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看病」(2007/03/06 (火) 22:44:12) の最新版変更点

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看病  それは冬も終わりかけ、春も間近の事だった。Wishはこのごろの外交成果を纏めたレポートを藩王に提出をしに政庁ビルの藩王執務室に赴いていた。ただ、藩王は今現在他の面会と会談しているためWishは1人控え室にいた。どうやら自分が最後らしい。Wishは閑散とした控え室を見やる。  ふと、そこへ控え室に入ってきた人物がいた。  「Wishお姉様。順番です。」  クレージュだ。クレージュは年の頃10代半ばの少年で藩王付きをしている。ふかふかしい尻尾が可愛らしくWishは何時か触ってみたいと思っている。  ただ、いつもと違う。Wishは違和感を感じた。  「ん?クレージュ君?」  Wishは首を傾げる。彼の様子が変だ。  「どうしましたか?」  「いえ、クレージュ君、体大丈夫?」  「ええ、大丈夫ですよ?」  「そう、なら良いけど……。」  クレージュ自身が大丈夫だと言っている以上Wishはなにもいえない。Wishは藩王がいる執務室に赴いた。  執務室ではレポートの説明とこれからの外交方針の詰めにはいる。ただ外交方針はもう既に決まっているので詰めと言っても細かい点の確認だけだ。それ故すぐに面会は終わる。  「……大体こんな所か。」  「はい。」  Wishは眼鏡をくいっと押し上げる。藩王は刀岐乃の入れたお茶を金属製マスクの下から啜っている。誰しも「器用だ」と思っているがだれも口にしない。  「ところでWish。」  「はい。」  「このごろ入った若い者をどう思う?」  「……問題はないかと。」  「問題はないか。」  藩王は納得したようだ。どうやら藩王は藩王なりに気を配っているらしい。  「藩王様。」  「どうした?」  「実はクレージュのことです。」  「彼がどうした?」  「……今日の彼の様子を見たのですが、どことなく調子がよろしくなさそうですね。」  「……そうか。」  ちょっと考え込む二人。しかしいつまでも考え込んではいられない。Wishも藩王も次の仕事が詰まっている。  Wishが辞去した後、藩王、セントラル越前の昼食となった。給仕をするのは刀岐乃。セントラル越前はかいがいしく給仕をしている刀岐乃に向かって尋ねた。  「刀岐乃。」  「はい、なんでしょう。」  「クレージュのことだが、先ほどWishから調子が良くなさそうだという話しを受けたのだが……お前から見てどう思う?」  刀岐乃はしばし考えると口を開いた。  「ええ、そういわれるとなんだか今日はちょっとぼうっとしている時間が多いような気がします。」  「そうか。確かいまクレージュはお使いに行っていたな。」  「はい。」  「午後の仕事はクレージュ抜きでもできるか?」  「ええ、大丈夫です。」  「そうか、なら午後から休ませてやれ。」  「はい。」  かくしてクレージュは午後の仕事は免除になったのだが、クレージュ自身その決定には不服だった。ボクは大丈夫だと言ったのに。もっとお仕事をしてお館様、ひいてはボクを拾ってくれた越前のために頑張りたいのに。クレージュの若々しい向上心は一層の仕事を求めていた。しかし尊敬するセントラル越前の言葉に逆らうことなど考えも付かず、彼は大人しく寮の自分の部屋に戻り休んだ。  しかし体調は夜になるにつれ徐々に厳しくなった。悪寒、全身の痛み、全身につきまとう倦怠感、鼻水などがクレージュを蝕む。体温を測ったら38度。おかげで食欲もなくいつも全て平らげる寮の食事も半分しか食べられなかった。同室のRANKから何度も大丈夫かとの問いが飛んでくるがクレージュは常に大丈夫と答えた。もはや彼の意地だった。 クレージュは寮に備え付けてある常備薬の風邪薬を飲むといつもの日課であるイカに似た謎の生き物、チビクレと遊ばず早々に床についたのであった。  翌朝、体調は良くなっていないどころかますます酷くなっている。それでも身なりを整え登庁をしたものの、会う人だれからも心配の声がかかってくる。  「ボ、ボクは大丈夫です……。」  クレージュはそのたびに主張をしたもののだれもが嘘だというのが丸わかりである。現に詰め所控え室に入室するなり刀岐乃に話しかけられた。  「ねぇ、クレージュ君……。」  「なんですか、刀岐乃さん。」  クレージュがもはや唸り声を上げている。しかし刀岐乃も見過ごせない。  「今日は休んだ方が良いわ。藩王様には私から言っておくから。」  「いや、ですから大丈夫ですって。」  「どこが大丈夫なの!そんな青い顔で!しかもふらふらじゃない!だれだってそんなの見たら一目で大丈夫じゃないと分かるわ!」  「だけど大丈夫なんです!」  「どこが!」  ふと、クレージュの視界が暗くなる。声が遠くに聞こえ、ぐらぐらと地面が揺れた。  「ちょっと!クレージュ君!」  刀岐乃さんはどこから話しているんだろう。と言うかボクはどこにいるんだろう。クレージュが意識を手放す前に思ったことはその二つだった。  クレージュは怖かった。轟音を上げて燃え上がる街。崩れ落ちる昨日まで行っていた学校。向こうでは行商にきていたお婆さんが瓦礫の直撃で頭から血を流して倒れ伏している。クレージュはその地獄の中逃げまどっていた。クレージュの故郷、冬の京が崩れ落ちる様だ。クレージュは夢の中で思う。ああ、又いつもの悪夢だ。しかしどうやってもこの悪夢を払うことはできない。  クレージュは逃げまどい、やがて1人になった。冬の山の中であてもなく彷徨っている。  父さんは無事だろうか、母さんは……憧れていたあの娘は……。  強くなりたい。強くなってこんな悲劇もう見たくない。そして……生きたい。こんなところで死にたくはない……  声が聞こえてきた。天国からの呼び声だろうか  「クレージュ……クレージュ!!」  ボクの名前を呼んでいる。だれだろう……  「クレージュ!!」  「はい!お館様!!」  クレージュは跳ね起きた。跳ね起きた後に此処はどこだろうと考える。目にはいるのは一面の白。一瞬夢の続きかと思ったが寒くはない、快適な温度。自分の身に暖かな布団が載っている。布団?  「ようやく起きたか。」  横には藩王がいた。仮面の下で安堵の笑みを浮かべている。  「此処は?」  「此処は病院だ。中央病院。お前は運ばれてきたのだ。」  「え?なぜ?」  きょとんとしているクレージュにセントラル越前はいささか呆れた声を出した。  「お前、倒れたのに気が付いていないのか。控え室で倒れて、刀岐乃が慌てて大変だったんだぞ。」  「そ、そうだったんですか。申し訳ありません。」  恐縮し、耳までたらんと垂れる。そんなクレージュの姿を見てセントラル越前が厳しい声を出した。  「しかしクレージュ。今回のお主、いささか感心せんな。」  「はい……。」  「お主が無理をすればするほど迷惑がかかるのは周囲だ。それが分からないお主ではあるまい?」  「はい……。」  「クレージュ。我々、越前に住まうのは皆、家族だ。違うか?」  「そ、そんな家族などもったいない……。」  「いや、家族だ。みんな、余の愛おしい家族だ。」  越前はゆっくりとかみしめるように言葉を紡ぐ。  「余はこの越前が好きだ。この地を好きな者は皆家族だと思っている。……家族なら自分1人だけで背負わず辛いときは他の家族に預けるべきだとはおもわんか。」  「はい……お館様。」  「ん?」  「本当に申し訳ありませんでした。」  ようやく越前は鷹揚な笑みを浮かべた。  「気にするな。お主はしばらく養生しておけ。」  「はい!」  セントラル越前が病室から退出をする。退出した扉の先には護衛兼ねて天道がいた。  「げっげっげ。良い演説だな。」  「聞いていたのか。」  「此処にいれば聞こえるさ。しかし、あのクレージュ。まっすぐな少年だな。」  「ああ。……余はあのまっすぐさを失いたくはない。」  「そうだな。」  二人は城に帰っていった。  クレージュが入院している病室には連日多くの人が訪れた。幸村、Wish、月、刀岐乃、黒埼、佐倉、SEIRYU、S山崎、マリア、ガロウ、RANK、ゆる、不破、鴻屋、夜薙、紅霞、赤い狐、高砂、Kisima等々……  それらは手土産とともに叱責、戒め、励まし、応援、慈悲の言葉を投げかけ、最後には必ず「早く治れよ」と締めくくられた。  クレージュが退院したのはそれから5日後のこと。なお、病因は「インフルエンザ」だった。  偵察命令が下令されたのは退院してから1週間後のことだった ---- #comment(vsize=3)
看病  それは冬も終わりかけ、春も間近の事だった。Wishはこのごろの外交成果を纏めたレポートを藩王に提出をしに政庁ビルの藩王執務室に赴いていた。ただ、藩王は今現在他の面会と会談しているためWishは1人控え室にいた。どうやら自分が最後らしい。Wishは閑散とした控え室を見やる。  ふと、そこへ控え室に入ってきた人物がいた。  「Wishお姉様。順番です。」  クレージュだ。クレージュは年の頃10代半ばの少年で藩王付きをしている。ふかふかしい尻尾が可愛らしくWishは何時か触ってみたいと思っている。  ただ、いつもと違う。Wishは違和感を感じた。  「ん?クレージュ君?」  Wishは首を傾げる。彼の様子が変だ。  「どうしましたか?」  「いえ、クレージュ君、体大丈夫?」  「ええ、大丈夫ですよ?」  「そう、なら良いけど……。」  クレージュ自身が大丈夫だと言っている以上Wishはなにもいえない。Wishは藩王がいる執務室に赴いた。  執務室ではレポートの説明とこれからの外交方針の詰めにはいる。ただ外交方針はもう既に決まっているので詰めと言っても細かい点の確認だけだ。それ故すぐに面会は終わる。  「……大体こんな所か。」  「はい。」  Wishは眼鏡をくいっと押し上げる。藩王は刀岐乃の入れたお茶を金属製マスクの下から啜っている。誰しも「器用だ」と思っているがだれも口にしない。  「ところでWish。」  「はい。」  「このごろ入った若い者をどう思う?」  「……問題はないかと。」  「問題はないか。」  藩王は納得したようだ。どうやら藩王は藩王なりに気を配っているらしい。  「藩王様。」  「どうした?」  「実はクレージュのことです。」  「彼がどうした?」  「……今日の彼の様子を見たのですが、どことなく調子がよろしくなさそうですね。」  「……そうか。」  ちょっと考え込む二人。しかしいつまでも考え込んではいられない。Wishも藩王も次の仕事が詰まっている。  Wishが辞去した後、藩王、セントラル越前の昼食となった。給仕をするのは刀岐乃。セントラル越前はかいがいしく給仕をしている刀岐乃に向かって尋ねた。  「刀岐乃。」  「はい、なんでしょう。」  「クレージュのことだが、先ほどWishから調子が良くなさそうだという話しを受けたのだが……お前から見てどう思う?」  刀岐乃はしばし考えると口を開いた。  「ええ、そういわれるとなんだか今日はちょっとぼうっとしている時間が多いような気がします。」  「そうか。確かいまクレージュはお使いに行っていたな。」  「はい。」  「午後の仕事はクレージュ抜きでもできるか?」  「ええ、大丈夫です。」  「そうか、なら午後から休ませてやれ。」  「はい。」  かくしてクレージュは午後の仕事は免除になったのだが、クレージュ自身その決定には不服だった。ボクは大丈夫だと言ったのに。もっとお仕事をしてお館様、ひいてはボクを拾ってくれた越前のために頑張りたいのに。クレージュの若々しい向上心は一層の仕事を求めていた。しかし尊敬するセントラル越前の言葉に逆らうことなど考えも付かず、彼は大人しく寮の自分の部屋に戻り休んだ。  しかし体調は夜になるにつれ徐々に厳しくなった。悪寒、全身の痛み、全身につきまとう倦怠感、鼻水などがクレージュを蝕む。体温を測ったら38度。おかげで食欲もなくいつも全て平らげる寮の食事も半分しか食べられなかった。同室のRANKから何度も大丈夫かとの問いが飛んでくるがクレージュは常に大丈夫と答えた。もはや彼の意地だった。 クレージュは寮に備え付けてある常備薬の風邪薬を飲むといつもの日課であるイカに似た謎の生き物、チビクレと遊ばず早々に床についたのであった。  翌朝、体調は良くなっていないどころかますます酷くなっている。それでも身なりを整え登庁をしたものの、会う人だれからも心配の声がかかってくる。  「ボ、ボクは大丈夫です……。」  クレージュはそのたびに主張をしたもののだれもが嘘だというのが丸わかりである。現に詰め所控え室に入室するなり刀岐乃に話しかけられた。  「ねぇ、クレージュ君……。」  「なんですか、刀岐乃さん。」  クレージュがもはや唸り声を上げている。しかし刀岐乃も見過ごせない。  「今日は休んだ方が良いわ。藩王様には私から言っておくから。」  「いや、ですから大丈夫ですって。」  「どこが大丈夫なの!そんな青い顔で!しかもふらふらじゃない!だれだってそんなの見たら一目で大丈夫じゃないと分かるわ!」  「だけど大丈夫なんです!」  「どこが!」  ふと、クレージュの視界が暗くなる。声が遠くに聞こえ、ぐらぐらと地面が揺れた。  「ちょっと!クレージュ君!」  刀岐乃さんはどこから話しているんだろう。と言うかボクはどこにいるんだろう。クレージュが意識を手放す前に思ったことはその二つだった。  クレージュは怖かった。轟音を上げて燃え上がる街。崩れ落ちる昨日まで行っていた学校。向こうでは行商にきていたお婆さんが瓦礫の直撃で頭から血を流して倒れ伏している。クレージュはその地獄の中逃げまどっていた。クレージュの故郷、冬の京が崩れ落ちる様だ。クレージュは夢の中で思う。ああ、又いつもの悪夢だ。しかしどうやってもこの悪夢を払うことはできない。  クレージュは逃げまどい、やがて1人になった。冬の山の中であてもなく彷徨っている。  父さんは無事だろうか、母さんは……憧れていたあの娘は……。  強くなりたい。強くなってこんな悲劇もう見たくない。そして……生きたい。こんなところで死にたくはない……  声が聞こえてきた。天国からの呼び声だろうか  「クレージュ……クレージュ!!」  ボクの名前を呼んでいる。だれだろう……  「クレージュ!!」  「はい!お館様!!」  クレージュは跳ね起きた。跳ね起きた後に此処はどこだろうと考える。目にはいるのは一面の白。一瞬夢の続きかと思ったが寒くはない、快適な温度。自分の身に暖かな布団が載っている。布団?  「ようやく起きたか。」  横には藩王がいた。仮面の下で安堵の笑みを浮かべている。  「此処は?」  「此処は病院だ。中央病院。お前は運ばれてきたのだ。」  「え?なぜ?」  きょとんとしているクレージュにセントラル越前はいささか呆れた声を出した。  「お前、倒れたのに気が付いていないのか。控え室で倒れて、刀岐乃が慌てて大変だったんだぞ。」  「そ、そうだったんですか。申し訳ありません。」  恐縮し、耳までたらんと垂れる。そんなクレージュの姿を見てセントラル越前が厳しい声を出した。  「しかしクレージュ。今回のお主、いささか感心せんな。」  「はい……。」  「お主が無理をすればするほど迷惑がかかるのは周囲だ。それが分からないお主ではあるまい?」  「はい……。」  「クレージュ。我々、越前に住まうのは皆、家族だ。違うか?」  「そ、そんな家族などもったいない……。」  「いや、家族だ。みんな、余の愛おしい家族だ。」  越前はゆっくりとかみしめるように言葉を紡ぐ。  「余はこの越前が好きだ。この地を好きな者は皆家族だと思っている。……家族なら自分1人だけで背負わず辛いときは他の家族に預けるべきだとはおもわんか。」  「はい……お館様。」  「ん?」  「本当に申し訳ありませんでした。」  ようやく越前は鷹揚な笑みを浮かべた。  「気にするな。お主はしばらく養生しておけ。」  「はい!」  セントラル越前が病室から退出をする。退出した扉の先には護衛兼ねて天道がいた。  「げっげっげ。良い演説だな。」  「聞いていたのか。」  「此処にいれば聞こえるさ。しかし、あのクレージュ。まっすぐな少年だな。」  「ああ。……余はあのまっすぐさを失いたくはない。」  「そうだな。」  二人は城に帰っていった。  クレージュが入院している病室には連日多くの人が訪れた。幸村、Wish、月、刀岐乃、黒埼、佐倉、SEIRYU、S山崎、マリア、ガロウ、RANK、ゆる、不破、鴻屋、夜薙、紅霞、赤い狐、高砂、Kisima等々……  それらは手土産とともに叱責、戒め、励まし、応援、慈悲の言葉を投げかけ、最後には必ず「早く治れよ」と締めくくられた。  クレージュが退院したのはそれから5日後のこと。なお、病因は「インフルエンザ」だった。  偵察命令が下令されたのは退院してから1週間後のことだった ---- - うん。やれてるやれてる。&br()CSSに手を加えて、行間を若干広めにしているので、アップローダよりも読みやすいんじゃないかと思います。 -- 黒埼 (2007-03-06 22:44:12) #comment(vsize=3)

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