その他幕間その1

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幕間SS・落葉の暗躍

「行方不明?」


七葉樹落葉は女の言葉をそのまま繰り返した。
スーツ姿のエージェント、銘刈耀が告げた内容は次の通りである。


昨夜未明、試合会場の一つである「図書館」の警備部隊「槐」が行方不明となった。
消えたのは警備に当たっていた者全て。
定時連絡が途絶え、交替のため詰めていた者たちが現場に急行。
会場外周で人数分のIDカードと破壊された通信機を発見した。

戦闘の形跡は一切なし。

一回戦では使用されない会場であるため、大会運営に支障なし――

……だが。

「まさか集団脱走ではないでしょう。何者かの攻撃によるものとみるのが妥当かと」
「でしょうね」

ぞんざいに同意して、落葉は時計を取り出して眺めた。
報告を吟味する。


銘刈は言葉を続けた。

「もっとも所詮『槐』は魔人能力も使えない末端にすぎません。
 この程度、我々にとってはたいした損害では……」
「お前たちにとってはそうだろうな。
 せいぜい遺族補償を負担するホエール・ラボラトリへの
 顛末書の内容でも考えていればいいのだから」
「……お言葉ですが、まだ彼らが死亡したと決まったわけでは」
「心にもないことを」

その鉄面皮の女が心中をけっしてのぞかせないというのは落葉も知っていた。
が、確信している。
……七葉の名のもとに雇われた一般人の安否など、どうとも思っていまい。

「……それで?」
「損害は軽微とはいえ、これは大会への敵対行為です。看過はできません。
 以降、機関の人員が事態を引き継ぎます」
「そう」





(骨の髄まで狗ね)
他にも二、三の報告をした後に退出した銘刈の様子を思い返し、
落葉はそんな感想を抱いた。

つまるところ、銘刈にとっての周囲は、
機関にとっての敵か、敵ではないかの二つでしかないのだ。
それで問題は生じない。
裏にどんな思惑があろうと、機関に仇なす行為は潰す。

明快な原理だ。
覆すのは容易ではないが、単純だとも言える。
そこに付け入る隙がある。

(自分たちが世界を相手取っているという思い上がりが結局は命取りなのよ――
 私も、あなたたちも……誰にもそこまでの力はない)


落葉は手元にある資料のことを思った。
森田が拾ってきた情報内容――
銘刈は『好戦的な選手同士の小競り合い』と評したが。

一つ一つの情報内容は些細でも、繋がりを見出すことは落葉には可能だった。

弱冠9歳という幼さで七つの財閥を束ねる長として君臨した落葉が、
五年もの長さにわたって表は優れた経営者として部下を導き、
裏は目高機関に気付かれぬよう牙を研ぐ――それを可能にした能力の一つ。

『未来予測』……魔人のような特殊能力ではない。
イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは、政治家に不可欠なのは第一に
「将来なにが起きるかを予言する能力」だと発言した。
(第二に必要なのは「予言が外れたとき、それを弁解する能力」だと続いたが)
情報を収集し洞察力をはたらかせることについて、落葉は稀有な才覚がある。

その感覚が指し示す。

痕跡を残さない組織的な攻撃――
しかし、被害を考えると、奇襲のアドバンテージを有効活用したとは言い難い。

……襲撃者たちの目的が「目高機関」への攻撃だと考えるなら、だが。

(ねらいは……陽動)

落葉は静かに結論づけた。
資料を再び開帳する。
「槐」の件と同時期に世田谷で行われた戦闘行為。

参加者同士の小競り合いではなく、参加者に対する外部からの攻撃。
そこで起こったのは「書物」使い同士のぶつかり合い。

古書業界における昨今の人事異動の激しさと合わせて考えると……答えは見えた。

襲われた参加者の相川ユキオという男。
彼の手にする書物はおそらく「魔導書」――それも写本ではないだろう。
襲撃者の正体は、魔導書を求める古本屋。

グレードの低い「槐」への襲撃は、古本屋のねらいを悟られぬための目くらましだ。
彼らの本当のねらいは、機関に干渉されずに魔導書を回収すること。
しかしそれは叶わなかった……相川ユキオへの襲撃者は返り討ちに遭った。
ついでに相川ユキオがその場の不特定多数を相手に窃盗をはたらいたのが気になるが。


「……」
落葉は唇を噛む。

現時点ではいざ知らず、
銘刈が敵の正体に気がつけば――必ず気がつくだろうが――規模の大きさから見て、
必ず七葉の擁する戦力まで動員して古本屋の殲滅に動き出すだろう。

冗談ではない。
落葉の目的のためには、七葉の力をいたずらに損耗させるわけにはいかない。

かといって魔導書を七葉で回収するわけにもいかなかった。
相川ユキオと魔導書を確保したところで、古本屋の標的が変わるだけだ。
表立っての敵対は望んではいないというだけで、
実際に相手が目高機関になろうとも古本屋は撤退も容赦もしないだろう。

ならば。

「……森田」
「ここにおります」
落葉の声に、隣室に控えていた秘書はすぐに応じる。
満足して、落葉は立ち上がった。自ら扉を開く。

「お嬢様?」
「移動するわ。運営本部に、私が挨拶に出向くと通達して」




(相川ユキオを味方につけるしかない……か)
大会を運営するスタッフ、特に実況役と審判役には会っておく必要がある。
相川ユキオの邪魔をしないよう、それとなく誘導しておいたほうがいい。


古本屋が血眼になって魔導書を求めるのは、それだけの価値があるからだ。
――さながら千の軍勢に対抗するポテンシャルを秘めるほどの。

彼を暗にバックアップして古本屋を壊滅させる。
機関としても、利害が一致している以上は邪魔はしないだろう。

それは元々の落葉の思惑にも沿うものだった。
有望な参加者とのコネクションを作ること――機関へ復讐するための戦力として。



「……先手は譲ったから、今度はこちらの手番よ」


ウィンストン・チャーチルはこうも言っていた。
曰く、
「復讐ほど高価で不毛なものはない」――と。

落葉の目的の終わりに何が待つのか、本人ですら知らない。


(了)