When? Where? Why?
ジェニファー・シンプソンは歩いていた。
何時? ――太陽が沈もうとしている夕方。
何処? ――見知らぬ世界の通路。
何故? ――それは、彼女自身にも分からない。
気が付いたら此処にいたのである。
自宅の玄関のドアを開け、外に出た時、既に世界はその姿を変えていた。
つい先ほどまで窓から部屋の中を照らしていた筈の太陽は、濃霧によって見えなくなってしまった。
町並みも、住み慣れた地域のそれではない。
少なくとも、ジェニファーが見た事のある建物は一つも存在しなかった。
最初こそ驚き、戸惑い、恐怖こそしたが、このまま怯えているわけにもいかない、と考え、早速家を飛び出したわけである。
しかし。
「何処なのかしら……ここ」
……家を出たまでは良かった。
だが、その後どうするかを彼女は考えていなかったのである。
ジェニファーはこの街――サイレントヒルについての知識を全く持っていない。
(まぁ、彼女の居た世界には噂にも存在していなかったので、当然と言えば当然なのかもしれないが)
故に、今自分が此処の何処に居るのかすら理解出来てはいないのである。
これではまるで迷子の子供だ。
せめて、ここの地図だけでも手に入れる事が出来たら――。
……そんな事を考えている内に、T字路に突き当たった。
随分遠くまで行ってしまったらしい。
さて、どちらに行こうか。
どちらに行ったとしても結果は同じ気がするが、やはり、考えてしまう。
そして考えた末に、「左側」に行こうと決心した――――
その、直後である。 ――――「何か」が、彼女の前を通り過ぎたのは。
「…………!?」
ジェニファーの呼吸が、一瞬だけ止まる。
今確かに「何か」が左から現れ、右へと走って行った。
――――何が? 何が走った?
突如、怪人――シザーマンの姿が脳裏に浮かんだ。
幾度となく自分を追い詰めた鋏使いの化け物。
まさか、まさかあのような怪物がここにも――――。
(………そんなワケ……ないわ)
何を、何を弱気になっているのだ。
シザーマンは既にこの世には存在しないし、万が一存在したとしてもあのようなスピードで移動するとは思えない。
それに第一、「何か」を化け物と認識するのは少し気が早すぎる。
そうだ、無害な生き物である可能性だってあるのだ。
いやむしろ、化け物である確率の方が少ない。
怯える必要など、全く無いのだ。
……「右側」に行こう。
何があるかは分からない。 もしかしたら化け物が口を開けて待っているかもしれない。
だが、行かねばならないのだ。 行ってその先何があるのか知らなければならない。
奇妙な使命感を感じながら、ジェニファーは右側の通路へと足を進めた。
T字路を右に折れた先に居たのは――――。
――――犬だ。
茶色と黒が混じった毛を生やした犬が、其処には居たのである。
尻尾を振りながら、ジッとこちらを見ている。
「……何だ………怯えて損しちゃったわ」
ホオ、と安堵の息が漏れた。
何だと思えば、唯の犬か。 先程までの自分が馬鹿に思えてくる。
犬如きであれこれ考えていたのだ。 これほど恥ずかしい話もそうそう無いだろう。
怯えていたのは、きっと目の前の風景が異様なものだったからに違いない。
しかしこの犬、よく見たら中々愛らしい顔をしているじゃないか。
頭を撫でてやろうと思い、犬に近づく。
しかし犬は突然そっぽを向くと、――また道の向こうへと駆けだしていった。
「あ…………! ちょっと! 待ちなさい!」
ジェニファーは逃げ出した犬を追いかける。
追いかける理由は二つ。
一つは、近づいたら逃げられた事に、憤りを感じたからだ。
二つ目――こちらの方が重要である――は、この犬は何かを知っているのかもしれないと思ったからだ。
根拠はない。 だが、そんな気がしたのだ。
それに、行き当たりばったりに進むのも、この犬に付いていくのも、大して変わらないだろう。
故に彼女は、あの犬――ツカサを追うのだ。
ジェニファー・シンプソンが、走る。
何時? ――太陽が沈みかけている夕方。 そう、もうすぐ世界が反転する時刻。
何処? ――サイレントヒルの道路。
何故? ――この世界で始めて出会った生命を追う為に。
【D-5/路上/一日目夕方】
【ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2】
[状態]:健康 犬(ツカサ)を追っている
[装備]:私服
[道具]:不明(何を持ってるかは次の人にお任せします)
[思考・状況]
基本方針:ここが何処なのか知りたい。
0:犬(ツカサ)を追う。
1:地図が欲しい。
2:他に人は居ないのかしら。
最終更新:2012年06月21日 21:17