戦骸のヴァルキュリア
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cielenica
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「私は貴女のために殉教しよう」
「貴女が施した祝福 に恥じぬ、ヴァルキュリアに私は変わる」
登場人物
イサラ・ギュンター(Isara Gunther)
長い茶髪をポニーテールにしてまとめた、整備用ゴーグルがトレードマークの女性兵。21歳。「ガリアの英雄」ウェルキン・ギュンターの娘でもある。
数奇な運命によってかつての両親と同じように、ヨーロッパの地を戦場として駆けていくことになった。その最中に謎のヴァルキュリアと遭遇し、心臓を貫かれるという致命傷を受けるもなぜか無傷で生き残る。
以来、多くの犠牲を振りまいたヴァルキュリアに殺意と憧憬の入り混じった執念を向けていくようになる。
兵科は偵察兵。
イサラ・ギュンター(Isara Gunther)
長い茶髪をポニーテールにしてまとめた、整備用ゴーグルがトレードマークの女性兵。21歳。「ガリアの英雄」ウェルキン・ギュンターの娘でもある。
数奇な運命によってかつての両親と同じように、ヨーロッパの地を戦場として駆けていくことになった。その最中に謎のヴァルキュリアと遭遇し、心臓を貫かれるという致命傷を受けるもなぜか無傷で生き残る。
以来、多くの犠牲を振りまいたヴァルキュリアに殺意と憧憬の入り混じった執念を向けていくようになる。
兵科は偵察兵。
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クロリス・フローン(Chroris Flohn)
ハニーブロンドを肩まで切りそろえた、黒い縁取りのメガネがトレードマークの女性兵。23歳。戦争が起きる以前から軍属であった。
正規軍に所属していたがヴァルキュリアによる甚大な被害によって部隊が壊滅し、そのまま再配属が行なわれてイサラたちと同部隊になる。イサラ同様に、謎のヴァルキュリアに心臓を貫かれる「洗礼」を受けて生き残ったという奇妙な出来事に遭遇している。
根っからのガリア人であり、新人記者としてあちこちを駆ける日々を戦前は行なっていたとのこと。そのおかげか体力に自信があり、また力持ち。
兵科は戦車長兼対戦車兵。
ハニーブロンドを肩まで切りそろえた、黒い縁取りのメガネがトレードマークの女性兵。23歳。戦争が起きる以前から軍属であった。
正規軍に所属していたがヴァルキュリアによる甚大な被害によって部隊が壊滅し、そのまま再配属が行なわれてイサラたちと同部隊になる。イサラ同様に、謎のヴァルキュリアに心臓を貫かれる「洗礼」を受けて生き残ったという奇妙な出来事に遭遇している。
根っからのガリア人であり、新人記者としてあちこちを駆ける日々を戦前は行なっていたとのこと。そのおかげか体力に自信があり、また力持ち。
兵科は戦車長兼対戦車兵。
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メリナ・アーヴィング(Melina Irving)
長い黒髪を一部サイドテールにしている、ガリア人には珍しい赤い目の少女兵。17歳。「無名の英雄」クルト・アーヴィングの娘であるが、様々な事情から父親が昔軍属だったことは知らずに育っていた。
母親に似たのか、活発でどこか無邪気な性格。一方で父譲りの努力家な一面を垣間見せており、根性で戦果を挙げている期待の新兵。
イサラとは軍属になってからの付き合いで仲が良い。
三人の中では最年少なことに加え、背が低めなど未だ未発達な自身を気にしている。本人的には「お母さんがすごいんだから私だって!」という心境。夜のお供は蜂蜜たっぷりのホットミルク。
兵科は突撃兵。
長い黒髪を一部サイドテールにしている、ガリア人には珍しい赤い目の少女兵。17歳。「無名の英雄」クルト・アーヴィングの娘であるが、様々な事情から父親が昔軍属だったことは知らずに育っていた。
母親に似たのか、活発でどこか無邪気な性格。一方で父譲りの努力家な一面を垣間見せており、根性で戦果を挙げている期待の新兵。
イサラとは軍属になってからの付き合いで仲が良い。
三人の中では最年少なことに加え、背が低めなど未だ未発達な自身を気にしている。本人的には「お母さんがすごいんだから私だって!」という心境。夜のお供は蜂蜜たっぷりのホットミルク。
兵科は突撃兵。
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クヴァルドリーヴァ(Kvaldrifa)(*1)
戦乱と共にヨーロッパ全土にて存在が確認された、正体不明の「ヴァルキュリア」。神話・伝承で語られている姿とは異なり、彼女は槍と盾ではなく、一本の剣を携えて行動している。
神出鬼没であり、彼女と遭遇した部隊は悉く壊滅状態に陥っているため、ある意味では戦乱最大にして最悪の敵。一方で壊滅した部隊には必ず何人かの生き残りが"無傷で"存在しているという、不可解な現象を引き起こしている。
常に覚醒状態なため、蒼き炎を鎧っている。銀髪赤眼。それ以外は普通の少女のようにも見え、外見から推測できる年齢は18歳前後。
イサラの生涯の敵となった相手。
戦乱と共にヨーロッパ全土にて存在が確認された、正体不明の「ヴァルキュリア」。神話・伝承で語られている姿とは異なり、彼女は槍と盾ではなく、一本の剣を携えて行動している。
神出鬼没であり、彼女と遭遇した部隊は悉く壊滅状態に陥っているため、ある意味では戦乱最大にして最悪の敵。一方で壊滅した部隊には必ず何人かの生き残りが"無傷で"存在しているという、不可解な現象を引き起こしている。
常に覚醒状態なため、蒼き炎を鎧っている。銀髪赤眼。それ以外は普通の少女のようにも見え、外見から推測できる年齢は18歳前後。
イサラの生涯の敵となった相手。
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ガリア戦役が起きたのが征暦1935年(ウェルキン22歳、クルト20歳)
アリシアがイサラを身ごもったのがその2年後の1937年(ガリア内戦が起きた頃)であり、その内容が明かされたのが10月ごろなので、出産したのはおそらく1938年と見なす。 『ネームレス、再集合』の時系列は不明だが、こちらの解釈ではガリア戦役から5年後としているので1940年。メリナはそれ以降の妊娠・出産と見なす。 なので生年としては、 イサラ:1938年 クロリス:1936年 メリナ:1942年 となるため、少なくともこの話における戦乱は1959年に起きたものとなる。
クヴァルドリーヴァ=イムカが事故死したのが『ネームレス、再集合』の直前なので1940年。この時点で22歳なので、本来ならば41歳ほどになる頃。年を取っていない(外見年齢は背の低さなどが理由。ストップしたのは22歳の段階)のはヴァルキュリアとしての再生能力がぐちゃぐちゃに機能しているからであり、ある種のゾンビ状態なため。蒼き革命におけるブリュンヒルデの依代のようなもの。
余談だが、先の男性で年齢加算するとウェルキン:46歳、クルト:44歳になる。 |
――殉教のための路に立っているようだった。
先程まで武器を手に駆けた兵たちは影もなく、戦車は一部を吹き飛ばされて溶けかかった傷跡を見せる。
たちまち焦げて命を結ばなくなった草木や、煤けた石ころが、たぶん人だった何かが――――。
この現実が、あくまでも戦乱と解せるのみだった場所を、一変して地獄にした力があると物語る。
先程まで武器を手に駆けた兵たちは影もなく、戦車は一部を吹き飛ばされて溶けかかった傷跡を見せる。
たちまち焦げて命を結ばなくなった草木や、煤けた石ころが、たぶん人だった何かが――――。
この現実が、あくまでも戦乱と解せるのみだった場所を、一変して地獄にした力があると物語る。
神ではない。実在性を確かに持つ彼女は聖母か聖女、とにかく何らかの信仰を宿している。
だが、彼女の信ずるものが見えてこない。自らが持つ知識は、彼女の胸に飾られているはずの十字架がいかなるものかを答えてくれない。だって、何もかもに該当しない。
強いて言えば大昔、人々を救ってくれた救世主様のおとぎばなしを醜く再現したかのようで……。
だから、彼女は今この世界に存在するあらゆる信仰に属していない。
彼女は彼女という、唯一無二の存在に属している。そして、力を以って光を振るう。
聖歌の代わりに翳す太陽よりも苛烈で、日々に寄り添ってきた輝きのなによりも眩いものを纏う。
青白く灯るたった一本の剣が、ともすれば彼女にとっての神であるのかもしれない。
だが、彼女の信ずるものが見えてこない。自らが持つ知識は、彼女の胸に飾られているはずの十字架がいかなるものかを答えてくれない。だって、何もかもに該当しない。
強いて言えば大昔、人々を救ってくれた救世主様のおとぎばなしを醜く再現したかのようで……。
だから、彼女は今この世界に存在するあらゆる信仰に属していない。
彼女は彼女という、唯一無二の存在に属している。そして、力を以って光を振るう。
聖歌の代わりに翳す太陽よりも苛烈で、日々に寄り添ってきた輝きのなによりも眩いものを纏う。
青白く灯るたった一本の剣が、ともすれば彼女にとっての神であるのかもしれない。
祈りの代わりに、剣を握る。
願いの代わりに、焔を呑む。
縋りつくように、人を消す。
笑顔も涙も零さない、冷たく凍った表情こそが少女をこの世在らざるように象り上げる。
「…………」
血を、傷を、身体より拭う氷炎がゆっくりと揺らめいて、星明かりみたいに赤い瞳が私を見つめてきて。
「……洗礼を」
途端、感じるのは針の刺さる小さな痛みとわずかな空虚をまるで何倍にも膨らませたものだった。
視界がぶれて、私の身体はゆっくりと浮き上がる。その一連がなんだか笑ってしまいたくなるほど遅い速度で行われていて、だから私は気づくのに遅れてしまった。――貫かれたのだ。彼女の持つ、輝く剣に。
細く研がれた長剣らしいそれは私の胸から背をあっという間に突き刺していた。医学に詳しくない私にだって分かる、これはとても危険な状態だってことは。
だって、心臓を、貫かれている以上は、どうやって。
「アっ……か、ハァ……っ!?」
ごぷりと、まるでワインボトルを栓もなく引っ繰り返したかのような血が吐き出されて、頭がとてもくらくらする。
それまでどうにか生き残り、隠れ潜んでいた私を貫いて、無理矢理立たせた彼女の目はやはり何の感情を見せない。青白く灯る身体は不思議と熱を持たないが、銀色の髪は炎と共に美しく揺らめいていて、こんな事態でもなければ不思議なものだねと感動したかった。
「堅信を」
「おっ、ぐ……ァア、あ……がぁ!」
嫌な音を立てて深く、深くそれは私の胸に沈み込む。それに血を吐くしかなくて息ができない。肉と骨で守られるべき大切な臓器がどんどん役立たずになっていく。
ぎゅるりと景色でも変わるような錯覚を覚えながら、しかし、それまで力を宿さなかった私の両手は急速に勢いを取り戻して最後に抗おうと剣の柄に触れ、彼女の手ごと掴む。そしてただ必死に、これだけは、これだけはと文字通り決死の覚悟で言葉を叫んでいた。
「……」
「だれっ……なの、あなたは……ッ!!」
込み上げ続ける鉄の味がうっとおしい、構うものか。どうせここで終わる命なら絞るだけ振り絞るんだ。
「こんなことして、あなたを……許さ、ない、ゆるさない、絶対に……!!」
痛い、痛い、痛くて涙が視界を邪魔してくる。今の私の顔、お父さんたちにはきっと見せられないな。お母さんはそれはもう怒って泣いてしまうだろうから。そんなのは嫌だから、嫌、だけど。
こんなにも神々しくて悍ましくて恐ろしい理不尽を前に、だからこそ命を以って咽ぶ。
お前だけは生かせないのだと、唯一で無二に等しい殺意を込め。
「私が、殺す!殺してやる!!貴女を殺して……死なせてやる。二度とこんなことッ――――」
「告解を」
そんな私の一世一代の言葉は、無慈悲に引き抜かれた刃によって中断された。
虚しくなったそこの冷たさに震えるより先に、私はその場で崩れ落ちる。もう声が出ない、何も言葉が出てこない。ごぽごぽと流れる血と一緒に感覚も、考えるためのものも、全部薄れていくようで怖い。
怖いと思う心さえも、無明にまで沈んでいく。
願いの代わりに、焔を呑む。
縋りつくように、人を消す。
笑顔も涙も零さない、冷たく凍った表情こそが少女をこの世在らざるように象り上げる。
「…………」
血を、傷を、身体より拭う氷炎がゆっくりと揺らめいて、星明かりみたいに赤い瞳が私を見つめてきて。
「……洗礼を」
途端、感じるのは針の刺さる小さな痛みとわずかな空虚をまるで何倍にも膨らませたものだった。
視界がぶれて、私の身体はゆっくりと浮き上がる。その一連がなんだか笑ってしまいたくなるほど遅い速度で行われていて、だから私は気づくのに遅れてしまった。――貫かれたのだ。彼女の持つ、輝く剣に。
細く研がれた長剣らしいそれは私の胸から背をあっという間に突き刺していた。医学に詳しくない私にだって分かる、これはとても危険な状態だってことは。
だって、心臓を、貫かれている以上は、どうやって。
「アっ……か、ハァ……っ!?」
ごぷりと、まるでワインボトルを栓もなく引っ繰り返したかのような血が吐き出されて、頭がとてもくらくらする。
それまでどうにか生き残り、隠れ潜んでいた私を貫いて、無理矢理立たせた彼女の目はやはり何の感情を見せない。青白く灯る身体は不思議と熱を持たないが、銀色の髪は炎と共に美しく揺らめいていて、こんな事態でもなければ不思議なものだねと感動したかった。
「堅信を」
「おっ、ぐ……ァア、あ……がぁ!」
嫌な音を立てて深く、深くそれは私の胸に沈み込む。それに血を吐くしかなくて息ができない。肉と骨で守られるべき大切な臓器がどんどん役立たずになっていく。
ぎゅるりと景色でも変わるような錯覚を覚えながら、しかし、それまで力を宿さなかった私の両手は急速に勢いを取り戻して最後に抗おうと剣の柄に触れ、彼女の手ごと掴む。そしてただ必死に、これだけは、これだけはと文字通り決死の覚悟で言葉を叫んでいた。
「……」
「だれっ……なの、あなたは……ッ!!」
込み上げ続ける鉄の味がうっとおしい、構うものか。どうせここで終わる命なら絞るだけ振り絞るんだ。
「こんなことして、あなたを……許さ、ない、ゆるさない、絶対に……!!」
痛い、痛い、痛くて涙が視界を邪魔してくる。今の私の顔、お父さんたちにはきっと見せられないな。お母さんはそれはもう怒って泣いてしまうだろうから。そんなのは嫌だから、嫌、だけど。
こんなにも神々しくて悍ましくて恐ろしい理不尽を前に、だからこそ命を以って咽ぶ。
お前だけは生かせないのだと、唯一で無二に等しい殺意を込め。
「私が、殺す!殺してやる!!貴女を殺して……死なせてやる。二度とこんなことッ――――」
「告解を」
そんな私の一世一代の言葉は、無慈悲に引き抜かれた刃によって中断された。
虚しくなったそこの冷たさに震えるより先に、私はその場で崩れ落ちる。もう声が出ない、何も言葉が出てこない。ごぽごぽと流れる血と一緒に感覚も、考えるためのものも、全部薄れていくようで怖い。
怖いと思う心さえも、無明にまで沈んでいく。
「――――」
瀕死の虫のような無様をさらけ出す私に、彼女が何を想ったのかは分からない。意識が遠のいてしまっては何も、分からなくなってくる。
ああ、死ぬのか。私は醒めたような頭で、自分の人生の終着点を悟り始めた。
「――――」
だというのに、何故だろう。なんだか身体が暖かいと気づいた。
死ぬときは冷たいと聞いていたのに、不思議だ。それになんだか、暗いはずなのに明るくなっていく。
「――――」
何かが聴こえた。物音とは違う。人の声。
誰の?きっと彼女の声だ。あれ?
「――――」
なにか。何?
さっきから貴女はいったい、何を言っているの。それは、聖句でも唱えているの?
分からない。血の抜けて、油の通ってない機械みたいなぽんこつになった私の頭じゃ分からないわ。
ねえ、貴女は。
どうして――――。
「――契りを」
凛とした声が響いて、水面を広げるように優しく鳴って凪いでいく。
痛みは遠のいていた。からっぽになった胸はいつの間にか、満たされていた。
不思議なぬくもりに包まれて、暗闇の中に蒼い星のような熱を見ながら私は聞いた。それは、紛れもない。彼女からの神託だった。
「あなたに祝福が、あるように」
結びの誓言を唱える声に、何故だろうか、私は確かに感じた。
彼女の無機質な心。そこに色が宿ったかのような。花開くような人の想いが見えたような気がして、私はかろうじて残る感覚だけを頼りに片腕を持ち上げた。
伸ばして、どこにいるかも分からない彼女に向けて。
手を伸ばそうとして、でも。
結局、届かないまま力なく落ちていく。木の葉みたいに意識はちぎれて霧散していって、眠っていく。
彼女はそこからいないのか。
私は――――。
瀕死の虫のような無様をさらけ出す私に、彼女が何を想ったのかは分からない。意識が遠のいてしまっては何も、分からなくなってくる。
ああ、死ぬのか。私は醒めたような頭で、自分の人生の終着点を悟り始めた。
「――――」
だというのに、何故だろう。なんだか身体が暖かいと気づいた。
死ぬときは冷たいと聞いていたのに、不思議だ。それになんだか、暗いはずなのに明るくなっていく。
「――――」
何かが聴こえた。物音とは違う。人の声。
誰の?きっと彼女の声だ。あれ?
「――――」
なにか。何?
さっきから貴女はいったい、何を言っているの。それは、聖句でも唱えているの?
分からない。血の抜けて、油の通ってない機械みたいなぽんこつになった私の頭じゃ分からないわ。
ねえ、貴女は。
どうして――――。
「――契りを」
凛とした声が響いて、水面を広げるように優しく鳴って凪いでいく。
痛みは遠のいていた。からっぽになった胸はいつの間にか、満たされていた。
不思議なぬくもりに包まれて、暗闇の中に蒼い星のような熱を見ながら私は聞いた。それは、紛れもない。彼女からの神託だった。
「あなたに祝福が、あるように」
結びの誓言を唱える声に、何故だろうか、私は確かに感じた。
彼女の無機質な心。そこに色が宿ったかのような。花開くような人の想いが見えたような気がして、私はかろうじて残る感覚だけを頼りに片腕を持ち上げた。
伸ばして、どこにいるかも分からない彼女に向けて。
手を伸ばそうとして、でも。
結局、届かないまま力なく落ちていく。木の葉みたいに意識はちぎれて霧散していって、眠っていく。
彼女はそこからいないのか。
私は――――。
「イサラっ!!」
分厚い膜を引き裂くように、私の意識はそこで一瞬、明瞭となる。
だけども本当に一瞬。すぐにぼんやりと覚束ない、なんだか眠気の中にいるような心地になっていく。でもそのまま眠らずにいて、私はようやく声をかけられて目覚めたのだという事実に追いついていった。
そう、だれか。誰かが私を呼んだ。誰が?
聞き覚えのあったこの声は間違いない。
「メリナ?」
「! イサラ、大丈夫!?目が覚めた?痛くないっ?」
顔をずいっと寄せて、慌てた様子で訊いてくるこの子に私は少し怯んでしまう。それまで何があったのか、その前後を吹き飛ばすかのような涙を溜めた表情を見てどう答えるべきか、悩むより前に第三者の介入が入る。
「こら、そんな矢継ぎ早に聞かないの。イサラはけが人なんだから」
「で、でも、やっと起きたから……!」
「分かってる。あたしだって心配だったんだもの、メリナはよっぽどだったんだよね」
だからこそ一旦落ち着いて、どうどう。そうやって柔らかく宥めるようにするもう一人にも、私は見覚えがあった。ゆっくりと起き上がって、その間に身体の様子を確かめる。
「……?」
あれ、どうしてだろう。きっと長く眠ってしまったはず。
なのに今までより、身体が軽い?
「イサラ?」
「あっ、えっと、ごめんなさい。大丈夫」
「いや、本調子じゃないのは分かってるわ。ゆっくりでいいからね」
「うん……ありがと、クロリス」
こういうとき、彼女の優しさが骨身に染みるよう。私は言葉通り、まずは周囲を見渡してそれから二人を見る。
目の前にはよく知った私の同期というのか、同じく戦場で肩を並べる子たちがいた。
一人目はカーキかかった黒髪に赤い瞳をした、メリナ。二人目は金髪に黒い縁取りの眼鏡をかけた、クロリス。彼女たちは私が軍属となってからの付き合いで、短い間でもそれなりに仲がいい友達だ。
だからメリナがずっと心配してたことも、クロリスが落ち着き払いながらも案じていたことも、よく伝わってくる。改めて顔を上げて、私はせいいっぱい笑ってみせた。
「ごめんなさい、心配かけちゃって。……何があったのか、教えてほしいな。ちょっと覚えてなくて」
「覚えてない、って……」
「うん。見たところ、傷はもう治ってるみたいだから相当長く寝ちゃってたのかなって……」
すると二人は顔を見合わせて、なんだか疑うような様子で黙り込んでしまった。
どうしたのだろう?
分厚い膜を引き裂くように、私の意識はそこで一瞬、明瞭となる。
だけども本当に一瞬。すぐにぼんやりと覚束ない、なんだか眠気の中にいるような心地になっていく。でもそのまま眠らずにいて、私はようやく声をかけられて目覚めたのだという事実に追いついていった。
そう、だれか。誰かが私を呼んだ。誰が?
聞き覚えのあったこの声は間違いない。
「メリナ?」
「! イサラ、大丈夫!?目が覚めた?痛くないっ?」
顔をずいっと寄せて、慌てた様子で訊いてくるこの子に私は少し怯んでしまう。それまで何があったのか、その前後を吹き飛ばすかのような涙を溜めた表情を見てどう答えるべきか、悩むより前に第三者の介入が入る。
「こら、そんな矢継ぎ早に聞かないの。イサラはけが人なんだから」
「で、でも、やっと起きたから……!」
「分かってる。あたしだって心配だったんだもの、メリナはよっぽどだったんだよね」
だからこそ一旦落ち着いて、どうどう。そうやって柔らかく宥めるようにするもう一人にも、私は見覚えがあった。ゆっくりと起き上がって、その間に身体の様子を確かめる。
「……?」
あれ、どうしてだろう。きっと長く眠ってしまったはず。
なのに今までより、身体が軽い?
「イサラ?」
「あっ、えっと、ごめんなさい。大丈夫」
「いや、本調子じゃないのは分かってるわ。ゆっくりでいいからね」
「うん……ありがと、クロリス」
こういうとき、彼女の優しさが骨身に染みるよう。私は言葉通り、まずは周囲を見渡してそれから二人を見る。
目の前にはよく知った私の同期というのか、同じく戦場で肩を並べる子たちがいた。
一人目はカーキかかった黒髪に赤い瞳をした、メリナ。二人目は金髪に黒い縁取りの眼鏡をかけた、クロリス。彼女たちは私が軍属となってからの付き合いで、短い間でもそれなりに仲がいい友達だ。
だからメリナがずっと心配してたことも、クロリスが落ち着き払いながらも案じていたことも、よく伝わってくる。改めて顔を上げて、私はせいいっぱい笑ってみせた。
「ごめんなさい、心配かけちゃって。……何があったのか、教えてほしいな。ちょっと覚えてなくて」
「覚えてない、って……」
「うん。見たところ、傷はもう治ってるみたいだから相当長く寝ちゃってたのかなって……」
すると二人は顔を見合わせて、なんだか疑うような様子で黙り込んでしまった。
どうしたのだろう?