越前の上空は黒い影で覆い尽くされていた。
敵の大型爆撃機。レーダー以外の防空設備のない越前藩国にとって、
この距離まで近づかれたのは、致命的だった。
この距離まで近づかれたのは、致命的だった。
夜を裂くもの
威容と言っていい70mの凶鳥が腹にかかえているのは、滅びを呼ぶ漆黒の羽。それが一度舞い散れば、なんの防御施設もない越前は木端微塵に吹き飛ぶだろう。
人は、あまりにも絶望的な状態に置かれると絶望するよりも、その時できることをやろうとするらしい。墜落する飛行機のパイロットは墜落するその瞬間まで操縦桿を握っているというが、まさにその心境であった。
「敵機体下部に熱源反応。爆撃準備のようです」
こんな時まで彼らは冷静に状況を報告すると、指揮を執っていたセントラル越前の方を見た。みな、そこに悲壮の色はない。やるだけはやりきったというような、そんな清々しささえそこには感じられた。
「敵から取れるだけのデータ、通信のつながるすべての国に送信しました」
「……ご苦労だった」
「……ご苦労だった」
それが最後だった。もうやれることもない。
ある者は誰かと手を取り合い、ある者は主君とうなづきあい、ある者はこんな時まで笑みを浮かべ…。
その時を待った。
一秒。
二秒。
三秒。
二秒。
三秒。
最初に異変に気付いたのは、まだ年端もいかぬ犬妖精の少年オペレーターだった。
「あ…あれは…」
「え…?」
「え…?」
その声に、オペレーター達が我に帰ったようにモニターをのぞき込み、レーダーを確認する。
「あ…ああ…」
それは、雲間からさす一筋の光のように。
「あれは…大きな、鷲…?」
暗い闇夜を斬り裂いて。
「あれは、あれは…!」
絶望を殺し。
「フェイク!!!!!」
明日をそこに呼ぶために!
「フェイクトモエリバー!!!!」
歓声が響き渡り、にわかにオペレーターに活気が戻る。
「敵味方識別信号確認。…機体名A71-E コードネーム・ワ=シ/フェイクトモエリバー!土場藩国所属機です!それに帝国秘書官専用機も!」
「フェイク量産型…完成していたのか…」
「フェイク量産型…完成していたのか…」
オペレーターの言葉に、そうセントラル越前は呟くと、彼方を見つめて目を伏せた。
彼らがここに来るためにどれだけの人間が動いたかはわからなかったが、その全てに心の中で深々と頭を下げる。
彼らがここに来るためにどれだけの人間が動いたかはわからなかったが、その全てに心の中で深々と頭を下げる。
猛然と絶望に真っ向から立ち向かうそのシルエットは、その場にいた全員の胸に雲間を裂いて昇る朝日を思い起こさせた。
フェイクトモエリバーの編隊は、天に向かって一度上昇すると、空を切り裂きながらそのコードネームに相応しい獰猛な、しかし優雅な機動で敵部隊へと襲いかかった―――
そして、彼らによって越前は救われた。
E95‐2に提出したSSですが、越前復活時の状況とあまりにもマッチしていたため、一部改変してここにのせときます。
あの時、越前を助けてくださったすべての方に感謝を。
文責:刀岐乃@越前藩国