな…(腰元に刀を携えた男。陽だまりの草道を歩いている)」

笠の男「ふぅー…… …… ……だが、やっぱりな… 娘の晴れ姿は、見たかったかもなぁ…(歩みを止めて汗を拭う。広大な紺碧が広がる空を仰いで、名残惜しそうに苦笑する)」


そして場面は、十刀剣武祭へと戻る…


――――― ガ キ ャ ァ ン ッ ! ! ! (閃きと共に残響する金属音。熱気と歓声が湧きあがるステージ上で、今、二人の剣士が最後の大勝負に出ようとしていた)


氷冬「ハァ…ハァ……っ……(喘鳴を無理矢理呑む込むように自らを落ち着かせ、変幻した四刀を握り直す)

雛菊「フゥ…フゥ……!(傷口から滴る鮮血や蓄積した疲労をものともしないように、不敵な笑みをつくって彼女と対峙する)

大剣使いの男「…いよいよ大詰めと言ったところか。この勝負…先がまるで見えん。(だからこそ…胸躍るこの展開に、目は離せないものだ…!)(観客席の手すりを強く握りしめ、二人の行く末を静かに、そしてどこか熱く見守っている) 」

エー「むむむっ、これはこれは…(客席の上に乗せたダンボールの中で、缶ジュース片手に観戦している)…すごいですよ…エゴさんの試合よりも…エゴさんの試合よりも!!!! 」

エゴ猫「分かった…分かったから!!遠回しに俺様をディスるのはやめてくれエーちゃん!!(涙目) 」

プルスト「この試合…なかなか楽しませてくれる。仕事は…まあ、カレンに任せて…もう少しここにいますか。)(自嘲しつつも何処か観戦を愉しむ子どものように心を弾ませている) 」


BGM♪



雛菊「フォンッ――― ザ ァ ン ッ ! ! (刀を振うその目にはもう迷いはない。純粋に、本能のままに、自らが研ぎ澄ました刃を解き放つ)」

氷冬「はっ!(キギギィン…ッ… ! ! ! ツァリリリ――― ギャキャァンッ ! ! ! )(刀身で受け止め、その表面上にある刃を滑らせ受け流す)でぅッ…!!(ギャギィギィギィンッ ! ! ! )(低空跳躍からの縦回転斬りで圧倒する) 」

シグマ「実力伯仲か…剣戟は苛烈――― それでいて精神は共に安定している。真の実力者の、格の違いが窺えると言えよう。」

雛菊「ッ…!( ザギャギャギャァンッ ! ! ! )(その回転斬りに対する反回転斬りで応戦し、弾いた)フォンッ―――スァンッ―――ズォッ ! ! (火花が頬を掠める中、音速移動と共に三段斬りを繰り出す)」

氷冬「ギャンッ、ギンッ、キャガァンッ ! ! ! くぅ…ッ…!( ズザザァー…ッ… ! ! )(三度の斬撃を受け流し後退する)」

雛菊「 ヒ ュ ォ ン ッ ――――(退く氷冬の隙を許すまいと一度の踏み込みで目と鼻の先へ―――追撃の刺突を仕掛ける)」

スカーフィ「―――!!(はっと息を呑む) 氷冬危ないッ!!」

氷冬「―――ッ゛ッ゛!(刺突が腹部を掠め、僅かな痛みに顔が歪む)――― 来た!!(懐に雛菊が入り込んだのを確認するや否や、片腕の二刀を振り上げる)」

雛菊「(手応えは薄い… まさか…―――)――はぐ…っ…!(予感は的中――氷冬の狙った反撃が炸裂し、切り裂かれた衣と共に血飛沫が上がる)…く…ぁ――――― “宮”ッ!!( ドッ、ゴッ、ドスァッ ! ! ! )(開いた片手で手刀をつくり、彼女の死角から高速乱打を叩き込み―――)―――― “ 弓 ” ッ !!!( メ   ゴ  ォ  ッ  !  !  ! )(強烈な柄打ちで吹き飛ばす)」

氷冬「なッ――― が…っ、あ…ッ…きゃふ…ッ…!!(数多の乱打が華奢な身体に次々と打ちこまれ…)――― かふ…ぁッ……!!!( ドッ…ドシャアアァァ…ッ… ! ! )(とどめの一撃に大きく吹き飛ばされ、盤上に転がり倒れる)」

剣士「奴(雛菊)の一撃が入ったぞ…!!あれは一溜まりも無いんじゃないか…?」

フーナ「……ッ…!(私たちにはただ見守ることしかできない…でも、それでも…!私たちは氷冬が必ず勝つと信じてる…――――「友達」の努力を、ずっと見ていたから…!)(胸元に手を添え) 」

雛菊「スタン…―――ファルルルルル…ッ… ! ! (軽い跳躍と同時に全身を地面と水平にしながら高速回転)―――“風車『轍』”―――( ギ ュ ル ル ル ル ル ァ ッ ! ! ! )(車輪のように回転を帯びた風の光刃は盤上を抉り轍のような傷跡を残しながら、横たわる氷冬へとてつもない速度で迫る)」

氷冬「はぁ…はぁ……!(腹部を抑えつけながらゆっくりと立ち上がり、朦朧とした視野で迫る車輪を捉える)ススス…スチャン―――(何を思ったのか、三本を納刀し、一刀流の構えに)…一刀流――― “轍『 逆輪 』(わだち『げきりん』)”!!( ギ ュ オ ア ァ ッ ! ! ! )(こちらも雛菊と同じく回転斬りで抵抗、しかし、その回転方向は彼女のものとは反転し…)―――――  ガ  キ  ャ  ア  ア  ァ  ン  ッ  !  !  ! (稲妻と衝撃が空間を迸る。それは、互いの回転する剣戟の完全停止を表していた)」

雛菊「――――!!!(止められた剣戟に、緩慢とした世界の中で唖然となる)」

氷冬「…はぁ…ッ…(先の私の回転斬りへの反撃…貴女の剣技を参考にさせてもらったわよ…)」

キリギリス「こ、これはすごいッッ!!!雛菊の苛烈な猛攻を、氷冬が瞬時に食い止めたァッ!!!」

大剣使いの男「……!なるほど、左回転で迫る奴(雛菊)の剣技に対し、逆回転でその攻撃を防いだか…っ!」

モララー「かぁ~ッ!!滾るッ!滾るねえッ!!(今にも身を投げ出したくなるような興奮に駆られ) 」

たしぎ「……!( …『刀剣覚醒』同士の激突…ッ… 伝説と伝説のぶつかり合い…! これが世界に名を轟かす剣豪の剣術…!凄い…)――――凄い…ッ…!(ただ、その一言に尽きる。もはやズレた眼鏡など気にせず、試合に釘付けである) 」

雛菊「……ッ…ッ…!(込み上げてくる躍動、鼓動、激動に、傷だらけの表情が思わず綻んだ)…氷冬さん… こんな気持ち…今まで感じた事がありません…!もっと、もっと…貴女と戦いたい…!(シュボッ…ボボボッ… ! ! )(先程の回転斬りによる摩擦熱を帯びた刀身が陽炎の様に揺れる)―――貴女に私の『剣』を見せたい…!!( シュドドドドッ ! ! ! )(燃え盛る刀身から放つ刺突“火蜂”、数多の銃弾の如き連撃を炸裂させる)」

氷冬「はぁ…はぁ… …ん、く…ッ…!(雛菊… あれが"本当の彼女"… 私もかつて感じたこの気持ち…――― そうか、剣士は誰だって、みんな…初めから…)――――― ニ ッ (傷だらけでありながら、今にも倒れそうでありながら、何処かでこの激闘を待ち望んでいたかのように不敵な笑みを見せつける)ガキンッ、ガッ、ギャァンッ、ギィンッ、ガキャァンッ ! ! ! (迫る炎刀を、一刀、二刀、三刀と増やしながら弾き返し…)――― ガ キ ィ ィ ン ッ ! ! ! ! (再び戻った四刀で振り払った)」

フーナ「……?二人とも…笑っている…?(全力でせめぎ合う氷冬と雛菊、その二人の表情に違和感を覚える)」

雛菊「ガキィンッ… ! ! キィンッ、カキャアァンッ ! ! !ファンッ――― キカギャァンッ ! ! ! (斬り上げからの左右振り返り斬り、そして低跳躍からの振り下ろしで攻める) 心が、刀が!今に叫びたいと震えている…!過去のしがらみも――(かつての恩師の血で染まる木刀…)己の弱さも――(その恐怖に震える幼き自分…)"自分"を閉じ込めていた全てを越えて!私は―――まだ見た事のない光(あした)を切り開いてみせます!!(フォンッ――― ザ アァ ン ッ ! ! ! )(大気を裂く強烈な一閃で薙ぎ払った)」

氷冬「くっ… ッ…!(キャギィンッ、カキィンッ ! ! ! キギャァンッ ! ! ! )(斬撃の応酬をいなしながら少しずつ後退するが、気迫に圧倒されていく)今の貴女…最高に素敵よ。でも…――――(最後の一閃を四刀で受け止める。その衝撃に吹き飛ばされそうになるも両足を踏みこんで耐え抜き、ステージの端で静止する)――― 私は負けない…ッ…!(徐々に上がる口角と鼓動。しかし刀を握るその手は依然落ち着きを保つかのようにしっかりと握られている。その手にあるは、決意と言う刃―――彼女の脳裏に、ある男と交わした言葉が過る)」



――――― " 待っているよ。君を。 " ―――――



氷冬「…約束したんだ… もう一度『あの人』に会うんだって…!( オ ゥ ン … ッ … )(瞳を閉ざし、無我の境地へ沈む―――)」


ピキ…ッ… パキャァ…ッ… パ キ パ キ … ッ … ! ! ! (氷冬を中心に盤上が凍てつく)



氷冬(八舞)「―――― だから私は…貴女を越えていく…!!!――――(  ヒ  ュ  ォ  ォ  ン  ッ  !  !  ! )(白銀の瞳を開眼。空気と大地を凍てつかせる氷刀が、吹雪の如き勢いで駆け出した)」



雛菊(六道)「(…もう何も恐れない…何も迷わない…私は…私だけの"刀"を振うんだ―――― )( キ ュ ガ ァ ァ ッ ! ! ! )(神々しい光衣を纏うや否や光の速度で立ち向かう)」


ギィンッガァンッ、ギキィンッ、ガンッ ! ! ! キィンッ、ガギャアァンッ ! ! ! ! (荒れる吹雪と翡翠色の光が入り混じる盤上。そこに数多の光刃が交差し、火花と金属残響が飛び交う)


八頭身ギコ侍「ぬッ……!疾風迅雷の如き疾駆!!氷刀と華蝶…刻むは閃(ひらめき)の園…!!よもや何者も、あの娘たちを止められまい… 」

雛菊(六道)「 ヒ ュ ォ ン ッ ――― フ ァ ン ッ ――― シ ュ オ ン ッ ! ! ! (三段からなる神速歩行で氷冬の死角に入り、上空から刺突を繰り出す)」

氷冬(八舞)「 フ ォ ン ッ ――― ズ シ ャ ア ア ア ァ ァ ァ ァ ア ア ン ッ ! ! ! (雛菊の高速突撃を滑る様な歩方術で回避。雛菊の突きが地面に炸裂し、土煙が舞う)」

アイク「………(腕を組んで仁王立ち、静かに観戦している)」

雛菊(六道)「 ボ フ ン ッ ――― タ タ タ タ タ タ ッ ! ! (土煙を割って飛び出した後に駆け出す)」

氷冬(八舞)「 ス ン ッ ――― キィンッ、カキャンッ、キャギィンッ ! ! ! (雛菊に合わせて滑走。並走する彼女と剣戟を繰り出しながら盤上を駆け回る)――――(さっきよりも鋭く、早くなってる…!)(白銀の瞳で雛菊の挙動を追う。もはや先程とは次元を異にする彼女の力に目を更に細める)」

スライム「わっ!わわわっ、うわぁーーーーー!?(両者の圧が観客まで広がってきて吹き飛ばされる) 」

破龍皇帝・グランドジークフリート「クハハハ…まさに驚天動地の閃劇よ。我が骨の髄まで響き渡るぞ…貴殿らの刀剣の"鐘"がッ…!」

雛菊(六道)「カキンッ、キャンッ ! ! ギャキィンッ ! カァンッ、キィンキィンカンッ ! ! ! (疾駆と共に振う斬撃。その瞳は真っ直ぐに氷冬ただ一人を捉えていた)――――(体が軽い…心が静かだ… 私はまだ、強くなれる…今にもはや限界なんてない…!氷冬さん、貴女となら… 貴女とこうして戦えるだけで、私は、もっと…ッ…!――――)――“三線蝶”ッ!!(虚空を蹴りながら、空中で鮮やかに刀を振い続ける)」

フーナ「……氷冬は最後まで…絶対に諦めない…!行けぇーッ、氷冬ーーッ!!」

氷冬(八舞)「(戦う度に、刀と剣士は進化する…でもそれは私だって一緒…!自分と「この子たち」を信じて、ただ振うだけ―――)―――“滅終”ッ!!(×状の斬撃を放ち応戦する)」


ド グ ゥ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ー ー ー ー ン ッ ! ! ! ! (激突からなる衝撃と土煙が舞い上がる)


氷冬(八舞)&雛菊(六道)『 ズ ザ ザ ザ ァ ー ー ッ … ! ! (土煙の中から互いに跳び出す) ス タ ン … ―――――― ダ ッ ! ! (互いに距離を置いて一斉に駆け出す)』

大剣使いの男「……ッ…!! 間違いない…"次で"すべてが決まるぞ…ッ!!!(ごくりと息を呑む) 」

スカーフィ「いっけえええええええええぇぇぇーーーー!!!氷冬ああああぁぁぁぁーーーーーッ!!!!(客席からめいいっぱい叫ぶ) 」

雛菊(六道)「(一刀に全精神を注ぎこみ、虚空を薙ぐ)―――― ダ ン ッ ! ! ! (淡い光を零す蝶が天へ舞う) 僕(やつがれ)、三尺下がって師の影を踏まず ―――(跳び上がった天で折り返り、居合の態勢のまま地上の氷冬と対峙する)――― 七尺踏み入れ師の陽を頂く…ッ!!」

氷冬(八舞)「冬来たりなば春遠からじ ――(  タ  ン  ッ  )(上空へ跳び上がり)―― なれば最果に届く閃は近しき ――――――」




雛菊(六道)「――――― “ 一 念 三 千 大 千 世 界 ” ! ! ! ―――――




氷冬(八舞)「――――― “ 莽 斬 魅 祇 流 ” ! ! ! ! ―――――




ザ キ ィ ――――――――――――――― ィ ィ ン … ッ …(音速を越えた互いの刃は時空を裂いた。風が凪ぎ、声音が鎮まり、麗艶たる髪が揺れ下がり、呼吸が止まり、すべての時間が沈んだ)



雛菊(六道)「―――――――――――――」


氷冬(八舞)「―――――――――――――」



雛菊「――――― …… ト サ ァ … ッ … (永遠に止まるかと思われた世界が動き出した時、その目覚めを知らせるかのように蝶が揺れ始め、今、地に落ちた―――)」

キリギリス「…… …… …… ……ハッ……!!…こ、これは…ッ……」

大剣使いの男「………まさか…っ……」

フーナ「……? ……!! ……これって………!」

キリギリス「っ~~~~~~~~~!!!!決まったああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ~~~~~~~~~ッ!!!!!!熾烈を極めた第六回戦!!!この戦いを制したのは…――――――――― 『 氷冬 』だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」


わあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!


フーナ&スカーフィ『やったあああぁぁぁ~~~~!!!(大歓喜の余り二人手を取り合って喜び合う)』

キリギリス「なんという逆転劇!なんという快進撃!!こんな展開は今の今まで見た事がない!!かつて百刀剣武祭で華蝶風月に敗れてしまった氷冬… 敗北からの逆転勝利で見事序列二位を討ち負かしたああああぁぁぁぁーーーーッ!!!素晴らしい試合でしたああああぁぁーーー!!!!」

大剣使いの男「……フッ…実に…実に、見事な剣戟だった…!(感嘆し、激励の拍手を送る) 」

カイ「フュー♪あっちのお譲ちゃんが勝っちまったか。こりゃあどっちが勝ってもおかしくねえ、すげえ試合だったもんだ。(なるほどな…シグマの奴が珍しく人間の催しに興味を示したと思えば…なるほどな…これには流石の俺も納得だわ。)(ふっと不敵な笑みを零して) 」

氷冬「………ススス…――――スチャン…ッ… ……(納刀後、仰向けに倒れている雛菊のもとへ歩み寄っていく)」

雛菊「はぁ……はぁ……っ… …は、ははは…あはは……っ… 負けちゃいました…(剣豪として、序列上位者としてのプライドも一切感じられないような、その敗北に満足の笑みを全面に浮き出していた)」

氷冬「…雛菊…… ……ありがとう、貴女に出会えて、本当に良かったわ。(そっと手を差し伸べる)」

雛菊「……はい、私もです。氷冬さん。(その手を取って立ち上がる)…貴女にはたくさん驚かされました。最初に出会った試合から…復活して、共に罪剣と戦い…そして今、強く逞しくなった貴女と決着を付けられたこと…そのすべてが、私の人生の中で…とても素敵な思い出として刻まれるものになりました…(ふふっとほくそ笑む)」

氷冬「…私は『世界』を知るためにここへ来た…貴女や多くの剣士たちと戦って、私もまた強くなれた… もう、これ以上の言葉が出ないくらい…感謝している…―――――!(ふと胸元に感じるものに気づく。懐にしまわれた一通の封筒…それを静かに抜き出し、雛菊に手渡した)」

雛菊「……?(「これは?」と小首を傾げながら、手渡されたその封筒を見つめる)――――――!!!(そして驚嘆する。その送り主の名を目にした瞬間に)」

氷冬「……ここへ来る道中で、出会ったの。そして、貴女に渡すように頼まれたわ… 貴女の偉大な師範…いえ…――――― 「お父さん」から。」

雛菊「……そん………ぁ…(衝撃の展開に思わず口元を覆う。そして恐る恐るその封筒に再び視線を落とす)」

氷冬「…………―――――――」


それは、十刀剣武祭開催式が始まる5時間前。ある田舎道―――――


氷冬「(心地の良い蛙の声が奏でる、田んぼが広がる田舎道を歩んでいる)……(やれるだけのことはやった。後はASの言う通り、自分を信じて戦うだけ…)(これから直面する大きな試合へ向けて、緊張しながらも希望を膨らませている)」

笠の男「ふぅ…ふぅ……(氷冬の目前で膝に手をつき荒い呼吸をする男が一人。腰元に刀を携えたその男は宛ら風来坊の様な風貌をしていた)…参ったな…もう体力に限界が……まだ村を出て間もないというのに…これじゃあ………?(笠を脱ぐと、それの為に見えなかった氷冬の姿に気づく) 」

氷冬「……?(何だろう…とても衰弱しているわね。剣士…?ということは、ひょっとしてこの人…)…」

笠の男&氷冬『――― あ の ―――』

氷冬「…ぁ……(互いに返事が被って恐縮し)」

笠の男「………はっはっはっ…(手を差し出して「どうぞ」のジェスチャー)」

氷冬「(軽く会釈した後、男のもとへ歩み寄る)…あの、ひょっとして貴方も刀剣武祭へ…?」

笠の男「……!おお、そうだが…もしやするとお譲さんもかな…?これは奇遇だね。(先程まで苦しんでいた顔が晴れる様に笑みを零す)」

氷冬「ふふっ、そうね。(男に釣られて笑みを零す)……(年季が入った刀…それに、若干歳を取っているようにも見えるけれど…この人の目、"強か"だ…)(第一印象から感じる男の姿に、思わず感心する)」

笠の男「……ふむ…(しかしそれは男も同様だった。骨董品を睨む鑑定士の如き鋭い眼から、彼女の実力を推し量っていた)……よし。(そう言うと重い腰を上げる様に背伸びし、改まった表情で彼女と向き合った)…それなら、一つだけ…お譲さんに頼みがある。今出会ったばかりの、こんな老いぼれの他愛もない頼み事だが…どうか聞いてはくれないだろうか?…この先に団子屋がある。まずは頼みのお礼として御馳走しよう。」

氷冬「あら、いいわよ。最近甘味が寂しかったから。(嬉しそうに舌をちょっぴり出して)」

笠の男→鑢「それはよかった。…ああ、私は翡翠鑢という。お譲さんの名前を聞いてもよろしいかな…?」

氷冬「……?(「翡翠」…?何処かで聞いた事が………!)(その時、以前の試合で完敗を喫した雛菊の像が過る)……(まさか、ね…)…雪桜氷冬よ。」

鑢「氷冬か…良い名前をしている。…見ての通り、これでも私は今でも剣士だ。昔はそれなりにやんちゃしていたのだが…歳を取ってしまってな…今ではほら、この通りの体たらくだ。(くははと苦笑) だが、君はとても強い剣士だと、私には分かるよ。さ、行こう。私の記憶が正しければ、確かもうすぐ着くはずだ。」

氷冬「ええ…(覇気を失いつつある老剣士…しかし気付いていた。その瞳の奥で輝く光は、依然として「剣士」なのだと。)」


――― 団子屋 ―――


氷冬「♪~(店前の椅子に腰かけ足をぷらぷらさせながら三色団子を頬張り、お茶を啜って春の風情を堪能している)」

鑢「(店内の奥席で筆を執って手紙を書き記している)……うむ。(その手紙を折り畳み、封筒の中へしまう)…お譲さん…いや、氷冬さんや。(店から出て氷冬のもとへ)刀剣武祭へ出場するんだってな。これは天より授かった運命と言えるだろう。」

氷冬「ええ、そうだけど……どうかしたのかしら?」

鑢「…これを渡してほしい奴がいる。―――――『 雛菊 』という名前だ。」

氷冬「んぐっっ!!??(仰天の余り団子を喉に詰まらせてしまい、慌ててお茶を含んで飲み干した)ぷはっ……ぇ…ええぇ…!?(そのまさか。予感は的中した。)」

鑢「ああ、私の娘だ。君と同じく、あの大会に出場していると聞いてな。(そう言い彼女の隣へ腰かけ、目前に広がる川に視線を落とす)…私はもともと、ある村で剣道を教えていた。ある日、捨てられていた彼女を拾って…私の娘にした。以来彼女は娘として、弟子として、剣の道を極めていったよ。(俄かに語り始める)」

氷冬「……(湯呑を両手で握りながら、真剣に話に耳を傾けている)」

鑢「彼女は素晴らしい才能を持っていた。僅か短期間で師範である私の領域まで実力を伸ばしたんだ。だから私は、親離れさせ、もっと広い『世界』に目を向けさせようと…彼女と真剣勝負を行うことにした、最後の稽古としてな。もちろん彼女が勝ったよ。子は父を越えるというからな。ははは…!…だが…相手が父(わたし)であったことに動揺していた娘は、剣の握り方を誤ってしまったみたいでな… 私に傷を負わせたことを、深く負い目を感じる様になってしまった。」

氷冬「……(雛菊…)(今まで出会った誰よりも凛々しく、気高く、強い剣豪の過去を知り、その真実に思わず固唾を呑んだ)」

鑢「私に打ち勝った娘は、そのまま旅へ出てしまった。残念ながら、深く眠りこんでいた私はその旅路を見送ることが出来なかった。…彼女は強い。私が鍛え上げた自慢の娘であり、一番弟子だからな。しかしそれと同時に、"弱く"もあったんだ。…彼女は誰よりも強く、そして優しかった。だからこそ、あの時私を傷つけてしまったことを、きっと今でも…いや、これからも先ずっと…後悔しながら生きていくに違いない。私は私自身がどうなろうと構いやしないさ。どうせすぐに年老いてぽっくり逝くのだからな。」

鑢「…しかしな、娘はまだまだ若い。たとえ剣の腕前が強くたって、彼女はまだ幼子なのだ。いつか挫折したり、後悔したりすることがあるだろう。それでいいんだ。だが…彼女はまだ自分の弱さをずっと抱え込んだままだ。それじゃあいつまでたっても成長なんかできない。…だから、いつか、親として、娘に会って、ちゃんと向き合って話をしたかった。(自らのしわくちゃの掌を見つめる)…私がもう少し若ければ、そうしたかったよ。(自嘲気味に笑い、首を左右へ振る)」

氷冬「…鑢さん…(複雑そうな面で彼の横顔を見やる)」

鑢「…だから、この手紙を君に託したい。私が娘に伝えたいことは、すべてここに詰まっている。本当なら、面と向かって話をしたかったのだが…今は、こうするのが互いの為かもしれないからな。(そう言い、氷冬にその封筒を手渡す)……頼む。(彼女に頭を下げ)」

氷冬「……(手渡された封筒をしっかりと受け取る。手紙の内容は、当然知る由もない。しかし、先程の話から、父が娘に何を伝えたいのか…その綴られた思いの温かみは、感じ取れた)…確かに受け取ったわ。必ず彼女に送り届けるから。」

鑢「…ありがたい。(安堵の笑みを零した後、氷冬の顔を凝視する)……君は、娘とは似て非なるものを感じるよ。君もまた、強くなるために多くの壁とぶつかり、その度に切り開いてきたのだろう。…君にこの手紙を任せられたこと、これを運命と呼ばずに何と呼ぼう。(ゆっくりと立ち上がる)……娘は強いぞ。(にっとはにかんで)」

氷冬「ええ、知ってるわ。その為に、もっと強くなったんだから。(不敵な笑みで応え)」

鑢「ふふっ…武運を祈る。(そう言い残し、来た道へと折り返していった)」

氷冬「……(徐々に小さくなっていく鑢の背を最後まで見送った後、彼から手渡された封筒に視線を落とす)……必ず…!(封筒を懐へ深くしまい込んだ)」



雛菊「…… …… ……ピラ…(彼女から事情を聞いた後、開封し、手紙を開いた) 」


BGM♪



最愛の娘 雛菊へ ―――――

お前が旅立ってからもう八年が経とうとしている。昨日まであんなに小さく蹲っていたお前が、今は一人立ちで歩いている姿が思い浮かぶよ。

昨年、雛菊が刀剣武祭に出場しているのを聞いて驚いたよ。私が教えた「剣道」を、お前はいつも忘れないでいてくれているみたいだね。

できることなら、今のお前の姿をこの目にしたかったが、生憎歳を取った今では、この村を抜けられそうにもなくて残念に思うよ。

なに、それでも私は私だよ。母さんと一緒に暮らしながら、今でも変わらず道場で剣を教えている。それが私の生き甲斐だからね。

雛菊、お前が道場を抜けたあの日のことを、私は今でも忘れない。おそらくお前は、今でも心の何処かで自責の念に駆られているだろう。

生真面目だから、ずっと背負い込んで、罪滅ぼしのために何かを成し遂げようとしているのかもしれない。



鑢「バタバタバt(頭部に包帯を巻いた状態で慌てて玄関へと飛び出す)…ひぃ…ひぃ…… おい、雛菊は何処に…?」

女性「……!あんた…安静にしていないと駄目じゃないか。……もう行ってしまったよ。あんたによろしくと、ね。(ほくそ笑んで)」

鑢「はぁ…はぁ… …そう、か……―――――― ふふっ…(嬉々とした満面の笑みを浮かべ、青空を仰いだ)」


―――― その目で『世界』を見て来るんだ。行ってらっしゃい、雛菊。 ――――




だがね、私は傷ついたなんて思ってはいない。そしてお前にも、そんなことで傷ついてほしくない。

いつか教えたことを覚えているだろうか。守るための「剣」は、時として誰かを傷つけるものになり得ると。

あの日、お前が対峙していた本当の相手は、私ではなく、紛れもない「お前自身」だったのだ。

過去への悔恨や憎悪、現実の非情、私への甘え…そのすべてを断ち切らせるために、私はお前を導いたにすぎない。そうしなければ、『世界』へ出てもお前の剣道は通じないからだ。

お前は、私との約束を守った。"強くなる"という約束を。だからあの日、お前がお前自身に勝ったのを本当に嬉しく思うよ。流石は、我が自慢の娘だ。お前に「剣」を教えたこと、今でも誇りに思うよ。

これから先、様々な困難にぶつかることもあろう。どんな人も強くて弱い。 だけれども、自分だけを見失うようなことだけは、決してしてくれるな。

弱さも、後悔も涙も、自分が手にしたもののすべて、自分のものとして受け入れろ。 そうすれば、弱さは強さに、後悔は思い出に、涙は笑顔に変わるから。

気が向いたら、いつだっていい。「剣道」に迷いが現れたなら、いつか道場へ戻ってきなさい。もう一度鍛え直してやろう。それに、成長したお前の顔も見てみたいからな。 ―――

最後になるが、「世界」で活躍し、そしてこれからも高みへ跳んでいくお前を、母さんと一緒に応援している。そのまま迷わず進め、我が娘よ。

追伸:やはり歳は取りたくないものだな。すまないが、やはりまだこちらからお前に会いに行けそうにない。だから代わりに、ある美人の剣士にこの手紙を託した。お前によく似た、強い目をした剣士だ。

きっと彼女は、お前にとって人生で最もかけがえのない『朋』になるだろう。その絆だけは、断ち切らないでくれ。

―――――――― 翡翠 鑢




雛菊「…… …… ……」

雛菊「…… …… ………ぁ…ぁ……っ…(手紙を握る両手が小刻みに震え出す。やがてその振動が脚へ、肩へ、唇へ、瞳へ伝っていく)」

雛菊「………おとう…さん…… …ぅ…っ……うぅ…っ……(溢れ出る想いに耐えきれず思わずその場に崩れる。眼から滴る淡い蒼い感情が、彼女の頬を少しずつ満たしていく)」


ずっと…ずっと、恐かった… …痛かった… 悲しかった……寂しかった…っ… また、独りになるんじゃないかって…また、誰かに愛される温かさを失うんじゃないかって…っ…

生まれてきたことを呪った日もあった… 弱い自分を蔑み続ける日もあった… でも……あの人を……!あの人から教えてもらった「剣」を…忘れてしまう日がいつか来ることが、一番怖かった…!

…そう…なんだ…… 弱くてもいい…傷ついてもいい…泣いてもいい… だってそれは、自分にしかないものなのだから…

失うことばかり考えていたら…迷ってしまう… 自分の足で歩んで手にしてきたものすべてが…私にとって…かけがえの無い"私自身"だったんだ…

あの日…私に「剣」を教えてくれたのは…そういうことだったんですね……御師匠様……おとう…ざん……っ……


雛菊「―――――――――――――」


ポ タ … ポ タ … … ポ タ …


雛菊「ううぅ…っ… …あう…っ゛……ぁ……(零れる蒼を何度も拭っては、再び零れ出るその蒼に溺れていく)」

氷冬「(貴女のお父さん、とても強い目をしていた。それは一目でよく分かった。貴女によく似た、目だったから…――――)(雛菊の後に蒼い空を仰ぐ)……(その後、これ以上のことを伝えるのは野暮だとその場を後にしようとするが…)」

雛菊「―――――― 氷 冬 さ ん … っ … … !(しわくちゃの手紙を握りしめて俯いたまま、彼女の背に)」

氷冬「……(振り返ることなく、そのまま静止する)」

雛菊「はぁ……はぁ……スゥ―――――― いつかまた、私と刃を交えてください…!今度は「朋」として…貴女と語り合いたい…!ずずっ……次は…絶対に、負けませんから……!(ぐちゃぐちゃの顔面を上げて、満面の笑みをその背に送る)」

氷冬「………フッ…(無言で拳を天高く突き上げ、そのまま盤上から姿を消した)」

雛菊「…はぁ……はぁ……――――――」


お父さん…もう二度と迷いません。だって今の私には… 貴方から授かった「剣」と…―――――


―――― 新しい『 道 標 』が出来たから ――――



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月02日 03:02