それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA
初めてのプレゼントですから、とその子は言った。
それがどんな思いで吐き出された言葉だったのか、その時の自分には知る由も無かった。
ある日突然現れた、自分そっくりな女の子。幼い日の過ちによって生み出された、愚かな私の罪の証。
彼女は、突然の闖入者だった自分を茫洋とした瞳で見つめていた。
何者だと問いただしたら、クローンだとあっさり自白した。何がなんだか分からず戸惑う自分とは違い、彼女は何も動じてなかった。不思議そうな顔をして色んなものを見てまわっていた。
一緒にじゃれて、一緒にアイスを食べて、一緒に缶バッジを取り合って。最初は彼女の後を尾けて製造者をとっちめてやると思っていた自分も、いつの間にか彼女のことを「モノ」じゃなく人なのだと思うようになっていた。
初めてのプレゼントだから、と。自分がつけてやった缶バッジを撫ぜて彼女は言った。
何のことか分からずに、そんなもので、と自分は思った。
「さようなら、お姉様」
別れを告げる彼女に、自分は適当に相槌を打ってその場を後にした。
自分でもよく分からない感情がぐるぐる渦巻いて、なんだか胸が苦しかった。
絶対能力進化計画を知ったのは、そのすぐ後のことだった。
一人の超能力者を次の段階へ進めるため、複製された2万人の「妹たち」を犠牲に為される悪ふざけのような計画。
何を馬鹿な、と思った。複製された私を殺すとか、レベル6とか、そんなバカげた計画が成功するわけがないと、切って捨てようと思ったのに。
さようなら、と言ったあの子の顔が思い出されて。
いつの間にか、自分の足は地面を蹴っていた。
計画が真実だと知った時には、全てが手遅れだった。
不自然なまでに人のいない街路を走って辿りついた倉庫街で自分を待っていたのは、単独で軍隊とも渡り合えるとさえ称されるレベル5の第一位と、今まさに殺されようとするあの子の姿だった。
その光景が目に飛び込んできた瞬間、脇目も振らずに走りだし、けれど絶望的なまでの距離が自分を阻んだ。
間に合えと必死に祈って、悲鳴をあげる肺を酷使して、そんな自分の目の前を巨大な鉄塊が落ちていった。
鉄塊の向こうに見えなくなっていくあの子に、無我夢中で手を伸ばした。
一生懸命伸ばしたのに、届かなかった。
何かが崩れる音が、自分の中で鳴り響いた。
落ち延びた自分はすぐに研究施設の所在と動向を調べ、その全てをつまびらかにした。
文字通りの全力で探り当てた情報を元に計画に携わる研究所を襲撃し、計画を続行できないよう徹底的に破壊してまわった。
眠る暇も休む時間もなかった。疲労に霞む視界の中で、これは自分がやらなければならないのだと心に鞭を打った。
胸を苛む感情が何であるのか、その時には既に、自分でも判別がつかなくなっていた。
ただ一つ分かるのは、これは自分の罪なのだということ。
自分の犯してしまったたった一つの過ちが、少女たちの命を奪っているのだということ。
弱音を吐くことは、許されなかった。
結局のところ、全ては徒労でしかなかった。
阻止できたと思った研究は、けれど自分の想像を遥かに超える規模で続行された。
それさえ壊してしまえばあらゆるものが元通りになると思った諸悪の根源は、そもそも計画よりもずっと前に壊れて無くなっていた。
自分の敵は、学園都市そのもの。
自分以外の全てが、自分の敵だった。
何もかもがおかしくて、昏い笑いがこみ上げるのを堪えきれなかった。
電流と爆音が通路を満たし、飛び交う炎が研究所を火の海に変えた。逃げ惑う研究員を無視し、計画に必要な機材と設備だけを狙って潰した。
諦めるわけにはいかなかった。
だって、自分にはそれが許されないから。
一万人を殺した自分には贖罪の義務があって、だから立ち止まるわけにはいかなかった。
機材も、資金も。欲も野心も底を割って何もかもが消えてなくなるまで。
全てを壊して、壊して、壊して、壊して壊して壊して壊して壊して。
そうすればいつかきっと、妹たちを救うことができるのではないかと。
『いつか?』
『そんな都合のいい日が訪れるとして』
『その時までにあと何人、妹(わたし)達は死ぬの?』
「───うるさいッ!!」
絶叫が、喉を迸る。
「ならどうしろって言うのよ!
計画を今すぐ阻止して、あの子たちがみんな助かって!
そんな都合のいい方法が、どこにあるっていうのよっ!」
あるわけがない、そんなもの。
現実はいつだって不条理で、誰かを苛んで止まらない。一人が為せることなど砂漠の中の一握が限度で、大きな流れに逆らうことなどできず無残に押し流されていく。
今だってそうだ。
助けたいと、救いたいと、こんなにも願っているのに。
結局私は、誰一人として救うことなどできずに。
ふと。
視界の端にモニターが映った。そこに映し出されていたのは、止められなかった計画の一端。
妹たちの、殺される姿。
───お姉さまから頂いた、初めてのプレゼントですから。
記憶の中の少女が、どこか嬉しそうに言った。
「……あ」
心が、折れた。
足が、無意識に一歩、後ずさった。
「やだっ……や……やめ……」
声は、届かなかった。
モニターに映る光景が、一面血の色に染まった。
ひぅ、と息を呑み、言葉を失ってただ唇を戦慄かせた。
崩壊する施設の音すら遠くのことのように思え、飛散する衝撃が頬を掠め、制服の端が襤褸屑と千切れ飛んだ。
───さようなら、お姉様。
耳元で、声が聞こえた。
その声から逃げるように、
御坂美琴は研究施設から駆け出した。
▼ ▼ ▼
辛い時。苦しい時。何処からともなく現れて助けてくれる無敵のヒーロー。
そんな都合のいい誰かなんて、何処にもいるはずがないのだと。どうして今まで気付けなかったのだろう。
▼ ▼ ▼
聖杯戦争という名の熾烈な殺し合いは既に始まっているというのに、新たに迎えたこの朝は、どこまでも安穏とした雰囲気を崩していなかった。
「それもそうよね。たった十数人が覚悟決めたところで、急に世界が動くなんてことあるわけないか」
もしも世界がそんな単純な代物だったなら、きっと今頃何もかも解決して、みんな笑顔になってるはずだから。
と、そんな自嘲めいたことを心の中だけで呟いて、御坂美琴は中央地区にある中学校へと足を運んでいた。
留学生用の寄宿舎と、中学の本校舎はそれほど離れた距離にはない。だからこうして、気持ちゆっくりと歩いていても遅刻の心配はなかった。
通行人たちの明るい声がそこかしこに木霊する。近くには小学校も併設されているから、見かける人影には小さな子供たちも多かった。仲のいい友人やクラスメイトと並んで話しながら歩く。そこに暗い影は微塵も見えない。
「……あの子たちも、こうして登校する日とか、来るのかな」
【ゥ?】
独り言に、脳内で聞こえる唸り声。何でもないわよと念話で返し、美琴は歩みを再開する。
こうして登校する美琴のように、日常生活を続行するというのは聖杯戦争の初動としては間違った行動ではない。
従えるサーヴァントの性質如何によっても大きく変わるだろうが、少なくとも美琴の従えるバーサーカーは籠城戦に向いたサーヴァントではない。ならば直接戦闘において真価を発揮するのか、と問われたら少しばかり厳しいが、籠城よりも向いていることは確かだ。
汎用性に乏しい都合上外堀はマスターである美琴が埋める必要があるのだが、それにしたって魔力の感知ができない以上は最終的にはバーサーカーに頼る他はない。
結局のところ、初動において外に出るか否かというのは大して重要ではなく。肝心なのは最初に出会ったサーヴァントへの対処のほうになるだろう。
(サーヴァントに会ったらまずは私が交渉して、駄目だったら……まあ、逃げるか戦うかしかないわよね)
ざっくり言えばそういうこと。
美琴は学園都市において最高峰に位置するレベル5・超能力者ではあるが、その暴威も物理法則が意味を為さないサーヴァントには決定打になり得ない。魔力という神秘で形作られた彼らを打倒するには、同じく神秘の塊をぶつけるしか道がないからだ。
つまるところ最後はバーサーカーに頼る他ないのだが、このバーサーカーが戦闘面で強力なサーヴァントかと聞かれると……。
うん、明言は避けておこう。彼女の名誉と自分の精神安定のために。
第一に交渉が挙がるのもここに起因する。自分たちだけで勝ちあがれると、美琴は全く思っていない。その道中で共闘、ないし協力できる陣営との接触は必要不可欠だし、その布石を序盤から打っておきたい気持ちもあった。
───とん。
「うん?」
不意に、足元に軽い感触があった。
視線を落とすと、トラぶちの子猫が一匹、ソックスに包まれた美琴の足に激突していた。どこからか逃げてきたのだろうか、ちょっと身をよじると、子猫は弾かれたように飛び跳ねて美琴から離れた。帯電する体質の都合上、動物からはこんな反応をいつもされてしまう。慣れたものだが、どこか物寂しい気持ちもあった。
「あっ、トラちゃん!」
目を向けると、十歳くらいの女の子が駆け寄ってきた。子猫の飼い主だろうか、すぐそこの家先から飛び出してきた少女は逃げる子猫を追い掛けて、しかし高いフェンスの上に登ったのを見ると、困った表情を浮かべ立ち止まった。
「あ……トラちゃんが、その……」
ぶつかったことを気遣われてか、もじもじと女の子。心配気な顔をして、チラチラと美琴と猫とで視線を彷徨わせる。子供と言っても猫なのだからこれくらいの高さは平気だろうとは思うけれど。
それを前に、美琴は思い出すことがあった。
(そういえば、前にもこんなこと───)
ふと思い返す。それは確か、初めて"あの子"に会った時のこと。
木の上から降りられなくなった子猫を、あの子は助けたいと言ってきた。表情の伺えない顔で、それでも確かに助けたいと。
その時のことが、何故だか鮮明に思い出されて。
「……よし。ちょっと待っててね」
ぽんぽんと女の子の頭を撫で、にっこりと笑いかける。きょとんとした女の子を後目に、決意も新たに子猫を見据えた。
目標は遥かフェンスの上。あの時よりはずっと楽なはずである。多分。
「ほら怖くない、怖くないからこっちにおいでー……」
子猫を抱きかかえようと腕を伸ばす。フェンスは美琴が万歳しても届かないほどに高く、ぶつかろうものなら派手に揺れて猫が落ちかねない危険性があった。だからそっと、そぉっと静かに手を伸ばす。
手を近づけると威嚇するようにこちらを睨み唸ってくる。慌てて手を引っ込めると、子猫は大あくびをして視線をふいと逸らした。それを何度も繰り返し、一進一退の攻防劇。傍らの女の子と一緒に、息を呑んで事態に集中する。
「ていっ」
するり。
「とりゃっ」
するり。
「このっ、いい加減に捕まれーっ!」
全然捕まらない。
ぴょんぴょんと跳ねる美琴の腕を、子猫は紙一重で躱し続ける。そんなに美琴に捕まりたくないのか、仮に猫にも表情があったら「嫌だなぁ」という顔をしているに違いない億劫な所作でこちらを見ている。女の子も女の子で「そこだっ」「惜しい!」と熱が入ってるようで、何とも微笑ましいものだがこれでは埒が明かない。
「ぐむむ、こうなったら……」
いい加減ケリをつけてやる、と心機一転。余人には見えず感じ取れない程度の微弱な電流を、ほんの少しだけ流す。靴裏と地面に反発する磁性を付与し、掛け声と共に跳躍。不自然じゃない程度に浮き上がった体と、「すごーい!」という女の子の声。どんなもんよと笑いつつ、さあこれでようやく捕まえてやれるぞと向き直り───
「あだっ!?」
いつの間にかフェンスから眼前まで飛び跳ねた子猫が、美琴の顔面を蹴りあげて跳躍。突然の不意打ちに為す術なく、もっふりとした衝撃を食らってしまう。
凄い音を立てて背中から墜落する美琴と、綺麗なフォームで地面に降り立つ子猫。そのまま駆けて行ってしまう。
「こン、の……待ちな───」
「───よしよし、いい子だから大人しく、ね?」
子猫を抱き上げたブロンド髪の少女の姿が、そこにはあった。
何時の間にそこにいたのだろう。その子の腕には、甘えた鳴き声をあげ丸くなっている子猫の姿。
「この子、あなたの飼い猫? はい、もう目を離しちゃ駄目よ?」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
駆け寄った女の子に、優しい手つきでそっと子猫を渡す。たったそれだけの仕草なのに、どこかお嬢様めいて、何ともサマになっているものだった。
「それと、そっちのお姉ちゃんも。手伝ってくれてありがとう」
「あ、うん……」
にっこりとお礼を言われて、けど美琴の返事は曖昧だった。結局何も役立ってないような気がするし、正直恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。うん、消えたい。
「また会おうね、お姉ちゃん!」
ばいばいと手を振って、子猫を抱えた女の子とさよならする。割と散々だったが、まあ結果良ければ何とやらだろう。
女の子が見えなくなるまで曖昧な笑みで手を振り続け、見えなくなったところで服の汚れを払い、さて気を取り直して学校へ行くかと思ったところで。
「……あなた、御坂さんだったわよね?」
と、声をかけられた。
「うん、まあ、そうだけど」
振り返ってみれば、そこには先ほど子猫を捕まえてくれたブロンド髪の少女がいた。
綺麗な女の子だった。同じ制服を着ていることから美琴と同じ年頃であろうその子は、一言で言ってしまえば温和でおしとやかな雰囲気を湛えた少女であった。ロールヘアのブロンド髪は貴族めいて、それでいて全く嫌味を感じさせない。発育のいい体は、同年代の女子としては多少羨ましいものを感じさせるのだった。
と、そこまで観察して気付く。
「アンタ、もしかして日本からの留学生?」
この少女、凄く綺麗な金髪をしているが、顔立ちは日系のそれだ。
問われ、少女は笑みを浮かべて。
「ええ。私は
巴マミ、せっかくお会いできたんだから自己紹介でもと思って」
聞き覚えのある名前に、ああなるほどと納得する。数少ない日本からの留学生同士ならば名前を知る機会もある。彼女が自分の名前を知っていたのもそうだし、自分が彼女の名前に聞き覚えがあるのだってそうだ。
巴マミ。言われてみれば何度か耳にした名前だ。本来よりも上の学年のカリキュラムを受けることも少なくない美琴は、必然として違う学年にも顔を出すことが多い。寄宿舎も同じところを利用しているはずだが、今の今まで顔を合わせる機会がなかったのだ。
「そういえば同じカリキュラムを受けてるはずなのに、不思議と話す機会もなかったのよね。私は御坂美琴……って、もう知ってるか」
よろしく、と軽く会釈。マミの穏やかな雰囲気に当てられたのか、先ほどまでの気恥ずかしさやら何やらもどこかへ吹き飛んでいた。
「こちらこそよろしくね、御坂さん。貴方が良い人そうで良かったわ。ここだとやっぱり日本の人は少なくて、ほんの少しだけ心細かったから」
「ふうん、そういう風には見えないけど」
「本当にそう見えてるのだとしたら、私の強がりもちょっとは効果があるみたいね」
やっぱり心細そうには見えない微笑を浮かべるマミに、曖昧な笑みで答える。何というか落ち着きすぎてて同い年の少女と話してる気がしないというのもあるが、良い人と言われて面映ゆい気持ちもあったから、どう反応していいものやら分からなかったのだ。
……でも。
嬉しくはあったけど、その評は大外れだ。
だから美琴は曖昧な笑みしか浮かべることができない。一万人を殺して、今再び殺人を犯そうとしている自分が、善人であるはずがないのだ。
「ま、同席する機会があったら仲良くしましょ。授業の準備があるから、またね」
そのまま返事も聞かずに踵を返し、学校の方に足を向ける。
マミのことが嫌だとか、そういうわけではない、
ただ、これ以上話していると、四人でよく過ごしていた頃のことが思い返されて、今の自分が尚更惨めに思えてならなかったのだ。
(そうよ、今私がいるのは戦場、やらされてるのは殺し合い。安穏とぬるま湯に浸かってられる余裕なんて何処にもないんだから)
例えいつも通りに登校するという日常を送ろうと、それはあくまで身を隠すという戦術的な意味でしているにすぎない。そこに含まれている意味が、真に日常ね回帰するわけではない。
(戦わなきゃ生き残れない……私は、生き残って……)
救わなければならないのだから、と。
それだけを胸に、御坂美琴は歩み続ける。
『見捨てるのですか?』
『お姉様は』
『今度も、また』
───頭蓋に響く怨嗟の声は、耳に張り付いたまま途切れることなく繰り返される。
───答えることなど、できるわけもなかった。
【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]若干の精神不安定
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:最後まで生き残り帰還する。聖杯により妹たちを救う?
0.登校する。
1.私は本当に人を殺せる……?
[備考]
【バーサーカー(
フランケンシュタイン)@Fate/Apocrypha】
[状態] 健康、霊体化
[装備] 乙女の貞節(ブライダルチェスト)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:……
1.マスターに従う
[備考]
▼ ▼ ▼
御坂の後ろ姿が道の向こうに消えていくのを見届け、マミは柔和な顔つきを強張らせ、問いかける。
【……アーチャー、やっぱり】
【ええ、間違いないでしょうね。あの少女、御坂美琴は聖杯戦争のマスターです】
念話で答える声が一つ。それはマミに付き従うサーヴァント、
ケイローンの声だ。
高次の魔力体であるサーヴァントにはそれぞれ固有の魔力反応が存在する。サーヴァント同士であれば数百メートル単位で互いの位置を感知可能であり、広大な街中を舞台にする上で参加者同士が効率よく激突し合うための一要素でもある。
しかし、そんな不文律はこのサーヴァントには通用しない。神代にも近しい古代ギリシアにおける遍く英雄たちの師であり、神に連なりし大賢者たるケイローンには。
万能の御業、神より賜りし奇跡の叡智。
即ちスキル「神授の智慧」。それは遍く技巧、遍く力を体現する無窮の業なれば、今やケイローンは熟達の暗殺者すら凌駕する域の気配遮断能力を発揮するに至っているのだ。
【今、我々にはいくらか選択の余地があります。見逃すにせよ接触するにせよ、この段階であれば過ちとなる可能性は極めて少ない。故に、貴女の成したい意思こそが重要となります】
【私の、やりたいこと……】
【無論、そう気負わずとも大丈夫です。これほど分かりやすい形で魔力反応がある以上、彼女が件の都市伝説に纏わるサーヴァントを従えているということはまずありません。交渉や回避の余地は十分にあるかと】
マミは押し黙り、何かを考える。ケイローンは口を挟むことなく、ただ答えを待った。
【……私ね、アーチャー。御坂さんが悪い人だとは、どうしても思えないの】
マミたちは早い段階から御坂とそのサーヴァントの気配を探知していた。彼女と接触したのもそうした理由からだ。だからマミは御坂美琴の登校する様子を、ずっとつぶさに観察していた。
その上で出した結論こそがそれだった。少女のために子猫を庇おうとし、悪戦苦闘する様を見て誰が彼女を悪人と思おうか。
【ええ、その点については私も同意見です。しかし悲しいことですが、悪人でないという事実と他者を害する行為は容易に両立し得ます。努、忘れることのないよう】
【……そうね。ええ、本当に】
目を伏せ、マミが思うは過去か。彼女の辿ってきた道行、友誼を交わした人々。かの赤い魔法少女は、誰かを傷つけながらも決して悪人ではなかったから。
【一度、彼女と話してみたいわ。それで戦うことになっても……後悔だけは、したくないから】
【分かりました。それが貴女の意思ならば、私は全霊を尽くしましょう】
背後の彼に心からの礼を言い、マミは歩みを再開する。迷いも恐怖もありはしない。
ただ、自分自身の思い描く魔法少女であるために。
巴マミは聖杯戦争への第一歩を、今この瞬間に踏み出したのだ。
【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] バッグ
[所持金] 学生並み
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:魔法少女として誰かを守れるように在りたい。
1.時期を見て御坂美琴に接触する。
2.口裂け女は放っておけない。
[備考]
【アーチャー(ケイローン)@Fate/Apocrypha】
[状態] 霊体化、気配遮断
[装備] 弓矢
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの力となる。
1.マスターの意思を尊重し、それが損なわれないよう全霊を尽くす。
[備考]
※御坂美琴とそのサーヴァントの気配を感知しました。
※口裂け女について一定の情報を得ています。
▼ ▼ ▼
錬が奇妙な『情報の乱れ』を感知したのは、中学校への通学路を歩いているまさにその時であった。
I-ブレインの突然の反応に立ち止まる。極めて微弱ではあったが、すぐ近くで、何者かが情報制御を行なっていた。しかも、酷く特異なやり方で。
【おい、どうしたレン】
【情報制御だ。近くに魔法士がいる】
言って錬は目を閉じ、I-ブレインに意識を集中させる。情報の海を伝って、力の中心を探る。
……見つけた。現地点から前方300メートル、そこに微かな力の流れがある。
目を開けた錬は、大通りから狭い脇道へと進路を変え、気持ち早足で先を急ぐ。情報制御……位相世界たる情報の海に生じた法則の乱れの発生源は既に特定している。例え亜光速で離脱されようとも対象を見失うことはない。
果たして、数分をかけて移動した錬の視界の向こうにその少女はいた。
フェンスに乗った猫を捕まえようと悪戦苦闘している。傍から見れば何の変哲もない……いやそれ自体はかなり奇矯な行動ではあったが……ともかく普通の少女にしか見えない。通常の視界であるなら何ら異常は見当たらない。しかしI-ブレインの視界から見た彼女は常軌を逸していた。端的に言えば、捻れた物理法則が少女の全身を覆い尽くしていたのである。
AIM拡散力場という事象が存在する。
それは少女───御坂美琴のような脳開発により発現した能力を持つ全ての人間が兼ね備える、無意識に展開する微弱な”力”のフィールドのことだ。
発火能力者ならば熱量を、念動能力者ならば圧力を、常に微弱な力の流れとして垂れ流している。それは本来常人では一切感知できないほど小さく、何にも影響を与えない程度のものではあった。レベル5たる美琴ですら、精々が体表に帯電する静電気で犬猫に嫌われるくらいしか影響を及ぼさない、その程度の小さな力場。
だがしかし、どれほど小さくあろうとも、それは本来世界に在り得ざる歪みに違いはない。
錬が感知した微弱な情報制御とは美琴の放つAIM拡散力場のことだった。物理法則を書き換えて放たれる電流はそれ自体が世界の構成情報を変異させる。その点において御坂の扱う超能力と錬の扱う情報制御は同一の事象を操る技術であった。
しかし。
【……変だな】
【どうした。なにか気にでもなるか?】
【うん、なんていうか……あれ、本当に魔法士?】
錬が気になったのは、まさに”常に垂れ流されている”という美琴の持つ能力の性質だった。
魔法士の持つI-ブレインとは、生体細胞を用いてはいるが基本的なフォーマットは量子CPUに準拠する。それはつまり、完全なON/OFFが可能ということだ。というよりも、それがノーマルな状態と言っていい。
少なくともあのように常時情報制御を行使しっぱなしなんてことはない。単純に意味がないし、私は魔法士ですと大々的に自己紹介して周るようなものだからだ。そんなことをするような人間は、それこそ馬鹿か狂人しかいないだろう。
つまるところ、あの少女は通常の魔法士にしてはどこかおかしいということだ。というか変だ、こんな人間初めてお目にかかる。あ、思い切り背中から落ちた。すごい痛そう。
【で、サーヴァントの気配は?】
【バリバリしやがる。間違いなくマスターだなあのガキ】
【うん、まあそうだよね】
言って錬は少しばかり考えこみ。
【とりあえず、今すぐ接触はなしの方向で】
【理由は?】
【こっちはアサシンなんだから静観している内からばれる危険性は少ない。加えて相手の手札がわからない状態で仕掛けるのは無謀。ついでに言えば、相手は現状”餌”としての利用価値がある】
あれだけ無防備に気配を晒して、街を行き交うサーヴァントの網を掻い潜れる道理はない。そう遠くない内にあの少女は他の陣営と接触し、何かしらのアクションを起こすだろう。
垂れ流された情報制御も含め最初からそういう意図で動いている可能性もあるが……どちらにしろ錬としてはそれを利用するまでだ。他の陣営を釣り出す餌として、存分に働いてもらおう。
【現状維持って言えば聞こえは悪いかもしれないけど、まだまだ焦る必要はないよ。聖杯戦争はこれからなんだから】
自身を奮い立たせるように、あるいは強がるように。錬は薄っすらと笑ってみせるのだった。
【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】
【
天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態] I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金] 学生並み
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.マスターの少女(御坂美琴)を利用して他の陣営を引きずり出す。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。
※御坂美琴をマスターだと認識しました。
【アサシン(
アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]
最終更新:2018年04月15日 21:19