麦茶2008夏 決笑戦
よく人の集まるところにはカネも集まるなんて言ったりしますが、こういう歴史ある建物で、しかも劇場なんていうものには、人の悲喜こもごもの感情が蓄積されますから、当然寄ってくる霊も多いんでございます。
厄介なのはお笑いの劇場へ寄ってくるからって、彼らのどれもこれもが笑えるものじゃないってことでございますよ。
厄介なのはお笑いの劇場へ寄ってくるからって、彼らのどれもこれもが笑えるものじゃないってことでございますよ。
ちょいとお客様や対戦相手のみなさまがたに聞いてみますとね、みなさん、ひとつやふたつはこの建物にまつわる不思議な話を知ってらっしゃる。
1回戦目であたりました、からくりみかんさん。手品師の。
対戦を終えて楽屋に戻りましたらね、仕込みに使った覚えの無い、大きなみかんが楽屋にでーんとあるのですって。
びっくりしてなんだこれはと、そーーっと近づいて見ましたら。
対戦を終えて楽屋に戻りましたらね、仕込みに使った覚えの無い、大きなみかんが楽屋にでーんとあるのですって。
びっくりしてなんだこれはと、そーーっと近づいて見ましたら。
事情で不戦勝になったぷるるん山崎さんが一足先に楽屋に戻ってきてただけだったそうです。
それはさておき。
わたくしもここで時折、演芸を披露させていただきますが、何年か前に、オールナイトでの寄席をやらせていただいたんです。
オールナイトといってもわたくしだけじゃなく、師匠方や兄弟弟子何人もでの公演ですがね。
まあ、時間が時間なので、お客様の年齢制限もさせていただきましたし、そう来客は多く無いだろうってことで、こちらの会場じゃなく、小ホールでの開催でございました。
オールナイトといってもわたくしだけじゃなく、師匠方や兄弟弟子何人もでの公演ですがね。
まあ、時間が時間なので、お客様の年齢制限もさせていただきましたし、そう来客は多く無いだろうってことで、こちらの会場じゃなく、小ホールでの開催でございました。
最初に全員で舞台に上がってお客様にご挨拶しましたら、わたくししばらく出番がないものでございますから、楽屋へ向かいました。
小ホールから楽屋に行くには、あの北の端の階段を上にいかなきゃならないんですが、その階段の下に立った瞬間、あ、何か出る、と直感しましてね。
階段を直に踏むのを避けて真ん中の白い絨毯の上を歩き始めました。
上の階まで上りきって、その時一緒にいた弟弟子に
「珍しいねえ、白い絨毯なんて」
と、申しましたら、弟弟子がきょとんとしてる。そして
「絨毯なんかありませんよ」
とまあ、こういうじゃありませんか。
そんな馬鹿なとおもいつつ振り返ってみると。
無いんですよ、白い絨毯なんか。
小ホールから楽屋に行くには、あの北の端の階段を上にいかなきゃならないんですが、その階段の下に立った瞬間、あ、何か出る、と直感しましてね。
階段を直に踏むのを避けて真ん中の白い絨毯の上を歩き始めました。
上の階まで上りきって、その時一緒にいた弟弟子に
「珍しいねえ、白い絨毯なんて」
と、申しましたら、弟弟子がきょとんとしてる。そして
「絨毯なんかありませんよ」
とまあ、こういうじゃありませんか。
そんな馬鹿なとおもいつつ振り返ってみると。
無いんですよ、白い絨毯なんか。
でたどころか踏んじゃったよ。
背中に草履のあとつけた一反木綿が飛んでたら、多分その時のやつでしょうね。
それから兄弟弟子たちと楽屋で出番を待ちながら、緊張をほぐすのにお茶など飲んだりするわけです。
ほらよと湯飲みを渡されまして。
ありがとうございます、と受け取ったものの、振り返ったら誰もいない。
どなたが淹れてくださったのかと、同じように湯飲みを持ってる兄さん方の傍へ行きまして、
「淹れてくださったのは兄さんですか」
とお尋ねしましたら、逆に
「お前じゃないのか?」
聞き返される始末。
結局誰に聞いてもわかりませんで、お茶を飲み干したころ、ふと、着物の袖の中に何か入ってるのに気づきました。
取り出してみましたら、小さな紙切れがたたんで入っておりましてね。
広げてみましたらね、請求書、お茶台として。
誰だ、こんなイタズラしたやつ!
ほらよと湯飲みを渡されまして。
ありがとうございます、と受け取ったものの、振り返ったら誰もいない。
どなたが淹れてくださったのかと、同じように湯飲みを持ってる兄さん方の傍へ行きまして、
「淹れてくださったのは兄さんですか」
とお尋ねしましたら、逆に
「お前じゃないのか?」
聞き返される始末。
結局誰に聞いてもわかりませんで、お茶を飲み干したころ、ふと、着物の袖の中に何か入ってるのに気づきました。
取り出してみましたら、小さな紙切れがたたんで入っておりましてね。
広げてみましたらね、請求書、お茶台として。
誰だ、こんなイタズラしたやつ!
まあ怪我の功名といいますか、それで大分なごみましてね。
自分の出番をつつがなく終えることが出来ました。
自分の出番をつつがなく終えることが出来ました。
出番が終わったといってもオールナイト。一応は起きてなきゃなりませんから、兄弟弟子と交代で仮眠を取ったり、特別に開けて下さった一階の喫茶店で軽い食事をとったりするわけです。
喫茶店に行くと、かわいい店員さんがね、色紙をもってこう、やってくるわけですよ。
「すいません、サインもらえますか?」
嬉しいじゃありませんか。
ええ、いいですよと色紙を受け取ろうとしたら、店員さんがなにやら困った顔してらっしゃる。
どうなさいましたと声をかけますと。
「すいません、お弟子さんもご一緒なのに、私、色紙が一枚しかなくて」
いや、わたくし一人です。となりにも背後にも誰もおりゃしませんって。
喫茶店に行くと、かわいい店員さんがね、色紙をもってこう、やってくるわけですよ。
「すいません、サインもらえますか?」
嬉しいじゃありませんか。
ええ、いいですよと色紙を受け取ろうとしたら、店員さんがなにやら困った顔してらっしゃる。
どうなさいましたと声をかけますと。
「すいません、お弟子さんもご一緒なのに、私、色紙が一枚しかなくて」
いや、わたくし一人です。となりにも背後にも誰もおりゃしませんって。
その公演の時はまあ、ほかにもたくさん、妙なことやら不思議なことやら起こりましたがね、公演自体は大盛況で、無事幕を下ろすことが出来ました。
それでは帰りましょうと、カバンを携えると、なにやら封筒がはみ出している。
すわ、ファンレターでももらえたかと喜んでひらきますと。
すわ、ファンレターでももらえたかと喜んでひらきますと。
色々とイタズラを仕掛けてすみません。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
短い文面の最後に劇場の支配人さんのお名前らしきものが書いてある。
劇場のスタッフさんたちに、最後のお礼とご挨拶をするときに、その手紙を見せて聞きましたらね。
誰もイタズラのことなんかしらないんです。
しかも署名は何代も前の支配人さんで、すでに鬼籍の人。
誰もイタズラのことなんかしらないんです。
しかも署名は何代も前の支配人さんで、すでに鬼籍の人。
怪談話が大好きだったそうで、夏場の公演の折には、こうしてちょっと楽しむために戻ってこられるのでしょうねえ。
その手紙は持ち帰って、供養をさせていただきました。
それからしばらくしましてね、あの公演に参加しました師匠や兄弟弟子、わたくしも含めまして。
口座からお茶代がしっかり引き落とされておりました。
口座からお茶代がしっかり引き落とされておりました。
おあとがよろしいようで。