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文房具第-1話

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datui

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文房具達にとってもっとも慣れたフィールドであるケンちゃんの机の上。
その中心では今、嘲笑と悲鳴が交互に木霊していた。
「やめて、やめてよカッターナイフ!」
「ハハハ……うるさいんだよ、消しゴムぅ!」
カッターナイフは己の刃を剥き出しにして、逃げ惑う消しゴムに切りつける。
何度も使用されて鉛筆の黒ずみが残った消しゴムの頭頂部が一瞬にして消え失せ、散っていく。
「あんた、自分が一番ケンちゃんに使われてると思ってるんでしょう? 勘違いすんなよクズ!」
「ひぃっ!」
消しゴムの体をまとっていたカバーが切り捨てられ、その純白の体が晒された。
涙を流し膝を付いた消しゴムを前に、カッターナイフは更に嬉々として追い討ちをかける。
「ケンちゃんはね、他のガキ共と違って私を持ってるから……皆によく私を貸してるのよ!
 あんたみたいな奴は誰だって持ってる! あんたなんて居なくても変わらないのよ!」
「で、でも……ケンちゃんは私のカバーの四隅を切って、長持ちするようにしてくれた……」
「……ハンッ! あんた、知ってる? 最近ケンちゃんの友達の間で流行ってる事……」
「な、何……?」
「消しゴムをね……ハッ! 消しゴムを小さく切って、他の奴にぶつける遊びよ!」
「……!?」
純白の体に何度も刃を入れながら、カッターナイフは笑い続ける。
しかし、消しゴムが流す涙は、いつしか傷つけられた痛みから出る物ではなくなりつつあるのだった。
「ハハハ……あんたなんて消耗品なんだよ! だから使い捨て! 最後まで使った奴なんて居やしない!」
「そ……そんな事……でも、ケンちゃんは!」
「ケンちゃんだってね、そのうち友達に感化されて同じ事を始めるんだよ! この私を使って、あんたを切り刻んでね!」
「う、ううう……!」
「アハハハハ! そう、こんなゲームが始まらなくても、どうせあんたはこうなったんだよ! このクズ!」
「うう……うぇぇぇ……!」
「……二度と使えないように、真っ二つにしてやるよ」
カッターナイフは己の刃を最大にまで露出させた。
消しゴムの全長をゆうに超えるその刃を以って、彼女を両断するのだ。
「切ったら、さっさと下のゴミ箱に捨てておいてやるよ! ハハハハハ!」

しかし、カッターナイフの刃は消しゴムの目前で止まった。
情けをかけた訳ではない事は、困惑と苛立ちの表情を見せるカッターナイフの顔を見れば分かる。
「こ、この力……まさか!? あ、あああああああ!?」
カッターナイフの体が机を離れ、消しゴムとは反対方向に飛んでいく。
消しゴムが慌てて体を起こしカッターナイフを追うと、そこにはもがき苦しむカッターナイフと、悠然と佇む磁石の姿があった。
「は、離せ! このクソ女ぁ!」
「カッターナイフ……貴女は文房具としてやってはいけない事をした……まだ使える文房具を玩具にするなど、愚の骨頂!」
「だ、黙れ! 理科の授業でしか使われないくせに……筆箱にも入れて貰えないくせに! 離せ!」
「でも、私がいなければケンちゃんは困ってしまう……理科の授業で寂しい思いをさせてしまう……」
NとSの文字が書かれたU字の体を、磁石は思い切り振りかぶる。
「や、やめろぉ! 私がいなくなったら、ケンちゃんが困るんだ!」
「居なくなっていい人なんて一人もいない……でも、文房具としての禁忌を犯した貴女だけは!」
磁石は体を机へと叩き付けた。それは、刃を剥き出しにしていたカッターナイフを叩き付けた事と同義だ。
根元から刃が砕け、カッターナイフだった物が崩れ落ちる。刃が砕けるという事は、彼女の死を意味していた。
「……ごめんなさい、カッターナイフ。貴女だって、本当にケンちゃんの事が大切だったのよね……
 消しゴム、大丈夫? 私はこの戦いを止めたいの。こんな事、もう繰り返したくは無い……!」
「で、でも……私、汚れちゃった……カバーも無くしちゃった……もう、ただのゴミだよ……」
「そんな事はない! ケンちゃんなら、貴女だってきっと使いこなしてくれる! だからまず、この戦いを止めましょう?」
「……本当に、私でも使ってくれるかな?」
「もちろんよ……だって、ケンちゃんはあんなに優しいじゃない……」
「……そうだよね。ケンちゃんは、私の事を大切にしてくれるよね……ありがとう、磁石」
「なっ……!?」
消しゴムが微笑むと同時、磁石の表情は激しく歪んだ。
体中が一斉に悲鳴を上げ、そして襲い来る激痛。その原因が消しゴムが手に持つ小袋の中にある事を、磁石は涙目で視認する。
「さ、砂鉄……!」
「これね、私の支給品なんだ。でも、これじゃカッターナイフはどうにもできなかった……だからありがとう、磁石♪」
「あ、貴女まで……こんな戦い、何の意味が……」
「大丈夫だよ! ケンちゃんさえ帰ってきてくれれば、皆は代わりを買って貰えるよ! でも、私だけは大切にしてくれる……」
「そん、な……や……め……」
袋の中身を全てぶちまけられ、やがて磁石は永遠の眠りについた。
永久磁石である彼女にとって、砂鉄を直接付けられる事は死その物なのだ。
彼女の死を見届けた後、消しゴムはあちこちに切れ目が入った体を起こし立ち上がる。
そして磁石が持っていた「HCL」と書かれた小瓶を手に取ると、軽やかにその場を去っていった。

【現在位置:ケンちゃんの机の上】

【消しゴム】
[状態]:全身に切れ目、頭部を一部欠損、カバー消失。高揚状態。
[道具]:塩酸の小瓶
[行動方針] :優勝する。

【カッターナイフ:死亡確認】※刃が根元から折れています。
【磁石:死亡確認】※全身が砂鉄塗れです。

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