越前藩国 Wiki

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「八分咲きってところか」
「いい時期でしょう。天気にも恵まれそうですし」
桜並木の下を、二人の男が歩いていく。
越前藩国の国民なら、誰もがその顔を知る、藩王・セントラル越前と、摂政・黒埼紘。
国の重鎮二人が護衛も連れずに歩く姿はかなり無用心だが、この国では当たり前の光景だ。
子供たちが藩王に「遊ぼう」とまとわり付いてきたり、黒埼が頬を赤らめた女性にブドウ糖を手渡されたりする光景も含めて。

「おお、いい感じのスペースがあるな」
天野河の河川敷に、希望に近い広さの空き地を見つけて、越前が子供のように目を輝かせる。
「ふむ。地面は砂利ですが、空木さんにスノコでも作ってもらってその上に敷き物を敷けば問題ないでしょう。この距離なら、何かあってもお館にとってかえせますし」
「こらこらぁ。遊ぶ算段をしてるときに、そんなことを考えるんじゃない」
「しかしご主君…」
「そんなんだから『摂政カワイソウ数え歌』なんてもんが流行るんだぞ?」
「……っ!」
「さてと、このあたりの土地の所有者と使用許可は…と」
「私有地ではありませんし、特に管理してるところも無いようです。警備のものに連絡をまわしておけばいいでしょう」
摂政がすらすらと自分の記憶のデータバンクから必要な情報を取り出し藩王に告げる。
「時期的に強風の懸念がありますが、土手がいい風除けになるはずです。それでも問題あるようなら、すぐ取り壊しのできる簡易小屋を空木さんに頼みましょう」
場所のデータだけでなく、気候、季節に関する情報と、それに対する対処の提言も忘れない。
「ふむ。ではまず空木にこの場所を見てもらったほうがいいな」
「ではすぐに連絡を取ります」


数日後。

河川敷には、木造の雛壇が出現していた。
雛壇はそれぞれの段を、十分に広く取っており、大人の男性が胡坐をかいてもまだ多少の余裕がありそうだ。
黒埼の指示のもと、心太とクレージュがい草の座布団を並べ、その座布団の間、間を埋めるように、不破が風呂敷に包まれた重箱を置いていく。そして、風呂敷包みと座布団の間の空間には、お猪口と徳利がガロウと夜薙の手で並べられていく。

「おお、よい頃合のようだな」
公務で遅れてきた藩王が、佐倉を伴って現れた。
宴の準備はほぼ整っていて、済んだ空へと広がる花も満開だ。
「女性たちの姿が見えませんが…?」
佐倉が辺りを見回して問う。
「ああ、それなら…、ほれ、あれだ」
答えようとして振り返った藩王は、道の向こうから歩いてくる和服姿の女性たちを佐倉に示した。

佐倉が彼女らを認めたことに気づいて、和服の女性の一人が手を振りながら駆け寄ってきた。
「……閑羽くん?」
「にあう~?」
髪を結い上げ、かんざしから下がった小さな桜色の玉を揺らしながら閑羽が満面の笑顔を見せる。
「着付けの間、ちっともおとなしくしてくれなくて、大変だったんですから」
そういってため息をついてみせるWish。
「着物はみんなまりあさんが選んでくれたんですよ」
袖を持ってくるりと回ってみせる刀岐乃。
「巾着は自分の着物と同じ色にならないようにしたの。いいでしょ?」
そういって自分の巾着を持ち上げてみせる灯萌。
「あれやこれや選ぶのは楽しいからね」
その灯萌のかんざしを直しながらまりあが言う。

桜の色に溶け込まず、かといって浮き上がらない、それでいてそれぞれの個性に似合った色と柄の和服。
「これは艶やかな」
思わず佐倉が声に出す。
「越前の花は、桜だけではないさ。さて、宴にするとしよう」
藩王に促されて、女性たちも河川敷へとおりていく。

「おー、キレイやなあ」
「みなさま、お似合いです~」
和服姿の女性陣を見つけて、心太とクレージュが素直な感想を口にする。
「おお、馬子にも衣装ってな」
不破が閑羽の頭を(結った髪を崩さないように気を遣いながら)ぽんぽんと撫でる。
「華やかだねえ」
空木が傍らにいたRANKに声をかけるが、返答はない。
「ほれ!」
空木にバンと背中を押し出されて、そのまま数歩前に出るRANK。目の前には刀岐乃を含む和装の女性陣。
「あ…、あの…」
「……」
「…私たち、先にいきましょうか」
「…そうですね」
言葉に詰まる二人をそのまま残し、他のものたちは雛壇の宴会場へを足を運ぶ。

「堅いハナシはナシ! おおいに楽しんでくれ」
そういって藩王が乾杯の音頭をとる。
「ただし、羽目ははずし過ぎないように!」
そしてすかさず黒埼が釘をさす。

越前の春の陽射しは、ここに住む人々の笑顔のように、温かい。

【文責:椚木閑羽@越前藩国】

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