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文房具第5話

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datui

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おとうと ◆Xg5sghdcbQ


ケンちゃんの机の上にある、電気スタンド。
本棚と一体化した電気スタンドの下にある、縦穴が2つ並んだ差し込み口を見て苛立ちを覚えた。
明かりも点いていないその下で、俺は佇んでいた。

ケンちゃんが死んだ。この穴にピンセットを差し込んだせいで。
俺は机の中にいたせいで気付くことすら出来なかった。
物音に気付いてみんなが机から顔を出して、でも何も見えなくて、ブレーカーが上がって、それでケンちゃんが倒れていることをようやく知った。
どうしようもなかった。
だって俺は文房具だ。使用されることに存在意義があって、止めろと言えはしない。

そしたら感電とかいう訳分からん奴が現れて、
「みんなと殺しあえばケンちゃんを生き返してやる」とか言いやがった。
というか感電って何だ。名前だけ見ればケンちゃんを殺した張本人じゃないか、こんちくしょうめが。
それでも、憎たらしい奴のケンちゃんを生き返らせるという破格の条件は魅力的で、俺を悩ませた。
――いや、そうじゃない。
俺はケンちゃんを生き返らせることよりも、ある1つの出来事に引きずられていた。





そう、あれは……1、2年前だったか。
算数の角度の授業があるからと、俺と弟の二等辺はケンちゃんと一緒に学校に行った。
筆箱の姉貴には大きくて入らないからと、ランドセルの小物入れのところに入って。
その中で俺は二等辺と「どんなことするんだろう」と話しながら、期待を膨らませていた。
暗いから何があるかは分からない。ただ、周りにはケンちゃんの声や他の子供たちの声が渦巻いていた。
チャイムが鳴った。
教室のドアがスライドする音が聞こえ、先生であろう大人の声がした。
算数だ。算数の授業だ。俺はあまりの期待と興奮にのた打ち回りそうな思いだった。
ケンちゃんは先生の言った通りに、俺と二等辺を取り出した。そして、2人の90度を合わせた。
あの時のケンちゃんの顔を、俺は今でも覚えている。
――真っ直ぐな180度になることにケンちゃんは驚き、それはよく考えればごく普通な不思議なのに、顔を輝かせていた。
他にも、友達が持ってきた三角定規の30度と俺の60度を合わせて90度にした時も、
60度を3つ集めて180度にした時も、同じ顔をしていた。
俺はあのケンちゃんの顔が大好きだった。
どんなに俺で線が引かれる時よりも、あの驚喜に満ちた顔を見た時の方が、俺は嬉しかった。
俺と弟にはこれが1番の思い出だ。

もっとも、角度という授業で三角定規を使うのはほぼ最初くらいなもので、コンパスや分度器が必要になってからは
俺や弟の出番はなくなった。
ケンちゃんは俺たちを机の中にしまった。それからケンちゃんの顔はしばらく見ていない。

それからどれ位経っただろうか。運命は唐突にやって来た。
忘れもしない日。
忘れるべきだと願うのに、忘れられはしないあの日。
暗い机の中でみんなと過ごしている中で、突然光が差し込んできた。
ケンちゃんではなかった。ケンちゃんのはずがない。今頃ケンちゃんは学校にいる時間なのだから。
そう、開けたのは、ケンちゃんのお袋さんだった。
お袋さんはぱあっと顔を明るくして、俺たち2人が入ったケースに手を伸ばした。
そして、取り出した。
弟を。

「お兄ちゃん」

何で弟は俺の名を呼んだのだろうか、その先を見越しての不安か、ただの突発的な出来事に対する反射か、
二等辺は小さな声でそれだけ言った。
お袋さんは二等辺を連れて何処かへ行ってしまった。それから弟には出会っていない。




何故お袋さんが二等辺を連れていったかは全く見当がつかないが、
きっと定規が必要になって、けれども見つからないからケンちゃんの部屋に来て、
机の上にも定規がないから、弟を借りていったんだろう。
ただそれだけのこと。
けれど、俺にとってそれは半身ともいえる弟との、長い、もしくは永久的な別れを意味していた。

俺たち文房具は、誰かの手を借りなければ動くことはない。風でも振動でも何でもいい。
しかし、いつも机の中に入れられている俺にとって、動くということは殆どない。
それこそお袋さんが連れていった二等辺のようなイレギュラーがなければ。
弟は今どうしているのか。
直角の俺とは違い、二等辺の弟は45度が2つあって安定している分、穏やかな性格だった。
尖がった30度も、中途半端な60度もない。よっぽど俺より文房具が出来た弟だった。
それでも、弟。
まだ年も幼く、もしリビングの連中(会ったことはないが)に苛められでもしていたら。
それ以上の――もっと遠いところに行ってしまったとしたら。
いてもたってもいられなかった。

ケンちゃんを生き返らせるということも当然重要なことだ。
だが、それ以上に俺は、この殺し合いを生き残り、弟と再び出会える日を待たなければいけないんだ。
少なくとも、弟の顔を見てからじゃなければ、弟がどうしてるのか知ってからじゃなければ。
――俺は、死ねない。

俺は支給された火炎瓶を手に握った。
正直これ1本だけというのは心もとないが、俺には「鋭角の30度」がある。
いざとなれば自分の身を武器にしてでも生き残ってみせる。
だから。
待っていてくれ、二等辺。





【現在地:机の電気スタンド下】

【三角定規】
[状態]:健康
[道具]:火炎瓶1本
[行動方針]:ゲームで生き残り、弟と再会できる日を待つ。

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