失われた記憶――隙間録・宮田司郎編





これは――――。



とある未来で。



とある世界で。



とある次元で。



あったかもしれない、物語――――。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「何も起きない、か」

49番目の名前の上に赤い線が浮かび上がってから、もう何時間も経過していた。
現在の名簿に残る名前は『宮田司郎』ただ一つ。殺し合いのルール上、優勝者は宮田の筈だ。
しかしそれからは、サイレンが二度鳴り、世界が二度裏返った以外には、特別な変化は一切起こらなかった。

「これで証明されたな」

「 『サイレントヒルのルール』なんてうそ 」――――おかっぱの少女から聞かせてもらった情報だ。
ルールのチラシに書かれた“Not True”の文字。――――おかっぱの少女から見せてもらった情報だ。

殺し合いなど、まやかしに過ぎなかった。最後の一人となって、それは漸く証明出来た。
そのルール自体はこれまでも特に気にしてはいなかったのだが、これによって『外国のお姉ちゃん』はある程度正しいと証明されたわけだ。
では何故50人もの人間――いや、あの幻覚の中の人々を合わせれば数え切れない程の人数が、だが――この世界に呼び寄せられたのか。
誰が何の目的で、この街に人間達を集めたのか。
楽園とは何なのか。
その辺りの事は、結局未だに何も分からないままだ。
『外国のお姉ちゃん』を見つける事も出来ず、何一つ謎を解き明かす事も出来ずに、宮田は最後の一人となってしまった。

「行くか」

一人になってしまったが、やる事は変わらない。
ここに囚われている人々の救済は、今でも諦めはしていない。
求導師の役目を引き継ぐ。宮田はその決意を改めて思い返す。

と――――不意に周囲が光を帯び始めた。
暗闇だからこそ感じられる仄かな光。
首を巡らせば、光が宮田を囲む様に――――いや、見える範囲の道の上に広がっていた。

「……何だ?」

光は徐々に強くなる。足元が徐々に白く染まる。
宮田の踝を。膝を。下半身を。白い揺らめきが昇ってくる。
眩く。眩く。光は宮田を、そして、街中を覆い隠していく。
その眩さに耐え切れずに宮田が視線を逃した先は、まだ光に包まれていない漆黒の空。

「っ!? これは……!?」

そこに、宮田は見た。
雲の高さ程の遥か上空で揺らぐ、幾つもの円によって形作られている恐ろしく巨大な紋様を。
見覚えのある紋様。それこそは正に、メトラトンの印章

「どういう事だ……この光が空に反射しているのか? ……この光そのものが、メトラトンの――――――――うあっ!」

眩さが目に映るもの全てを覆い尽くす。
眩さの中で、匂いも、音も、そして、自らの身体すらも失われていく。
自身の推測が正しいのかどうか。もう宮田には確かめる術が無い。
ただ、その輝きの中に、一人の少女の姿が朧気に浮かび上がっていた様な気がしていた。
とても悲しげな表情で、宮田を見つめる少女の朧気な姿が。

あの少女には、見覚えがある――――。
そう、彼女は――――。
あの時の――――。

記憶の中にある少女の姿が、輝きの中の少女の姿と重なり合う。
だが――――宮田司郎が、意識を保てたのはそこまでだった。
苦痛は無かった。ただ全てが失われていくという喪失感だけが、最期のその時まで残っていた。


【宮田司郎@SIREN 消滅】


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


サイレントヒルの町は、今、全体が巨大な破魔の魔法陣による輝きで揺らめいていた。
誰にも見通せない輝きの中。異界と化したこの町は、アレッサ・ギレスピーの手により音もなく消滅していく。

この町に生み出されていた者達も。
この町に生み出されていた物達も。
この町に迷い込んでいた者達も。
この町に囚われていた人々も。
この町を異界へと変えた存在も。
そして、アレッサ・ギレスピー本人も。
異界は全てを道連れにして、光の中で消えて行く。

やがて現象は収束を迎える。
光すらも消えて行き、その場所に姿を現したのは、小さな一つの田舎町。
その町は、サイレントヒル。
動くものの姿は何処にも見えない、寂れ果てただけのかつての観光地。

その町に何が起きたのか。
それを解き明かせる者はもういない。

その町に何が起きたのか。
それに気付ける者すらもういない。

謎も。
答えも。
記憶は光の中へと失われたのだから。

やがてその町には何も知らぬ人々が再び集い、暮らし始めるのだろう。
或いは、そのまま打ち捨てられたままになるのだろう。

どちらだとしても。
その町は、サイレントヒル。
いずれ心に深い闇を抱いた誰かが迷い込む町。

いずれ再び霧は町を隠すだろう。
いずれ再び闇は町を隠すだろう。
しかし、その時の物語を話す者は、今はいない――――。










    ―――――――― GAME OVER ――――――――










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※最後の一人になったとしても、何かが起きる事はありません。






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最終更新:2014年07月10日 20:36