※現在より10年後くらい、こんな風になってたらいいなーって言う妄想の塊です
※一個一個が短いから詰め合わせみたいなもんです
※IFやパロディみたいなものと思ってください
数えきれないほどの命の営みが命を作っていくこと。
そうして様々なものが受け継がれていくこと。
それこそが、永遠なのだ。
― クロノスの言葉より
蒼海と蒼天、二つの蒼の狭間を、風に乗って飛ぶ影があった。
翼竜だった。広げた翼はとても大きく、しかしながら胴体は対の翼と比べると小さい。しかし人一人が騎乗するには十分な大きさを持っていた。
そして、その翼竜の背に乗った人物は翼竜のことを信頼しきっているのか、手綱も鞍もないまま、まるで草萌えるなだらかな平原に腰かけているかのように騎乗している。
やがて農耕大陸シルペケレへ入ると、蒼海は白い砂浜へと変わり、鮮やかな緑の森へと変わり、色とりどりの人家の屋根、山の新緑、そうして栄養豊かな黄土色の大地へと変わった。それは人の手によって耕された畑だ。今はまだ種をまいたばかりの時期だから簡素に見えるが、収穫の時期になればここも彩りと賑わい豊かなものになる。
畑と小さな人家が立ち並ぶその一廓に、ややあけた場所がある。
翼竜は自動的にそこに向かい、旋回しながら高度を下げていった。やがてその足が地面を踏むと、ほぼ同時に翼竜に乗っていた人物もその背から飛び降りる。久々の地面の感触に少し体を傾けさせてから、気を取り直して背筋を伸ばすと、今度はしっかりとした足取りで我が家へと歩き出す。翼竜はおとなしくその後ろに追従していた。
「ただいまー。」
その人物はそういって窓を開けた。ドアではない、窓である。そこは居間と直結していて、椅子でのんびり刺繍をしていた女性が、やや驚いたように目を見開いていた。それからすぐに溜息をついて苦笑する。
「おかえりなさい、
ルルティ。でもちゃんとリュリュを厩に戻して玄関から戻ってきたときに言ってほしいものね。」
「ごめんなさい。お母さんがいると思ったから、つい。」
「まぁ、いいでしょ。それと、また手綱と鞍をつけないで行ったでしょ?せっかく亜漱さんが危ないからって貴女の傭兵デビューのお祝いにくださったのに・・・。」
「だって、慣れちゃってるんだもん。」
ねー、とルルティが同意を求めて翼竜・・・リュリュの頬を撫でると、それに答えるようにルルティの手にすり寄ってきた。
その様子をみて、仕方ない子たちね、と実はあまり重要に捉えてないのだろう。
メルルティアは微笑んで椅子から立ち上がる。
「お茶とお菓子を用意しておくから、早くリュリュを休ませてあげなさい。」
「はーい。あれ、そういえばお父さんは?」
「ああ、あの人なら貴女と入れ違いでローイアに缶詰しに行ったわ。タイミングの悪いこと。」
お父さんらしいね、と母子はくすくすと笑いあった。
ローイア諸島が一国、
ナノウリスマのとある旅籠がある。
上品な音楽が、会話の邪魔にならない程度に小さく流れているロビーは、青空から陽の光がさしこんでいて灯りが必要のないくらい明るかった。
ソファに座って自分の番を待つ者、広く非日常な場所に興奮して駆け回る子供、それを咎める母親の声。そんな平和なざわめきがあった。そして、そこで甲斐甲斐しく働いてる従業員たちは笑顔で、忙しそうに動き回っている。
それらの様子を満足げな微笑を浮かべて見守る女性がいた。否、女性というにはどこかあどけなく、少女というには大人びた優しい雰囲気の、とても愛らしい人だった。この旅籠を切り盛りしている人なのだろう。
「おねーちゃんっ。」
そんな彼女に、背後から話しかける声があった。声にこたえるように彼女が振り返ると、そこにはいかにも動きやすそうな鎧を身に着け、二本の剣を帯刀している女がいた。その彼女の姿を確認すると、ほっとしたように愛らしい人・・・テトは安堵の表情を浮かべた。
「おかえりなさい、ジュニア。怪我もないようで何よりだわ。」
「うん、ただいまー。シャリアとフラディがいてくれるからね。」
「おやおや、そんなことを言って、無茶をしたりしてませんよねぇ?」
姉妹の会話に割いる男性の声。テトは至って普通に、ジュニアはぎょっとしたように声のした方へ顔を向けた。そこには二人の育ての親である美男子が、綺麗な微笑を浮かべて立っていた。いつのまにいたのだろう、まるで気配がなかった。いつもの事といえばいつもの事なのだが、心臓に悪い。
「ムヴァ・・・。」
「ジュニア様、傭兵という仕事柄、危険なことはするなとは言いません。が、テト様の召喚獣たちの加護があるからと言って無謀なことはしないでくださいまし。老体の心の臓がもちません。」
心臓が持たないのはこっちだとジュニアは言いたいが無駄だと理解りきっているのでやめておいた。そしてよよよ、とわざとしく弱音を吐くその姿は、どうみても老人には見えない。
むしろ
ムヴァは若く宝石のように美しい男だ。昔からずっと、それは変わらない。けれどジュニアとテトにとってはそれは些細なことであった。
「それとお帰りになる際は裏口からといつも申しておりますでしょう。お客様がいらっしゃるんですから。」
「パッと変わったなオメー。まぁ次から気をつけまーす。」
会話を一区切りつけたところで、ジュニアは自室へ戻ろうとする。あ、と思い出したように、テトがジュニアを呼び止めた。
「今日はルティカさんがお仕事でいらしてるから、邪魔をしちゃだめよ。」
「マジで?あたし今日ルルティと任務一緒だったけど、今日は家帰るって言ってたのに。」
折角のチャンスだったのになぁ、とジュニアは何か思うところがあるのか、そうぼやいた。
おやおや、とムヴァがいかにも面白そうに微笑を浮かべる。
ルティカにルルティのことを伝えるべきかどうか、彼が悩んだのは一瞬だけだった。
とある傭兵の詰所。様々な依頼が張られた掲示板を、眺める男が一人いた。
幾多の修羅場をくぐってきたことが伺える精悍な顔つき、隠しきれない鍛えられた肉体、首には長年愛用されたであろう赤いスカーフが巻かれている。
ふと、その男のウルトラマリンの眼が伏せられた。そうして聞こえてきた、こちらに向かってくる慌しい足音。
「おーっすカガミィー!! ってぐべえええっ!!!!」
後ろの様子を振り向くことなく、カガミは絶妙なタイミングで飛び込んできた真っ赤な髪の男を躱した。すると赤髪の男は期待を裏切ることなく勢いのままに掲示板のある壁へと激突した。とてもいい音がした。とても痛そうだった。
けれどカガミはそれを気に留めることはない。
「・・・ってぇー・・・なんでよけたんだよ!」
このようにすぐ復活するからである。
「危ないからに決まってるだろう、火牙。もういい年なんだから少しは落ち着いたらどうだ。」
「あー、それ疾人にも言われたわ。」
「いつ?」
「十分前。」
「よし、お前が全く反省していないということはわかった。」
「・・・・・。」
「ドヤ顔するな。」
ほら、と、カガミが差し出した手を火牙が握り返すと、カガミは火牙を引っ張り上げて起き上がらせた。
たはは、と笑いつつ先ほどぶつけ痛む箇所をさする火牙。それから短く礼をいうと、先ほどカガミがしていたように、自身も掲示板を眺め始めた。
それだけを聞いて納得した声をだした火牙は、あっさりとカガミが見ていたであろう記事を見つける。
『マリヴィン一派』。それは彼らが傭兵稼業に身を投じた若き頃とほぼ同じ時期に頭角を現した賊団だった。以来、様々な理由から数えきれないほど交戦してきた結果、彼らは互いに宿敵と呼べる立場となってしまった。
自分たちが初めて交戦した頃は、互いに若く、また実力としても未熟で、言うなれば純粋な力と力のぶつかり合いでの対決だった。
けれど、今は違う。時を重ねるということは即ち成長し、経験を積み、強くなるということ。怠惰怠慢に過ごしたならいざしらず、相手は今やきちんとした組織として成り立っている。かつての自分たちのような立場の傭兵たちが、まず勝てる相手ではなくなった。
「そろそろ手に負えないらしい。
カルネアさんが出るって。」
「マジで?新人教育どうすんのあの人?」
「大丈夫じゃないか?あの人、教育というものに向いてなさそうだし、誰かで埋め合わせできるだろ。」
「なかなか酷いなお前。まぁオレも同意すっけど!」
同じ穴の貉じゃないか、とカガミは思ったが、それを口にしても火牙はなにそれ美味しいの、と問い返すだけであろう。
この男は眩しいほどに真っ直ぐだが同時に眩むほど莫迦なのだ。いい意味でも悪い意味でも。
そう思ってその言葉はしまっておいたのだが。
「こういうのなんて言うんだっけ・・・そうそう、同じ穴のムジナだ!」
なんて言われてしまったらびっくりせざるを得ない。カガミは容赦なく疑心と驚愕と若干引きの目線をぶつけてやった。
良かった、いつもの火牙だ。何故か安堵しつつ、ふとカガミは気づいた。
そう、時を重ねたのは何も相手だけではない。自分たちだってそうだ。
色んな経験をして、色んな思い出を掴んで、色んな想いを交差させて、色んな人と出逢って、別れて。
そうして強くなった。・・・成長した。少なくとも、あの頃よりずっと。
まぁもう少し成長してほしいと願いたいところではあるが。
「お前も成長したんだよな。」
「そりゃ人間だから成長するって。」
小首を傾げてそういう火牙に、そうだな、とカガミは答えておいた。
久々の潮騒と磯の仄かな香りを、ユキは思いっきり身体に吸い込んだ。それからゆるゆると息を吐くと、背後を振り返る。そこには顔面半分を覆い隠すほどの眼帯をした緑がかった黒髪の青年がドラゴンの手綱を握りなおしているところだった。
「ルーチェ、ありがと。運んでくれて。」
どういたしまして、とマゼンタの瞳を細めて青年・・・ルーチェは答えた。
二人は小高いなだらかな丘にいた。眼前には、
ベネズベル大陸の港町、リナウェスタが広がっている。
「ルオルじゃなくてよ良かったんですか?」
「うん、ギルは今ここの厩に預けてるから、それでルオルに行くよ。それに
ヴィダスタにも話しておきたいし。」
「まぁ、事が事ですからね。ちゃんと説得してくださいよ?」
「まず反対はされないと思うんだけどなー。」
苦笑するユキに、ルーチェは首を横に振る。
「ヴィダスタさんたちが着いてこない様に、です。」
ああ、とユキは納得する。それから、これから説得することを考えて後ろ頭を掻いた。そういうことは一切合財苦手なのだ。でもやらねばならない。自分で。
これからルーチェも
イーシス大陸に戻り、自分の保護者へ事情を説明するのだろう。彼なら自分のようにならずに綺麗に話せるんだろうな、と少し羨ましく感じた。
ちなみに内緒にしておく、という選択肢は、みんなと相談したうえで真っ先に捨てている。
そんなユキの内心を察したのか、ルーチェは微笑みながら言った。
「確かにあの人達は僕たちみたいに何にでもつい手を出して巻き込まれにいくけど、僕たちが請け負うと決めたものに対してあれこれ無闇に手を出す野暮はしませんよ。」
「まぁホントに危なくなったら嫌でも首突っ込んでくるだろうけど・・・。」
「そうそう。だから、それまではこちらで好きにやらせてもらいましょう?」
本当は手を貸してもらわずに自分たちの手でやり遂げたいんですけどね。そう言い終って、ルーチェは手綱を引いてドラゴンに合図を促した。
ばさっ、と大きく羽ばたいて浮上し始めたドラゴンの背から、ユキに届くように声を張り上げる。
「では、もし駄目だった場合の返答は三日以内に!!」
「分ってるよ!!」
駄目になるつもりは毛頭ない。負けじと声を張り上げてユキが答えると、しなやかな首を動かして、ルーチェを乗せたドラゴンは蒼穹へと消えた。
それを見送ってから、ユキは再びリナウェスタを見下ろして、一人気合いを入れて歩き出した。
適度に雑踏を歩いて、商品棚に並ぶ目新しい飲料などに目を奪われながら、やがてこぢんまりとしたアパートの前にきた。
「ただいまー。」
いつものようにチャイム無しに、ヴィダスタが借りてるアパートの一室に上り込む。奥の方から、おーう、と声が聞こえてきた。それはヴィダスタのものではない。
嗚呼、ルオルにいく手間が省けたな、と思うと同時に、二人同時に事情を説明しなければならないことになったのか、とユキは少し頭を抱えた。
変わろうか、ともう一人の自分が話しかけてくる。大丈夫、とそれに答えてからユキは居間へと向かった。
「おかえり。」
居間にあるソファで彼女を待ち構えていたのは、本来ならルオルにいるはずの
ティマフだった。十年ほど経って、ユキは大人に成長したが、彼女の外見年齢はさほど変わっていない。そういう種族だから。
そういうわけで今ではすっかり自分より身長も顔立ちも幼くなってしまったティマフを見下ろす形で、ただいま、と答えた。今しがた考えていたことのせいで、まるでうまく笑えた気がしなかった。やっぱりこういうのは苦手だ。心の中で溜息をつくもう一人の自分。
ぴく、とティマフの長い耳がわずかに動く。ユキの様子に、何か思ったのだろう。
「ヴィダスタが揃ってから話すよ。」
どうした、と問われる前に、ユキはそう答えた。
「ローイアに?」
傭兵任務から帰ってきたルーチェに、葡萄色をした暖かな茶を差し出したクリーマは、物腰穏やかにそう尋ね返した。
「はい、急なんですけど、一週間後に。」
「ホントに急ですわね。今度はどのくらいです?」
「あー・・・ちょっと、わかんない、です。」
申し訳なさそうにそう答えたルーチェに、クリーマは無言で続きを促した。どういうことか、と。
「ちょっと、厄介事に首を突っ込むことになりまして。」
「厄介事って・・・。」
途端、クリーマが心配そうに眉を下げた。
「まさかあなた一人じゃないでしょう?他には誰が?」
「ルルティさんと、ジュニアさんと、ユキさん。それからカガミさんと火牙さんもいます。」
大丈夫ですよ、とルーチェはあくまで微笑んで穏やかに対応する。
過信でも強がりでもない。けれど、危険かもしれないところに飛び込むとはいえ、最初からその危険に物怖じしたり負けたりする気などないのだから。
今頃、この厄介事の馴初めを知る一行も、こうして自分のように話しているのだろうか。
「大事だってことはわかります。でも、まだ何があるかわかんないんです。とりあえず一週間後、その大事の関係者さんにお話しを伺いに行ってみるんです。事によってはそのまま他の行動に移る可能性もありますし、だからみんなで一旦解散して、親や同居人に話をしておこうって決めたんです。」
「・・・そう。」
「後、これは自分たちの意地なんですけど。」
恐らく、自分たちが決めた事の中で一番怒られるであろうことを、口にする。
「最初に巻き込まれたのが自分たちってのもあるんですけど、僕たちだけでやってみようって。」
これは覚悟だ。挑戦だ。今まで、この修羅の戦道を先に歩んできた者たちから、ルーチェたちが本当に自立する為の。
どんな逆境でも、乗り越えてきた彼らの背中を見てきた。強くて、眩しくて、誰もが目を晦ませるほどの雄々しさ。
そんな彼らの跡を継ぐのは、まぎれもない自分たちだと、自分たちでありたいと思うから。
その背中に追いつくために、追い越すために、影から陽へとなるために。
「自分たちだけでやってみたいんです。」
お願いします、と頭を下げる。見えなくともクリーマの視線が自分の集中しているのがわかった。
やがて、穏やかな溜息一つこぼすと、静かに彼女は喋り出した。
「・・・そうですわね、あなたも、あなたたちも、思えばもうちゃんと成長してるんですもの。ついつい子供のように関わってしまっていたわ。」
顔をあげたルーチェに対して、保護者失格ね、とクリーマは苦笑する。
その構ってくれる優しさに救われたんです、とルーチェが答えると、クリーマは驚いたように目を見開いてから、口元を綻ばせた。
そして立ち上がってルーチェの背後に回り込み、優しく抱きしめる。
「やってごらんなさい。けれど、絶対無茶はしないこと。」
「そして本当に危なくなったら、みんなを頼ること。」
「ええ、そうです。成長しても、結局あなたたちは私たちの大切な子供たちなんですからね。」
「はい。」
折り目正しい返事が聞こえて、クリーマは満足げに微笑んだ。
その日も例外なく、とても天気が良かった。雲一つない抜けるような色の青い空を背に、真っ白な時計塔が建っている。
何時頃から存在していたか分らないが、この塔はローイア諸島の数ある小島のうちの一つにあった。
潮風が木々の葉を擦る音と、遠くから聞こえる潮騒以外、とても静かだった。まるですべての流れが止まっているかのように。
「・・・で、あいつはどうした。」
あと一人がなかなか揃わない、というところでカガミが呟いた。昔は新米だった立場の彼も、今ではすっかりベテランポジションだ。
もう一人そのポジションにいるはずの男・・・火牙は、まだ現れない。
「まだ集合時間までありますし。」
ルーチェは苦笑し返す。比較的真面目な面々だ。火牙以外は集合時間前にこの場所に到着してしまっている。
それで手持無沙汰に、ジュニアとルルティは持ち物を確認しつつ談笑していた。
「いつもは観光客がいるはずなんだけどなー。」
「そうなの?」
「うん。でも今日は誰もいない。不思議・・・。」
「じゃあ水入らずで会話できるかもね!」
「その為に人払いがされてるってことかも。」
不可思議な力って怖いわぁ、とジュニアがごちると、ルルティは鈴を転がすようにころころと笑った。
そんな様子を見守っていたユキが、突然ぴくりとして立ち上がる。常夏独特の森林が生い茂る向こうを見つめた。
「どうした?」
「なんかくる。」
「火牙じゃないのか?」
「大きな獣。人じゃない。じゃないとあんな大きな音でない。」
大きな音、と言ってもカガミ達には何も聞こえなかったのだが、彼女の野生の感はぴか一だ。そしてわずかに遅れて、確かに何者かがこちらに向かってくる音がする。草木をかき分ける音。しかも尋常じゃない速さだ。成程。確かに人ではあんな音はでない。
警戒してそれぞれ得物を構えた一行の前に躍り出たのは、やはり一匹の獣だった。
大きな耳、長い尻尾、太い前足、立派な土色と黒の縞模様の体躯。そして額の三日月呪文法の証、爛々と輝く金色の瞳。
濫月と呼ばれる魔物だ。
「お待たせ!」
そんな猫と虎の間の生き物のような見た目をした魔物の背に乗っていたのは、今しがたまで一行が待っていた火牙だった。
それをみて一行は警戒を解く。ということは、この獣は。
「泰紀も連れてきたのか。」
「いやーなんか合流しちゃってさ!」
後さ、と火牙は背後に目を見やる。どうやら彼の他に騎乗している者がいるらしかった。
黒と白のコントラストが美しい翼をもった青年だ。
「ずるいじゃんお前ら!オレも誘えよ!」
「
フィラ!」
「同じ不満を抱えてるのはオレもなんだからよぅ。」
口を尖らせてそういう青年はカミラギルド総詰所の傭兵、フィラだった。確かに彼も若く、自分たちと同じ不満を抱えていたが、何しろこの事件の馴初めにはかかわってなかったし、時間もあまりなかったので声をかけられないでいた。
火牙とフィラが背から降りるや否や、毛づくろいしだした泰紀を背後に、何も言わずに急いで休暇申請しちゃったぜ、とフィラは悪びれもせずに言う。
揃ったメンバーを見渡して、カガミはルーチェを見やる。ちょうど集合時間になりました、と答えてきた。
「フィラ、事情はどこまで知ってる?」
「全部!泰紀の背中に乗ってるときに火牙から聞いた。」
「ならこのまま出発しても大丈夫ですね。」
「でも火牙の説明とか不安しか残んないんだけど。」
「ひっでぇ!!」
「ふがーお。」
「泰紀ちゃんもすぐ出発していいって!」
「
ベルファストに秘密じゃないよねぇ?」
短い談笑、短い確認。それだけで十分だ。
「じゃ、行こう。」
誰かがそういって、一行は塔を見上げた。
真っ青な天空が目に痛い。陽を受けて白銀に淡く光っているように見える時計塔は、変わらずに時を刻み続けている。
最終更新:2012年03月27日 22:46