Twilight Deadzone
狙撃手の武器は他の怪人達に盗られるのが厄介なので男子トイレの個室に持ち込み内側から鍵を掛け上から出ることで『封印』した、中に入っているものがバレてもあの置き方なら扉が破られる事もないだろう、あれらが上から個室に入る事を思い付くとも思えない。その個室にショットガンの弾が一つ、血塗れの洗面台にハンドガンの弾が二つ置いてあったのでハンドガンの玉のみついでに頂戴する。通路に出た時気配を感じ振り向くと先程確かに殺した筈の怪人が甦っていた。
「……!?」
これにはかなり驚愕した、まさか死人が復活するなどとはこの時点での宮田にとっては完全に想定外だが武器の無い屍人など雑魚同然であったため何も問題はなかった。
次の女子トイレに入るとどうにも妙な感覚に陥った、如何に霊感の無いものでも理解出来るほど校内の邪気を詰め込んだような気配や個室から何か啜り泣く声もする。
それでも進んでトイレの中へ入っていく、多少の危険なら内でも外でも関係ないとの判断からそうしたのだ。先ずは泣き声の主を確認する事とする、この異変の事を何か知っている人間かもしれないしそうでなくとも殴殺すればどうということはない。ネイルハンマーを構えつつドアを一気に開け放つ、すると…
「………」
中には何も居らずただただ血塗れの便座しかなかった。普通ならば怪訝に思うところなのだがここに来る前に世界が一変したり看護婦の化け物に会ったり、或いは人を化け物に変える薬の話を見聞きしていたため特に気にする様子も見せず全ての個室を調べ終える。しかし一つだけ開かない肌色のドアがあった。それはまるで人の皮で出来ているような質感で、赤い丸を基調とした紋様が描かれている。タイル張りと汚れの世界では異質以外の何者でもない。
ジムや風間では、いや、普通の思考をした人間ならまず調べたことにして立ち去るだろうが、彼は普通ではなかった。
打ち壊したドアの向こうには便座の代わりに素人なら性別の判断すら難しい生皮を剥がれた凄惨な死体が縛り付けられていた、ただ骨盤の形状から考えて生前は少女であったことを宮田は理解する。
ふと、そのオブジェともとれる物体の首に何か掛かっていることに気付く、銀細工のネックレスでどうやら中に何か入れられる構造のようだ。それを取ろうと手を伸ばすと突如床が崩落し階下へと引きずり込まれそうになる。
「ぐっ………!?」
床板を掴み重力に抗おうとする最中、突如頭痛に襲われた。その不快感と痛みに耐えきれず指の力が抜け視界が歪み、此処とは別の場所を強制的に見せつけられる。
それは、牢に入れられ友人らしき人物を目前でズタズタにされる光景だった。
それは、個室の中で刃の音が去るのを待つ瞬間だった。
それは、傘のエンブレムに囚われた薬液内の怪物の目線だった。
地下の暗闇に響く巫女の慟哭だった。
カメラに向かう看護婦の最期だった。
迷路に疲れ、座り込む友人を奮い立たせようとする女学生の姿だった。
そして…
『先生ぇ……』
『あぁ……今行くよ……』
それは自分の死に逝く姿だった。
カチッ……
【宮田司郎】 サイレントヒル 学校3階 23時59分59秒
カチッ……
【宮田司郎】 サイレントヒル 学校3階 00時00分00秒
ザッ…ザザッザッ
カチッ……
【宮※司郎】 サ※REン※※ル 学※※1階 00時00分00秒
カチッ……
ザザッ…ザザザザザザザザザザザザザザザザ………
【※田司郎】 SIレン※※※ ※※2階 99時2#分#1秒
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
気が付くと周囲の光景はガラリと変わっていた。壁は生き物のように脈打ち。先程までの漆黒すら生緩い闇が嘘のように晴れ、代わりに淀んだ赤い光に満ちている。見ると出口は何枚もの板で塞がれている。試しに幻視をしてみると、板の外に油膜の中から外を見ているような妙な映像が見えたためどうやら正常に見えるということを確認できた。
「………!?」
続けて周囲を観察すると自分の後ろからの視界を捉えたため咄嗟に銃を取り出し後ろを向く、其所に居たのはおかっぱ頭の少女であった。
「……トイレの花子さん、か。どうやら、学校の七不思議も馬鹿に出来たものでは無いということか」
少女は無表情で銃口を見つめている。少しの間を開け、宮田は花子さんに殺意が無い事を覚り銃を下げこう告げた。
「君はこのサイレントヒルについて何か知っているか」
“おじさんは私をまた自由に遊べるようにしてくれる?”
個室が音を発て少しずつ開いていくなか少女は続ける。
“ここにはおじさん達を羨ましいと思ってる人がいっぱいいるの”
宮田は眉を顰め、思わず銃を持つ手に僅かに力を込める。その目に自らのコンプレックスを見抜かれているような気がしたのだ。
「羨ましい、俺のような人間が?」
“まだ何にも縛られてないヒト達が”
開ききったドアの中はまるで墓のような様相だ、似たような死体ばかり出てくるのはどうやらそういう事らしい。
アンジェラ・オラスコ。
入江京介。
高峰準星。
雁字搦めのうえに首に名前札、まるで死刑を受けた囚人そのもの。
「なるほど、分かりやすい」
宮田の首にもっていたペンダントを掛けようとする花子を制し手でそれを受け取り質問する。
「これは……なぜ俺に?」
“それはお薬、悪いお水や悪いかみさまをこらしめるための…”
そこまで口にした後、宮田の目を見て考え込むように俯き口籠もる。
宮田は悪い神というのが眞魚教の、もしくはもっと別の超常の存在を指すとしたら。つまりはこれを使ってこの異変を終わらせろということだろう。反応からして花子さん(仮にそう呼ぶ)にとって俺はこの密室に来た唯一の人間で、自分ではどうにもできないこの状況を打破するための物を渡したはいいが信用に足る人間かどうか疑わしいようだな。と思った。
同時に、これは転機だ、裏の仕事に手を染める『汚れ役』からこの街を救う『救世主』への手引きをされているのだ。人々を救い導くことに『兄』ではなく『俺』が必要とされている。という想いも無意識の内に込み上げ彼には珍しく自然に笑みが零れていた。
宮田は了承の意を伝えるため語りかける。
「俺が、この町をどうにかしよう。その前に今どういう状況か、教えて貰えますか」
少女は答えた――――
▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
「信じられない…まさか、そんなことが現実に起こるなんて…」
彼女がこの暗闇の世界に移り変わった後得た情報を聞き驚愕した、とはいってもその半分は図書室にあった見知らぬ本から得た知識であったようだが。
「ところで、ここから出るにはどうすればいい。出られなきゃ話になりませんよ」
そう、この部屋には出口が無い。出て行って事を起こそうにもそれができないのだ。
“………もうそろそろ起きないと鬼が来るよ”
「起きる?どういう…………!!」
この場所に来たときの痛みが再び襲い、宮田は急速に意識が覚醒していくのを感じた。
◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇
「う………」
痛みに耐え兼ね閉じていた目を開くと前には開け放たれた個室のドア、前方の蛇口からは赤い水が流れ、下を見ると尻が便座に嵌まっていた。どうやら上階から落ちた所までは完全に夢では無いらしい。
右手を見ると、あのペンダントだ。中には赤い宝石のようなものが入っていた。
先程までのアレは夢だったのだろうか?いや、花子に貰った手書きの地図がポケットの中に入っている、一概に夢だったとは言い難い。宮田は緩やかに立ち上がるとシャベルを持った顔の無い看護婦を殴り付け掃除用具入れの中を漁り目当ての物を取り出す、それの中には『透明な洗剤』が入っている。
「なるほど、これは本当か」
花子から得た第一の情報、世界が変化しても元から容器に入っている液体は無害であるということ。つまり治療や体力回復などに必要な消毒液や栄養剤、怪物への攻撃に使える塩酸や液体火薬等は赤い水にはならないということだ。
次に中の洗剤を一度空にし蛇口から溢れ出るものを容器に満たした。
「これで、もし死ぬような目に遭っても安全だ。もっとも、薬の効果を信じるならだが」
花子はこの赤石が悪い水や神を殺すものだと言った、そして水を大量に飲むと3階にいたアレらのようになるのだとも。彼らのようになるのは問題外だがその再生力は魅力的だ
ならば少量の赤い水で再生、次に赤石を使い水を無力化すれば瀕死の重傷をも治せるのではないかと推理したのだ。
次に宮田は一階を目指した。花子から得た第2の情報によれば元々は無かった筈の地下への道が出来ているらしいのだ、途中途中で幻視を使いつつ出来るだけ安全に移動する。幸い階段付近を巡回する屍人や闇人は居なかった(踊り場の壁を叩いているものや廊下を見張っているものは居たため隙を窺ったりはしたのだが)ために比較的簡単にたどり着く事ができた。明らかに此処だけ塗装が別ものであることがより一層信憑性を深めていた。
「これか………うッ…」
黒く煤けた地下への階段、少し明るいその先は異様な臭いが立ち込めている。宮田には職業柄一瞬で解った、コレは灯油で焼かれた焼死体の臭いだ…。
奥へ進むと丸太のような黒い塊が炎を上げていた。余程強火で焼かれたのだろう、手足のようなものは消し炭となって燃えて落ち、焼きすぎたマシュマロのようにも見える。蹴ると炭となった表皮がボロボロと崩れ中身が露出した、もはや再生はしていないようだ。
「……黒い服を着た鬼は光に弱い、再生も止められるようだな」
得た情報を再確認し悪臭に顔を歪めながら他に眼を向ける。近くにあった扉には『ボイラー室』と書いてあった、しかし開けると回転扉を思わせる仕掛けがあるだけでボイラーと呼べるようなものは何もない。ともかく通れなければ先に進むことができないため淡々と30秒程度でそれを解除し更に先にある梯子を下る。
「ここは…!?」
暫く降りると見覚えのある風景、とは言い難かったが赤い水と青白い人影に照らされたその一画は大字波羅宿、波紋のように拡がる棚田は刈割ではないのか?
もしそうだとするならあの向こうには教会があるはずだ……恐らく服の代えも……
だがまだだ、まだ医者・宮田司郎として残してきた仕事がある。彼処を目指すのはその後に…
修道服を纏い、使命を帯びて人々を救う。
本来それは兄である牧野の役目であるのだが、宮田は何故か今ならそれを成す事が許される気がした。
【3-A/雛城高校/1日目深夜】
【宮田司郎@SIREN】
[状態]健康、
[装備]拳銃(5/6)、ネイルハンマー、二十二式村田連発銃(5/6)
[道具]懐中電灯、赤い水@SIREN、ペンダント@サイレントヒル3、ハンドガンの弾(30)、花子の手書き地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びてこの変異の正体を確かめ、此処に捕われたものを救済する。
1:図書室に行き、何処までが夢だったのか確かめる
2:その他の情報を確かめる
3:『宮田司郎』として調べるべき物を解明する
4:地下を調べる
※花子さんから様々な情報を得ました
※赤い水@SIREN×アグラオフォテス@サイレントヒルシリーズの件は推論でしかありません