Review > VBCP


Development of a new methodology for surface science
by adding one more dimension


Prev Next


VB excited by CP soft x-ray

FFPが価電子帯の高エネルギーのPIADに現れることが知られており、これまでその起源について論争が続いている[rfOsterwalder,rfHerman,rfKlebanoff,rfNaumovic,rfStuck,rfOsterwalder2,rfSarma,rfAlvarez]。ここでは円偏光軟X線にて励起した価電子帯のPIADについて紹介する。FFPのシフトと軌道モーメントについて考える。

FFPと軌道モーメント

有効磁気量子数

内殻準位の始状態のmの縮重を考慮した光電子の磁気量子数m^{\prime}が有効磁気量子数m^*である。励起チャンネル\Delta\ell=1についての極角\theta_{h\nu}依存性を次に示す。
m^*=\frac{\sum_{m^{\prime}=-l^{\prime}}^{l^{\prime}} m|c^1(l^{\prime},m,l^{\prime},m^{\prime})|^2\Theta_{l^{\prime}+1,m}}{\sum_{m^{\prime}=-l^{\prime}}^{l^{\prime}} |c^1(l^{\prime},m,l^{\prime},m^{\prime})|^2\Theta_{l^{\prime}+1,m}}
Fig.[F-meff]にこの式に基づいて計算した有効磁気量子数の値を示した。s軌道からはp軌道への遷移しかなく、また有効磁気量子数の値も一定値1となることが分かる。またp軌道からの遷移では90^{\circ}付近で平らとなるが、始状態の方位量子数が大きくなるにつれ、有効磁気量子数は徐々にm\sin\thetaに近づいていく。

軌道モーメント解析

前節では、式(2)に基づきFFPのシフト\Delta\phiから原子間距離Rを求めた。逆に、Rが既知の場合には、測定値\Delta\phiから角運動量mが割り出せる。内殻準位の場合はmは既知であるが、価電子帯の場合はバンド分散ごとでmは異なるし、また特にMn化合物などの軌道秩序相転移など、mが条件によって様々に変動する興味深い現象がある。直線偏光を用いた「原子軌道解析」に対し、軌道角運動量を導き出せる「軌道モーメント解析」が確立すればこうした軌道にまつわる物理の解明への貢献が期待できる。

FFP shiftのエネルギー依存性

図[F-CuFFPene]上段にCu 3pのPIADの運動エネルギー依存性を示した。両円偏光によるデータを足し合わせたものである。また各ヘリシティの励起によるFFPの回転の運動エネルギー(波数)依存性について調べた。中央の[001]前方散乱に注目し円二色性について並べたのがFig.[F-CuFFPene]中段である。中央の青い線に対して赤い点線で示したFFPはGap1では右に、Gap2では左にシフトしているのが分かる。徐々に運動エネルギーが上がるごとにFFPのシフトが小さくなる様子は式(2)に一致している。原子間距離(3.615 {\rm \AA})と光電子の波数を既知としてFFPの回転からm^*を見積もった。実際の理論値m^*(\theta=45^{\circ})=1.28よりも数%大きいが、これは回折の影響などが含まれるだろう。

FFPと価電子帯

高エネルギーでの価電子帯のPIADは内殻のPIADとよく似ている。例えばCu(001)の例では主として3dが励起されm^*が大きくなるので、むしろ他の内殻のPIADよりも立体写真として向いているほどである。また二次電子のbackgroundがないのでreal time(sec order)で「原子像」が画面に投影されることができ、面白い。Cuの場合、3d軌道が満たされているが、遷移金属で3dに空孔ある場合はm^*の値は自明ではない。逆にこの手法で軌道モーメントが求められることを期待している。

手始めにFe(111)表面からのPIADを測定した。Fig.[F-Fe]はFeのPIADに現れる[111]FFPに着目してその方位角依存性をプロットしたものである。両円偏光で励起したもののの円二色性成分を抽出した。光は法線から[\bar1\bar12]45^{\circ}傾いた方向から入射している。運動エネルギーは約550 eVに設定している。まず上に2pと3dのプロファイルの比較を行った。角運動量mの光電子のFFPのシフト量を点線で示した。\ell=1の2pからはm=2,1,0の成分が、\ell=2の3dからはm=3\sim-1の成分が現れる。実際に異なる内殻でFFPのピークシフト量の差が確認できた。さらにpass-energy windowを狭め、価電子帯のFFPの円二色性をそれぞれの結合エネルギーで測定した。-1 eVのプロファイルにFermi準位付近の電子状態のモーメントの情報が現れるはずだが、この段階ではまだこのデータが限界であった。

VB分散とsite選択的モーメント解析

soft x-ray励起によるVB分散測定

軟X線励起の価電子帯PIADはacceptance angle内に多数のBrillouin zone(BZ)が含まれる。角度分解能はその分落ちるが、Brillouin zone間の強度の比較から先に述べたPSFについて議論できるようになる。また円偏光を用いると原子軌道からの遷移行列要素(具体的にはADAO)の影響が小さくなることを利点としてあげられる。最近ではmean free pathの拡大によるbulk敏感性を利用した研究が盛んである[rfSekiyama,rfKobayashi,rfYokoya,rfMatsushita-graphite]。

DIANAの改修後、格段にデータの質が改善された。特に角度分解能とエネルギー分解能が向上したので、軟X線励起による価電子帯の分散を議論できるようになってきた。

graphiteのVB分散とFFP

第3節で紹介したようにgraphiteの分散は比較的単純である。バンドごとの軌道モーメント解析の妥当性の検討には適した系である。Fig.[F-graVB](a)はグラファイトの結晶構造である。単位胞内に二種類の炭素原子があるので、あるFFPは片方の原子に由来するもの、あるFFPは両方の原子に由来するもの、といった具合にFFPを選ぶことでsite選択的な測定が可能になる。

graphiteの価電子帯は\pi軌道が2pz$から\sigma軌道が2pxy軌道からなる。さらに深いところに2s軌道由来のバンドがある。光を2pz軌道の軸に沿って、試料法線方向から入射した。Brillouin zoneがscreenに投影される関係をFig.[F-graVB](b)に示した。

Fig.[F-graVBpat]はちょうど2pxyと2s軌道由来のバンドがK点やM点などBrillouin zoneの境界へ分散していく結合エネルギーで測定したPIADである。蜂の巣上のパターンが現れているがgraphiteのBrillouin zoneがぴったりこの模様と一致する。興味深いのは、こうしたバンド分散の断面に相当するパターンにFFPが重なって現れていることである。点線で囲った楕円部分は円二色性のパターンでFFPが観測される領域である。特に下のFFPは\sigma_+\sigma_-それぞれの円偏光励起でのPIADにおいても確認できる。このFFPのシフトから算出される始状態の軌道角運動量はそれぞれのバンド分散の磁気量子数と一致していることが示せた。

以下は本サイト@wikiのスポンサーの広告です。

最終更新:2008年05月11日 23:47