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文房具第6話

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datui

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最悪の男


付箋は逃げていた。
開始早々、出くわしてしまったのは最悪の相手。
太く、乱暴で、救いようのない奴。

「待ちやがれ、コイツ! 観念してさっさと俺様の色に染まっちまえ!」
「いやよ! あなたのって、私には太すぎるんだもの!」

付箋は走る。その可憐な裾をペラペラたなびかせて、小柄な彼女はひたすら走る。
張って剥がせて跡がつかない、それが糊付き付箋の自慢の身体。
そりゃぁ、己が消耗品であることくらい、彼女は理解している。
何かを書かれるのが自分の本分であることも理解している。
それでも、あの男だけは嫌なのだ。
そもそもあの男は、彼女に直接触れられるような存在ではない。身分が違うのだ。
しかし確かにこんな状況でもないと、彼が彼女に触れるチャンスはもう無いだろう。
己の分を弁えろ、と言った所で、通じる相手ではない。
相手は己の分を知っているからこそ、この機会を逃したくないだけなのだ。
殺し合いも、ケンちゃんの蘇生も関係なく、この男は自分の欲望に忠実なだけなのだ。

大男はキャップを外し、その下品な、普段は隠された芯を剥き出しにして迫ってくる。
男の体臭が、離れていても鼻につく。付箋はそのいやらしい匂いに、顔を顰める。
逃げて逃げて、ひたすらに逃げて……

「あっ!?」

TVの裏側に逃げ込もうとしたところで、付箋は無様に転んでしまった。
踏み越え損ねたのはTVの電源コード。
慌てて立ち上がろうとするが、彼女が体勢を立て直すより、大男が追いつく方が早かった。
涎を垂らさんばかりの表情で、男は己の身からいきり立つ凶悪な凶器を押し付ける。

「やッ……やぁぁあぁッ!!」
「ゲッヘッヘ……! 前から一度、付箋たんにこうしてみたかったんだァ……!」

悲鳴を上げる付箋の身体に、染みが広がる。
真っ黒い染み。処女雪のようにまっさらな糊付き付箋の身体が、穢されていく。
大男がグリグリとその身の凶器を押し付ける度に、付箋は悲鳴を上げる。

「ひッ……ひぃッ……。そんな、一度に3枚も4枚も貫かれるなんてッ……!?」
「フヘヘヘ、どうだ、俺様のインクの味は? 他の筆記用具はこんなに凄くねぇだろッ!?」
「こ、こんなの、初めて……! おかしくなるぅ、これ以上されたら、あたし、死んじゃうぅッ!」
「逝け! 俺様にヤられて、逝っちまえ! グチョグチョに濡れて、逝っちまえ!」

息も絶え絶え、といった付箋にのし掛かりながら、大男は1人下品な笑いを上げる。
大男の色に塗り潰され、皺が寄り用を成さなくなった付箋が、乱暴に剥ぎ取られる。
再び露わになった処女地に、再び押し付けられる大男の凶器。再び上がる付箋の悲鳴。
2度。3度。執拗に、絶えることなきタフネスで、大男は付箋を陵辱し続けて……。

(ああッ……。シャーペン、さん……。
 あなたが、シャー芯さんのことしか見てないのは、わかってたけど……。
 せめて最期にもう一度、貴方に、書かれたかった……)

付箋の美しい瞳から、涙が溢れる。
何度も彼女の身体の上を通り過ぎた彼。けれど向こうは、仕事上の関係としか思ってくれてなくて。
それでも、彼女の知る男たちの中で、彼が一番優しくて。
台紙まで大男の色に塗り潰されながら、最期の意識で彼女が想ったのは、そんな彼の姿だった。

        *        *        *

「ぐへへへ……あれ? 付箋たん? もう逝っちゃった?
 げっへっへ、あ~、気持ち良かった。
 やっぱ小さい紙って最高! でもちょっと物足りねぇなぁ、ゲッヘッヘ!」

付箋が動かなくなって、しばらくして。
彼女の「道具としての死」にも気づかず、身体を振っていた大男は、ようやく身体を起こす。
難儀そうにキャップを嵌め直すと、付箋が使う間もなかった支給品を奪い、その場に立ち上がる。
この男にあるのは、「すべてのものに自分の色をつけたい」、ただその欲望だけ。
一番の好みはやっぱり紙であるが、しかし相手が鉄だろうがプラスチックだろうが何でもありだ。
逃げようが抵抗しようがお構いなく、ノンケでも塗っちまう最低最悪な狂人、いや狂ペン。
それが、この「油性マジック」という男。
筆記用具の兄弟たちからも忌み嫌われる彼は、次なる獲物を求め、ケンちゃんの部屋を歩き出す……!

【現在地:TVの脇(A-3)】
【マジックペン】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品×2
 [行動方針]:ゲームも何も関係なく、己の欲望のままに「塗りまくる」。

【付箋:死亡】
【残り40人】

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