限界バトル ◆yy7mpGr1KA
「ロォォォーーーーーーーーーーーマッ!!!」
「ウェェェーーーーーーーーーーーイッ!!!」
高らかな雄叫びがまるでゴングのように響き渡る。
それとほぼ同時に衝突音、そして衝撃波が広がった。
大剣、『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』。
巨槍、『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』。
秘められた神秘も、込められた質量も超弩級の武装が共に大上段から振り下ろされ、ぶつかり合った結果である。
ミサイルもかくや、というエネルギーがせめぎ合い、ランサーとセイバーの間を揺蕩っていた。
ランサーが剣を流すように切っ先を逸らせばセイバーはそれに追いすがり、逆にセイバーが退こうとすればランサーが大きく踏み込み鍔迫り合う。
力、技、神秘、誇り、あらゆる面において最高峰の英雄の衝突が健国王の築いた闘技場で繰り広げられる。
名高きローマのコロッセウムと言えどこれほどの激闘は数えるほどしか行われていないだろう。
そんなローマ皇帝すらも羨む闘いの観客となる栄誉を許されたのはただの二人……
レクス・ゴドウィンと
夏目実加だけ。
『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』によって隔離された中庭だが、城壁には射眼と呼ばれる警戒や矢を放つための窓がつきものだ。
ゴドウィンたちの位置する署長室からは、中庭がその射眼を通じて見降ろせるよう城壁は築かれていた。
(……始まりましたか)
魔力が外へと流れだしていく感覚がゴドウィンの中で強まり、剣戟音も相まって宝具の解放をしたのだと視覚以外でも感じ取る。
「裁定というのはああして矛を交えることですか?それとも、命を奪うというのが下された裁定ということでしょうか?」
「……それは私にもまだわかりません。ですが、必要なことであるのは確かです」
「なるほど」
ゴドウィンが虚空へと投げた問いかけには正確なレスポンスがすぐに返ってきた。
これまでのやりとりでほぼ疑ってはいなかったが、録音ではないことが確信できる。
だが声はすれどもその出どころは全くつかめず、呼吸音や物音すらも耳には入らず、それでは当然姿を捉えることもできはしない。
(今の私がとれる手段では見つかりませんね、これは)
署長室含め、署内の監視カメラを総動員する科学的アプローチ。
デュエルモンスターズを用いた魔術的アプローチ。
そのあたりならあるいは、とも思うが、今はどちらも手札として持ち合わせていない。
残された手札は
(令呪、でしょうか)
左腕に形を変えて再び宿ったドラゴンヘッド。
その一部を失うことで奇跡、切り札を呼び起こす。
セイバーをこの場に召喚すれば戦線からの離脱、そして合流が行えるはず。
しかしそれがこの場を大きく打開するほどの有効な一手となるか。
もしそうしたなら敵のとるであろう選択肢は恐らく二つ、継戦か撤退かだ。
継戦となれば――向こうも令呪を使うかは定かではないが――サーヴァントと合流し攻撃を仕掛けてくるだろう。ようするに今とさして変わらない。
撤退となれば、こちらに向こうを追うすべは恐らくない。サーヴァントとマスター、いずれの姿も捉えるのが困難となれば追いかけるどころの話ではない。
令呪一画で戦場を変える、あるいは離脱するほどの価値があるか……それは恐らく否であろう。
結局今のゴドウィンに取れる懸命な打開策はない。
盲滅法攻撃を仕掛ければ万に一つの勝利もあろうが、それはどう控えめに言っても悪手であろう。
そうと悟ったゴドウィンは大きく息をついて全身の緊張を解き、サーヴァントの戦いに全てを委ねるべく観客に徹する。
一応背後には椅子と机が来るように位置取り、中庭を見下ろすだけに勉めた。
「ご理解いただけたなら何よりです」
その振る舞いに続くように声の主も動いた……そんな気がゴドウィンにはした。
今ならば自分と同じく二人の戦いを見ているのではないか、反撃にも出れるのではないかとも思うが。
(先ほどよりは分が悪くはないでしょうが、それでも賭けになる。まだ、そのいざという時ではない)
マスターもサーヴァントも姿を消して完全な不意打ちの機会があったにもかかわらず、未だゴドウィンには指一本触れていない。
いつでも仕留められるということかもしれないが、初撃で仕留めずセイバーと矛を交える理由としてはそれだけではあまりに弱い。
事実、こちらを知ろうと、裁定しようとしているのだろう。
……彼方から戦場を見下ろしていると思い出す。
かつてレクス・ゴドウィン自身もまた、刺客をあてがいシグナー達を裁定しようとしていたことを。
ならばこそ、サーヴァント自ら闘うことで相手を理解しようとするのは決闘者として共感できるものもあった。
(誤用を承知で言うなら賽は投げられた、といったところでしょうか。さあそれでは、出目の方はいかに)
セイバーが聖杯に触れてはならないサーヴァントだということは聞いている。
たしかに真っ先に排除の対象として選ばれてもおかしくはないだろう。
しかし容易く排除できるほどセイバーは弱くない、ということもゴドウィンは知っている。
相性の問題もあっただろうが、本選開始前にもキャスターを無傷で屠った黄金の戦士の輝きはサーヴァントの中でも上位であろうと。
だからこそゴドウィンは驚いた。
初撃をぶつけ合わせたまま、未だに鍔迫り合いを続ける二騎の姿に。
(単純なスペックではセイバーが上回るように見えますが、やはり容易くはいきませんね)
聖杯戦争のマスターにはサーヴァントのステータス透視能力があり、個人によってその見え方は違うものだが、ゴドウィンにはそれがデュエルモンスターズのレベルのように見えて取れる。
彼の眼には筋力はセイバーがレベル5、ランサーのそれはレベル4に。耐久値はどちらもレベル5だが、セイバーの値はそのうえにまるでダークシンクロモンスターのような別枠のレベルが表記され、より強靭になり得ると示されていた。
もちろんそんな数字の上だけで勝負が決まるものではないことはよくわかっている。
デュエルモンスターズとて攻撃力より効果が重視されるもの。
ゴドウィン自身、地縛神Wiraqocha Rascaという効果を重視したモンスターを用いていたのだから。
ただステータスを重視するのは攻撃力だけ見てゴブリン突撃部隊や絶対服従魔神などを何も考えず使うようなもの。
語るまでもないがランサーはそんなバーサーカー染みたデメリットアタッカーであるはずがないということだろう。
姿も気取られずに奇襲を仕掛けたもの、そして力の差を何らかの形で埋める能力を持っている難敵。
長期戦を覚悟してゴドウィンの丹田に力が入る。
サーヴァントが目の前の敵に全力を尽くせるよう、彼もまた己の内の魔性との闘いを始めた。
その隣で夏目実加もまた別のものと格闘していた。
彼女の相手もまた己。
実加はグロンギという異形を知り、クウガという戦士を知り、自らもクウガとなった戦士だが未だ神秘の徒としては一歩目を踏み出したに過ぎない。
先達に学ぶものは多く、見るべきものもまた。
ローマの開祖が裔にまず共有した皇帝特権(わざ)は魔術だった。
念話、ステータスの幻視、視覚の共有といったマスターとしての基礎をスキル越しに学ばせていく魔術使いとしての第一歩。
苦心しながらも実加はその道を決死に進んでいく。
ランサーは、見ろと言った。ならばそのマスターとして肌で、眼で戦いを共にしなければならない。
呼吸に応じて腰に宿ったアマダムが熱を持つのを感じる。
そこから張り巡らされた神経節が魔術回路に近似することは
ロムルスに聞かされていた。
力はある。あとは行使するだけ。
息を深く吸い、自己を鼓舞するように文言を紡いだ。
「〈邪悪なるものあらば、その姿を彼方より知りて疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり〉……」
念話を聞くのも、サーヴァントの視界を見るのも言うなれば感覚の延長だ。
そう思うと自然とその言葉が口をついて出た。
それはまさしく魔術であった。
特定の所作や詠唱によって力を制御するのは魔術において基礎と言えよう。
指をさすことで対象を呪う、柱で区切って場を築く、幣や鈴を振るい神に祈るなど……
あるいは、かつて五代雄介が拳舞と発声によって超戦士の力を制御したように。
実加の視界が大きく開け、ロムルスのものと重なる。
その瞬間に戦局は大きく動いた。
「セプテムッ!!」
最高峰の筋力ランクを誇る仮面ライダーブレイド・キングフォームにロムルスはその天性の肉体によるステータス上昇で喰らいついていた。
さらにそこへ皇帝特権によって魔力放出を加算し、ブレイドの剣を弾く。
両腕ごとかち上げられ、隙だらけになったセイバーの胴体にランサーは石突部分の後刃を続けて叩きこむ。柄返しと言われる技法に近いが、石突を打ち込むそれと違って刃のついた一撃に込められた殺気の量は十二分と言える。
膨大な魔力によって加速した国造りの槍が、そうして黄金の鎧に再び撃ち込まれた。
――――最初の衝突同様、槍は鎧を抜くこと能わず。矛盾の争いは盾の勝利と言えよう。
しかし此度の一振りは上段ではなく下段からの薙ぎ。そのため衝撃は大地へではなく、空へと向けられる。
鎧と、それを纏った肉体は槍に耐えたが、セイバーを地に縫い付ける重力は耐えきれず空中へとその体を舞わせる。
「ティベリス!!」
ランサーはさらにそこに前蹴りを叩きこんだ。槍が通じなければ蹴りでも変わらない、ということだろうか。
140キロの体重を支える脚が亜音速で放たれ、足場のない空中でそれを受けてはさしものセイバーも吹き飛ばされることになる。
だがそれも一瞬のこと。
セイバーは即座に背の重力制御装置でもってその勢いに抗い、のけ反った姿勢からキングラウザーを振り下ろして反撃に転じようとする。
空を斬る音。そして続けて肉を裂く音が――
(く、速いッ!)
鳴ることはなかった。
蹴りの反動もあってランサーは即座に剣の間合いから離脱。
ランサーが両刃の槍を木の構えに近いものにすると、セイバーも空振った剣を正眼に構えなおして向かい合う。
大剣、巨槍双方の間合いの外での睨み合い。
戦うことで二人は少しずつ分かりあっていた。
例えば膂力はそう変わらない、とか。武具の質や強度も概ね五分。鎧のぶん硬さではセイバーに分があるが、逆に速さではランサーに軍配が上がる、などなど。
単純な皮鎧で身を固めただけのランサーは一刀浴びれば致命的。それを優る速さで躱し続けるとしても、セイバーの鎧を抜けなければ勝機はない。
だがサーヴァントとなったことでマスターと、魔力という枷が双方に生じている。
お互いマスターに刃を向けることはないが、長期戦になればセイバーは自身を縛る枷が重くのしかかることになるのを危惧していた。
ゴドウィンの内の地縛伸、セイバーの内のジョーカー。
消耗によってそのいずれかが表出してしまえば……ランサーの憂いが現実になってしまうということで、それだけは何としても避けなければならない。
焦燥、とまではいかないが僅かな心の乱れが現れてセイバーに息をつかせる。
「ウェリア!!」
その一瞬の隙を狙ってランサーが攻めへと転じた。
槍を大地に走らせ、石礫や砂塵を打ち付ける。
砂をかけ目くらましにする、あるいは投石などは近代の武術でも散見するがランサーの力と速度が地を走った影響はそのようなものでは収まらなかった。
畳返しのように地をめくりあげ、視界を覆いつくすほどの大規模な砂礫の壁が魔力放出も相まって津波のように押し寄せる。
もちろんいくらランサーの魔力の影響を受けているとはいえ、その程度で『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の威容に陰りをもたらすことはできない。
だが大質量、高速度の土砂に呑まれれば態勢はくずれ大きな隙を晒すことになるだろう。
速度で劣るセイバーには受け入れられない不利だ。
「せやッ!!」
マグネットの力が発動できれば十分だったのだが、セイバークラスでは扱えるクレストに限界があり、そうもいかない。
『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』 を振るい、その剣圧でもって砂の波を真っ二つに斬り裂く。
その剣閃は砂の向こうのランサーにも届きかねない威力だったが
(――いない!?)
砂で視界を埋めた一瞬で再びランサーは姿と気配を消した。
咄嗟に周囲に目を走らせながら急所の守りを固めていると
『左ですセイバー!』
ゴドウィンからの念話が届く瞬間に喉元と心臓付近を籠手と大剣で守り、その刹那には樹槍の切っ先が籠手によって弾かれた。
互いの姿を覆い隠すような砂礫を起こしたロムルスは、今度は彼が実加の視界を共有することで戦況を俯瞰し、霊体化と気配遮断を合わせて視界の外からの奇襲をしかけたのだ。
ゴドウィンの念話がなければ鎧の急所である関節部分を貫かれていただろう。
だがそうはならなかった。
ならば、と大剣を手放して両手を空け、右手は拳を、左手はランサーの槍を握る。
大剣では攻撃の出が遅く、ただでさえ敏捷で劣るのだから少しでも早くカウンターを撃ち込まねばならない。
逃がすまじ、と得物を握って槍と大剣どちらにとっても間合いの内側に引き込み拳を構えた。
ビートのカードも使えないが、たかが拳と侮るなかれ。シールドバッシュという技法があるようにより硬い防御力は攻撃力にも転じる。
右拳を覆う籠手もまたAランク宝具『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の一部なのだ。
引き寄せる勢いと腰の捻り、体重移動も加えた理想的なフォームでその籠手を纏った拳を叩きこもうとする。
ガン!!という重厚な金属音が鳴る。
だがそれはセイバーの拳がランサーを穿った音ではなく。
剣の間合いを跳び越えて拳の間合いの内側にまで飛び込んだランサーがセイバーに組み付いた音。
槍を引かれるのに抵抗するどころか従って大きく踏み込み、組み付くことで拳を躱し、無力化したのだ。
零距離の間合いで打はほぼ意味をなさず、有効に成り得るのは絞、投、極であろう。
ランサーは即座に極にかかった。
両の肘でセイバーの鎖骨近辺を抑え、腕を後頭部に回して首を落とす完璧なまでの首相撲。
そこから膝につなげるのが定石だろうが、ランサーにはそれすらも不要だった。
超高速で首を揺らし、兜の内側にセイバーの頭部を叩きつけていたのだ。
より硬い防御力は攻撃力にも転じる……強靭な兜で擬似的に頭部を殴られるような現状、今度はそれがセイバーに牙をむいたと言える。
常人ならば兜の中身どころか頭蓋の内側まで潰れるような衝撃を受け、いくらアンデッドといえど拳は緩み、槍の握りも甘くなる。
それを見逃さずランサーは己の槍を奪い返し、上体を倒しつつあったセイバーの肩口に足をかけて背後へと飛び込んでいった。
衝撃で完全に倒れそうになるが、セイバーはかろうじてそれを堪え、大剣をとりつつ後ろに回り込んだランサーへと改めて向き合う。
再び二人の間に大きな距離が開く。
「槍の穂先を握られるは槍兵として恥辱の極み。猛省しよう。そして称賛しよう、セイバー」
語りつつ、ランサーが構えを大きく変える。
大上段に槍を持つ、火の構えに近いもの。無論現代の槍術とは異なるが、理念は通じる……持久戦を考慮した木の構えとは相反する、短期決戦攻撃特化のフォームであろう。
のぞむところだ、とセイバーも剣を握る手に緊張を奔らせると
衝撃。
遅れて風切り音。
超高速で突進したランサーがセイバーの胴体部から脇の箇所にすれ違いざまに槍を叩きつけ、そのまま背後へと駆け抜けていったのだ。
「ッ、ぐぅ…!」
肩関節の稼働のため少しだけ守りの薄い箇所。
同時に呼吸を制御する肋骨に衝撃が伝わる位置で、加えて肋骨は正面からの衝撃には強いが側面から打撃を受ければ容易く折れてしまう。
まだ折れてはいないが、そう何度も受けることは許されない。
とにかく向き合い迎撃しようとするが
再びの槍打。
同じ箇所に重ねての一撃を浴びせ、また駆け抜けて距離をとる。
肺にまで衝撃が伝わり今度は悲鳴すら出ない。
「セイバー。貴様に二度と私(ローマ)の槍を触れさせはせぬ」
狼のような獰猛な笑みを浮かべてその言葉と共に三度突撃。
だがさすがに三度も同じ箇所にとなればセイバー程の英雄なら剣でもって受けることもできる。
しかしカウンターなどは到底できない、圧倒的な速度の差。マッハやタイムが使えればあるいは、というところだが。
(だが正面から二度受けたことでランサーがどうやって高速移動しているかは分かってきた……)
大上段に構えた槍の重量と自らの体重を前に出した片足に一瞬かけ、即座にその足を払われたように宙に浮かせる。
それにより全体重が宙に浮き、重力加速度に従って体が前に倒れる。
9.8m毎秒の加速度を前方に得て、さらに体重という負荷を取り払った両の足、さらには槍を片手で持ち空いた手も加えて地面を蹴って高速で駆けだす。
――東洋武術の縮地と、近代走法の合わせ技。
(古代ローマの王がそんなものを使いこなすのは驚きだが……いや、効率化を極めるうちに自然にたどり着いたということもあり得なくはないのか)
かつて羊飼いであったロムルスだが、羊を追い立てるうちに学んだのだろうか。
あるいは片手と両足で駆ける様は肉食獣……狼のように見えなくもない。育ての親から見て取った野生の走法か。
思考しながらも放たれた矢の如きロムルスの突進を受けようとするが、今度は肩口を痛烈に打たれ、少しずつ鎧の側面にダメージが蓄積していく。
当然ただ走法を凝らしただけでは速さも威力も飛びぬけることはない。
今のランサーは完全ならずとも狂化状態に近いといえる。
かつて自らの誇る壁を跳び越えられ怒り狂ったように、此度は誇りそのものと言っても過言でない槍を掴まれたのだ。
未熟な自らへの怒りが大きいが、それは逆鱗に触れた敵対者への憤怒を抑える理由には成り得ず。
マスターから平時以上の魔力を吸い上げ、肉体の強化に回している。通常ならば電脳体が負荷によってむしろダウンしてしまうだろうに、神より授かった天性の肉体がその無理を道理としてしまう。
つまりは皇帝特権には拠らない、微細な狂化による敏捷と筋力の上昇。
さらに用いた皇帝特権によって主張したのは魔力放出(跳躍)のスキル。速度も威力もこれによって加速度的に増すことになる。
縮地、近代走法、疑似的な狂化、魔力放出(跳躍)。
これらを併せ、弟レムスが壁を跳び越えるよりも速く、鋭く、魔力を纏って地を駆けるロムルスに速さで勝るなどそれこそ最速の英霊でもなければ役者が足りない。
真っ向からの突撃だけならともかく、側面・背面に回り込む戦術判断もあってさしものセイバーもジリ貧になっていく。
そして十一度目の交差。
背後から槍の薙ぎがセイバーの膝を打ち、大きく態勢を崩させる。
続けざまに十二度目の突撃。
幾度目かの肩への攻撃がセイバーの手から『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』 を落とさせる。
終となる十三度目の疾走。
低い姿勢で駆けこんだランサーがそのまま大下段からの槍の薙ぎ上げ。
槍を振るう腕の力に加えて低い姿勢から伸びあがることで足腰と全身のばねも加えた強烈な一撃で、セイバーの体がはるか高く宙に舞う。
(これは、まずい……!)
度重なる攻撃は確実に鎧を削り、その急所を晒しつつある。
何より空中を重力制御装置で駆るだけではさらなる追撃を躱すのは難しい。
自由の利かない空中で、剣など及ばない距離で、ランサーは背中の筋肉をパンプアップさせとどめの一撃の構えだ。
剣士のクラスと槍兵のクラスには決定的なリーチの差がある。
それは得物の間合いというだけではない。
槍には剣にはまずない、投擲の逸話がつきものだからだ。
クランの猛犬のゲイ・ボルグしかり、兜輝く将軍のピルムしかり、投げることによって城壁や軍勢に大打撃を与える一面が槍という武器には存在する。
もしもランサー、ロムルスの宝具の真価がそこにあったならば『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』ですら射貫くのではないか。そんな予測がセイバーの背筋を冷たくする。
もちろんそれを黙って受けるつもりはない。
迎撃、防御、抵抗。
宙に打ち上げられた時点で熟練の戦士たるセイバーはそのためのアクションを始めている。
だが、手札が足りない。
キングラウザーは手元になく。
ジャックフォームのような飛行手段は速度の劣る重力制御装置しかない。
マッハも、マグネットも、タイムも。
このままでは態勢を整えることすらままならない。
それでも、と諦めず抗いはするが…………一手及ばない、と対峙する両者は感じていた。
瞬間、『世界』から音が消えた。
それがその瞬間起きたのは偶然か、ただの幸運か、あるいは運命なのか。
此処とは異なる地で、彼とは異なる仮面ライダーを従える一人の戦士が『時』を止めたのだ。
今の『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』ではアンデッドクレストを輝かせ、その力を引き出すのは一部しかできない。
しかしその力を宿していることには変わりなく、近似する力に対しては強い抵抗力を発揮する。
例えば斬撃。例えば雷撃。例えば――時間操作。
『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』に変身した剣崎は止まった時を認識し、僅かにだが動くことができたのだ。
それはせいぜいがパンチを一発撃てるかどうかの一瞬だけ。
だがそれで、仮面ライダーブレイドには十分な時間だ。
重力制御装置により、吹き飛ばされた勢いも加味して壁へと着地する。
そして壁を蹴り、ランサーへ反撃に転じる。
ブレイラウザーを利用してのコンボ?
いや、自然と選んだのは一枚のカード。それも今はクレストから真価を発揮することはないローカストの紋章による一か八かのカウンター。
―――KICK―――
とその音声は響かないが。
それでも幾度となく繰り出されてきた必殺技、仮面ライダーのキックという対人奥義でランサーの切り札を迎え撃つ――――――!!
対するランサーも相応の手札を切っていた。
「見るがいい。我が城壁、すなわちローマがここにあることを!」
ランサーの足元から宝具、『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』が高速で姿を見せる。
そこで上体を振るい、足腰の力に背や腕の力も束ねる姿勢をとっていたランサーが魅せたのは投擲でなく跳躍。
すなわち全身全霊に加え、宝具をカタパルトのようにして自らを撃ち出したのだ。
とった姿勢は、偶然か意図してかこれもまたキック。
「ウェェェーーーーーーーーーーーイッ!!!」
「ロォォォーーーーーーーーーーーマッ!!!」
開戦時の宝具の激突と同じように響く雄叫び。
黄金の影が堕ちる。それはまるで宙から飛来する流星の如く。
真紅の光が翔ける。それはまるで空へ届く最果ての塔の如く。
光と影が重なった瞬間、あたりには雷鳴が響いた。
二つのキックの衝突のエネルギーで空気が音速で膨張した証拠だ。
周囲の建物を蹂躙してもおかしくないその波はすべてローマの城壁が受け止める。
ぶつかり合い、一瞬静止した二人。闘いは決着し、真紅と黄金は地上へと降りる。
―――立っていたのは真紅だった。
両の手は真っすぐに天を衝き、両の脚は揺らぐことなく大地を踏みしめる。
それは槍というにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさにローマだった。
だがその背は勝利に酔うものではなく。力ある緊張が未だに全身を包んでいる。
―――膝をついていた黄金が立ち上がる。
キックの威力に大きな差異はなかった。
宝具まで用いたロムルスのキックに並んだ剣崎を讃えるべきか。仮面ライダーのキックという、宝具ならざるとも人類史に連綿と受け継がれる奥義に比肩したロムルスを称賛すべきか。
決定的な差異は直撃か否かだった。
ロムルスは跳躍時に皇帝特権により魔力放出(跳躍)を獲得していたが、その後即座に魔力防御のスキルを主張したのだ。
蹴足の先に魔力による錐体の壁を形成することで空気抵抗を減らし加速、より硬い壁は当然攻撃力にも転じ、さらにはその障壁で僅かにだが剣崎のキックを逸らした。
結果ロムルスのキックはまともに入り、剣崎のキックは点睛を欠いた。
『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の効果でキックのダメージは減らしたが、それでも逆転を望むにはあまりにも小さくとも大きな賜暇が生まれてしまった。
事実上の、決着と言える。
この場は仕切りなおすしかないか、と剣崎もゴドウィンも考え始めたところで
「問おう。セイバーよ」
二人が初めて聞くようなロムルスの穏やかな声が響いた。
「私(ローマ)は皇帝(マグヌス)である。而してただの人に過ぎぬ。この身がクィリナスならざる事はすでに気付いていような?」
「…ああ。お前の真名が偽りなくロムルスなのは確信した。それにクィリナスほどの神霊が聖杯戦争に簡単に来れるはずもない」
突然の問いに困惑しつつも答える。
するとロムルスの顔に笑みが浮かぶ。戦闘中に浮かべた獣性に満ちたものでなく、父性に満ちたものを。
「続けて問おう。お前は本来神ならざる生命への殺戮権を有し、そしてお前の振るった剣は原初の精霊種や神を殺める武装であるな?」
「む……」
沈黙で返す。だがそれは事実上の肯定。
仮面の下で表情は隠しているが、全ての道はローマに通ずというのは伊達ではない。その眼でもって様々な枝も見通しているのだろう。
「本来ならばこのような非私(ローマ)的な姿をとることも覚悟のうえであった」
そういうとロムルスの体の随所に黒い痣のような紋様が浮かぶ。
「な、それは……まさか神代回帰!?」
「しかり。この城壁内、すなわちローマであるならば封印した神性を改めて高位で得るのも容易い。
されどそれを必要としないことが分かったならば、お前に向けるのは槍ではない」
槍を手放した状態で改めて剣崎へと向けられたのは親指を立てられた右の拳。
すなわち、サムズアップ。
「これは古代ローマにおいて満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草だ。それが意味するところは分かるか?」
剣崎はその仕草と問いに戸惑いながらも頷く。
古代ローマにおいて、剣闘士の戦いを讃えた観客は生か死か判決を叫ぶ。
その言葉に皇帝は所作で答えるのだ。
親指を天に向けたとき、すなわちサムズアップを皇帝が見せたとき戦士は生を約束される。
今この瞬間に裁決は下った。
剣崎一真は生きるべきだと、健国王ロムルスは定めたのだ。
「そっちから仕掛けておいてお終い、か。まあ気が済むまで付き合うと言ったのはこっちだが……」
「戦うことでしか分かり合えないと言っていたが。よい、まさしく戦いは何にも勝る交流である。サーヴァントとなればなおのことな」
そう、人間同士の闘いとはわけが違う。
サーヴァント同士の戦いは互いの生涯と歴史を背負っての衝突となる。
宝具が、スキルが、所作が、習慣が。
様々なものがそのものの来歴と真名を語る。
だがそれだけでは分からないことがある。
名と生涯を知ったところで、それに伴う感情や動機まで知り尽くせるわけではない。
明智光秀がなぜ織田信長を殺めたかなど謎は残り、その者を反骨の士として警戒するべきかは、より深くその者を知れば答えが変わるかもしれない。
また無辜の怪物、というものもある。
風評と実際の在り方が異なる故に歪んでしまったサーヴァント。
ヴラド三世などはその典型だ。吸血鬼である、という風評一点で宝具まで獲得する無辜の怪物の究極。
されどその悪名を取り払うために戦う彼は通常吸血鬼と化す宝具を用いることを極めて嫌うという。
ただし狂戦士として召喚されたヴラド三世は吸血鬼としての悪名を払拭するために吸血鬼としての力を存分に振るう狂気の沙汰を見せるとか。
ジョーカーという怪物である剣崎一真の在り方が如何様なものか。
神ならざる生命種への絶対殺戮権を行使し、神殺しの剣まで振るう死の権化。
そのような想定でロムルスは挑んだ。しかし戦ううちにそれが誤りであり、彼が口先だけのものではないと理解できた。
「お前の覚悟はサーヴァントのシステム、在り方すら変質させて生命種への殺戮権を放棄させている。
私(ローマ)や……あるいは英雄王のような者であれば自らの意思で在り方を変えることも難しくはない。しかし只人であったお前がそれを為すのは容易ならざることである。
戦いを止めるというその裡なる願いによって達成した一つの奇跡をこの私(ローマ)は認めよう」
サムズアップしていた拳をほどき、掌を向けて剣崎をいざなうロムルス。
「来るがよい。我がマスターと是非とも会ってもらいたいのだ。仮面ライダーブレイドよ」
その言葉と共に宝具『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』 が解かれ、仮初の闘技場はどこにでもある中庭に戻っていく。
はっきりと見えるようになった署長室のゴドウィンと実加のもとへロムルスはすぐさま跳躍し、それに少し遅れて剣崎も続いた。
そして合流する二人のサーヴァントとマスター。
互いの主従のもとで損傷と健闘を労い合う。
「見ていたな、実加?」
「はい。二人の勇姿を余すことなく」
「よい」
視覚の共有や念話など、魔術の行使に一歩一歩馴染んでいるのを確かめてロムルスの表情が後進を導く英霊のものとして引き締まる。
「実加よ。黒の力は代償を伴う」
ロムルスの体に走る赤黒い紋様……神代回帰の証が消えていく。
「お前は真紅と黄金に染まれ。それこそ我らがローマの華である」
抽象的で、意味の掴みかねる言葉。まさしく神の啓示や詔なのだろう。
「そしてセイバーよ。この者が我がマスター……いまはまだ仮面ライダーならざる戦士、クウガである」
「何!?待て、クウガだって?」
ロムルスの言葉に剣崎が反応する。
鍛えられてはいるが、こんな小柄な女性が仮面ライダー?と戸惑い半分、驚き半分視線を交わす。
「ブレイドよ。黄金の仮面ライダーよ。同じ人類史に名を残した英雄として願う。どうかこの者と共に戦い、私(ローマ)と共に導いてほしい。私(ローマ)もまたお前のマスター、レクスの願いのため全力を尽くすことを約束しよう」
それは真紅の建国王から黄金の剣王への盟の提起であった。仮面ライダーを導くこと。決闘者を闇へと堕ちぬよう救うこと。
互いのマスターを見やり、剣の王は記憶を探る。
ムーンセルによって再現された今の自分と地上で運命と戦う剣崎一真は厳密には異なる存在のため、記録と記憶の違和感はある。
クウガ。共に戦ったような気もするし、初めて聞く様な名前。
それでもその名がここにあり、自分たちがここにいる意味は
「ああ……だいたい分かった、ってところかな。でもその問いの答えを決めるのは俺じゃあない」
そう言うと今度はマスターに譲るように一歩引く。
今を生きる者が生きる道は決めるべきだと。
そうして空いた空間に新たに一歩、一人の人間が踏み込んだ。
「レクス・ゴドウィン署長、それにセイバーのサーヴァント。私は国際テロリズム対策課所属、夏目実加です。この聖杯戦争ではランサーのマスターを担っています。改めまして、私たちと共に人々のため、この聖杯戦争打開にご協力いただけませんか?」
【D-5 警察署 署長室/一日目 午前】
【レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's】
[状態]健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]デュエルモンスターズカード(マヤ文明デッキ)
[道具]なし
[所持金]やや裕福
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての贖罪として、罪なき人々を悲劇の運命から救う
1.実加との交渉、情報交換。
2.実地調査に当たれる同盟先を探したい。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は警察署の署長です。
※スノーフィールドには市民の危機感を抑える魔術式が施されているのではと推測しています。
【セイバー(剣崎一真)@仮面ライダー剣】
[状態]ダメージ(小)
[装備]ブレイバックル
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦えない全ての人の代わりに、運命と戦う。
0.クウガ……
1.実加への対応。基本はゴドウィンに従う
[備考]
※第十三階位(カテゴリーキング)のランサーの真名を知りました。
【夏目実加@仮面ライダークウガ(小説)】
[状態]健康、魔力消費(小)、七つの丘による魔力回復スキル獲得中
[令呪]残り三画
[装備]プロトアークル
[道具]不明
[所持金]一般社会人並
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての英雄たちのように、人々の笑顔を守りたい。
1.ゴドウィンとの交渉、情報交換。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は国際テロリズム対策課所属の刑事です。
【ランサー(ロムルス)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[装備]『すべては我が槍に通ずる』
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:人々の中に受け継がれる光(ローマ)を見守り、力を貸す。
1.セイバー、ゴドウィンへの対応。基本は実加の決定に従う。
2.真紅と黄金こそローマの華である。
[備考]
※レクス・ゴドウィンの中にローマを認めました。
※番外位(エキストラ・ジョーカー)のセイバーの真名を知りました。その在り方を一応は認めています。
[全体備考]
※キングフォームによる戦闘がありました。ジョーカーアンデッドへの影響は今のところ不明です。
最終更新:2021年06月11日 21:53