猪狩誠幕間その1

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幕間SS・試合前夜

関東有数の指定暴力団、炭夜紫会。
その由来は江戸時代からの博徒の流れを汲み、今時珍しく任侠の志を残す組織である。
彼らは闇市の管理統制や、略奪行為からの市民の保護など、自警組織として核投下後の関東の秩序を裏から支えてきた存在であった。
しかし続くパンデミックにより組織の力は衰え、大陸や関西などから流入しようとする外部勢力の台頭に押され始めていた。
表立った組織的対立を避けたい彼らは、今回の大会「ザ・キングオブトワイライト」を、その威を示す一種の代理戦争の場として利用することを考えた。
猪狩誠にトーナメントの話を持ってきたヒイラギ組はこの炭夜紫会の傘下であり、よって誠は炭夜紫会の代表としてその威信を背負うことになる。
トーナメント前夜、壮行会へ呼ばれた誠は炭夜紫会本家へ向かっていた。

送迎のリムジンを運転するマサが後部座席の誠に声をかける。
「まさか本当に選抜を勝ち抜くとはな。推薦した俺も今日は鼻が高いってもんだ。改めて礼を言わせてもらう。ありがとうな、誠」
「やめてくださいよ、水臭い。マサさんも俺の家族じゃないですか」
「な、何言いやがる。よさねえか馬鹿野郎」
慌てたマサは思わずハンドルを切り損ね、危うくガードレールにぶつかりそうになる。
「俺みたいなヤクザと家族だなんて、冗談でも口にするもんじゃねえ」
「関係ないですよ、そんなこと。だって俺、世界中のみんなと家族になれたらなって、そう思ってるんですから」
バックミラー越しにマサを見つめる誠の眼差しは、どこまでも深く澄み渡り、マサは思わず視線を逸らした。
(誠。おめぇはやっぱり…)
「あのよ。俺の立場で今更こんなこと言うべきじゃないんだが」
マサはそこで言葉を切り、逡巡してから後を続けた
「今からでも辞退することはできないか?」
「マサさん…?」
「選抜だけで13人が殺されたってな。その現場の片付けをしたのが俺だ。
俺も極道の世界に足を踏み入れてから十年以上たつ。修羅場もそれなりに潜ってきたつもりだ。だがよ、あれは…」
<正気じゃねえ>マサは喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
「俺は魔人の戦いってのがどういうものだかまるでわかっちゃいなかった。
本番がこんな程度じゃすまねえくらいバカな俺にだって想像がつく。
お前みたいなガキによ、これ以上こんなことに関ってもらいたくないんだ。
…俺は昔、ドンさんに随分と世話になった。
その縁で、ドンさんが孤児院を開いてから陰でずっと手伝ってきた。
だからよ。俺にとっちゃ、お前らみんな…
……いや、なんでもねえ。やっぱり忘れてくれ」
「あはは。なんだ、マサさんも俺と同じ事思ってるんじゃないですか」
「かっ、勘違いすんじゃねえ!俺はおめえみたいな糞ガキの心配してんじゃねえんだよ。ただ、試合でお前の身体に何かあったら、チビどもが…」
「ご心配ありがとうございます、マサさん。でも、ここまで来て後に引くわけには行きません。それに、縁が」
最近になって入院中の縁の具合が急変したのだ。折しも選抜試験中だった誠にもそれは力の流入と言う形で伝わった。
現在は小康状態に落ち着いたものの、しばらくは絶対安静とのことで、いつまた発作が起きるかわからないらしい。
組から誠に前渡しされた報酬のほとんどを病院に支払ってなんとか手術の段取りをつけてもらってはいたが、術後のことも考えればまだまだ相当な費用が必要になる。
(待ってろ、縁。俺が必ずなんとかしてやるからな)
静かに決意を燃やす誠の瞳は、先ほどとは違い鋭利な光を宿していた。
「誠。変なこと言っちまって悪かったな。こうなったら俺も一蓮托生だ。俺に手伝えることがあったらなんでも言ってくれ」
「そう言ってもらえると助かります。実はマサさんにお願いしようと思っていたことが…」

一回戦に続く