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文房具第4話

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datui

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老兵の思い出 ◆JF9sfJq3GE


 ケンちゃんの部屋のちょうど中央に置かれたテーブル。
 その上に細長い体に独特の風格を漂わせる文房具が転がっていた。
 彼の名は万年筆という。

 今ではすっかり使われなくなったお年寄りだったが、田中家との付き合いは誰よりも長かった。
 終戦後の闇市でケンちゃんのおじいちゃんに買われてきたこと。
 ケンちゃんのおじいちゃんが精一杯の思いを込めておばあちゃんに恋文を書き綴ったあの夜。
 ケンちゃんのお父さんが大学に合格したとき、進学祝いにと贈られたこと。
 ケンちゃんのおじいちゃんがなくなった夜、お父さんが久しぶりに自分を取り出し、一人泣き伏したこと。
 その全てが懐かしく、今でもありありと思い出せる。
 そしてすっかりロートルとなった今でも、お父さんの書斎で昔を思い出す 良き品として大切に保管されていた。
 所在無げな日々ではあったが時折主人の目に止まり手に取ってもらえる。
 そのことが誇らしく、忘れられていないということが何よりも嬉しかった。
 イタズラでケンちゃんに持ち去らわれるというアクシデントもあったものの、今ここで朽ち果てても悔いのない文房具生だったと思うことができる。
 それだけの精一杯生きてきたという自負が彼にはあった。今日この日までは……。

 ぐったりと横たわるケンちゃんが、瞼の裏にこびりついて離れなかった。

 あの姿を見たらケンちゃんのお父さんはきっと悲しむ。
 おじいちゃんが死んだときよりも悲しい涙を浮かべる。

 そのことを考えると胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
 なによりもおじいちゃんの面影を残したあの子のことが哀れだった。

 そうならないようにするためにはどうすればいい?
 答えは一つしかなかった。

 ――みんなを壊そう。

 老い先短い自分の文房具生、悔いは残らないようにと心に誓い立ち上がる。
 光を反射して背中に彫られた『made in china』の文字が悲しげにキラリと光っていた。

【現在位置:テーブルの上】

【万年筆】
 [状態]:健康
 [道具]:不明
 [行動方針]:生き残ってケンちゃんを生き返らせる。

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